ワコム Research Memo(4):2021年3月期上期は大幅増収増益。コロナ禍でオンライン教育向けなど大きく拡大
[20/11/30]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■決算概要
1. 2021年3月期上期業績の概要
ワコム<6727>の2021年3月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比17.9%増の55,326百万円、営業利益が同186.4%増の8,618百万円、経常利益が同232.4%増の8,469百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が同184.5%増の6,282百万円と想定を上回る大幅な増収増益となり、過去最高業績(上期ベース)を更新した。
売上高は、コロナ禍の世界的拡大に伴い、オンライン教育及びテレワーク向け等の需要が急増したことを受けて、ディスプレイ製品やペンタブレット製品を中心に「ブランド製品事業」が大きく拡大した。また、「テクノロジーソリューション事業」についても、OEM提供先のメーカー向けにEMRテクノロジーソリューションが順調に伸びている。
損益面でも、増収効果や製品ミックス改善(特に、利益率の高いペンタブレット製品の伸び)等により売上総利益が大きく増加。その結果、米国の対中追加関税や為替相場(円高)の影響等を吸収したうえで大幅な営業増益を実現し、営業利益率も15.6%(前年同期は6.4%)に大きく上昇した。また、販管費についても、業績連動型の報酬体系を取っていることから賞与等の引当を中心に人件費が増加したものの、各費用の最適化に取り組んだことや、コロナ禍に伴う営業活動の制約(広告宣伝・販促費の減少)などにより、販管費率は21.8%(前年同期は26.0%)に改善している。
財政状態については、自己資本が内部留保の積み増しにより前期末比19.0%増の32,999百万円に増加した一方、手元流動性(現預金)の確保や増収に伴う「売上債権」「たな卸資産」の増加により総資産も同37.3%増の70,244百万円に大きく拡大するなど季節性を反映して、自己資本比率は47.0%(前期末は54.2%)に低下した。
2. 事業別業績の概要
(1) ブランド製品別事業
売上高は前年同期比34.8%増の26,053百万円、セグメント利益が4,276百万円(前年同期は170百万円の損失)と想定を上回る大幅な増収増益となった。製品別の売上高は以下のとおりである。
a) クリエイティブソリューションの売上高
前年同期比40.6%増の24,425百万円と大きく拡大した。コロナ禍に伴う販促イベントの自粛や営業活動の制約等による影響を一部受けたものの、オンライン教育向け等の需要増により、主力の「ディスプレイ製品」のエントリーモデルや「ペンタブレット製品」の中価格帯モデルが急伸長。特に「ディスプレイ製品」は、2019年7月に発表した22インチサイズ及び2020年1月に発表した13インチサイズのエントリーモデルが大きく伸びた。また、競争激化のなかで縮小傾向にあった「ペンタブレット製品」の中低価格帯モデルについても大幅な増加に転じるとともに、プロ向けモデルも営業活動の制約による影響を受けながらも売上増を確保することができた。したがって、コロナ禍に伴うオンライン教育やテレワークの普及などを追い風として、新たな需要の伸び(構造的要因)と既存クリエイティブ向けの前倒し需要(一過性要因)の両方を取り込めたことが大幅な業績の伸びにつながったものと評価することができる。一方、「モバイル製品」他については、2020年3月期にラインナップを更新した製品によりモバイル製品が大きく伸びたものの、モバイル製品以外のスタイラスペン製品が落ち込んだため、僅かな伸びにとどまった。
b) ビジネスソリューションの売上高
前年同期比16.7%減の1,628百万円となった。市場動向や競争環境の変化による影響に加え、営業活動の制約も受けたことから、欧州を中心に金融機関向け液晶サインタブレットの売上が大幅に減少した。
一方、「ブランド製品事業」の損益面については、為替の円高影響(約1億円の減益要因)や米国の対中追加関税の直接的な影響(約3億円の減益要因)があったものの、増収効果や製品ミックス改善等により大幅な増益を実現した。セグメント利益率も16.4%に大きく改善した。とりわけ利益率の高い「ペンタブレット製品」の復調が利益面でも大きく貢献していると考えられる。
(2) テクノロジーソリューション事業
売上高は前年同期比6.1%増の29,273百万円、セグメント利益が同27.0%増の6,481百万円と大幅な増収増益となった。ソリューション(技術)別の売上高は以下のとおりである。
a) AESテクノロジーソリューションの売上高
前年同期比4.7%減の8,987百万円と減収となった。コロナ禍に伴う生産・サプライチェーンの制限等の影響を受けた。
b) EMRテクノロジーソリューション他の売上高
前年同期比11.6%増の20,286百万円と順調に伸びた。OEM提供先メーカーからの需要増により大きく拡大した。
3. 2021年3月期上期業績の総括
以上から、2021年3月期上期の業績を総括すると、コロナ禍の影響が営業活動の制約等を通じて一部業績の足を引っ張る要因となったものの、新たな需要を取り込み、想定を上回る大幅な業績の伸びに結び付けたところは大いに評価できる。とりわけオンライン教育向けは、将来の成長分野としてこれまで取り組んできたことが実を結んだという見方ができ、今後も持続的な業績の伸びが期待できるだろう。一方、コロナ禍に伴う巣ごもり的な需要については、例年における年末商戦の前倒しとなっている部分も否定できず、その点については注意深く見守る必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
<EY>
1. 2021年3月期上期業績の概要
ワコム<6727>の2021年3月期上期の連結業績は、売上高が前年同期比17.9%増の55,326百万円、営業利益が同186.4%増の8,618百万円、経常利益が同232.4%増の8,469百万円、親会社株主に帰属する四半期純利益が同184.5%増の6,282百万円と想定を上回る大幅な増収増益となり、過去最高業績(上期ベース)を更新した。
売上高は、コロナ禍の世界的拡大に伴い、オンライン教育及びテレワーク向け等の需要が急増したことを受けて、ディスプレイ製品やペンタブレット製品を中心に「ブランド製品事業」が大きく拡大した。また、「テクノロジーソリューション事業」についても、OEM提供先のメーカー向けにEMRテクノロジーソリューションが順調に伸びている。
損益面でも、増収効果や製品ミックス改善(特に、利益率の高いペンタブレット製品の伸び)等により売上総利益が大きく増加。その結果、米国の対中追加関税や為替相場(円高)の影響等を吸収したうえで大幅な営業増益を実現し、営業利益率も15.6%(前年同期は6.4%)に大きく上昇した。また、販管費についても、業績連動型の報酬体系を取っていることから賞与等の引当を中心に人件費が増加したものの、各費用の最適化に取り組んだことや、コロナ禍に伴う営業活動の制約(広告宣伝・販促費の減少)などにより、販管費率は21.8%(前年同期は26.0%)に改善している。
財政状態については、自己資本が内部留保の積み増しにより前期末比19.0%増の32,999百万円に増加した一方、手元流動性(現預金)の確保や増収に伴う「売上債権」「たな卸資産」の増加により総資産も同37.3%増の70,244百万円に大きく拡大するなど季節性を反映して、自己資本比率は47.0%(前期末は54.2%)に低下した。
2. 事業別業績の概要
(1) ブランド製品別事業
売上高は前年同期比34.8%増の26,053百万円、セグメント利益が4,276百万円(前年同期は170百万円の損失)と想定を上回る大幅な増収増益となった。製品別の売上高は以下のとおりである。
a) クリエイティブソリューションの売上高
前年同期比40.6%増の24,425百万円と大きく拡大した。コロナ禍に伴う販促イベントの自粛や営業活動の制約等による影響を一部受けたものの、オンライン教育向け等の需要増により、主力の「ディスプレイ製品」のエントリーモデルや「ペンタブレット製品」の中価格帯モデルが急伸長。特に「ディスプレイ製品」は、2019年7月に発表した22インチサイズ及び2020年1月に発表した13インチサイズのエントリーモデルが大きく伸びた。また、競争激化のなかで縮小傾向にあった「ペンタブレット製品」の中低価格帯モデルについても大幅な増加に転じるとともに、プロ向けモデルも営業活動の制約による影響を受けながらも売上増を確保することができた。したがって、コロナ禍に伴うオンライン教育やテレワークの普及などを追い風として、新たな需要の伸び(構造的要因)と既存クリエイティブ向けの前倒し需要(一過性要因)の両方を取り込めたことが大幅な業績の伸びにつながったものと評価することができる。一方、「モバイル製品」他については、2020年3月期にラインナップを更新した製品によりモバイル製品が大きく伸びたものの、モバイル製品以外のスタイラスペン製品が落ち込んだため、僅かな伸びにとどまった。
b) ビジネスソリューションの売上高
前年同期比16.7%減の1,628百万円となった。市場動向や競争環境の変化による影響に加え、営業活動の制約も受けたことから、欧州を中心に金融機関向け液晶サインタブレットの売上が大幅に減少した。
一方、「ブランド製品事業」の損益面については、為替の円高影響(約1億円の減益要因)や米国の対中追加関税の直接的な影響(約3億円の減益要因)があったものの、増収効果や製品ミックス改善等により大幅な増益を実現した。セグメント利益率も16.4%に大きく改善した。とりわけ利益率の高い「ペンタブレット製品」の復調が利益面でも大きく貢献していると考えられる。
(2) テクノロジーソリューション事業
売上高は前年同期比6.1%増の29,273百万円、セグメント利益が同27.0%増の6,481百万円と大幅な増収増益となった。ソリューション(技術)別の売上高は以下のとおりである。
a) AESテクノロジーソリューションの売上高
前年同期比4.7%減の8,987百万円と減収となった。コロナ禍に伴う生産・サプライチェーンの制限等の影響を受けた。
b) EMRテクノロジーソリューション他の売上高
前年同期比11.6%増の20,286百万円と順調に伸びた。OEM提供先メーカーからの需要増により大きく拡大した。
3. 2021年3月期上期業績の総括
以上から、2021年3月期上期の業績を総括すると、コロナ禍の影響が営業活動の制約等を通じて一部業績の足を引っ張る要因となったものの、新たな需要を取り込み、想定を上回る大幅な業績の伸びに結び付けたところは大いに評価できる。とりわけオンライン教育向けは、将来の成長分野としてこれまで取り組んできたことが実を結んだという見方ができ、今後も持続的な業績の伸びが期待できるだろう。一方、コロナ禍に伴う巣ごもり的な需要については、例年における年末商戦の前倒しとなっている部分も否定できず、その点については注意深く見守る必要がある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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