トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】
[24/11/11]
提供元:株式会社フィスコ
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GRICI
*16:45JST トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
大統領選に圧勝したドナルド・トランプ前大統領は、選挙運動中に「全ての国に10〜20%、中国からの全輸入品に60%の関税を課す」と表明している。しかし最大のトランプ支援者となったテスラCEOのイーロン・マスクは、EVの上海工場で莫大なビジネス権益を有しているだけでなく、中国政府に特別な厚遇を受け、習近平国家主席がトップを務める清華大学経済管理学院顧問委員会(海外大手企業トップが集まり中国経済発展を助ける委員会)のメンバーの一人だ。李強国務院総理(首相)が上海市の書記だったころに上海工場を設立したため、李強首相とも特別に仲がいい。母親のメイ・マスクともども、大の「中国ファン」なのである。
そのため昨年は「台湾は北京政府の統治下にあるべきだ」として台湾の平和統一を支持する発言をしたり、バイデン政権が対中高関税をかけることに対して反対の表明をしたりしている。
そんなイーロン・マスクが来年1月から始まる第二次トランプ政権「トランプ2.0」で発令されるであろう対中高関税政策を黙って見ているだろうか。おそらくイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるのではないかと思われる。
イーロン・マスクはまた「戦争屋ネオコンに反対!」とXに投稿しており、アメリカ・ファーストのトランプはそのネオコンの下で動く「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)が嫌いだ。
習近平にとって、トランプ2.0は、心地悪くはないものとなる可能性がある。
◆テスラEVの利益のほとんどは上海工場から
世界一の大富豪として知られるイーロン・マスクは、EV(電動自動車)の製造工場をアメリカのカルフォルニアとテキサスに持っているが、2023年の生産台数)はそれぞれ55.5万台と14.6万台で、あまり多くはない。一方、上海工場での2023年の生産台数は95.8万台に上り、全生産能力の半分以上を占めるに至っている。また今年9月には、上海工場から100万台目の中国製EVを輸出したと発表した。
それが可能になったのは、習近平が上海工場設立に対して、独資企業としてスタートしてもいいという特別の厚遇をしたからだ。外国企業に対する独資認可は、テスラ上海工場が初めてのケースである。
2019年1月7日に上海工場が着工し、同年12月30日には最初の車が納車された。着工から納車まで1年もかからなかったというこの生産スピードは、サプライチェーンが中国内に全て揃っているお陰でもある。
習近平は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したが、イーロン・マスクの登場は、その戦略にぴったりと当てはまった。
拙著『嗤う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』で詳述したように、習近平は「中国製造2025」達成を可能ならしめるためにも、テスラ上海工場をそのバネにする必要があったのだ。事実、これをきっかけに中国のEV製造は一気に成長して世界一になった。
習近平にとってイーロン・マスクは無くてはならない存在だし、イーロン・マスクにとっても中国は欠かすことのできないビジネス・パートナーだ。したがってイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材となるのではないかと推測されるのである。
◆中国のネット:イーロン・マスクが対中高関税の潤滑油になる
たとえば11月8日の新浪財形網には<トランプがホワイトハウスに戻ってくるが、マスが中米間の潤滑油になるのではないか?>(※2)という見出しで、筆者と同様の観測をしている。
またシンガポールの聯合早報も11月7日、<トランプの高関税は中国にどの程度の打撃を与えるか? 学者はマスクの立ち位置留意すべきと>(※3)という見出しで北京特派員の見解を報道している。それによれば「中国で莫大なビジネス権益を持つ起業家であるイーロン・マスクは、米中貿易摩擦の緩衝材になる可能性がある」と学者が述べているとのこと。
トランプ勝利が判明する前の11月4日、中国のネットの観察者網は<マスクは極端な親中派なので、米中間の重要な対話者として機能するのでは?>(※4)という趣旨の分析をしている。こういった視点からの分析は枚挙にいとまがないほど中国語のネット空間に溢れている。
◆イーロン・マスク:北京が台湾を統治すべきと表明
2023年9月13日、ロサンゼルス(のRoyce Hall on UCLA’s campus)で開催されたAll-In Summit 2023にリモートで参加したイーロン・マスクは、「台湾と中国の関係」を「ハワイと米国の関係」にたとえた(※5)。凄いスピードで話しているので、喋っている言葉を逐語訳すると何を言っているかわからなくなる。そこで彼の言わんとするところを要約してピックアップすると、以下のようになる。
●台湾の再統一は中国の根本的な問題だ。半世紀以上にわたり、中国は台湾を返還する政策をとってきた。
●彼らの視点から見ると、中国にとっての台湾は、アメリカのハワイのようなものかもしれない。
●ただ、中国の再統一の試みを、米国の太平洋艦隊が武力で阻止したために中国の一部ではないようにしてしまっているだけだ。
●台湾は中国の不可欠な部分であるが、台湾は「故意に中国の所有物であることを否定し」、米国が「いかなる形の再統一努力をも妨害している。
(2023年9月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)
すると、9月14日、台湾外交部がマスク発言に対して激しく抗議した(※6)。
それでもなお、イーロン・マスクは2023年11月になると、また台湾に関して言及した。2023年11月10日、レックス・フリードマンが主催するポッドキャストにオンラインで取材に応じ、以下のように回答して(※7)いる。
●中国は台湾に対して強い感情を抱いている。その点については、長い間、非常に明確にしてきました。この観点から言えば、ハワイのような国ではなく、ハワイよりも重要な国の一つということになる。
●中国は台湾を、中国の基本的な一部、台湾ではなく「中国の台湾島」と見なしています。今は台湾は中国の一部になってないが、そうあるべきだ。それが実現していない唯一の理由は、米国の太平洋艦隊のためだ。
●中国は平和的もしくは軍事的に台湾を併合すると明言していますが、中国の立場からすれば、台湾を統一する可能性は 100%だ。
(2023年11月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)
ここまでの踏み込んだ発言を断言的に表明したイーロン・マスクという人物が、習近平にとって、どれだけ重要か想像がつくだろう。
そうでなくともトランプは大統領選挙中に何度も「もし中国が台湾を武力攻撃したら、あなたならどう反応するか?」という複数のメディアの問いに、毎回回答をはぐらかしてきた。それはバイデン大統領が何度も「米国は介入する」と明言した意思決定と歴然たる対比を成していた。
ましてやイーロン・マスクがトランプ側に立った今、トランプ2.0における対台湾の認識は習近平にとって何よりも重要なものだ。
トランプは11月6日の勝利宣言演説(※8)で、イーロン・マスクを「超天才」と呼び、「われわれの天才を守らなければならない」とまで述べている。きっとイーロン・マスクの意見を政権運営に取り入れていくことだろう。
このこと一つをとっても、トランプ2.0における米中関係がイーロン・マスクの存在によりどれだけ悪化を防ぐか、その効果は計り知れない。
「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。
ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://finance.sina.com.cn/jjxw/2024-11-08/doc-incvkiwc1758856.shtml
(※3)https://www.zaobao.com.sg/news/china/story20241107-5307017
(※4)https://www.guancha.cn/internation/2024_11_04_754094.shtml
(※5)https://www.youtube.com/watch?v=tKqJ5-kkUGk
(※6)https://edition.cnn.com/2023/09/14/business/elon-musk-taiwan-china-comments-intl-hnk/index.html
(※7)https://www.youtube.com/watch?v=JN3KPFbWCy8
(※8)https://www.youtube.com/watch?v=WI9fbbQ-aTo
(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b
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◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。
大統領選に圧勝したドナルド・トランプ前大統領は、選挙運動中に「全ての国に10〜20%、中国からの全輸入品に60%の関税を課す」と表明している。しかし最大のトランプ支援者となったテスラCEOのイーロン・マスクは、EVの上海工場で莫大なビジネス権益を有しているだけでなく、中国政府に特別な厚遇を受け、習近平国家主席がトップを務める清華大学経済管理学院顧問委員会(海外大手企業トップが集まり中国経済発展を助ける委員会)のメンバーの一人だ。李強国務院総理(首相)が上海市の書記だったころに上海工場を設立したため、李強首相とも特別に仲がいい。母親のメイ・マスクともども、大の「中国ファン」なのである。
そのため昨年は「台湾は北京政府の統治下にあるべきだ」として台湾の平和統一を支持する発言をしたり、バイデン政権が対中高関税をかけることに対して反対の表明をしたりしている。
そんなイーロン・マスクが来年1月から始まる第二次トランプ政権「トランプ2.0」で発令されるであろう対中高関税政策を黙って見ているだろうか。おそらくイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるのではないかと思われる。
イーロン・マスクはまた「戦争屋ネオコンに反対!」とXに投稿しており、アメリカ・ファーストのトランプはそのネオコンの下で動く「第二のCIA」であるNED(全米民主主義基金)が嫌いだ。
習近平にとって、トランプ2.0は、心地悪くはないものとなる可能性がある。
◆テスラEVの利益のほとんどは上海工場から
世界一の大富豪として知られるイーロン・マスクは、EV(電動自動車)の製造工場をアメリカのカルフォルニアとテキサスに持っているが、2023年の生産台数)はそれぞれ55.5万台と14.6万台で、あまり多くはない。一方、上海工場での2023年の生産台数は95.8万台に上り、全生産能力の半分以上を占めるに至っている。また今年9月には、上海工場から100万台目の中国製EVを輸出したと発表した。
それが可能になったのは、習近平が上海工場設立に対して、独資企業としてスタートしてもいいという特別の厚遇をしたからだ。外国企業に対する独資認可は、テスラ上海工場が初めてのケースである。
2019年1月7日に上海工場が着工し、同年12月30日には最初の車が納車された。着工から納車まで1年もかからなかったというこの生産スピードは、サプライチェーンが中国内に全て揃っているお陰でもある。
習近平は2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したが、イーロン・マスクの登場は、その戦略にぴったりと当てはまった。
拙著『嗤う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』で詳述したように、習近平は「中国製造2025」達成を可能ならしめるためにも、テスラ上海工場をそのバネにする必要があったのだ。事実、これをきっかけに中国のEV製造は一気に成長して世界一になった。
習近平にとってイーロン・マスクは無くてはならない存在だし、イーロン・マスクにとっても中国は欠かすことのできないビジネス・パートナーだ。したがってイーロン・マスクが対中高関税の緩衝材となるのではないかと推測されるのである。
◆中国のネット:イーロン・マスクが対中高関税の潤滑油になる
たとえば11月8日の新浪財形網には<トランプがホワイトハウスに戻ってくるが、マスが中米間の潤滑油になるのではないか?>(※2)という見出しで、筆者と同様の観測をしている。
またシンガポールの聯合早報も11月7日、<トランプの高関税は中国にどの程度の打撃を与えるか? 学者はマスクの立ち位置留意すべきと>(※3)という見出しで北京特派員の見解を報道している。それによれば「中国で莫大なビジネス権益を持つ起業家であるイーロン・マスクは、米中貿易摩擦の緩衝材になる可能性がある」と学者が述べているとのこと。
トランプ勝利が判明する前の11月4日、中国のネットの観察者網は<マスクは極端な親中派なので、米中間の重要な対話者として機能するのでは?>(※4)という趣旨の分析をしている。こういった視点からの分析は枚挙にいとまがないほど中国語のネット空間に溢れている。
◆イーロン・マスク:北京が台湾を統治すべきと表明
2023年9月13日、ロサンゼルス(のRoyce Hall on UCLA’s campus)で開催されたAll-In Summit 2023にリモートで参加したイーロン・マスクは、「台湾と中国の関係」を「ハワイと米国の関係」にたとえた(※5)。凄いスピードで話しているので、喋っている言葉を逐語訳すると何を言っているかわからなくなる。そこで彼の言わんとするところを要約してピックアップすると、以下のようになる。
●台湾の再統一は中国の根本的な問題だ。半世紀以上にわたり、中国は台湾を返還する政策をとってきた。
●彼らの視点から見ると、中国にとっての台湾は、アメリカのハワイのようなものかもしれない。
●ただ、中国の再統一の試みを、米国の太平洋艦隊が武力で阻止したために中国の一部ではないようにしてしまっているだけだ。
●台湾は中国の不可欠な部分であるが、台湾は「故意に中国の所有物であることを否定し」、米国が「いかなる形の再統一努力をも妨害している。
(2023年9月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)
すると、9月14日、台湾外交部がマスク発言に対して激しく抗議した(※6)。
それでもなお、イーロン・マスクは2023年11月になると、また台湾に関して言及した。2023年11月10日、レックス・フリードマンが主催するポッドキャストにオンラインで取材に応じ、以下のように回答して(※7)いる。
●中国は台湾に対して強い感情を抱いている。その点については、長い間、非常に明確にしてきました。この観点から言えば、ハワイのような国ではなく、ハワイよりも重要な国の一つということになる。
●中国は台湾を、中国の基本的な一部、台湾ではなく「中国の台湾島」と見なしています。今は台湾は中国の一部になってないが、そうあるべきだ。それが実現していない唯一の理由は、米国の太平洋艦隊のためだ。
●中国は平和的もしくは軍事的に台湾を併合すると明言していますが、中国の立場からすれば、台湾を統一する可能性は 100%だ。
(2023年11月のイーロン・マスクの発言要旨は以上)
ここまでの踏み込んだ発言を断言的に表明したイーロン・マスクという人物が、習近平にとって、どれだけ重要か想像がつくだろう。
そうでなくともトランプは大統領選挙中に何度も「もし中国が台湾を武力攻撃したら、あなたならどう反応するか?」という複数のメディアの問いに、毎回回答をはぐらかしてきた。それはバイデン大統領が何度も「米国は介入する」と明言した意思決定と歴然たる対比を成していた。
ましてやイーロン・マスクがトランプ側に立った今、トランプ2.0における対台湾の認識は習近平にとって何よりも重要なものだ。
トランプは11月6日の勝利宣言演説(※8)で、イーロン・マスクを「超天才」と呼び、「われわれの天才を守らなければならない」とまで述べている。きっとイーロン・マスクの意見を政権運営に取り入れていくことだろう。
このこと一つをとっても、トランプ2.0における米中関係がイーロン・マスクの存在によりどれだけ悪化を防ぐか、その効果は計り知れない。
「トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
この論考はYahoo!ニュース エキスパート(※9)より転載しました。
ドナルド・トランプ前大統領を応援するテスラのイーロン・マスクCEO(写真:REX/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://finance.sina.com.cn/jjxw/2024-11-08/doc-incvkiwc1758856.shtml
(※3)https://www.zaobao.com.sg/news/china/story20241107-5307017
(※4)https://www.guancha.cn/internation/2024_11_04_754094.shtml
(※5)https://www.youtube.com/watch?v=tKqJ5-kkUGk
(※6)https://edition.cnn.com/2023/09/14/business/elon-musk-taiwan-china-comments-intl-hnk/index.html
(※7)https://www.youtube.com/watch?v=JN3KPFbWCy8
(※8)https://www.youtube.com/watch?v=WI9fbbQ-aTo
(※9)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/107c839d144ea564fd20c010880197274142511b
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