富士通など、W帯向け窒化ガリウム送信用パワーアンプを開発
[17/07/24]
TOKYO, Jul 24, 2017 - (JCN Newswire) - 富士通株式会社(以下、富士通)と株式会社富士通研究所(注1)(以下、富士通研究所)は、W帯(75から110ギガヘルツ(以下、GHz))を用いた大容量の無線ネットワークに適用可能な、窒化ガリウム(GaN)(注2)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(注3)を利用した送信用の高出力増幅器(以下、パワーアンプ)を開発しました。
長距離・大容量の無線通信を実現するには、広い周波数帯域を利用できるW帯などの高周波帯を用いて、送信用パワーアンプの出力を増大させることが有望です。一方で、増大する通信システムの消費電力を低減させるパワーアンプの効率向上も求められています。
今回、GaN-HEMTの内部抵抗および漏れ電流を低減させることにより、トランジスタ性能を向上させ、高出力かつ高効率なW帯送信用パワーアンプの開発に成功しました。出力密度は、W帯において世界最高である、ゲート幅1mmあたり4.5ワットを実現し、消費電力についても従来比26%減の低消費電力化を確認しました。
本パワーアンプを2地点間の無線通信システムへ応用した場合、10kmの距離で毎秒10ギガビットの大容量通信を実現できる見込みです。
本研究の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度の支援を受けて実施されました。
本技術の詳細は、7月24日(月曜日)から28日(金曜日)までフランスのストラスブールで開催される窒化物半導体に関する国際会議「12th International Conference on Nitride Semiconductors(ICNS-12)」にて発表します。
開発の背景
モバイル通信による無線データトラフィックは、過去数年間で大きく増加しており、今後も5GやIoTデバイスの普及にともなって2020年にかけて年成長率約1.5倍で増加すると予想されています。このような大容量の次世代無線通信ネットワークを構築するため、W帯と呼ばれる高い周波数帯を利用した無線通信技術が注目されています。W帯は、電波を使用できる周波数帯の幅が広く、通信速度を飛躍的に高めることができるため、このような大容量無線通信に向いている周波数とされています。
また無線通信の従来技術は数kmの距離で毎秒数ギガビット程度の性能となっており、さらなる長距離化・大容量化のためにはW帯を活用し、送信時に信号を増幅させるためのパワーアンプを、より高出力化することが求められています。
課題
長距離化・大容量化のためには、増幅できる周波数帯域幅を広げるとともに、同じ周波数帯域幅により多くの情報を乗せて送信できる変調方式に対応する必要があり、信号を増幅する際にひずみの少ない特性が強く求められます。一方、長距離化・大容量化にともなって増大する通信システムの消費電力を抑えるため、パワーアンプの電力効率を向上させることも求められています。
1.開発した技術
今回、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)系HEMTにおいて、無線通信の長距離化・大容量化と低消費電力化を実現するために、抵抗および漏れ電流の低減に着目し、2つの技術を開発しました。開発した技術の特長は以下の通りです。
2.内部抵抗の低減技術
今回、GaN-HEMTデバイスのソース電極・ドレイン電極の直下に、高い濃度で電子を発生させる柱状のGaN層(GaN Plug)を埋め込む製造プロセスを用い、ソース電極・ドレイン電極とGaN-HEMTデバイス間に電流が流れる際の抵抗を、安定して従来の10分の1に低減できるデバイス技術を開発しました。ソース電極から出た電子は、できるだけスムーズに2次元電子領域に運ぶ必要がありますが、従来の構造では電子供給層がバリアとなり、ソース電極と2次元電子の間の電気抵抗が高くなっていました。本技術を適用することにより、大電流をトランジスタに流すことに成功しました。
漏れ電流抑制技術
電子走行層の上側の境界面を高速で移動する2次元電子は、ゲート電極が閉じた時に電子が下側を迂回することで漏れ電流となり、パワーアンプの動作効率の悪化の原因となっていました。一般的に、電子走行層の下方に障壁層を配置することにより漏れ電流を低減することができますが、その場合2次元電子の量も減り、ドレイン電流の低下を招いてしまいます。今回、InGaNからなる障壁層を電子走行層の下方に効果的に配置することにより、高いドレイン電流を維持したまま、動作時の迂回電子が低減し、漏れ電流を大幅に低減させることに成功しました。
効果
これまでのW帯における送信用パワーアンプの出力密度は富士通研究所が開発したゲート幅1mmあたり3.6ワットが世界最高でしたが、今回開発した技術による、94GHzで動作するように設計したパワーアンプは、出力密度がゲート幅1mmあたり4.5ワットへと大きく向上しました。また、漏れ電流の低減により、従来技術と比べ26%減の低消費電力化を実現しました。本パワーアンプを用いることで、2地点間を無線通信システムでつなぐ場合に、10km以上かつ毎秒10ギガビット以上の長距離・大容量通信を実現できる見込みです。
今後
本技術を長距離・大容量かつ光ファイバーよりも簡便に敷設できる無線通信が望まれる用途におけるパワーアンプの開発に幅広く適用し、災害時に光ファイバーが断線した際に早期に復旧できる手段や、イベント開催時に臨時的に設営する仮設通信インフラに適用できる高速無線通信システムなどの実現に向け、2020年度の実用化を目指します。
本リリースの詳細は下記URLをご参照ください。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/07/24.html
注釈
注1 株式会社富士通研究所:本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 窒化ガリウム(GaN):ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウムひ素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
注3 高電子移動度トランジスタ:バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
概要:富士通株式会社
詳細は http://jp.fujitsu.com/ をご覧ください。
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長距離・大容量の無線通信を実現するには、広い周波数帯域を利用できるW帯などの高周波帯を用いて、送信用パワーアンプの出力を増大させることが有望です。一方で、増大する通信システムの消費電力を低減させるパワーアンプの効率向上も求められています。
今回、GaN-HEMTの内部抵抗および漏れ電流を低減させることにより、トランジスタ性能を向上させ、高出力かつ高効率なW帯送信用パワーアンプの開発に成功しました。出力密度は、W帯において世界最高である、ゲート幅1mmあたり4.5ワットを実現し、消費電力についても従来比26%減の低消費電力化を確認しました。
本パワーアンプを2地点間の無線通信システムへ応用した場合、10kmの距離で毎秒10ギガビットの大容量通信を実現できる見込みです。
本研究の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度の支援を受けて実施されました。
本技術の詳細は、7月24日(月曜日)から28日(金曜日)までフランスのストラスブールで開催される窒化物半導体に関する国際会議「12th International Conference on Nitride Semiconductors(ICNS-12)」にて発表します。
開発の背景
モバイル通信による無線データトラフィックは、過去数年間で大きく増加しており、今後も5GやIoTデバイスの普及にともなって2020年にかけて年成長率約1.5倍で増加すると予想されています。このような大容量の次世代無線通信ネットワークを構築するため、W帯と呼ばれる高い周波数帯を利用した無線通信技術が注目されています。W帯は、電波を使用できる周波数帯の幅が広く、通信速度を飛躍的に高めることができるため、このような大容量無線通信に向いている周波数とされています。
また無線通信の従来技術は数kmの距離で毎秒数ギガビット程度の性能となっており、さらなる長距離化・大容量化のためにはW帯を活用し、送信時に信号を増幅させるためのパワーアンプを、より高出力化することが求められています。
課題
長距離化・大容量化のためには、増幅できる周波数帯域幅を広げるとともに、同じ周波数帯域幅により多くの情報を乗せて送信できる変調方式に対応する必要があり、信号を増幅する際にひずみの少ない特性が強く求められます。一方、長距離化・大容量化にともなって増大する通信システムの消費電力を抑えるため、パワーアンプの電力効率を向上させることも求められています。
1.開発した技術
今回、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)系HEMTにおいて、無線通信の長距離化・大容量化と低消費電力化を実現するために、抵抗および漏れ電流の低減に着目し、2つの技術を開発しました。開発した技術の特長は以下の通りです。
2.内部抵抗の低減技術
今回、GaN-HEMTデバイスのソース電極・ドレイン電極の直下に、高い濃度で電子を発生させる柱状のGaN層(GaN Plug)を埋め込む製造プロセスを用い、ソース電極・ドレイン電極とGaN-HEMTデバイス間に電流が流れる際の抵抗を、安定して従来の10分の1に低減できるデバイス技術を開発しました。ソース電極から出た電子は、できるだけスムーズに2次元電子領域に運ぶ必要がありますが、従来の構造では電子供給層がバリアとなり、ソース電極と2次元電子の間の電気抵抗が高くなっていました。本技術を適用することにより、大電流をトランジスタに流すことに成功しました。
漏れ電流抑制技術
電子走行層の上側の境界面を高速で移動する2次元電子は、ゲート電極が閉じた時に電子が下側を迂回することで漏れ電流となり、パワーアンプの動作効率の悪化の原因となっていました。一般的に、電子走行層の下方に障壁層を配置することにより漏れ電流を低減することができますが、その場合2次元電子の量も減り、ドレイン電流の低下を招いてしまいます。今回、InGaNからなる障壁層を電子走行層の下方に効果的に配置することにより、高いドレイン電流を維持したまま、動作時の迂回電子が低減し、漏れ電流を大幅に低減させることに成功しました。
効果
これまでのW帯における送信用パワーアンプの出力密度は富士通研究所が開発したゲート幅1mmあたり3.6ワットが世界最高でしたが、今回開発した技術による、94GHzで動作するように設計したパワーアンプは、出力密度がゲート幅1mmあたり4.5ワットへと大きく向上しました。また、漏れ電流の低減により、従来技術と比べ26%減の低消費電力化を実現しました。本パワーアンプを用いることで、2地点間を無線通信システムでつなぐ場合に、10km以上かつ毎秒10ギガビット以上の長距離・大容量通信を実現できる見込みです。
今後
本技術を長距離・大容量かつ光ファイバーよりも簡便に敷設できる無線通信が望まれる用途におけるパワーアンプの開発に幅広く適用し、災害時に光ファイバーが断線した際に早期に復旧できる手段や、イベント開催時に臨時的に設営する仮設通信インフラに適用できる高速無線通信システムなどの実現に向け、2020年度の実用化を目指します。
本リリースの詳細は下記URLをご参照ください。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/07/24.html
注釈
注1 株式会社富士通研究所:本社 神奈川県川崎市、代表取締役社長 佐々木繁。
注2 窒化ガリウム(GaN):ワイドバンドギャップ半導体で、シリコン(Si)やガリウムひ素(GaAs)など従来の半導体材料に比べ、電圧による破壊に強いという特長がある。
注3 高電子移動度トランジスタ:バンドギャップの異なる半導体の接合部にある電子が、通常の半導体内に比べて高速で移動することを利用した電界効果型トランジスタ。1980年に富士通が世界に先駆けて開発し、現在、衛星放送用受信機や携帯電話機、GPSを利用したナビゲーションシステム、広帯域無線アクセスシステムなど、IT社会を支える基盤技術として広く使用されている。
概要:富士通株式会社
詳細は http://jp.fujitsu.com/ をご覧ください。
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