宮崎大・富士通・住友電工、実証試験用システムによる世界最高効率の水素製造に成功
[18/07/19]
TOKYO, Jul 19, 2018 - (JCN Newswire) - 宮崎大学の太田靖之助教、西岡賢祐教授、東京大学の杉山正和教授、株式会社富士通研究所、住友電気工業株式会社らの研究グループは、新たに高効率集光型太陽電池から得られる電力を用いて水電解する実用構成システムを設計・構築し(図1)、太陽光エネルギーの18.8%(1日平均)を水素エネルギーに変換することに成功した。
水素エネルギーは、新たなエネルギーキャリアとして利用が進められており、太陽光発電などの再生可能エネルギーと水電解の組み合わせは、CO2を排出しない水素製造システムとして期待される。
これまで、宮崎大学は、太陽電池と水電解装置を用いた水素製造システムの屋外実証およびシステム設計を東京大学と共同で進めてきた。
今回、新型の高効率集光型太陽電池(注1)から得られる電力を固体高分子型水電解装置(注2)に効率よく供給する電力変換装置(DC/DCコンバータ)(注3)を新たに開発し、実際の太陽光下での実証試験において太陽光エネルギーから水素エネルギーへの1日平均エネルギー変換効率18.8%を実現した。
本実証試験は、宮崎県に降り注ぐ太陽光エネルギーという資源を活用した水素エネルギー製造であり、将来、宮崎県内におけるエネルギーの地産地消が期待できる。
発表内容
1. 研究の背景・先行研究における問題点
CO2を排出しない新たなエネルギーキャリアとして水素エネルギーの利用が期待され、水素社会の実現に向けて取り組みが進められている。現在、主な水素製造方法の一つである化石燃料改質技術は、技術的には確立されているが、水素製造過程においてCO2が排出される。また、電気エネルギーをもとにした水電解では、電気エネルギーを生み出す発電方式によってはCO2が排出される。究極にクリーンな水素を得る方法の一つとして、再生可能エネルギーの一つである太陽光発電と水電解の組み合わせが挙げられ、トータルでCO2フリーな水素供給システムの確立が期待されている。
太陽電池と水電解装置を組み合わせた水素製造システムでは、これまで、宮崎大学らの研究グループが、集光型太陽電池と一般的な固体高分子型水電解装置を接続したシステムによって、屋外試験では世界最高効率となる太陽光エネルギーから水素エネルギーへの変換効率24.4%を実証した(注4)。しかし、外気温や太陽光による集光型太陽電池の動作温度の変動や、雲などによる太陽光強度の変動により、高い水素製造効率を1日中維持することは難しい。また、再生可能エネルギー由来水素の大量導入に向けた、大規模高効率水素製造システムの開発が必要とされる。したがって、より実用化に近い、実際の屋外太陽光下における高効率で長期的な水素製造の実証試験が望まれていた。
2. 研究内容
宮崎大学の太田靖之助教、西岡賢祐教授、東京大学の杉山正和教授らの研究グループは、宮崎大学の屋外試験場に設置した新型の高効率集光型太陽電池に、固体高分子膜を用いた水電解装置と、太陽電池から得られる電力を水電解装置に効率よく供給する電力変換装置(DC/DCコンバータ)を接続し(図1)、実際の太陽光下で1日を通して高効率かつ安定的に水素を製造することに成功した(図2)。太陽光から水素への1日平均エネルギー変換効率は18.8%であり、実用構成システムにおいて世界最高記録を樹立した。
従来の実験システムでの集光型太陽電池と水電解装置の直接接続において、動作温度や太陽光強度によって太陽電池の最大電力出力点(最高変換効率が得られる点)が、変化するために、長時間動作では実効の変換効率としては低下してしまうと言う課題があった。今回、富士通研究所が新たに本システム向けに開発した電力変換装置は、時々刻々変化する温度、太陽光強度に追従し、水電解装置に供給する電圧、電流を制御して、常に太陽電池の最大出力電圧になるようにすることで(図5)、太陽電池から水電解装置への高いエネルギー伝達効率(90.0%)を実現した。
集光型太陽電池は、レンズなど光学系の設計や、太陽の方向にレンズを正確に向ける追尾に高度な技術を必要とし、実際の屋外環境での発電効率を向上させることは容易ではない。今回の実験では、集光型太陽電池の研究開発拠点となっている宮崎大学において、集光型太陽電池モジュール(住友電気工業(株)製:図3(a))を、高精度太陽追尾架台に搭載することにより、宮崎県の実際の屋外日照条件下で1日平均発電効率27.2%(太陽光エネルギーから電気エネルギーの効率)を達成した。
今後、集光型太陽電池の実動作環境下での発電効率は35%まで向上すると見込まれ、水電解における電力から水素へのエネルギー伝達効率80%を考慮すると、太陽光から水素へのエネルギー変換効率は25%に達すると予想される。
3. 今後の課題と展開と社会へのインパクト
今回実証に用いた集光型太陽電池と水電解装置はすでに市販されているため、新たに導入した富士通研究所の電力変換装置を用いることで、太陽光から18.8%の高効率で水素を製造することは現在の技術で実現可能である。さらに、今回実証に用いた水素製造装置は、大規模太陽光発電システムへの展開が容易であり、将来求められる水素製造の大規模化において重要な技術となる。また、水素エネルギーは、宮崎県に降り注ぐ太陽光をもとに製造した。これは、宮崎県の太陽光という資源を活用したエネルギー製造であり、製造した水素エネルギーの貯蔵、利用、さらに水素エネルギーを用いた新たなエネルギー応用を今後開発していくことで、宮崎県内におけるエネルギーの地産地消が期待できる。
水素エネルギーの普及には、その製造コストの低減が必須である。現在、集光型太陽電池は通常の太陽電池に比べて高価だが、直射日光の強い海外の高照度地域では、発電効率が高い分発電コストを低減できる。海外での大規模な水素製造に必要なギガワット級の導入が進めば、集光型太陽電池の価格はシリコン太陽電池並みに下がると予測されている。技術革新と大量生産により低コスト化した水電解装置と組み合わせ、経済産業省が目標とする水素製造コスト1 Nm3あたり20円以下(注5)へのコスト低減が見込まれる。
新たに開発した電力変換装置は、太陽光発電システムと水電解装置のシステム構成上の制約を解消するものであり、太陽光由来水素製造の規模拡大を加速するものである。太陽光発電システムと、それらから得られた電気エネルギーによる水素製造のさらなる普及のため、システムを構成する集光型太陽電池、電力変換装置、水電解装置の一層の効率向上と低コスト化はもとより、さらには急激な日照の変動による入力電力の変動に対応したシステムの耐久性向上が求められる。今後、実証試験の蓄積により耐久性向上に向けた技術開発を進めることで、再生可能エネルギー由来水素のさらなる普及に貢献できるものと考える。
詳細は下記URLをご参照ください。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2018/07/19.html
概要:富士通株式会社
詳細は http://jp.fujitsu.com/ をご覧ください。
Copyright 2018 JCN Newswire. All rights reserved. www.jcnnewswire.com
水素エネルギーは、新たなエネルギーキャリアとして利用が進められており、太陽光発電などの再生可能エネルギーと水電解の組み合わせは、CO2を排出しない水素製造システムとして期待される。
これまで、宮崎大学は、太陽電池と水電解装置を用いた水素製造システムの屋外実証およびシステム設計を東京大学と共同で進めてきた。
今回、新型の高効率集光型太陽電池(注1)から得られる電力を固体高分子型水電解装置(注2)に効率よく供給する電力変換装置(DC/DCコンバータ)(注3)を新たに開発し、実際の太陽光下での実証試験において太陽光エネルギーから水素エネルギーへの1日平均エネルギー変換効率18.8%を実現した。
本実証試験は、宮崎県に降り注ぐ太陽光エネルギーという資源を活用した水素エネルギー製造であり、将来、宮崎県内におけるエネルギーの地産地消が期待できる。
発表内容
1. 研究の背景・先行研究における問題点
CO2を排出しない新たなエネルギーキャリアとして水素エネルギーの利用が期待され、水素社会の実現に向けて取り組みが進められている。現在、主な水素製造方法の一つである化石燃料改質技術は、技術的には確立されているが、水素製造過程においてCO2が排出される。また、電気エネルギーをもとにした水電解では、電気エネルギーを生み出す発電方式によってはCO2が排出される。究極にクリーンな水素を得る方法の一つとして、再生可能エネルギーの一つである太陽光発電と水電解の組み合わせが挙げられ、トータルでCO2フリーな水素供給システムの確立が期待されている。
太陽電池と水電解装置を組み合わせた水素製造システムでは、これまで、宮崎大学らの研究グループが、集光型太陽電池と一般的な固体高分子型水電解装置を接続したシステムによって、屋外試験では世界最高効率となる太陽光エネルギーから水素エネルギーへの変換効率24.4%を実証した(注4)。しかし、外気温や太陽光による集光型太陽電池の動作温度の変動や、雲などによる太陽光強度の変動により、高い水素製造効率を1日中維持することは難しい。また、再生可能エネルギー由来水素の大量導入に向けた、大規模高効率水素製造システムの開発が必要とされる。したがって、より実用化に近い、実際の屋外太陽光下における高効率で長期的な水素製造の実証試験が望まれていた。
2. 研究内容
宮崎大学の太田靖之助教、西岡賢祐教授、東京大学の杉山正和教授らの研究グループは、宮崎大学の屋外試験場に設置した新型の高効率集光型太陽電池に、固体高分子膜を用いた水電解装置と、太陽電池から得られる電力を水電解装置に効率よく供給する電力変換装置(DC/DCコンバータ)を接続し(図1)、実際の太陽光下で1日を通して高効率かつ安定的に水素を製造することに成功した(図2)。太陽光から水素への1日平均エネルギー変換効率は18.8%であり、実用構成システムにおいて世界最高記録を樹立した。
従来の実験システムでの集光型太陽電池と水電解装置の直接接続において、動作温度や太陽光強度によって太陽電池の最大電力出力点(最高変換効率が得られる点)が、変化するために、長時間動作では実効の変換効率としては低下してしまうと言う課題があった。今回、富士通研究所が新たに本システム向けに開発した電力変換装置は、時々刻々変化する温度、太陽光強度に追従し、水電解装置に供給する電圧、電流を制御して、常に太陽電池の最大出力電圧になるようにすることで(図5)、太陽電池から水電解装置への高いエネルギー伝達効率(90.0%)を実現した。
集光型太陽電池は、レンズなど光学系の設計や、太陽の方向にレンズを正確に向ける追尾に高度な技術を必要とし、実際の屋外環境での発電効率を向上させることは容易ではない。今回の実験では、集光型太陽電池の研究開発拠点となっている宮崎大学において、集光型太陽電池モジュール(住友電気工業(株)製:図3(a))を、高精度太陽追尾架台に搭載することにより、宮崎県の実際の屋外日照条件下で1日平均発電効率27.2%(太陽光エネルギーから電気エネルギーの効率)を達成した。
今後、集光型太陽電池の実動作環境下での発電効率は35%まで向上すると見込まれ、水電解における電力から水素へのエネルギー伝達効率80%を考慮すると、太陽光から水素へのエネルギー変換効率は25%に達すると予想される。
3. 今後の課題と展開と社会へのインパクト
今回実証に用いた集光型太陽電池と水電解装置はすでに市販されているため、新たに導入した富士通研究所の電力変換装置を用いることで、太陽光から18.8%の高効率で水素を製造することは現在の技術で実現可能である。さらに、今回実証に用いた水素製造装置は、大規模太陽光発電システムへの展開が容易であり、将来求められる水素製造の大規模化において重要な技術となる。また、水素エネルギーは、宮崎県に降り注ぐ太陽光をもとに製造した。これは、宮崎県の太陽光という資源を活用したエネルギー製造であり、製造した水素エネルギーの貯蔵、利用、さらに水素エネルギーを用いた新たなエネルギー応用を今後開発していくことで、宮崎県内におけるエネルギーの地産地消が期待できる。
水素エネルギーの普及には、その製造コストの低減が必須である。現在、集光型太陽電池は通常の太陽電池に比べて高価だが、直射日光の強い海外の高照度地域では、発電効率が高い分発電コストを低減できる。海外での大規模な水素製造に必要なギガワット級の導入が進めば、集光型太陽電池の価格はシリコン太陽電池並みに下がると予測されている。技術革新と大量生産により低コスト化した水電解装置と組み合わせ、経済産業省が目標とする水素製造コスト1 Nm3あたり20円以下(注5)へのコスト低減が見込まれる。
新たに開発した電力変換装置は、太陽光発電システムと水電解装置のシステム構成上の制約を解消するものであり、太陽光由来水素製造の規模拡大を加速するものである。太陽光発電システムと、それらから得られた電気エネルギーによる水素製造のさらなる普及のため、システムを構成する集光型太陽電池、電力変換装置、水電解装置の一層の効率向上と低コスト化はもとより、さらには急激な日照の変動による入力電力の変動に対応したシステムの耐久性向上が求められる。今後、実証試験の蓄積により耐久性向上に向けた技術開発を進めることで、再生可能エネルギー由来水素のさらなる普及に貢献できるものと考える。
詳細は下記URLをご参照ください。
http://pr.fujitsu.com/jp/news/2018/07/19.html
概要:富士通株式会社
詳細は http://jp.fujitsu.com/ をご覧ください。
Copyright 2018 JCN Newswire. All rights reserved. www.jcnnewswire.com