人工知能は株式市場を打ち負かすことができるのか?
[20/06/29]
TOKYO, Jun 29, 2020 - (JCN Newswire) - 株式市場でのトレードは、ときにギャンブルに例えられる。多くの投資家はこの比較が気に入らないかもしれないが、それはある意味事実だ。ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストであるデビッド・ワイナー氏はいみじくも、「株式市場は資本主義のカジノであり、ギャンブルが投資という薄っぺらい仮面を被っている場所である」と述べている。
しかしトレードとギャンブルの間に違いがあるとすれば、前者は確率だけに依存したゲームではない、ということだ。傾向を把握し、様々なデータを分析して、情報に基づいたうえで売買の意思決定を行うことができる。ルーレット、ダイス、スロットなどのギャンブルの場合はこのようにはいかない。
また、カジノにおける「ハウスエッジ」のような概念は、株式取引には存在しない。カジノでは、プレーヤー側はカジノ側に常に全体として負ける。プレーヤーの勝ちの総額は、ベットした総額と同じかそれ以上になることはない。この点で、投資家がS&P500や株式市場全体のパフォーマンスをアウトパフォームすることを妨げるような構造的な制限が存在しない株式市場とは異なる。
それを踏まえれば、株式市場に勝つためにAIを使ったシステムを開発しようとする試みは、現実的なベンチャーになり得るかもしれない。理論的には、ウォール街の最高の頭脳をもアウトパフォームすることは可能なのだ。
人工知能 対 株式市場
株式取引での損失を回避するためにAIや機械の力に頼ることは、何も目新しいことではない。80年代半ば以降、市場の行動をモデル化し、投資を自動化できるような高度なシステムを作ろうとする試みがなされてきた。
ブリッジウォーター・アソシエイツは何十年にもわたって投資アルゴリズムを開発してきた。彼らのアルゴリズムの最近のものは、歴史的な市場のトレンドを含めて検証されたフレキシブルな投資ロジックをも有している。FRB前議長であるポール・ボルカー氏は、彼らのアルゴリズムを「FRBよりも関連性の高い統計と分析結果を生み出し得るもの」と、表現している。
ルネッサンス・テクノロジーズは、統計的・数学的戦略に基づいた定量的な投資手法を使用していると報告されている。
一方、D.E.ショーは、計算技術を駆使した投資手法を構築するために、30年にわたる研究から得た成果を活用している。定性的かつ体系的な戦略を用いて投資判断を行っている。
ニューヨークを拠点とするツーシグマは、自然言語処理アルゴリズムにAIを採用し、米連邦準備制度理事会の議事録を分析するように設計されている。彼らは、金融政策や経済動向を理解し、それらに対応できるような、自動化された能力を開発しようとしている。
他にも多くの企業が株式取引にAIを活用しているが、株式市場に勝つための理想的な成果をすでに達成しているとは言い難い。一貫して成功を収めたといえる結果を残しているものはない。また彼らのコンピュータモデルやアルゴリズムは、いまだに平時の障害やその他の困難に悩まされている。
勝利への障害
ブルームバーグのリチャード・デューイ氏は、コンピュータモデルが市場に勝てる可能性が低い理由を3つ挙げている。(1)データは常に変化すること、(2)有効なシグナルよりもノイズの方が優位であること、そして(3)利用可能なトレードのエッジはごく微小であること、だ。
株価に影響を与える多くの要因は、その変化の大きさだけでなく、様々な事象の影響を受けて異なる振る舞いをする。また、データの変化のばらつきに関連した適切な指標と重要でないニュースや動向を見分けることは困難だ。さらに、トレーディングに利用できるようなエッジは、一般的には気づかれないか、識別して複製するには小さすぎる。誰かがそのようなエッジを見つけて利用すれば、他の人がそれを学び、利用することになる。多くの人が、あるいは誰もがすでにそれについて知っている場合は、エッジはその有用性を失うだろう。
金融市場を制するAIシステムに迫る自動売買手法の一つに、AIを搭載した自動裁定取引がある。「裁定取引とは、利益を得ることが分かっているときにのみ取引を行うトレーディング手法の一形態だ」と、Jubilee Ace社CEOのトニー・ジャクソン氏は述べている。
裁定取引で利益を得ることができるのは、市場の非効率性が存在するからだ。一部の市場はこの機会をブロックしようと試みているが、AIとトライアングルアービトラージのようなテクニックの助けを受けて、この戦略はまだ実行可能なままだ。
「トライアングルアービトラージは、複数のアセットを交換することで機能する。アセットAをアセットBと交換し、同時にアセットCとも交換する。そしてCからAに戻すと、最後にはアセットAが増えるか、最初よりもアセットAが減るかのどちらかになる。損失が出る場合、つまりアセットAが減る場合は、方向を逆にして、再び利益となるようにする」と、ジャクソン氏は主張している。
勝利は近いか?
アメリカの有名なコンピューターサイエンティストであり起業家でもあるジェフ・グリックマン氏は、株式市場に勝つためのヒントを与えてくれるかもしれない。彼の投資会社であるJ4 Capitalは、他のほとんどのAI主導の投資会社よりもうまくいっているように見える。同社は、同社の成功率は60%、つまり同社の人工知能を搭載したシステムがアドバイスした10回の決定のうち6回が利益につながっていると主張している。「この市場で利益を上げていると言うのには十分だ」と、グリックマン氏は言う。
株式市場を打ち負かしたと言える少なくとも1つの事例としては、ダウ・ジョーンズ工業株平均が27%近く下落している間に、J4 Capitalのポートフォリオは約4%上昇したことが挙げられるかもしれない。これは決定的な証拠ではないかもしれないが、機械学習を利用してウォール街に勝つための探求が進んでいることの一つの証左だろう。
興味深いことに、グリックマン氏は金融については何も知らないと言っている。彼は洗練された取引戦略を使うことなくシステムを構築した。彼はこのシステムを、自分自身を再プログラミングすることができる自律的な超知性、と呼んでいる。この59歳のコンピューターサイエンティストは自身が作ったシステムを、データセットを調べて解釈を導き出すことができる非決定論的アルゴリズムを持つ人間の脳と比較している。
テクノロジーと金融の勝利
AIを使って株式市場を打ち負かすことは簡単だと主張する人は誰もいない。「それは応用機械学習の中で最も難しい問題の1つだ」と、コロンビア・ビジネススクールの教授であるCiamac Moallemi氏は述べている。しかし、ここ数年で大きな進歩はあった。AIをはじめとするテクノロジーの応用が株式市場でどこまで進んでいくのか、楽しみだ。
イメージ: Pixabay
SOURCE: Jubilee Ace
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しかしトレードとギャンブルの間に違いがあるとすれば、前者は確率だけに依存したゲームではない、ということだ。傾向を把握し、様々なデータを分析して、情報に基づいたうえで売買の意思決定を行うことができる。ルーレット、ダイス、スロットなどのギャンブルの場合はこのようにはいかない。
また、カジノにおける「ハウスエッジ」のような概念は、株式取引には存在しない。カジノでは、プレーヤー側はカジノ側に常に全体として負ける。プレーヤーの勝ちの総額は、ベットした総額と同じかそれ以上になることはない。この点で、投資家がS&P500や株式市場全体のパフォーマンスをアウトパフォームすることを妨げるような構造的な制限が存在しない株式市場とは異なる。
それを踏まえれば、株式市場に勝つためにAIを使ったシステムを開発しようとする試みは、現実的なベンチャーになり得るかもしれない。理論的には、ウォール街の最高の頭脳をもアウトパフォームすることは可能なのだ。
人工知能 対 株式市場
株式取引での損失を回避するためにAIや機械の力に頼ることは、何も目新しいことではない。80年代半ば以降、市場の行動をモデル化し、投資を自動化できるような高度なシステムを作ろうとする試みがなされてきた。
ブリッジウォーター・アソシエイツは何十年にもわたって投資アルゴリズムを開発してきた。彼らのアルゴリズムの最近のものは、歴史的な市場のトレンドを含めて検証されたフレキシブルな投資ロジックをも有している。FRB前議長であるポール・ボルカー氏は、彼らのアルゴリズムを「FRBよりも関連性の高い統計と分析結果を生み出し得るもの」と、表現している。
ルネッサンス・テクノロジーズは、統計的・数学的戦略に基づいた定量的な投資手法を使用していると報告されている。
一方、D.E.ショーは、計算技術を駆使した投資手法を構築するために、30年にわたる研究から得た成果を活用している。定性的かつ体系的な戦略を用いて投資判断を行っている。
ニューヨークを拠点とするツーシグマは、自然言語処理アルゴリズムにAIを採用し、米連邦準備制度理事会の議事録を分析するように設計されている。彼らは、金融政策や経済動向を理解し、それらに対応できるような、自動化された能力を開発しようとしている。
他にも多くの企業が株式取引にAIを活用しているが、株式市場に勝つための理想的な成果をすでに達成しているとは言い難い。一貫して成功を収めたといえる結果を残しているものはない。また彼らのコンピュータモデルやアルゴリズムは、いまだに平時の障害やその他の困難に悩まされている。
勝利への障害
ブルームバーグのリチャード・デューイ氏は、コンピュータモデルが市場に勝てる可能性が低い理由を3つ挙げている。(1)データは常に変化すること、(2)有効なシグナルよりもノイズの方が優位であること、そして(3)利用可能なトレードのエッジはごく微小であること、だ。
株価に影響を与える多くの要因は、その変化の大きさだけでなく、様々な事象の影響を受けて異なる振る舞いをする。また、データの変化のばらつきに関連した適切な指標と重要でないニュースや動向を見分けることは困難だ。さらに、トレーディングに利用できるようなエッジは、一般的には気づかれないか、識別して複製するには小さすぎる。誰かがそのようなエッジを見つけて利用すれば、他の人がそれを学び、利用することになる。多くの人が、あるいは誰もがすでにそれについて知っている場合は、エッジはその有用性を失うだろう。
金融市場を制するAIシステムに迫る自動売買手法の一つに、AIを搭載した自動裁定取引がある。「裁定取引とは、利益を得ることが分かっているときにのみ取引を行うトレーディング手法の一形態だ」と、Jubilee Ace社CEOのトニー・ジャクソン氏は述べている。
裁定取引で利益を得ることができるのは、市場の非効率性が存在するからだ。一部の市場はこの機会をブロックしようと試みているが、AIとトライアングルアービトラージのようなテクニックの助けを受けて、この戦略はまだ実行可能なままだ。
「トライアングルアービトラージは、複数のアセットを交換することで機能する。アセットAをアセットBと交換し、同時にアセットCとも交換する。そしてCからAに戻すと、最後にはアセットAが増えるか、最初よりもアセットAが減るかのどちらかになる。損失が出る場合、つまりアセットAが減る場合は、方向を逆にして、再び利益となるようにする」と、ジャクソン氏は主張している。
勝利は近いか?
アメリカの有名なコンピューターサイエンティストであり起業家でもあるジェフ・グリックマン氏は、株式市場に勝つためのヒントを与えてくれるかもしれない。彼の投資会社であるJ4 Capitalは、他のほとんどのAI主導の投資会社よりもうまくいっているように見える。同社は、同社の成功率は60%、つまり同社の人工知能を搭載したシステムがアドバイスした10回の決定のうち6回が利益につながっていると主張している。「この市場で利益を上げていると言うのには十分だ」と、グリックマン氏は言う。
株式市場を打ち負かしたと言える少なくとも1つの事例としては、ダウ・ジョーンズ工業株平均が27%近く下落している間に、J4 Capitalのポートフォリオは約4%上昇したことが挙げられるかもしれない。これは決定的な証拠ではないかもしれないが、機械学習を利用してウォール街に勝つための探求が進んでいることの一つの証左だろう。
興味深いことに、グリックマン氏は金融については何も知らないと言っている。彼は洗練された取引戦略を使うことなくシステムを構築した。彼はこのシステムを、自分自身を再プログラミングすることができる自律的な超知性、と呼んでいる。この59歳のコンピューターサイエンティストは自身が作ったシステムを、データセットを調べて解釈を導き出すことができる非決定論的アルゴリズムを持つ人間の脳と比較している。
テクノロジーと金融の勝利
AIを使って株式市場を打ち負かすことは簡単だと主張する人は誰もいない。「それは応用機械学習の中で最も難しい問題の1つだ」と、コロンビア・ビジネススクールの教授であるCiamac Moallemi氏は述べている。しかし、ここ数年で大きな進歩はあった。AIをはじめとするテクノロジーの応用が株式市場でどこまで進んでいくのか、楽しみだ。
イメージ: Pixabay
SOURCE: Jubilee Ace
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