【オピニオン】スーダン南部:独立問う住民投票のなか、忘れ去られる人道危機
[11/01/13]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2011年1月13日
国境なき医師団(MSF)日本
【オピニオン】スーダン南部:独立問う住民投票のなか、忘れ去られる人道危機
スーダン南部では、9日から始まった北部からの分離独立の是非を問う住民投票の結末に世界中の注目が集まっている。しかし、南北内戦を終わらせた2005年の包括和平合意(CPA)の締結後、これまでスーダン南部の住民が直面している人道上における緊急事態が全くなおざりにされてきたことは皮肉である。
2005年の和平合意の締結によってアフリカ史上最も長い内戦が終わるまで、200万人の命が犠牲になり、400万人の住民が避難民としての生活を強いられた。和平合意の終結後、国際社会の焦点は、スーダン政府が和平合意を定着させるために行政サービスに注力し、南部の住民に「平和の配当」をもたらすことができるかに移った。その目的は、2011年1月9日から始まった、分離独立の是非を問う住民投票を控えた南部に安定をもたらすことであった。
しかし、この間、スーダン南部の住民が長年直面している人道上の危機への対応は、軽視されるか見過ごされる結果となった。スーダン南部全域では、死亡率は依然として高く、妊娠に伴う合併症によって妊産婦7人のうち1人が命を落としている。栄養失調も慢性化しており、頻繁に流行する病気は予防可能にもかかわらず、住民の命は常に脅かされている。南北対立における空爆は2005年に終わったかもしれないが、医療上の緊急事態は現在も続いている。
スーダン南部は現在、過去8年間で最大規模のカラアザールの大流行が発生している。顧みられない熱帯病のカラアザール(内臓リーシュマニア症)は、サシチョウバエに刺されることで感染し、スーダン南部における風土病である。この病気に感染すると、脾臓の肥大、発熱、衰弱、消耗などの症状が現れる。適切な治療を受けなければ、患者のほぼ100%が感染後1ヵ月から4ヵ月の間に命を落とすが、適切な治療を受ければ最大で95%の確率で治癒する。MSFは2010年11月末までに、2,355人に及ぶカラアザールの患者を上ナイル州、ユニティ州およびジョングレイ州で治療した。これは前年同期比で8倍を超える数である。
今回のカラアザールの流行は、2010年から悪化した栄養失調によって人びとの免疫システムが弱っていたことにより深刻化した。MSFは2010年の1〜10月の間に1万3,800人の重度の栄養失調にかかった患者を治療した。これは2009年の同期比で20%増であり、2008年全体に比べて50%増である。
MSFは同時に、2010年12月30日から2011年1月1日までの期間中、ワラップ州の帰還者の間で流行していたはしかの集団予防接種も実施した。今回のはしかの流行は、十分な医療体制のない南部の人びとがいかに脆弱な状態に置かれているかを改めて浮き彫りにした。
しかし、これらは近年スーダン南部を直撃した数多くの緊急事態の一部に過ぎない。南部の多くの地域で情勢不安が続き2009年にピークに達した後、MSFはエクアトリア地域でウガンダの反政府組織「神の抵抗軍(LRA)」による住民への襲撃や、上ナイル州とジョングレイ州における氏族間の衝突による武力衝突の増加を目撃している。この間、女性や子どもが襲撃の標的にされ、25万人が避難した。2010年には氏族間の衝突やLRAによる襲撃、また新たな民兵組織の台頭によってさらに21万5000人が避難し、900人が殺害された。南部と北部の境界地帯における不安定な情勢は、住民の避難や医療上の緊急事態を深刻化させている。その一方で、南北包括和平合意の実現に影響力を持つ国際的な資金拠出者は、資金の大半を長期的な開発目標へ投入したため、人びとが緊急に必要としている人道上のニーズへの対応には支援金が不足している。
現在、世界の注目は住民投票に注がれているが、次々に緊急事態に見舞われる人びとの姿を見過ごしてはならない。スーダン南部は今も人道上の危機にあり、存続可能な医療体制を完全に築き上げるまでには何年も要する。それまでは、食糧や住居、医療などの人びとの目下のニーズを満たす取り組みが必要である。住民投票の結果にかかわらず、政府と国際社会が持続的で着実な緊急対応に取り組むことが必要とされる。
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この論説の著者、ジョナサン・ホイットールはヨハネスブルクを拠点に活動するMSFの人道援助活動顧問です。ホイットールは2009年にスーダン南部におけるMSFの活動責任者を務め、MSF報告書『深刻な現状に直面:スーダン南部で暴力行為の激化により深刻化する健康危機』の著者でもあります。
報告書(英語)リンク:http://www.msf.or.jp/info/pressreport/pdf/South_Sudan_2009.pdf
国境なき医師団(MSF)日本
【オピニオン】スーダン南部:独立問う住民投票のなか、忘れ去られる人道危機
スーダン南部では、9日から始まった北部からの分離独立の是非を問う住民投票の結末に世界中の注目が集まっている。しかし、南北内戦を終わらせた2005年の包括和平合意(CPA)の締結後、これまでスーダン南部の住民が直面している人道上における緊急事態が全くなおざりにされてきたことは皮肉である。
2005年の和平合意の締結によってアフリカ史上最も長い内戦が終わるまで、200万人の命が犠牲になり、400万人の住民が避難民としての生活を強いられた。和平合意の終結後、国際社会の焦点は、スーダン政府が和平合意を定着させるために行政サービスに注力し、南部の住民に「平和の配当」をもたらすことができるかに移った。その目的は、2011年1月9日から始まった、分離独立の是非を問う住民投票を控えた南部に安定をもたらすことであった。
しかし、この間、スーダン南部の住民が長年直面している人道上の危機への対応は、軽視されるか見過ごされる結果となった。スーダン南部全域では、死亡率は依然として高く、妊娠に伴う合併症によって妊産婦7人のうち1人が命を落としている。栄養失調も慢性化しており、頻繁に流行する病気は予防可能にもかかわらず、住民の命は常に脅かされている。南北対立における空爆は2005年に終わったかもしれないが、医療上の緊急事態は現在も続いている。
スーダン南部は現在、過去8年間で最大規模のカラアザールの大流行が発生している。顧みられない熱帯病のカラアザール(内臓リーシュマニア症)は、サシチョウバエに刺されることで感染し、スーダン南部における風土病である。この病気に感染すると、脾臓の肥大、発熱、衰弱、消耗などの症状が現れる。適切な治療を受けなければ、患者のほぼ100%が感染後1ヵ月から4ヵ月の間に命を落とすが、適切な治療を受ければ最大で95%の確率で治癒する。MSFは2010年11月末までに、2,355人に及ぶカラアザールの患者を上ナイル州、ユニティ州およびジョングレイ州で治療した。これは前年同期比で8倍を超える数である。
今回のカラアザールの流行は、2010年から悪化した栄養失調によって人びとの免疫システムが弱っていたことにより深刻化した。MSFは2010年の1〜10月の間に1万3,800人の重度の栄養失調にかかった患者を治療した。これは2009年の同期比で20%増であり、2008年全体に比べて50%増である。
MSFは同時に、2010年12月30日から2011年1月1日までの期間中、ワラップ州の帰還者の間で流行していたはしかの集団予防接種も実施した。今回のはしかの流行は、十分な医療体制のない南部の人びとがいかに脆弱な状態に置かれているかを改めて浮き彫りにした。
しかし、これらは近年スーダン南部を直撃した数多くの緊急事態の一部に過ぎない。南部の多くの地域で情勢不安が続き2009年にピークに達した後、MSFはエクアトリア地域でウガンダの反政府組織「神の抵抗軍(LRA)」による住民への襲撃や、上ナイル州とジョングレイ州における氏族間の衝突による武力衝突の増加を目撃している。この間、女性や子どもが襲撃の標的にされ、25万人が避難した。2010年には氏族間の衝突やLRAによる襲撃、また新たな民兵組織の台頭によってさらに21万5000人が避難し、900人が殺害された。南部と北部の境界地帯における不安定な情勢は、住民の避難や医療上の緊急事態を深刻化させている。その一方で、南北包括和平合意の実現に影響力を持つ国際的な資金拠出者は、資金の大半を長期的な開発目標へ投入したため、人びとが緊急に必要としている人道上のニーズへの対応には支援金が不足している。
現在、世界の注目は住民投票に注がれているが、次々に緊急事態に見舞われる人びとの姿を見過ごしてはならない。スーダン南部は今も人道上の危機にあり、存続可能な医療体制を完全に築き上げるまでには何年も要する。それまでは、食糧や住居、医療などの人びとの目下のニーズを満たす取り組みが必要である。住民投票の結果にかかわらず、政府と国際社会が持続的で着実な緊急対応に取り組むことが必要とされる。
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この論説の著者、ジョナサン・ホイットールはヨハネスブルクを拠点に活動するMSFの人道援助活動顧問です。ホイットールは2009年にスーダン南部におけるMSFの活動責任者を務め、MSF報告書『深刻な現状に直面:スーダン南部で暴力行為の激化により深刻化する健康危機』の著者でもあります。
報告書(英語)リンク:http://www.msf.or.jp/info/pressreport/pdf/South_Sudan_2009.pdf