記憶が特定の脳神経細胞のネットワークに存在することを証明
[12/03/23]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2012年3月23日
独立行政法人 理化学研究所
記憶が特定の脳神経細胞のネットワークに存在することを証明
−自然科学で心を研究、心は物質の変化に基づいている−
独立行政法人理化学研究所(RIKEN)の脳科学総合研究センターと協力関係にある、マサチューセッツ工科大学の「RIKEN-MIT神経回路遺伝学センター」の利根川進教授の研究室は、マウスの脳の特定の神経細胞を光で刺激して、特定の記憶を呼び起こさせることに成功し、脳の物理的な機構の中に記憶が存在することを初めて実証しました。
私達の懐かしい思い出や恐ろしい記憶は、時間や場所、またはその経験を含むあらゆる感覚とともに、完全に呼び起こすことができる“記憶の痕跡”として脳に残されます。神経科学者たちはこれをエングラム(Engrams)と呼びます。しかしエングラムとは概念に過ぎないのか、あるいは脳内の神経細胞の物理的なネットワークなのか、分かっていませんでした。
研究グループは、最先端の遺伝子工学と光の照射で、特定の神経細胞のオン・オフを制御する光遺伝学(オプトジェネティックス)※1をマウスに適用して、エングラム学説の謎に挑みました。まず学習がおこって、海馬※2の特定の神経細胞がオン状態になると、これらの細胞が光に反応するタンパク質(チャネルロドプシン)で標識されるような、トランスジェニックマウスを作製します。学習としては、ある環境下で足に軽い電気ショックを与えると、マウスが環境とショックの関係を覚える、という方法を使います。普通、マウスにこの関係を思い出させて、その結果恐怖による“すくみ”(不動でうずくまった姿勢)の行動を示すようにさせるためには、この環境に戻してやらなくてはなりません。利根川研究室では、学習したマウスをまったく別の環境に移しても、学習中にオンになった細胞群に直接光を照射して再びオン状態にすると、“すくみ”の行動を喚起させることができることを発見しました。つまり、人為的な刺激がショックの記憶を呼び起こしたということです。
この成果は、記憶が特定の脳細胞に物理的に存在することを示しただけでなく、より一般的に、心というものが物質の変化に基づいていることの実証となります。今後さらに、脳の物理的な動きと心の現象の解明に貢献すると期待できます。
この研究には、利根川研究室の研究員シュー・リュ―(Xu Liu)、ぺティー・パン(Petti T. Pang)、コリー・バーイヤー(Corey B. Buryear)、アービンド・ゴビンダラヤン(Arvind Govindarajan), 大学院生スティーブ・ラミレ(Steve Ramirez)およびスタンフォード大学教授カール・ダイスロス(Karl Deisseroth)が参加しています。
本研究はRIKEN-BSIおよびアメリカ国立衛生研究所(NIH)の支援で実施され、『Nature』オンライン版(2012年3月22日付、日本時間3月23日)に掲載されます。
独立行政法人 理化学研究所
記憶が特定の脳神経細胞のネットワークに存在することを証明
−自然科学で心を研究、心は物質の変化に基づいている−
独立行政法人理化学研究所(RIKEN)の脳科学総合研究センターと協力関係にある、マサチューセッツ工科大学の「RIKEN-MIT神経回路遺伝学センター」の利根川進教授の研究室は、マウスの脳の特定の神経細胞を光で刺激して、特定の記憶を呼び起こさせることに成功し、脳の物理的な機構の中に記憶が存在することを初めて実証しました。
私達の懐かしい思い出や恐ろしい記憶は、時間や場所、またはその経験を含むあらゆる感覚とともに、完全に呼び起こすことができる“記憶の痕跡”として脳に残されます。神経科学者たちはこれをエングラム(Engrams)と呼びます。しかしエングラムとは概念に過ぎないのか、あるいは脳内の神経細胞の物理的なネットワークなのか、分かっていませんでした。
研究グループは、最先端の遺伝子工学と光の照射で、特定の神経細胞のオン・オフを制御する光遺伝学(オプトジェネティックス)※1をマウスに適用して、エングラム学説の謎に挑みました。まず学習がおこって、海馬※2の特定の神経細胞がオン状態になると、これらの細胞が光に反応するタンパク質(チャネルロドプシン)で標識されるような、トランスジェニックマウスを作製します。学習としては、ある環境下で足に軽い電気ショックを与えると、マウスが環境とショックの関係を覚える、という方法を使います。普通、マウスにこの関係を思い出させて、その結果恐怖による“すくみ”(不動でうずくまった姿勢)の行動を示すようにさせるためには、この環境に戻してやらなくてはなりません。利根川研究室では、学習したマウスをまったく別の環境に移しても、学習中にオンになった細胞群に直接光を照射して再びオン状態にすると、“すくみ”の行動を喚起させることができることを発見しました。つまり、人為的な刺激がショックの記憶を呼び起こしたということです。
この成果は、記憶が特定の脳細胞に物理的に存在することを示しただけでなく、より一般的に、心というものが物質の変化に基づいていることの実証となります。今後さらに、脳の物理的な動きと心の現象の解明に貢献すると期待できます。
この研究には、利根川研究室の研究員シュー・リュ―(Xu Liu)、ぺティー・パン(Petti T. Pang)、コリー・バーイヤー(Corey B. Buryear)、アービンド・ゴビンダラヤン(Arvind Govindarajan), 大学院生スティーブ・ラミレ(Steve Ramirez)およびスタンフォード大学教授カール・ダイスロス(Karl Deisseroth)が参加しています。
本研究はRIKEN-BSIおよびアメリカ国立衛生研究所(NIH)の支援で実施され、『Nature』オンライン版(2012年3月22日付、日本時間3月23日)に掲載されます。