HPVワクチンの安全性に関するWHOの公式声明
[13/07/05]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2013年7月5日
子宮頸がん征圧をめざす専門家会議
議長 野田 起一郎
実行委員長 今野 良
WHOの公式声明
「HPVワクチンに関するGACVSの安全性最新情報」
の日本語訳配布について
去る6月14日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の副反応検討部会が開催され、子宮頸がん予防ワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン、以下HPVワクチン)の積極的な接種勧奨について一時差し控える方針が決定されました。この4月に改正予防接種法が施行され、HPVワクチンが、ようやく定期接種として広く実施されることになってから、わずか2カ月余りでのこの事態を、私たち子宮頸がん征圧をめざす専門家会議は非常に残念なことと受け止めています。
HPVワクチンは、これまで全世界の120 カ国以上で承認、接種されており、その有効性・安全性が広く認められています。去る6月13日には、WHO(世界保健機関)の諮問委員会であるGACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)が、HPVワクチンに関する安全性について声明を発表しています。WHOが日本での副反応報告も検討したうえで、最新の知見としてHPVワクチンの安全性を改めて確認した意味は重いものと考えます。しかし、残念ながらこの声明は、英文の資料しか用意されていないためか、これまでのところ一般の方々はあまり承知していないものと考えます。
また、6月19日には、米国CDC(疾病対策予防センター)が、HPVワクチンを米国に導入した後、導入前と比べてワクチンに含まれるウイルス型の14〜19歳女性における感染率が56%減少したとの研究成果を発表し、HPVワクチンの有効性が高いこと、さらなる接種率の向上が重要であることがCDC所長からコメントされました。(http://jid.oxfordjournals.org/content/early/recent )
子宮頸がん征圧をめざす専門家会議では、ワクチン接種後に健康を害された方々とそのご家族の心身の痛みにお見舞いを申し上げるとともに、補償や救済制度の充実と、適切な治療が速やかに受けられる仕組みの構築を、社会的課題として解決すべきものと考えています。そして、公衆衛生の視点から積極的接種勧奨再開に向け、正しい科学的知識の普及を継続していきます。本資料配布はその啓発活動の一環として行うものです。報道関係各位のご参考になれば幸いです。
日本語訳は次ページ以降。正式な内容は、http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/hpv/130619HPV_VaccineGACVSstatement.pdf
にて原文をご参照ください。
◇
HPVワクチンに関するGACVSの安全性最新情報
<2013年6月13日、ジュネーブ>
2013年6月13日の会議において、GACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)はHPVワクチンの安全性に関する最新情報を検討した。前回の検討は2009年6月に実施されていた。当時、GACVSはHPVワクチンの安全性に関する累積エビデンスは安心できるものであったこと、有害事象モニタリングのための能力向上ともに、HPVの予防接種に関する試験が開始されていたことを表明した。現在、GACVSは、ワクチンが導入されている環境において質の高い安全性データを継続的に収集することを非常に重要視している。
過去4年間に、各国が予防接種プログラムを開始した又は拡大したことから安全性データは蓄積され続けている。GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)も、子宮頸がんの負担が甚大な発展途上国の女性がHPVワクチンを接種できるようにするための方策を講じ始めた(注:日本政府も昨年から財源支援開始)。現在のところ、約1億7500万接種分のHPVワクチンが販売されている。2300万接種分以上が販売された後、米国のVaccine Adverse Event Reporting System(ワクチン有害事象報告システム)に報告された有害事象の検討結果が、2009年に発表された(Slade 2009年)。現在、HPVワクチンが承認された多くの国において、大量の市販後データが蓄積しているなか、現在までに懸念事項は示されていない。現在販売されているワクチンの製造業者は妊娠レジストリを作成しており、有効性と併せて長期安全性試験を継続している。
諮問委員会は、米国、オーストラリア、日本及びCervarix(GlaxoSmithKline)及びGardasil(Merck)の製造業者から得られたデータを検討した。米国からの最新情報には2009年に公表された調査結果以降に得られたVAERSへの自発報告ならびにVaccine Safety Datalink(ワクチン安全性データリンク)からの終了済み試験及び試験計画を含んでいる。オーストラリアでは、男性を対象とする新たなプログラムが2013年2月に開始されており、データが入手可能になりつつある。
すべての情報源からのデータは、引き続き2つのワクチンの安全性が再確認された。現在、VAERSからのデータには2006年以降に販売された5000万接種分以上のデータが含まれており、プロファイルは2009年の検討時から大きくは変わっていない。初回の検討時に明らかになっていなかった有害事象報告、すなわち失神及び静脈血栓塞栓症(VTE)については更なる調査が行われた。失神については、報告され続けているが、HPVワクチンが接種される集団及び状況(注:多感な時期にある思春期女子を対象とする)を考えれば、妥当な関係がある可能性が高い事象である。そのため、ワクチン接種後15分間の観察期間を遵守することが勧告として強化されている。VTEについては、VSDにおける1ヵ月ごとの迅速分析(rapid cycle analysis)ではリスクの増大は認められなかったものの、経口避妊薬の使用、喫煙、本集団におけるその他の危険因子などの交絡因子を適切に補正して更なる調査が行われているところである。同様に、VSDではギランバレー症候群および脳卒中のリスク増大も認められなかった。
オーストラリアでは、安全性監視が強化されており、専門家グループが報告された事象の分析を続けている。現在のところ、ほぼ700万接種分が販売されており、以前検討されたアナフィラキシーの発生率増加に関する懸念は確認されなかった。男性を対象とするワクチン接種プログラムの拡大及び2013年2月1日以降の監視強化を受けて、現時点ではGardasilの安全性プロファイルは女性におけるプロファイルと同等であることが示されている。
オーストラリアにおける使用経験は、本年齢集団に新規ワクチンを導入する国、特にワクチンを学校での集団接種において投与する場合に役立つ教訓を示している。学校での集団接種プログラムが導入されてから間もない2007年5月に、女子校でワクチン接種を受けた720名のうち26名で浮動性めまい、動悸、失神又は卒倒、脱力感及び失語症を発現した。4名は救急車で病院に搬送されたが、更なる臨床医学的評価により報告された症状の器質的根拠は明らかにならなかった。この有害事象の集団発生は、ワクチン接種に対する心因性反応の結果であると判断された。この出来事によって、オーストラリアではマスコミの関心及び一般市民の懸念が増大した(Buttery 2008年、Gold 2010年)。このような症例については、迅速かつ詳細な医学的評価を行い、診断を確定したうえでワクチン又はワクチン接種との因果関係を評価し、リスクコミュニケーションの原則を採用した積極的なコミュニケーション対策を講じる必要がある。
2つの製造業者による調査では、製品添付文書を修正する必要性を示唆する徴候は認められなかった。両社とも妊娠中のワクチン接種後の妊娠転帰に関する調査を継続している。結果の詳細な分析から、HPVワクチン接種に関連する新たな有害転帰は示されていない。Gardasilについては、長期追跡調査が最も長いコホートで8年以上に延長されており、これらのワクチン接種者において新たに診断される健康に関する事象の有意な増加は認められていない。妊娠レジストリの最新分析でも、予測される背景発生率を超える有害な妊娠転帰は観察されなかったことが再確認されている。Cervarixについては、妊娠転帰ならびに免疫と関与する疾患群などの関心の高い特定の事象に関して同様に安全性を確認できるデータが得られている。失神及びアナフィラキシーについては、リスクが潜在的にあることを警告するために製品添付文書に追記されており、失神はワクチン接種経験前後の状況にも関連がある可能性があると記されている。
最後に、800万回分以上のHPVワクチンが販売されている日本から複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症例が報告された。CRPSは通常は外傷後に四肢に発現する疼痛状態である。傷害又は外科手技後の症例が報告されている。本症候群は原因が不明であり、明確に記録される類の傷害がなくても生じることがある。HPVワクチン後のCRPSは日本においてマスコミの注目を集めたが、報告された5例のほとんどが典型的なCRPS症例と一致しないと考えられる。十分な症例情報がなく、多くの症例で決定的な診断に達することができなかったことから、副反応検討部会による検討では因果関係を明確にすることができなかった。これらの症例については調査中であるが、日本は国の定期接種においてHPVワクチンの接種を継続している。
要約すると、HPVワクチンの安全性に関する前回の検討から4年が経過し、世界各国で1億7000万回分以上が販売され、より多くの国が国内の予防接種プログラムを通じてワクチンを提供していることから、諮問委員会は市販製品の安全性プロファイルに大きな懸念がないことを引き続き再確認することができている。以前、懸念とされていたアナフィラキシー及び失神は、更なる調査を通じて検討され、製品添付文書に適切な改訂が行われた。シグナルの可能性があるものとして報告されているギランバレー症候群、発作、脳卒中、静脈血栓塞栓症、アナフィラキシー及びその他のアレルギー反応などを含む重篤な有害事象は、さらに詳細に検討されており、多くは米国のVSDにおける1ヵ月ごとの迅速分析により検討されている。妊娠中に不注意でワクチンを接種した女性における妊娠転帰に関する自発報告及びレジストリによる調査では、予測される発生率を上回る有害転帰は検出されていない。
日本から報告されている慢性疼痛の症例には特別に言及する必要がある。世界各国で使用が増加しており、他からは同様の徴候が認められていないことから、現時点ではHPVワクチンを疑わしいとする理由はほとんどない。一般市民の懸念を認識して、治療を最善に導くために各症例についての慎重な記録ならびに専門医による確定診断の早急な徹底的調査を当諮問委員会は要請する。各症例の時宜を得た臨床評価及び診断に続く適切な治療が不可欠である。
Buttery JP, Madin S, Crawford NW, Elia S, La Vincente S, Hanieh S, Smith L, Bolam B. Mass psychogenic response to human papillomavirus vaccination. Med J Australia 2008;189(5):261-262
Gold MS, Buttery J, McIntyre P. Human papillomavirus vaccine safety in Australia: experience to date and issues for surveillance. Sexual Health 2010;7:320-324
Slade BA, Leidel L, Vellozzi C, Woo EJ, Hua W, et al. Postlicensure safety surveillance for quadrivalent human papillomavirus recombinant vaccine. JAMA. 2009 Aug 19;302(7):750-7. doi: 10.1001/jama.2009.1201
◇
上記は理解促進のために作成した翻訳です。正式なリリースはWHO作成の原語版となります。
注)は当専門家会議が付記しました。
◇
■子宮頸がん征圧をめざす専門家会議(通称:子宮頸がん予防ゼロプロジェクト)
子宮頸がん征圧をめざす専門家会議(子宮頸がん予防ゼロプロジェクト)は、子宮頸がんの予防、征圧を実現するために、より精度の高く費用対効果にすぐれた子宮頸がん検診(細胞診+HPV検査)を確立し、子宮頸がん検診の受診率50%以上をめざすとともに、当時まだ未達成であったHPVワクチンの早期承認と公費負担の実現を図ることを目的として、2008年11月に設立されました。
当会議は、専門領域の枠を超えて、多くの医師、専門家、団体、企業が力を合わせ、多面的な視点から、子宮頸がん予防について、社会・行政に向けた提言を行ない、私たちが果たすことができる役割を考えながら活動しています。
<役員>
議長:
野田 起一郎(近畿大学前学長)
顧問:
垣添 忠生(公益財団法人日本対がん協会会長、国立がん研究センター元総長)
高久 史麿(日本医学会会長、自治医科大学名誉学長)
実行委員:
今村 定臣(公益社団法人日本医師会常任理事、公益社団法人日本産婦人科医会副会長、恵仁会今村病院院長)
宇田川 康博(藤田保健衛生大学名誉教授、獨協医科大学医学部特任教授)
嘉村 敏治(久留米大学医学部産科婦人科学講座教授、特定非営利活動法人日本婦人科腫瘍学会理事長)
小西 郁生(京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学教授、公益社団法人日本産科婦人科学会理事長)
今野 良(自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授) ※実行委員長
鈴木 光明(自治医科大学産科婦人科講座主任教授、公益社団法人日本産婦人科医会常務理事がん部会)
野々山 恵章(防衛医科大学校小児科学講座教授)
吉川 裕之(筑波大学医学医療系長、医学医療系産科婦人科学教授)
監事:
稲葉 憲之(獨協医科大学学長)
大村 峯夫(こころとからだの元氣プラザ婦人科部長)
委員:
青木 大輔(慶應義塾大学医学部産婦人科学教室教授)
阿曽沼 元博(滉志会がん医療グループ代表、順天堂大学客員教授)
五十嵐 隆(公益社団法人日本小児科学会会長)
岩成 治(島根県立中央病院母性小児診療部長)
衞藤 隆(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所所長)
江夏 亜希子(四季レディースクリニック院長)
大道 正英(大阪医科大学産婦人科学教授)
岡田 賢司(福岡歯科大学総合医学講座小児科学分野教授)
岡部 信彦(川崎市健康安全研究所所長)
岡本 喜代子(公益社団法人日本助産師会会長)
小澤 信義(おざわ女性総合クリニック院長)
小田 瑞恵(こころとからだの元氣プラザ診療部長、東京慈恵会医科大学産婦人科講師)
河西 十九三(公益財団法人ちば県民保健予防財団常務理事)
片岡 正(一般社団法人日本小児科医会予防接種委員会副委員長、かたおか小児科クリニック院長)
加藤 達夫(独立行政法人国立成育医療研究センター名誉総長)
加藤 尚美(日本赤十字秋田看護大学・大学院教授)
河村 裕美(認定NPO法人女性特有のガンのサポートグループオレンジティ理事長)
木下 勝之(公益社団法人日本産婦人科医会会長、成城木下病院理事長)
小西 宏(公益財団法人日本対がん協会マネジャー)
小林 忠男(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻招聘教授)
相良 洋子(さがらレディスクリニック院長)
笹川 寿之(金沢医科大学産科婦人科学講座准教授)
Sharon Hanley(北海道大学医学研究科総合女性医療システム学分野特任助教)
上坊 敏子(社会保険相模野病院婦人科腫瘍センター長)
寺本 勝寛(地方独立行政法人山梨県立病院機構山梨県立中央病院周産期センター統括部長)
中板 育美(公益社団法人日本看護協会常任理事)
濁川 こず枝(全国養護教諭連絡協議会会長)
平井 康夫(東京女子医科大学病院産婦人科教授)
福田 敬(国立保健医療科学院研究情報支援研究センター上席主任研究官)
福田 護(NPO法人キャンサーリボンズ理事長、認定NPO法人乳房健康研究会理事長)
前濱 俊之(社会医療法人友愛会豊見城中央病院産婦人科部長)
宮城 悦子(横浜市立大学附属病院化学療法センター長)
宮崎 亮一郎(順天堂大学医学部先任准教授、医療法人社団順江会江東病院産婦人科部長)
柳澤 昭浩(NPO法人キャンサーネットジャパン事務局長)
雪下 國雄(公益財団法人日本学校保健会専務理事)
子宮頸がん征圧をめざす専門家会議
議長 野田 起一郎
実行委員長 今野 良
WHOの公式声明
「HPVワクチンに関するGACVSの安全性最新情報」
の日本語訳配布について
去る6月14日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の副反応検討部会が開催され、子宮頸がん予防ワクチン(ヒトパピローマウイルスワクチン、以下HPVワクチン)の積極的な接種勧奨について一時差し控える方針が決定されました。この4月に改正予防接種法が施行され、HPVワクチンが、ようやく定期接種として広く実施されることになってから、わずか2カ月余りでのこの事態を、私たち子宮頸がん征圧をめざす専門家会議は非常に残念なことと受け止めています。
HPVワクチンは、これまで全世界の120 カ国以上で承認、接種されており、その有効性・安全性が広く認められています。去る6月13日には、WHO(世界保健機関)の諮問委員会であるGACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)が、HPVワクチンに関する安全性について声明を発表しています。WHOが日本での副反応報告も検討したうえで、最新の知見としてHPVワクチンの安全性を改めて確認した意味は重いものと考えます。しかし、残念ながらこの声明は、英文の資料しか用意されていないためか、これまでのところ一般の方々はあまり承知していないものと考えます。
また、6月19日には、米国CDC(疾病対策予防センター)が、HPVワクチンを米国に導入した後、導入前と比べてワクチンに含まれるウイルス型の14〜19歳女性における感染率が56%減少したとの研究成果を発表し、HPVワクチンの有効性が高いこと、さらなる接種率の向上が重要であることがCDC所長からコメントされました。(http://jid.oxfordjournals.org/content/early/recent )
子宮頸がん征圧をめざす専門家会議では、ワクチン接種後に健康を害された方々とそのご家族の心身の痛みにお見舞いを申し上げるとともに、補償や救済制度の充実と、適切な治療が速やかに受けられる仕組みの構築を、社会的課題として解決すべきものと考えています。そして、公衆衛生の視点から積極的接種勧奨再開に向け、正しい科学的知識の普及を継続していきます。本資料配布はその啓発活動の一環として行うものです。報道関係各位のご参考になれば幸いです。
日本語訳は次ページ以降。正式な内容は、http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/hpv/130619HPV_VaccineGACVSstatement.pdf
にて原文をご参照ください。
◇
HPVワクチンに関するGACVSの安全性最新情報
<2013年6月13日、ジュネーブ>
2013年6月13日の会議において、GACVS(ワクチンの安全性に関する諮問委員会)はHPVワクチンの安全性に関する最新情報を検討した。前回の検討は2009年6月に実施されていた。当時、GACVSはHPVワクチンの安全性に関する累積エビデンスは安心できるものであったこと、有害事象モニタリングのための能力向上ともに、HPVの予防接種に関する試験が開始されていたことを表明した。現在、GACVSは、ワクチンが導入されている環境において質の高い安全性データを継続的に収集することを非常に重要視している。
過去4年間に、各国が予防接種プログラムを開始した又は拡大したことから安全性データは蓄積され続けている。GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)も、子宮頸がんの負担が甚大な発展途上国の女性がHPVワクチンを接種できるようにするための方策を講じ始めた(注:日本政府も昨年から財源支援開始)。現在のところ、約1億7500万接種分のHPVワクチンが販売されている。2300万接種分以上が販売された後、米国のVaccine Adverse Event Reporting System(ワクチン有害事象報告システム)に報告された有害事象の検討結果が、2009年に発表された(Slade 2009年)。現在、HPVワクチンが承認された多くの国において、大量の市販後データが蓄積しているなか、現在までに懸念事項は示されていない。現在販売されているワクチンの製造業者は妊娠レジストリを作成しており、有効性と併せて長期安全性試験を継続している。
諮問委員会は、米国、オーストラリア、日本及びCervarix(GlaxoSmithKline)及びGardasil(Merck)の製造業者から得られたデータを検討した。米国からの最新情報には2009年に公表された調査結果以降に得られたVAERSへの自発報告ならびにVaccine Safety Datalink(ワクチン安全性データリンク)からの終了済み試験及び試験計画を含んでいる。オーストラリアでは、男性を対象とする新たなプログラムが2013年2月に開始されており、データが入手可能になりつつある。
すべての情報源からのデータは、引き続き2つのワクチンの安全性が再確認された。現在、VAERSからのデータには2006年以降に販売された5000万接種分以上のデータが含まれており、プロファイルは2009年の検討時から大きくは変わっていない。初回の検討時に明らかになっていなかった有害事象報告、すなわち失神及び静脈血栓塞栓症(VTE)については更なる調査が行われた。失神については、報告され続けているが、HPVワクチンが接種される集団及び状況(注:多感な時期にある思春期女子を対象とする)を考えれば、妥当な関係がある可能性が高い事象である。そのため、ワクチン接種後15分間の観察期間を遵守することが勧告として強化されている。VTEについては、VSDにおける1ヵ月ごとの迅速分析(rapid cycle analysis)ではリスクの増大は認められなかったものの、経口避妊薬の使用、喫煙、本集団におけるその他の危険因子などの交絡因子を適切に補正して更なる調査が行われているところである。同様に、VSDではギランバレー症候群および脳卒中のリスク増大も認められなかった。
オーストラリアでは、安全性監視が強化されており、専門家グループが報告された事象の分析を続けている。現在のところ、ほぼ700万接種分が販売されており、以前検討されたアナフィラキシーの発生率増加に関する懸念は確認されなかった。男性を対象とするワクチン接種プログラムの拡大及び2013年2月1日以降の監視強化を受けて、現時点ではGardasilの安全性プロファイルは女性におけるプロファイルと同等であることが示されている。
オーストラリアにおける使用経験は、本年齢集団に新規ワクチンを導入する国、特にワクチンを学校での集団接種において投与する場合に役立つ教訓を示している。学校での集団接種プログラムが導入されてから間もない2007年5月に、女子校でワクチン接種を受けた720名のうち26名で浮動性めまい、動悸、失神又は卒倒、脱力感及び失語症を発現した。4名は救急車で病院に搬送されたが、更なる臨床医学的評価により報告された症状の器質的根拠は明らかにならなかった。この有害事象の集団発生は、ワクチン接種に対する心因性反応の結果であると判断された。この出来事によって、オーストラリアではマスコミの関心及び一般市民の懸念が増大した(Buttery 2008年、Gold 2010年)。このような症例については、迅速かつ詳細な医学的評価を行い、診断を確定したうえでワクチン又はワクチン接種との因果関係を評価し、リスクコミュニケーションの原則を採用した積極的なコミュニケーション対策を講じる必要がある。
2つの製造業者による調査では、製品添付文書を修正する必要性を示唆する徴候は認められなかった。両社とも妊娠中のワクチン接種後の妊娠転帰に関する調査を継続している。結果の詳細な分析から、HPVワクチン接種に関連する新たな有害転帰は示されていない。Gardasilについては、長期追跡調査が最も長いコホートで8年以上に延長されており、これらのワクチン接種者において新たに診断される健康に関する事象の有意な増加は認められていない。妊娠レジストリの最新分析でも、予測される背景発生率を超える有害な妊娠転帰は観察されなかったことが再確認されている。Cervarixについては、妊娠転帰ならびに免疫と関与する疾患群などの関心の高い特定の事象に関して同様に安全性を確認できるデータが得られている。失神及びアナフィラキシーについては、リスクが潜在的にあることを警告するために製品添付文書に追記されており、失神はワクチン接種経験前後の状況にも関連がある可能性があると記されている。
最後に、800万回分以上のHPVワクチンが販売されている日本から複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症例が報告された。CRPSは通常は外傷後に四肢に発現する疼痛状態である。傷害又は外科手技後の症例が報告されている。本症候群は原因が不明であり、明確に記録される類の傷害がなくても生じることがある。HPVワクチン後のCRPSは日本においてマスコミの注目を集めたが、報告された5例のほとんどが典型的なCRPS症例と一致しないと考えられる。十分な症例情報がなく、多くの症例で決定的な診断に達することができなかったことから、副反応検討部会による検討では因果関係を明確にすることができなかった。これらの症例については調査中であるが、日本は国の定期接種においてHPVワクチンの接種を継続している。
要約すると、HPVワクチンの安全性に関する前回の検討から4年が経過し、世界各国で1億7000万回分以上が販売され、より多くの国が国内の予防接種プログラムを通じてワクチンを提供していることから、諮問委員会は市販製品の安全性プロファイルに大きな懸念がないことを引き続き再確認することができている。以前、懸念とされていたアナフィラキシー及び失神は、更なる調査を通じて検討され、製品添付文書に適切な改訂が行われた。シグナルの可能性があるものとして報告されているギランバレー症候群、発作、脳卒中、静脈血栓塞栓症、アナフィラキシー及びその他のアレルギー反応などを含む重篤な有害事象は、さらに詳細に検討されており、多くは米国のVSDにおける1ヵ月ごとの迅速分析により検討されている。妊娠中に不注意でワクチンを接種した女性における妊娠転帰に関する自発報告及びレジストリによる調査では、予測される発生率を上回る有害転帰は検出されていない。
日本から報告されている慢性疼痛の症例には特別に言及する必要がある。世界各国で使用が増加しており、他からは同様の徴候が認められていないことから、現時点ではHPVワクチンを疑わしいとする理由はほとんどない。一般市民の懸念を認識して、治療を最善に導くために各症例についての慎重な記録ならびに専門医による確定診断の早急な徹底的調査を当諮問委員会は要請する。各症例の時宜を得た臨床評価及び診断に続く適切な治療が不可欠である。
Buttery JP, Madin S, Crawford NW, Elia S, La Vincente S, Hanieh S, Smith L, Bolam B. Mass psychogenic response to human papillomavirus vaccination. Med J Australia 2008;189(5):261-262
Gold MS, Buttery J, McIntyre P. Human papillomavirus vaccine safety in Australia: experience to date and issues for surveillance. Sexual Health 2010;7:320-324
Slade BA, Leidel L, Vellozzi C, Woo EJ, Hua W, et al. Postlicensure safety surveillance for quadrivalent human papillomavirus recombinant vaccine. JAMA. 2009 Aug 19;302(7):750-7. doi: 10.1001/jama.2009.1201
◇
上記は理解促進のために作成した翻訳です。正式なリリースはWHO作成の原語版となります。
注)は当専門家会議が付記しました。
◇
■子宮頸がん征圧をめざす専門家会議(通称:子宮頸がん予防ゼロプロジェクト)
子宮頸がん征圧をめざす専門家会議(子宮頸がん予防ゼロプロジェクト)は、子宮頸がんの予防、征圧を実現するために、より精度の高く費用対効果にすぐれた子宮頸がん検診(細胞診+HPV検査)を確立し、子宮頸がん検診の受診率50%以上をめざすとともに、当時まだ未達成であったHPVワクチンの早期承認と公費負担の実現を図ることを目的として、2008年11月に設立されました。
当会議は、専門領域の枠を超えて、多くの医師、専門家、団体、企業が力を合わせ、多面的な視点から、子宮頸がん予防について、社会・行政に向けた提言を行ない、私たちが果たすことができる役割を考えながら活動しています。
<役員>
議長:
野田 起一郎(近畿大学前学長)
顧問:
垣添 忠生(公益財団法人日本対がん協会会長、国立がん研究センター元総長)
高久 史麿(日本医学会会長、自治医科大学名誉学長)
実行委員:
今村 定臣(公益社団法人日本医師会常任理事、公益社団法人日本産婦人科医会副会長、恵仁会今村病院院長)
宇田川 康博(藤田保健衛生大学名誉教授、獨協医科大学医学部特任教授)
嘉村 敏治(久留米大学医学部産科婦人科学講座教授、特定非営利活動法人日本婦人科腫瘍学会理事長)
小西 郁生(京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学教授、公益社団法人日本産科婦人科学会理事長)
今野 良(自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授) ※実行委員長
鈴木 光明(自治医科大学産科婦人科講座主任教授、公益社団法人日本産婦人科医会常務理事がん部会)
野々山 恵章(防衛医科大学校小児科学講座教授)
吉川 裕之(筑波大学医学医療系長、医学医療系産科婦人科学教授)
監事:
稲葉 憲之(獨協医科大学学長)
大村 峯夫(こころとからだの元氣プラザ婦人科部長)
委員:
青木 大輔(慶應義塾大学医学部産婦人科学教室教授)
阿曽沼 元博(滉志会がん医療グループ代表、順天堂大学客員教授)
五十嵐 隆(公益社団法人日本小児科学会会長)
岩成 治(島根県立中央病院母性小児診療部長)
衞藤 隆(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所所長)
江夏 亜希子(四季レディースクリニック院長)
大道 正英(大阪医科大学産婦人科学教授)
岡田 賢司(福岡歯科大学総合医学講座小児科学分野教授)
岡部 信彦(川崎市健康安全研究所所長)
岡本 喜代子(公益社団法人日本助産師会会長)
小澤 信義(おざわ女性総合クリニック院長)
小田 瑞恵(こころとからだの元氣プラザ診療部長、東京慈恵会医科大学産婦人科講師)
河西 十九三(公益財団法人ちば県民保健予防財団常務理事)
片岡 正(一般社団法人日本小児科医会予防接種委員会副委員長、かたおか小児科クリニック院長)
加藤 達夫(独立行政法人国立成育医療研究センター名誉総長)
加藤 尚美(日本赤十字秋田看護大学・大学院教授)
河村 裕美(認定NPO法人女性特有のガンのサポートグループオレンジティ理事長)
木下 勝之(公益社団法人日本産婦人科医会会長、成城木下病院理事長)
小西 宏(公益財団法人日本対がん協会マネジャー)
小林 忠男(大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻招聘教授)
相良 洋子(さがらレディスクリニック院長)
笹川 寿之(金沢医科大学産科婦人科学講座准教授)
Sharon Hanley(北海道大学医学研究科総合女性医療システム学分野特任助教)
上坊 敏子(社会保険相模野病院婦人科腫瘍センター長)
寺本 勝寛(地方独立行政法人山梨県立病院機構山梨県立中央病院周産期センター統括部長)
中板 育美(公益社団法人日本看護協会常任理事)
濁川 こず枝(全国養護教諭連絡協議会会長)
平井 康夫(東京女子医科大学病院産婦人科教授)
福田 敬(国立保健医療科学院研究情報支援研究センター上席主任研究官)
福田 護(NPO法人キャンサーリボンズ理事長、認定NPO法人乳房健康研究会理事長)
前濱 俊之(社会医療法人友愛会豊見城中央病院産婦人科部長)
宮城 悦子(横浜市立大学附属病院化学療法センター長)
宮崎 亮一郎(順天堂大学医学部先任准教授、医療法人社団順江会江東病院産婦人科部長)
柳澤 昭浩(NPO法人キャンサーネットジャパン事務局長)
雪下 國雄(公益財団法人日本学校保健会専務理事)