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『食育健康サミット2015』に医師・栄養士等608人が参加

2015年11月2日

公益社団法人 日本医師会
公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構

医学、栄養学、食品機能学、公衆衛生学の専門家4人が登壇
血管の老化を防ぎ、しなやかな血管を保つ
日本人に適した「ごはんを主食とした食生活」を提案
『食育健康サミット2015』に医師・栄養士等608人が参加
テーマ:脂質の質を考慮した血管管理 ― 健康寿命延伸のために ―

 公益社団法人 日本医師会と公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構は、2015年10月22日(木)に、日本医師会館大講堂(東京・駒込)において、ごはんを主食とした日本型食生活の生活習慣病予防・治療における有用性等について考える「食育健康サミット」を開催しました。

 これは、医師、栄養士などの方々を対象に毎年開催されるサミットで、本年度は「脂質の質を考慮した血管管理 ― 健康寿命延伸のために ―」をテーマに開催しました。
 帝京大学臨床研究センター センター長・寺本民生先生など4人の専門家による最新の研究を基にした講演とパネルディスカッションを実施。会場に集まった参加者は、肥満や生活習慣病の予防や治療にあたる医師や栄養士など608人で、熱心に講演に耳を傾ける姿が見られました。

テーマ:「脂質の質を考慮した血管管理 ― 健康寿命延伸のために ―」について
 厚生労働省では、肥満・生活習慣病の予防などのため、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」において、エネルギー産生栄養素バランスとして、“たんぱく質”、“脂質”、“炭水化物”の目標量を比率で示し、弾力的な運用ができるようにしました。また、脂質の構成成分である脂肪酸については、質に配慮して、飽和脂肪酸の目標値を決め、その過剰摂取を控えることを明確にするとともに、LDL-コレステロールが正常値の場合のコレステロールの摂取については、その上限値を削除しました。
 血管、特に、動脈の障害は、心臓病や脳血管疾患などによる死亡という問題だけでなく、寝たきりや認知症など生活の質を著しく落とす原因にもなるため、動脈硬化の予防が焦点になります。その際、食事のあり方としては、エネルギー収支の安定とともに、必要な栄養素を過不足なく摂取すること、脂質については、コレステロールと個々の脂肪酸のバランスに留意することが大切になります。
 そこで、本年度の食育健康サミットでは、肥満・生活習慣病予防のために、血管の老化を防ぎ、しなやかな血管を保つという観点から、脂質の質を考慮した日本型食生活の意義について考えました。


 基 調 講 演 

4人の専門家を講師に招き、健康寿命延伸のための脂質の質を考慮した血管管理について、各分野における最新の研究結果、日頃の診療や栄養指導・運動指導に有用なデータをご紹介いただきました。

講演I
テーマ:健康寿命延伸のための包括的管理 −動脈硬化の予防を中心に−
講 師:帝京大学臨床研究センター センター長 寺本 民生 先生
内 容:健康寿命延伸のために血管を健康に保つことは重要なポイントである。平均寿命と健康寿命の差である不健康な期間に、特に問題になるのが介護であるが、介護の状態を招く原因の第一位は心・脳血管疾患である。かつて日本人は動脈硬化・心筋梗塞の少ない国民であったが、食の欧米化の影響により、そのリスクを高めるコレステロールや脂肪摂取量は、上昇傾向が続き、特に若い世代の過剰摂取が危惧される。このような状況のなか、本年、脳・心血管病予防のガイドラインとなる「脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート」が発表された。治療、食事・運動など生活指導の指針として活用いただきたい。
血管に関連する疾患は、長い年月を経て発症するので、若い世代からの食事のあり方が大切になる。塩分を控えた日本食(The Japan Diet)は、魚や大豆など予防につながる食材を上手にとりいれることのできる有益な食のスタイルである。

講演II
テーマ:脂質管理における日本食の意義
講 師:日本女子大学家政学部食物学科 教授 丸山 千寿子 先生
内 容:脂質異常症の食事療法の第一は、適正なエネルギー摂取量を守り、肥満にならないこと、内臓脂肪を蓄積させないこと。その上で、たんぱく質・脂質・炭水化物のエネルギー産生栄養素のバランスを整える工夫をしてほしい。
脂質の種類でみると、飽和脂肪酸を控え、コレステロールの代謝を促進する多価不飽和脂肪酸、中性脂肪の代謝に影響するn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取が望ましい。加えて食物繊維の摂取も効果がある。
具体的な食材では、近年、摂取量が増えているバラ肉やひき肉のような脂の多い肉やバターなどの油脂類は避け、n-3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含む青背の魚の摂取を勧めたい。日本人の伝統的な食事は、魚をさまざまな調理法でとり、海藻、きのこ、こんにゃくなどから食物繊維やミネラルがとれて栄養バランスがよい。効率よく脂質異常症を予防するといえるだろう。

講演III
テーマ:日本食を基盤とした肥満・生活習慣病を防ぐ食事
講 師:東北大学大学院農学研究科食品機能健康科学講座 准教授 都築 毅 先生 
内 容:食品に含まれる個々の成分の機能性に着目するのではなく、食事全体を丸ごと評価するという視点で、介入研究等を行い、日本食とアメリカ食の比較では、日本食のほうが脂質・糖質代謝が活発化し、内臓のストレスが低くて、酸化ストレスも低く、脂肪もためないという健康有益性が高いことがわかった。次に、いつ頃の日本食が健康維持のためによいかを調べた。1960年と1975年、1990年、2005年の食事を実験動物に与え、遺伝子発現を網羅的に解析する研究を行った。その結果、1975年の日本食がもっとも有益で、内臓のストレス性が低く、エネルギー消費を促し、肥満を抑制することがわかった。また、コレステロール値が低く、生活習慣病や老化性疾患の抑制、寿命延伸も認められた。1975年に摂取された食事は欧米化の影響が少なく、ごはんを中心に、減塩につながる出汁や、n-3系多価不飽和脂肪酸のEPAやDHAを含む青背の魚、緑茶のような伝統的な食材に加え、卵や乳製品も適度にとり入れられている。近年、日本食はそのあり方が変化してきたが、このようにお米をベースに多種類の食材をバランスよくとるスタイルを推奨したい。

講演IV
テーマ:動脈硬化の予防と身体活動・運動の効果
講 師:東京医科大学公衆衛生学分野 主任教授 井上 茂 先生
内 容:「脳心血管病予防に関する包括的リスク管理チャート」では、“有酸素運動(歩行・水泳など)を中心に、中強度(3METs=歩行程度)以上の強さで、定期的に(毎日30分以上)運動する”ことを勧めている。有酸素運動は、脂質代謝の面ではHDLコレステロールを増やす効果があり動脈硬化の予防に有益である。また、運動というと有酸素運動に注目しがちだが、ロコモティブシンドロームや介護予防につながるレジスタンス運動(筋力を鍛える運動)や、関節可動域の維持・向上やけがの予防にもつながる柔軟運動もあり、食事同様に運動もバランスよく行ってほしい。
    さらに、運動療法以外の時間の過ごし方にも注意を払ってほしい。最近の研究によると、ある程度の運動療法を実施していても、その他の生活が座りっぱなしでは、やはり動脈硬化の危険の高いことが示されている。軽い立仕事や、日常生活でこまめに歩きまわることも健康維持に役立つ。
    公衆衛生の立場からは最近、人々の活動量を高める地域環境が話題になっている。歩いて暮らせる地域など活動性が高まるようなウォーカビリティのある環境整備が期待される。

 パネルディスカッション 

「脂質の質を考慮した血管管理 ― 健康寿命延伸のために」をテーマにしたパネルディスカッションは、参加者から寄せられた質問に4人の先生がそれぞれの分野の知見に基づき回答をするスタイルで討議を進行しました。主なご発言要旨です。

<糖質制限食について>
■丸山先生は、糖質制限により体重を落とす効果はあるものの、制限の割合が問題であると指摘。主食の割合を極端に低くすると、脂質摂取量が増え、健康維持にさまざまなリスクを伴うと注意を喚起しました。
■続いて、都築先生は、糖質を減らすと、摂取する食材が圧倒的に減り栄養バランスが偏ることを指摘し、個人で実践した場合の栄養不足を懸念しました。

<脂肪酸の質・種類について>
■丸山先生からは、飽和脂肪酸の摂取を控え、n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取が推奨されました。後者は日本人が伝統的に食してきたもので、食材として魚や大豆油・菜種油・エゴマ油といった植物性の油があげられました。また、加熱の方法として、焼き物、揚げ物などを時間をかけて調理をすると脂肪酸に変化が生じるため、短時間で調理をすることや刺身などシンプルで素材を活かした調理法が勧められました。
■続いて都築先生も、研究で健康への有益性が最も高かった1975年の食事では、食材をそのまま活かした食べ方をしていた。その方が食材に含まれる成分が生かされるので、調理法の選び方も大切であると話しました。


<コレステロール摂取量について>
■座長の寺本先生は、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、コレステロールの摂取の上限値が削除されたことに触れ、コレステロールが正常な方は、コレステロールの摂取を制限することはないが、コレステロールが高い人、あるいは食事による摂取に反応する方々には、やはりコレステロールの制限が必要であると話しました。
■丸山先生は、コレステロールというと鶏卵の摂取を制限する人が多いが、イカ、タコ、スルメ、魚卵など海産物でもコレステロールの多いものがある。鶏卵は、それ自体は栄養価がすぐれた食材であるので、絶対量に配慮し、バターなどの飽和脂肪酸と一緒に食べないなど食べ合わせる食材とのバランスをとりながら摂取することを提案しました。
■都築先生は、コレステロールの吸収率は個人差が大きいことに留意し、上限が撤廃されても、個々の対策が重要であると注意を促しました。


<トランス脂肪酸について>
■寺本先生は、トランス脂肪酸はビスケットやケーキ、ポップコーンといったものに含まれ、少しずつではあるが、摂取量も増えてきている。トランス脂肪酸自身はLDLコレステロールを上げ、HDLコレステロールを下げるという作用があり、炎症を引き起こしやすいものであるともいわれているので、その摂取は抑えた方がよいと注意喚起されました。
■丸山先生は、トランス脂肪酸のリスクについてのデータはまだ十分ではないが、工業的に作られた食材には注意を払うべきであり、安心なものを手作りすることが対策となると話しました。また、同成分が多く含まれる菓子パンなどを好む、若い世代での健康への影響を懸念しました。

【開催概要】
 
日 時:2015年10月22日(木)13:30〜17:00

会 場:日本医師会館 大講堂 (東京都文京区本駒込2-28-16)

テーマ:「脂質の質を考慮した血管管理〜健康寿命延伸のために〜」

主 催:公益社団法人 日本医師会 公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構

後 援:農林水産省、一般社団法人埼玉県医師会、公益社団法人千葉県医師会、
公益社団法人東京都医師会、公益社団法人神奈川県医師会、
一般社団法人山梨県医師会、一般社団法人日本血栓止血学会、
特定非営利活動法人日本高血圧学会、一般社団法人日本循環器学会、
一般社団法人日本心臓病学会、一般社団法人日本腎臓学会、
一般社団法人日本体力医学会、一般社団法人日本糖尿病学会、
一般社団法人日本動脈硬化学会、一般社団法人日本内科学会、
一般社団法人日本肥満学会、公益社団法人日本栄養士会、
特定非営利活動法人日本栄養改善学会、公益社団法人日本栄養・食糧学会、
一般社団法人日本臨床栄養学会

内 容:・基調講演
講演I 健康寿命延伸のための包括的管理
    −動脈硬化の予防を中心に
    帝京大学臨床研究センター センター長     寺本 民生 先生
講演II 脂質管理における日本食の意義
    日本女子大学家政学部食物学科 教授     丸山 千寿子 先生
講演III 日本食を基盤とした肥満・生活習慣病を防ぐ食事
東北大学大学院農学研究科食品機能健康科学講座 准教授 
                          都築 毅 先生
講演IV 動脈硬化の予防と身体活動・運動の効果
    東京医科大学公衆衛生学分野 主任教授    井上  茂 先生

・パネルディスカッション
テーマ:脂質の質を考慮した血管管理−健康寿命延伸のために
座 長:帝京大学臨床研究センター センター長    寺本 民生 先生
パネリスト:
 東京医科大学公衆衛生学分野 主任教授   井上  茂 先生
東北大学大学院農学研究科食品機能健康科学講座 准教授
            都築 毅 先生
日本女子大学家政学部食物学科 教授   丸山 千寿子 先生
              (50音順) 
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