世界初!カルシウムイオンで動く生体ナノマシンを発見
[16/01/22]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2016年1月22日
東洋大学
東洋大学 生命科学部の伊藤政博 教授の研究グループ
世界初!カルシウムイオンで動く生体ナノマシンを発見
〜オーダーメイド・ナノロボットの創成に期待高まる〜
東洋大学生命科学部(群馬県邑楽郡板倉町)の伊藤政博教授の研究グループは、生体ナノマシンとして注目を集めている細菌運動器官のべん毛(もう)モーターで、これまで報告例のない二価の陽イオンをエネルギーとして利用できる生物モーターをもつ微生物を、高濃度のカルシウムイオンを含む温泉水から発見しました。
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●カルシウムイオンで運動性を有する微生物、Paenibacillus sp. TCA20株を発見
● Paenibacillus sp. TCA20株のべん毛(もう)モーターを解析した結果、
世界初となる二価の陽イオンを利用して駆動する生物モーターであることが明らかに
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<研究成果概要>※図はリリースをご参照ください
東洋大学(学長・竹村牧男)生命科学部生命科学科の伊藤政博教授と同大学院博士前期課程2年在籍の今澤陸氏、バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター研究員の高橋優嘉博士らのグループは、生体ナノマシンとして注目を集めている細菌運動器官のべん毛モーターで二価の陽イオンを駆動力として利用することができる世界初の生物モーターをもつ微生物(パエニバチルス・エスピー Paenibacillus sp. TCA20株)を鶴巻温泉(神奈川県秦野市)の高濃度のカルシウムイオンを含む温泉水から発見しました。
“回転している”という発見から45年近くたった細菌の運動器官であるべん毛の回転機構の詳細は、現在も解明されていません。べん毛モーターは、直径40nm(ナノメートル)程度の“ナノマシン”であり、細胞膜に埋め込まれていて、細胞膜を横切るプロトン(H+)やナトリウムイオン(Na+ )など電気化学的駆動力によってべん毛を回転させます。べん毛のモーターの駆動部は、回転子(かいてんし)と固定子(こていし)から構成されています(図1)。固定子であるMot(モット)複合体は、イオンチャネルとして機能し、チャネル中をイオンが通過するときにべん毛の回転子を回転させる駆動力を発生させると考えられています(つまり、固定子=エネルギー変換ユニットと考えることができます)。
今回発見した微生物は、神奈川県秦野市にあるカルシウムイオン量が牛乳並みに多く含まれている(約1740mg/リットル)鶴巻温泉の温泉水から分離されました。解析の結果、この微生物が持つべん毛モーターの固定子(図2)は、これまで報告例のないCa2+やMg2+といった二価の陽イオンを利用してべん毛を回転させていることが分かりました。このような特徴は、分離されたカルシウムイオンが豊富な環境下でTCA20株の祖先が適応進化を遂げて獲得した形質であると考えられます。
<発見の意義と今後の展開>
二価の陽イオンで駆動する生体ナノマシンの発見は、生物の環境適応進化の分野やナノテクノロジーの分野からも重要な発見であると考えられます。この発見により、べん毛モーターでは、これまでの3種類の駆動力エネルギー(H+,Na+,K+)以外に二価の陽イオン(Ca2+, Mg2+)を利用できる設計図(アミノ酸配列情報)を得たことになります。今後は、この情報を利用しながら、どのようにイオンを選別しているのかというイオン選択フィルターの仕組みを明らかにすることで、ヒトの手によって自由に駆動エネルギーを使い分けられる人工的なナノマシンや分子スイッチの創成が可能になると考えられます。
東洋大学生命科学部とバイオ・ナノエレクトロニクス研究センターでは、これまで地球上のさまざまな過酷な環境から極限環境微生物を分離し、その生態および分子生物学的解析とその利用を他の大学に先駆けて積極的に展開してきました。今回の成果は、その表れといえます。
伊藤 政博 いとう・まさひろ
東洋大学 生命科学部生命科学科 教授。
博士(工学)。1994年、東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程修了後、米マウントサイナイ医科大学に勤務。2009年から現職。2011年「ハイブリッド型細菌べん毛モーターに関する研究」で日本学術振興会賞(生物系)を受賞。
<今回の発見についてのコメント>
4年ほど前に「二価の陽イオンで駆動するモーターをもつ微生物が果たして自然界に存在するのか?」と半信半疑で本研究をスタートさせましたが、探していた微生物を発見できたことで、改めて自然と生命が作り出す地球上の進化の多様性の偉大さに驚かされます。
今回の二価の陽イオンで駆動する生体ナノマシンの発見は、生物の環境適応進化の分野やナノテクノロジーの分野からも重要な発見であると考えられます。利用するイオンの選択フィルターの仕組みを明らかにすることで、ヒトの手により自由にエネルギーを使い分けられる人工的なナノマシンや分子スイッチの創成が可能になると考えられます。今後は、このような応用研究を進めていく予定です。
<論文発表の概要>
■研究論文:A novel type bacterial flagellar motor that can use divalent cations as a coupling ion
■論文著者:Riku Imazawa, Yuka Takahashi, Wataru Aoki, Motohiko Sano & Masahiro Ito
■公表雑誌:電子ジャーナル『Scientific Reports(サイエンティフィック・レポート;Nature publishing group) 』
2016年1月22日 掲載
論文公開先URL: http://www.nature.com/articles/srep19773
【東洋大学 生命科学部】
遺伝子操作や細胞融合などから開発され、大きな技術革新を起こしたバイオテクノロジー。これまでは医療・食糧・環境など、それぞれの分野で行われていたバイオテクノロジーの技術を統合したのが「生命科学」です。東洋大学は平成9年4月、他校に先駆けてこの領域の重要性に着目し、生命科学部を設立しました。以降、「いのち」を分子レベルでとらえ、微生物からヒトにいたるまでの生命現象を探究。中でも「極限環境下」で生きる微生物の研究分野は、国内有数の実績があります。
東洋大学
東洋大学 生命科学部の伊藤政博 教授の研究グループ
世界初!カルシウムイオンで動く生体ナノマシンを発見
〜オーダーメイド・ナノロボットの創成に期待高まる〜
東洋大学生命科学部(群馬県邑楽郡板倉町)の伊藤政博教授の研究グループは、生体ナノマシンとして注目を集めている細菌運動器官のべん毛(もう)モーターで、これまで報告例のない二価の陽イオンをエネルギーとして利用できる生物モーターをもつ微生物を、高濃度のカルシウムイオンを含む温泉水から発見しました。
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●カルシウムイオンで運動性を有する微生物、Paenibacillus sp. TCA20株を発見
● Paenibacillus sp. TCA20株のべん毛(もう)モーターを解析した結果、
世界初となる二価の陽イオンを利用して駆動する生物モーターであることが明らかに
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<研究成果概要>※図はリリースをご参照ください
東洋大学(学長・竹村牧男)生命科学部生命科学科の伊藤政博教授と同大学院博士前期課程2年在籍の今澤陸氏、バイオ・ナノエレクトロニクス研究センター研究員の高橋優嘉博士らのグループは、生体ナノマシンとして注目を集めている細菌運動器官のべん毛モーターで二価の陽イオンを駆動力として利用することができる世界初の生物モーターをもつ微生物(パエニバチルス・エスピー Paenibacillus sp. TCA20株)を鶴巻温泉(神奈川県秦野市)の高濃度のカルシウムイオンを含む温泉水から発見しました。
“回転している”という発見から45年近くたった細菌の運動器官であるべん毛の回転機構の詳細は、現在も解明されていません。べん毛モーターは、直径40nm(ナノメートル)程度の“ナノマシン”であり、細胞膜に埋め込まれていて、細胞膜を横切るプロトン(H+)やナトリウムイオン(Na+ )など電気化学的駆動力によってべん毛を回転させます。べん毛のモーターの駆動部は、回転子(かいてんし)と固定子(こていし)から構成されています(図1)。固定子であるMot(モット)複合体は、イオンチャネルとして機能し、チャネル中をイオンが通過するときにべん毛の回転子を回転させる駆動力を発生させると考えられています(つまり、固定子=エネルギー変換ユニットと考えることができます)。
今回発見した微生物は、神奈川県秦野市にあるカルシウムイオン量が牛乳並みに多く含まれている(約1740mg/リットル)鶴巻温泉の温泉水から分離されました。解析の結果、この微生物が持つべん毛モーターの固定子(図2)は、これまで報告例のないCa2+やMg2+といった二価の陽イオンを利用してべん毛を回転させていることが分かりました。このような特徴は、分離されたカルシウムイオンが豊富な環境下でTCA20株の祖先が適応進化を遂げて獲得した形質であると考えられます。
<発見の意義と今後の展開>
二価の陽イオンで駆動する生体ナノマシンの発見は、生物の環境適応進化の分野やナノテクノロジーの分野からも重要な発見であると考えられます。この発見により、べん毛モーターでは、これまでの3種類の駆動力エネルギー(H+,Na+,K+)以外に二価の陽イオン(Ca2+, Mg2+)を利用できる設計図(アミノ酸配列情報)を得たことになります。今後は、この情報を利用しながら、どのようにイオンを選別しているのかというイオン選択フィルターの仕組みを明らかにすることで、ヒトの手によって自由に駆動エネルギーを使い分けられる人工的なナノマシンや分子スイッチの創成が可能になると考えられます。
東洋大学生命科学部とバイオ・ナノエレクトロニクス研究センターでは、これまで地球上のさまざまな過酷な環境から極限環境微生物を分離し、その生態および分子生物学的解析とその利用を他の大学に先駆けて積極的に展開してきました。今回の成果は、その表れといえます。
伊藤 政博 いとう・まさひろ
東洋大学 生命科学部生命科学科 教授。
博士(工学)。1994年、東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程修了後、米マウントサイナイ医科大学に勤務。2009年から現職。2011年「ハイブリッド型細菌べん毛モーターに関する研究」で日本学術振興会賞(生物系)を受賞。
<今回の発見についてのコメント>
4年ほど前に「二価の陽イオンで駆動するモーターをもつ微生物が果たして自然界に存在するのか?」と半信半疑で本研究をスタートさせましたが、探していた微生物を発見できたことで、改めて自然と生命が作り出す地球上の進化の多様性の偉大さに驚かされます。
今回の二価の陽イオンで駆動する生体ナノマシンの発見は、生物の環境適応進化の分野やナノテクノロジーの分野からも重要な発見であると考えられます。利用するイオンの選択フィルターの仕組みを明らかにすることで、ヒトの手により自由にエネルギーを使い分けられる人工的なナノマシンや分子スイッチの創成が可能になると考えられます。今後は、このような応用研究を進めていく予定です。
<論文発表の概要>
■研究論文:A novel type bacterial flagellar motor that can use divalent cations as a coupling ion
■論文著者:Riku Imazawa, Yuka Takahashi, Wataru Aoki, Motohiko Sano & Masahiro Ito
■公表雑誌:電子ジャーナル『Scientific Reports(サイエンティフィック・レポート;Nature publishing group) 』
2016年1月22日 掲載
論文公開先URL: http://www.nature.com/articles/srep19773
【東洋大学 生命科学部】
遺伝子操作や細胞融合などから開発され、大きな技術革新を起こしたバイオテクノロジー。これまでは医療・食糧・環境など、それぞれの分野で行われていたバイオテクノロジーの技術を統合したのが「生命科学」です。東洋大学は平成9年4月、他校に先駆けてこの領域の重要性に着目し、生命科学部を設立しました。以降、「いのち」を分子レベルでとらえ、微生物からヒトにいたるまでの生命現象を探究。中でも「極限環境下」で生きる微生物の研究分野は、国内有数の実績があります。