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注意!職場の熱中症 シェフ、気をつけて!調理場の働く環境が熱中症を生む

2016/07/19

教えて!「かくれ脱水」委員会

注意!職場の熱中症
シェフ、気をつけて!調理場の働く環境が熱中症を生む

【監修者プロフィール】 山田琢之(やまだ・たくじ)
愛知医科大学客員教授 なごや労働衛生コンサルタント事務所長 エスエル医療グループ栄内科院長
名古屋市職員健康管理センター所長、名古屋市役所産業医、愛知医科大学産業保健科学センター助教授などを歴任し、現在は愛知医科大学客員教授、なごや労働衛生コンサルタント事務所長、エスエル医療グループ栄内科院長を務める。医学博士(名古屋大学)、労働衛生コンサルタント(保健衛生・厚生労働省)、日本産業衛生学会指導医、日本医師会認定産業医。共著に平成25年4月発刊の「産業保健マニュアル」(南山堂:共著)などがある。

産業医の山田琢之委員が、熱中症・脱水症リスクの高い職場を分析。その予防や対処について詳しく解説する「注意!職場の熱中症」シリーズ。今回は、人々に日々の糧となる美味を生み出す職場「調理場」に働く人々に着目。朝が早い、時間に追われる、集中せざるをえない作業では強力な火力を使う。お客さまありきで、スピード勝負のさまざまな立ち仕事をおこなう調理場は、注文がラッシュする時間帯では、エアコンさえ効き目を無くすほど。調理場の働く環境は、驚くほど熱中症・脱水症リスクが高いものです。本格的な暑さがはじまる夏を前に、調理場に潜む、熱中症・脱水症へつながる多様な要素を知り、適切な予防と対処を心がけてください。安心して働くための、いま、役立つ情報をまとめています。

調理場に働く方々が、夏場安全に働くためのQ&A
Q1:調理場には、どのような熱中症・脱水症リスクがあるのでしょう?
Q2:環境のほかにどのようなリスクがありますか?
Q3:作業時間によってリスクが違うのでしょうか? その対処についても教えてください。
Q4:産業医として、調理場に働く方々へご助言をお願いします

Q1:調理場あるいは調理に従事する方々には、どのような熱中症・脱水症リスクがあるのでしょうか?

A1:その環境自体が熱中症・脱水症になりやすい環境だといえる

ホテルなど大きな調理場がある仕事場では、近年になって細かな熱中症への対策指導がおこなわれはじめています。しかし、街中の中小のレストランでは、まだまだ熱中症や脱水症への対策が遅れているといっていいと思います。第一に、調理場自体が、非常に高い熱中症に至りやすい環境なのです。環境省が発表している「熱中症対策マニュアル」では、熱中症の生じやすい作業環境を「高温・多湿で、発熱体から放射される赤外線による熱(輻射熱)があり、無風な状態」と書かれています。調理場の環境はどうでしょう? まず、一般の家庭よりかなり強力な火力を使います。また、始終、熱湯を沸かすことによる湯気が充満し、始終水が流れている湿度の高い環境です。エアコンがあっても、いっせいに仕込みをする時間帯やランチタイムなど激しく火力を使用する時間帯では、室内は30℃以上があたりまえ、場所によっては40℃近くなるなど、まさに高温多湿な環境。小さな食堂の調理場では、裏戸や窓を全開にして風の通りを良くしているところもありますが、多くは風の通りが悪い密閉された室内となっています。また、直接に火力を浴びていなくとも、オーブンなどの熱を持つ厨房機器からでる輻射熱は室内の気温とは関係なくカラダの温度上昇を招きます。つまり調理場は、熱中症・脱水症になりやすい働く環境といえるのです。とくに、中華系の調理場は、熱効率のいいコンロを一日中使っていますから、調理場で作業をしているだけで大汗がでる環境といっていいでしょう。日頃から一層の注意が必要です。

調理場の熱中症・脱水症リスク【環境】
・風が通らない室内           ・輻射熱による体温上昇
・強力な火力を使う           ・エアコンが効かない
・高温多湿               ・熱効率のいいコンロを多用する中華系はとくに注意

Q2:環境のほかにどのようなリスクがありますか?

A2:調理の際の服(コックコート・厨房着)は熱中症・脱水症になりやすいという宿命があります。

前出、環境省の「熱中症対策マニュアル」を見ると「熱中症の生じやすい典型的な作業は、作業をはじめた初日に身体への負荷が大きく、休憩をとらずに長時間にわたり連続して行う作業」とあります。加えて、「通気性や透湿性の悪い衣服や保護服を着用して行う…」とあります。調理師の服装では、多くのシェフたちが着る作業着であるコックコートなどの厨房着の問題があります。よく剣道着や柔道着は、その厚みで熱がこもってしまいがちといわれますが、コックコートなども同様で、折り目の細かい分厚い布で耐熱効果のある素材でできています。調理のときは熱くなった油や食材を扱いますし、ほとんどのキッチンにはとても熱いスープやシチュー類の液体を入れる「ズンドウ」と呼ばれる大きなステンレス鍋があります。それを持ち運びする時の安全対策としても着用が必要なのです。通気性や透湿性は期待できませんから、どうしても衣類の内側に熱がこもりやすく、服の下は汗まみれということになります。ベーカリーなどでは、オーブンによるやけど対策のためにやはり厚めの厨房着を着用します。輻射熱は、室温に関係なく身体に届きますから、厚い厨房着の内側で温まった身体の熱は逃げ場のない状態にあると思ってください。また、とくに中華系の方々は、調理方法の特徴として、わりとカラダを動かすことが多いために、筋肉が生み出す熱が耐熱の厚い厨房着にこもってしまい、厨房着の中の環境は劣悪な状態になっているはずです。対策としては、なるべく休憩のときにコックコートや厨房着の前をはだけて放熱すること。できれば脱いで風や冷気を通すことを心がけて欲しいと思います。作業の安全のために必要な厨房着なのですが、それ自体がリスクを含んでいることを自覚しておいて欲しいと思います。

Q3:作業時間によってリスクが違うのでしょうか? その対処についても教えてください。

A3:ランチタイムや早朝の仕込みにリスクが集中

厨房着の問題に加えて作業時間帯や長さの問題があります。たとえば大きなホテルでは、パンを自前で焼くところが多く、その作業開始時間は午前2、3時頃から仕込みをはじめ、朝6時の焼き上げに間に合わせるというスケジュールです。調理師に多い腰痛は筋肉がまだほぐれていない午前中に多発することはよく知られていますが、実は午前中、人間の身体は自然と軽い脱水状態になっています。朝の体脂肪率が高いのはその証拠でもあります。一般に、身体の水分が安定してくるのは昼近くだと言われています。ホテルのベーカリー担当ほどのことはなくとも、和洋食の仕込みなど、ホテルのように大きな調理場を持つ職場では朝の早い労働がつきものです。熱中症に至ることが多いのは気温が上がる午後になりますが、早朝作業がもたらすカラダへのリスクは大きいと考えてください。対策として、作業前に、起床時に脱水ぎみの身体であることを自覚し、水分と同時に電解質も摂ることを心がけてください。可能であれば、朝食をきちんと摂ること。必要な水分や塩分が摂れます。時間がない場合には、経口補水液を摂ることも良いと思います。また、ランチタイムのオーダーラッシュ時、ホテルなどでの宴席で数百人分を一度に仕込むときなど、90分から2時間もの間、ミスの許されない集中した作業が続きます。調理の仕事はお客さまありきですから、休憩を挟む作業リズムを自分では決めにくいもの。自分で自覚して手を休めるときに水分をこま目に摂ること。作業中の場合、塩分に関しては味見などで摂っていることが多いので、水分を補うことで十分ですが、あまり味見をしない係の人は、水分と塩分の摂取をこころがけてください。

調理場の熱中症・脱水症リスク【作業】
・早朝作業                       ・自分で作業リズムをコントロールしにくい
・厚く、通気性・射放性のないコックコート・厨房着を着用 ・輻射熱による体温上昇
・ランチタイムなど長時間集中作業

職場の管理者の方々へ。熱中症についての分類と、その対策を知っておきましょう。
熱中症は「どのくらい症状が重たいか」という重症度により、I度、II度、III度の3つに分類されます。
[熱中症の新分類]
I度…めまいやたちくらみを自覚する/筋肉痛やこむら返り(脚がつる)がある
拭いても拭いても汗がどんどん出てくる
II度…頭痛、悪心(吐き気)、嘔吐を認める、つかれやだるさといった全身倦怠感を自覚する
III度…意識障害を認める/けいれんが起こる/体温が高くなる


Q4:産業医として、調理場で働く方々へご助言をお願いします
A4:調理場には熱中症・脱水症のリスクが多くあることを自覚し、水分の摂り方に工夫を

朝食をちゃんと摂って仕事をはじめてほしいということ。朝のカラダは寝ているうちにかいた汗で、軽い脱水状態になっていることが多いので、まず、水分を摂ってから、朝食を食べるようにしてください。そして、作業の前にも、できるだけ水分を摂る工夫をして欲しい。また、管理者の方は、作業中の水分摂取を奨励し、摂る方法も考えましょう。オープンキッチンの職場では、お客さまに、水を飲んでいる姿を見せたくない場合もありますが、客席からの死角を前もって指定し、水分補給場所にしてください。また、ペットボトルを、ほかの調味料容器と間違うことがあるために、調理場に持ち込ませない職場もあります。そういう職場に置いても水を入れる容器に工夫をし、水分を摂るよう心がけて欲しいと思います。

調理場での熱中症・脱水症対策
(1)朝食を摂って作業する                  
(2)十分な睡眠の確保(午後の休憩時間での昼寝なども)
(3)休憩時には厨房着(コックコートなど)の前を開き、通気をよくし身体を冷やす
(4)汗をこめに拭き取る
(5)長時間の作業中も、水分を摂る工夫を        
(6)勤務終了後、多量の発汗を伴う活動や脱水を招く適度の飲酒を避け、その日のうちに体温を下げる
(7)睡眠不足、下痢・発熱がある場合は、作業しない

一般の家庭でも同じことがいえます。たとえばもともとの体液量が少なく脱水リスクの高い高齢のお母さんなどが、早朝に家族のお弁当と朝食の支度をする際などに気をつけてください。夏になると朝でもエアコンの効いていないキッチンは暑くなっていますし、先に述べたように身体が脱水気味になっています。朝ご飯を食べないで火力を使って朝食支度をするのは、お勧めできません。矛盾するようですが、軽く食事をしてから朝食支度をはじめるか、水分と塩分を摂ってから作業するように心がけて欲しいと思います。経口補水液を常備しておき、朝摂取することもいいでしょう。

教えて!「かくれ脱水」委員会のウェブサイト「かくれ脱水 JOURNAL」にて公開しています。
http://www.kakuredassui.jp/column18
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