リソソームにおけるプログラニュリンの機能的役割を解明
[17/01/27]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2017年1月27日
(公財)東京都医学総合研究所
リソソームにおけるプログラニュリンの機能的役割を解明
(公財)東京都医学総合研究所・認知症プロジェクトの田中良法研究員らは、認知症の亞型である前頭側頭葉変性症の原因因子の1つとして知られるプログラニュリンのリソソームにおける機能的役割を解明しました。
本研究成果は、東京大学農学生命科学研究科獣医生理学教室及びBanner Sun Health Research Instituteとの共同研究で得られたもので、2017年1月10日に英国科学誌『Human Molecular Genetics(ヒューマンモレキュラージェネティクス)』オンライン版に掲載されました。
【論文タイトル】
Progranulin regulates lysosomal function and biogenesis through acidification of lysosomes
プログラニュリンはリソソームの酸性化を介してリソソームの機能と生合成を制御する
1 研究の背景
プログラニュリンは炎症、腫瘍形成、インスリン抵抗性などの様々な病態に関与するタンパク質です。脳においては、プログラニュリン遺伝子のハプロ不全*1によって、不溶化したTDP-43*2の蓄積を伴う前頭側頭葉変性症*3の原因となること、変異型プログラニュリン遺伝子のホモ接合によりリソソーム病である神経セロイドリポフスチン症*4が発症することが報告されています。しかし、プログラニュリンの発現低下によって神経変性疾患が発症する機序はわかっていません。
近年、プログラニュリン遺伝子欠損マウスを用いた解析などから、プログラニュリンが細胞内消化の場であるリソソームの機能を制御している可能性が指摘されていました。そこで本研究では、プログラニュリンがリソソームのどのような機能を制御しているかについて調べました。
2 研究の概要
プログラニュリンの発現が低下すると、リソソームタンパク質の発現が増加することがわかりました。また、一部の細胞種では、プログラニュリンの発現低下によって、不溶性のTDP-43の産生が増加することがわかりました。一方で、プログラニュリンを細胞に発現させたところ、リソソームの酸性化が亢進し(参考図1)、活性型のリソソーム酵素が減少することがわかりました。さらに、ソルチリン(SORT1)やカチオン非依存性のマンノース6リン酸受容体(CI-M6PR)がプログラニュリンをリソソームに輸送し、リソソームを酸性化していることがわかりました。以上のことから、リソソームに輸送されたプログラニュリンはリソソームの酸性化を介して、リソソームの機能及びリソソームタンパク質の産生を制御していることが明らかとなりました(参考図2)。さらには、プログラニュリンの発現低下によるリソソームの機能低下がTDP-43蓄積の一因となっている可能性が考えられました。
3 今後の展望
リソソームにおけるプログラニュリンの機能的役割が明らかとなったことで、TDP-43が蓄積する前頭側頭葉変性症や筋萎縮性側索硬化症において、プログラニュリンやリソソームを標的とした新規治療法が開発されることが期待されます。また、プログラニュリンが関与する様々な疾患の治療法開発にも役立つ可能性があります。
[用語説明]
*1ハプロ不全: 対立遺伝子の一方に生じた変異のために、当該遺伝子にコードされるタンパク質量が減少し、機能不全の表現型が認められること。
*2 TDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43 kDa): RNA結合タンパク質であり、RNAの代謝、輸送及び分解などに関与している。筋萎縮性側索硬化症及び前頭側頭葉変性症に出現する封入体の主要な構成成分として、2006年に同定された。
*3前頭側頭葉変性症: 前頭葉及び側頭葉に限局した萎縮が認められる神経変性疾患で認知症の1つ。人格変化、行動障害、言語障害を主症状とする。
*4神経セロイドリポフスチン症: リソソームの機能低下に起因するリソソーム病の1つ。神経細胞を中心にセロイドリポフスチンを含むリソソームが蓄積する。
【画像: http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M104221/201701278286/_prw_PI1im_8Am9zdUU.jpg 】
【画像: http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M104221/201701278286/_prw_PI2im_33m3gt4Z.jpg 】
(公財)東京都医学総合研究所
リソソームにおけるプログラニュリンの機能的役割を解明
(公財)東京都医学総合研究所・認知症プロジェクトの田中良法研究員らは、認知症の亞型である前頭側頭葉変性症の原因因子の1つとして知られるプログラニュリンのリソソームにおける機能的役割を解明しました。
本研究成果は、東京大学農学生命科学研究科獣医生理学教室及びBanner Sun Health Research Instituteとの共同研究で得られたもので、2017年1月10日に英国科学誌『Human Molecular Genetics(ヒューマンモレキュラージェネティクス)』オンライン版に掲載されました。
【論文タイトル】
Progranulin regulates lysosomal function and biogenesis through acidification of lysosomes
プログラニュリンはリソソームの酸性化を介してリソソームの機能と生合成を制御する
1 研究の背景
プログラニュリンは炎症、腫瘍形成、インスリン抵抗性などの様々な病態に関与するタンパク質です。脳においては、プログラニュリン遺伝子のハプロ不全*1によって、不溶化したTDP-43*2の蓄積を伴う前頭側頭葉変性症*3の原因となること、変異型プログラニュリン遺伝子のホモ接合によりリソソーム病である神経セロイドリポフスチン症*4が発症することが報告されています。しかし、プログラニュリンの発現低下によって神経変性疾患が発症する機序はわかっていません。
近年、プログラニュリン遺伝子欠損マウスを用いた解析などから、プログラニュリンが細胞内消化の場であるリソソームの機能を制御している可能性が指摘されていました。そこで本研究では、プログラニュリンがリソソームのどのような機能を制御しているかについて調べました。
2 研究の概要
プログラニュリンの発現が低下すると、リソソームタンパク質の発現が増加することがわかりました。また、一部の細胞種では、プログラニュリンの発現低下によって、不溶性のTDP-43の産生が増加することがわかりました。一方で、プログラニュリンを細胞に発現させたところ、リソソームの酸性化が亢進し(参考図1)、活性型のリソソーム酵素が減少することがわかりました。さらに、ソルチリン(SORT1)やカチオン非依存性のマンノース6リン酸受容体(CI-M6PR)がプログラニュリンをリソソームに輸送し、リソソームを酸性化していることがわかりました。以上のことから、リソソームに輸送されたプログラニュリンはリソソームの酸性化を介して、リソソームの機能及びリソソームタンパク質の産生を制御していることが明らかとなりました(参考図2)。さらには、プログラニュリンの発現低下によるリソソームの機能低下がTDP-43蓄積の一因となっている可能性が考えられました。
3 今後の展望
リソソームにおけるプログラニュリンの機能的役割が明らかとなったことで、TDP-43が蓄積する前頭側頭葉変性症や筋萎縮性側索硬化症において、プログラニュリンやリソソームを標的とした新規治療法が開発されることが期待されます。また、プログラニュリンが関与する様々な疾患の治療法開発にも役立つ可能性があります。
[用語説明]
*1ハプロ不全: 対立遺伝子の一方に生じた変異のために、当該遺伝子にコードされるタンパク質量が減少し、機能不全の表現型が認められること。
*2 TDP-43 (TAR DNA-binding protein of 43 kDa): RNA結合タンパク質であり、RNAの代謝、輸送及び分解などに関与している。筋萎縮性側索硬化症及び前頭側頭葉変性症に出現する封入体の主要な構成成分として、2006年に同定された。
*3前頭側頭葉変性症: 前頭葉及び側頭葉に限局した萎縮が認められる神経変性疾患で認知症の1つ。人格変化、行動障害、言語障害を主症状とする。
*4神経セロイドリポフスチン症: リソソームの機能低下に起因するリソソーム病の1つ。神経細胞を中心にセロイドリポフスチンを含むリソソームが蓄積する。
【画像: http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M104221/201701278286/_prw_PI1im_8Am9zdUU.jpg 】
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