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都市住民は生物多様性に不寛容?

2017年4月10日

公立大学法人首都大学東京

都市住民は生物多様性に不寛容?
〜野生生物に対する受容性と幼少期の自然体験量の関係を解明〜

 首都大学東京 都市環境科学研究科観光科学域の沼田真也研究室は、首都圏住民1,030人へのアンケート調査により、「幼少期の自然体験量が多い人ほど、スズメバチやイノシシなど問題を起こす可能性のある生物に対しても好感度が高く、これらの生物に対する受容性が高い」ことを明らかにしました。

【研究の背景】
 近年、生物多様性に関する国際的な関心の高まりにより、生物多様性の保全や回復は都市計画におけるひとつのキーワードになっています。生物多様性は私たちに様々な恵みをもたらす一方で、普段自然と接することの少ない都市住民にとっては、生物多様性は必ずしも心地よいものではなく、不快や脅威の対象ともなり得るものです。都市部におけるハチやヘビなどの不快な生物に対する相談件数は近年増加傾向であり、それらの生物に対する「都市住民の受容性の低下」が原因のひとつと考えられています(Hosaka & Numata 2016, Scientific Reports)。都市における生物多様性保全を進めるには住民の支持が必要不可欠であり、生物に対する住民の受容性やその受容性の差が生じる要因、特に自然体験量と受容性に相関関係があることは、今後の環境教育や保全プログラム、行政施策を考える上で重要です。

【研究の詳細】
 同研究室の保坂哲朗特任准教授と沼田真也教授、杉本興運助教(首都大学東京 都市環境科学研究科)は、平成28年1月に20−69歳の首都圏在住の男女1,030人に対してアンケート調査を行いました。アンケートでは、スズメバチやイノシシによる深刻度が異なる被害シナリオを複数設定し、それに対して容認できる行政の介入の度合いを尋ねました。また合わせて、幼少期の自然環境の利用頻度や自然遊びの頻度など、幼少期の自然体験量について尋ねました。その結果、被害の大小にかかわらず「公園や緑地に生息するスズメバチやイノシシを行政が駆除しない(状況観察や注意喚起のみ行う)」ことは70%以上の住民が「受け容れられない」と回答し、これらの生物に対する都市住民の受容性の低さと行政依存度の高さが明らかになりました(図1参照)。
 一方、深刻な被害のない状況で(生物が生息しているだけなど)、どのような要因が受容性と関係しているのかを分析したところ、幼少期の自然体験量は直接的・間接的(好感度を介して)に生物に対する受容性を増大させる効果があることが分かりました(図2参照)。さらに、男性よりも女性において、また年齢が高い人ほど、受容性が低い傾向が見られました。しかし、被害の深刻度が増すほど、自然体験量の受容性に対する影響は弱くなり、性別や年齢の影響がより強くなりました。

■発表雑誌 PLOS ONE  http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0175243


【今後】
 本研究により、スズメバチやイノシシなど問題を起こす可能性のある野生生物に対する都市住民の受容性は被害の有無にかかわらず低く、行政依存度が高いことが明らかになりました。これは、現代社会は都市に出現する多様な生物を無条件に受け入れることはできないこと、そして状況によっては生物多様性保全がもたらす行政コストは高くなることを示唆しています。
 今後、都市や居住地近くの生物多様性促進のための施策を行政が進める上で、生物多様性がもたらすこのような軋轢を潜在的なコストとして留意すべきと考えられます。しかし一方では、生物に対する受容性の高い人ほど幼少期の自然体験量が多い傾向があることも明らかになりました。このことは、都市住民が自然や生物と触れ合う機会を増やすことにより、生物に対する住民の受容性の増大につながる可能性を示唆しています。都市の生物多様性保全には住民の支持が不可欠であるため、今後の保全プログラムにおいては、都市住民の幼少期の自然体験の回復を目指す取り組みを加えることが必要と考えられます。
 また、生物に対する好感度はその受容性に強く影響するため、保全プログラムにおいては、美的で好まれる生物だけでなく、嫌われがちな生物に関しても普及啓発を行い、人々の認識を変えていくことが望まれます。

○研究室メンバー
沼田 真也 (首都大学東京 都市環境学部 自然・文化ツーリズムコース 教授)
保坂 哲朗 (首都大学東京 都市環境学部 自然・文化ツーリズムコース 特任准教授)
杉本 興運 (首都大学東京 都市環境学部 自然・文化ツーリズムコース 助教)


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