アルファ波の揺れが目に見えた 〜アルファ波のリズムを変える技術を世界で初めて開発〜
[17/07/28]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2017年7月28日
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
アルファ波の揺れが目に見えた
〜アルファ波のリズムを変える技術を世界で初めて開発〜
【ポイント】
■ アルファ波のリズムを変える技術を開発し、アルファ波が視覚的な揺れとして目に見えることを実証
■ ジター錯視の揺れの速さがアルファ波のリズムを直接反映することを確認
■ アルファ波のリズムを変えることで、将来的に短期記憶能力などの認知機能向上の可能性あり
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)脳情報通信融合研究センター 天野薫主任研究員らは、本来揺れていない物体が10 Hz付近で揺れて知覚されるジター錯視の揺れが、ヒトの脳内に元々存在するアルファ波のリズムから生じることを発見しました。
今回実験に使用したジター錯視は、赤い正方形の真ん中に明るさの等しい緑の縦棒が配置された図形を、黒い背景の上で水平方向に一定の速さで移動させると、実際には揺れていない緑のバーが水平方向に行ったり来たりするように感じられる現象です。このジター錯視の揺れがどのくらいの速さで感じられるかには個人差があります。我々は、アルファ波が元々遅い人はジター錯視も遅く、速い人は速く見えることを実証しました。さらに、被験者の後頭部に微弱な電気刺激を与えてアルファ波のリズムを人工的に変調する技術を世界で初めて開発し、アルファ波の周波数の上げ下げに応じてジター錯視の周波数も変化することを示しました。これらの結果から、視覚入力の有無に依らず脳内に元々存在するアルファ波のリズムが、視覚的な揺れとして知覚されていることが実証されました。今後、アルファ波の周波数を変調する技術を応用し、短期記憶などの認知機能のパフォーマンス向上につなげられる可能性があります。
なお、本研究成果は、「Current Biology」のオンライン版に日本時間7月28日(金)午前2時に掲載される予定です。
【背景】
アルファ波とは脳から発生する8-13 Hz(1秒間に約10回)程度の電気的な振動(脳波)のことで、目を閉じたり、リラックスしたりする時に顕著に現れることから、従来は積極的な機能を果たしていないと考えられてきました。ところが、最近の研究で、我々がものを見る機能、すなわち視覚情報処理への関与が報告され、例えば、見ている対象に注意を向ける機能などと密接に関係していることが分かってきました。しかし、先行研究で報告されてきた視知覚とアルファ波の関係は相関関係(関係があるかないか)の議論の域を出ず、アルファ波が「原因」として視知覚に関与しているという証拠は、明確に示されてきませんでした。
【今回の成果】
本研究では、本来揺れていないはずの物体が、1秒間に10回程度揺れて感じられるジター錯視と呼ばれる現象に着目し、被験者が感じるジター錯視のリズムの個人差が、アルファ波のリズムの個人差を反映することを確かめました。つまり、アルファ波のリズムが速い人はジター錯視も速く、遅い人は遅く見えるということが分かったのです。また、アルファ波の周波数は個人内でもわずかにゆらぎますが、このゆらぎに応じてジター錯視の見え方も変化することが分かりました。
さらに、人体に害のない微弱な電気刺激(経頭蓋電気刺激)を被験者の後頭部に与えることで、アルファ波が持つリズムの速さを人工的に変化させる技術を開発し、実際にリズムが速くなったり遅くなったりすることを世界で初めて観測しました。
脳に交流電気刺激を与える従来の手法では、電気刺激そのものがノイズとなって、電気刺激を与えている時の脳活動を脳磁図(MEG)などの脳機能計測法で観測することが困難でした。本研究で開発した変調技術の優れた点は、電気刺激を従来の手法とは異なる特殊な波形にすることで、電気刺激のノイズを伴わずに特定の脳活動を観測できるところです。この技術を用いてアルファ波のリズムを速くしたり遅くしたりしたところ、被験者が感じるジター錯視の揺れも同様に変化しました。この結果から、アルファ波の持つリズムがジター錯視の知覚に寄与していることが実証されました。さらに、本研究結果から、脳の別々の場所で処理された形や動きなどの情報を統合するタイミングをアルファ波が決めていることが示唆されました。
今後、アルファ波の周波数と対応する認知機能が明らかになれば、本研究で開発したアルファ波変調技術を用いることで、これらの認知機能のパフォーマンスを人工的に向上できるようになる可能性があります。
【今後の展望】
今回、アルファ波が「原因」でジター錯視が「結果」であるという因果的な関与を実証しましたが、アルファ波と関連する認知機能は視覚、聴覚、記憶をはじめとして多岐にわたる可能性があります。
今後は、本研究で開発したアルファ波変調技術を応用し、これらの認知機能とアルファ波の、より詳細な関係性の解明を目指します。例えば、アルファ波のリズムを変えることにより、お年寄りの認知機能を補ったり、短期記憶の能力の向上を図ったりすることが可能になるかもしれません。また、人々が日常生活の中でデスクワークなどを行う際に必要になる認知機能と、アルファ波との関係性を精査することで、私たちの日常行為のパフォーマンスを高めるような研究も進めていく予定です。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
アルファ波の揺れが目に見えた
〜アルファ波のリズムを変える技術を世界で初めて開発〜
【ポイント】
■ アルファ波のリズムを変える技術を開発し、アルファ波が視覚的な揺れとして目に見えることを実証
■ ジター錯視の揺れの速さがアルファ波のリズムを直接反映することを確認
■ アルファ波のリズムを変えることで、将来的に短期記憶能力などの認知機能向上の可能性あり
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)脳情報通信融合研究センター 天野薫主任研究員らは、本来揺れていない物体が10 Hz付近で揺れて知覚されるジター錯視の揺れが、ヒトの脳内に元々存在するアルファ波のリズムから生じることを発見しました。
今回実験に使用したジター錯視は、赤い正方形の真ん中に明るさの等しい緑の縦棒が配置された図形を、黒い背景の上で水平方向に一定の速さで移動させると、実際には揺れていない緑のバーが水平方向に行ったり来たりするように感じられる現象です。このジター錯視の揺れがどのくらいの速さで感じられるかには個人差があります。我々は、アルファ波が元々遅い人はジター錯視も遅く、速い人は速く見えることを実証しました。さらに、被験者の後頭部に微弱な電気刺激を与えてアルファ波のリズムを人工的に変調する技術を世界で初めて開発し、アルファ波の周波数の上げ下げに応じてジター錯視の周波数も変化することを示しました。これらの結果から、視覚入力の有無に依らず脳内に元々存在するアルファ波のリズムが、視覚的な揺れとして知覚されていることが実証されました。今後、アルファ波の周波数を変調する技術を応用し、短期記憶などの認知機能のパフォーマンス向上につなげられる可能性があります。
なお、本研究成果は、「Current Biology」のオンライン版に日本時間7月28日(金)午前2時に掲載される予定です。
【背景】
アルファ波とは脳から発生する8-13 Hz(1秒間に約10回)程度の電気的な振動(脳波)のことで、目を閉じたり、リラックスしたりする時に顕著に現れることから、従来は積極的な機能を果たしていないと考えられてきました。ところが、最近の研究で、我々がものを見る機能、すなわち視覚情報処理への関与が報告され、例えば、見ている対象に注意を向ける機能などと密接に関係していることが分かってきました。しかし、先行研究で報告されてきた視知覚とアルファ波の関係は相関関係(関係があるかないか)の議論の域を出ず、アルファ波が「原因」として視知覚に関与しているという証拠は、明確に示されてきませんでした。
【今回の成果】
本研究では、本来揺れていないはずの物体が、1秒間に10回程度揺れて感じられるジター錯視と呼ばれる現象に着目し、被験者が感じるジター錯視のリズムの個人差が、アルファ波のリズムの個人差を反映することを確かめました。つまり、アルファ波のリズムが速い人はジター錯視も速く、遅い人は遅く見えるということが分かったのです。また、アルファ波の周波数は個人内でもわずかにゆらぎますが、このゆらぎに応じてジター錯視の見え方も変化することが分かりました。
さらに、人体に害のない微弱な電気刺激(経頭蓋電気刺激)を被験者の後頭部に与えることで、アルファ波が持つリズムの速さを人工的に変化させる技術を開発し、実際にリズムが速くなったり遅くなったりすることを世界で初めて観測しました。
脳に交流電気刺激を与える従来の手法では、電気刺激そのものがノイズとなって、電気刺激を与えている時の脳活動を脳磁図(MEG)などの脳機能計測法で観測することが困難でした。本研究で開発した変調技術の優れた点は、電気刺激を従来の手法とは異なる特殊な波形にすることで、電気刺激のノイズを伴わずに特定の脳活動を観測できるところです。この技術を用いてアルファ波のリズムを速くしたり遅くしたりしたところ、被験者が感じるジター錯視の揺れも同様に変化しました。この結果から、アルファ波の持つリズムがジター錯視の知覚に寄与していることが実証されました。さらに、本研究結果から、脳の別々の場所で処理された形や動きなどの情報を統合するタイミングをアルファ波が決めていることが示唆されました。
今後、アルファ波の周波数と対応する認知機能が明らかになれば、本研究で開発したアルファ波変調技術を用いることで、これらの認知機能のパフォーマンスを人工的に向上できるようになる可能性があります。
【今後の展望】
今回、アルファ波が「原因」でジター錯視が「結果」であるという因果的な関与を実証しましたが、アルファ波と関連する認知機能は視覚、聴覚、記憶をはじめとして多岐にわたる可能性があります。
今後は、本研究で開発したアルファ波変調技術を応用し、これらの認知機能とアルファ波の、より詳細な関係性の解明を目指します。例えば、アルファ波のリズムを変えることにより、お年寄りの認知機能を補ったり、短期記憶の能力の向上を図ったりすることが可能になるかもしれません。また、人々が日常生活の中でデスクワークなどを行う際に必要になる認知機能と、アルファ波との関係性を精査することで、私たちの日常行為のパフォーマンスを高めるような研究も進めていく予定です。