燃料電池や金属空気電池用ナノ粒子触媒の大量生産に適した製造方法を開発
[19/05/16]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2019年5月16日
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
燃料電池や金属空気電池用ナノ粒子触媒の
大量生産に適した製造方法を開発
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(都産技研)は九州大学と共同で燃料電池や金属空気電池用ナノ粒子触媒の大量生産に適した製造方法を開発しました。本研究の成果は、2019年5月5日に学術誌「Electrochemistry」に掲載されました。
研究概要・研究のポイント
燃料電池(※1)や金属空気電池(※2)の安価な正極触媒として期待されているペロブスカイト構造(※3)を持つ酸化物ナノ粒子をビーズミル(※4)法により分散し、活性を大幅に向上させました。
・小径ビーズの使用によって、触媒粒子のペロブスカイト構造の破壊を抑制
・ナノ粒子触媒を細かく分散させることができ、処理前の触媒に対して触媒活性を2.7倍に向上させることに成功
・量産機にスケールアップすることで、安価にナノ粒子の大量生産が可能
以下の展示会に出展し、本研究のパネル展示を行います。
2019 防災産業展 in 東京
開催場所:東京ビッグサイト 青海展示棟(小間番号 B-52)
開催日時:2019年6月5日(水)〜6月7日(金)10:00〜17:00
今後の展開
小径ビーズによるビーズミル処理によれば、低コストでナノ粒子を供給できることから、電池材料だけでなく、光触媒、化粧品、電子材料等にも応用可能であると考えられます。この小径ビーズによるビーズミル処理は都産技研にてオーダーメード開発支援でご利用可能です。(URL: https://www.iri-tokyo.jp/setsubi/sentan-h27-beadmil.html)
特許・論文情報
論文掲載: N. Tachibana, H. Kobayashi, S. Somekawa, and K. Shimanoe, Electrochemistry, 87 (3), 193-195 (2019). (URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/87/3/87_18-00094/_article/-char/ja)
◆背景◆
燃料電池および金属空気電池は自動車や家庭用の次世代電源として注目されています。しかし、これらの電池に使用される活性の高い白金触媒はコストが高く、普及の妨げとなっています。ペロブスカイト型酸化物は安価であるため、白金の代替触媒として期待されていますが、粒子同士が凝集して表面積が小さいという問題がありました。触媒反応は、触媒表面で進行するため、表面積が小さいと低活性になります(図1)。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201905156364-O1-50UJ3WX1 】(図1 ナノ粒子触媒の分散状態)
◆実験内容◆
代表的なペロブスカイト構造をもつ触媒であるLaCoO3粒子をビーズミルで処理しました。従来から用いられている径が大きな0.1 mmのビーズを用いて処理したLaCoO3粒子は結晶化度(※5)が32%と大きく低下したことから、大きなビーズによって結晶が破壊されていると考えられ、その触媒活性も低いことがわかりました。一方で、径が30 ?mの小さなビーズを用いて処理した場合、LaCoO3粒子のペロブスカイト構造にはダメージを与えることなく、平均粒子径が77 nmのナノ粒子が得られました(図2)。この径の小さなビーズを用いて処理したLaCoO3触媒は、処理を施していない触媒に比べ、触媒活性が2.7倍に向上しました。この触媒活性の向上により電池の出力を向上させることができ、また、触媒担持量を低減することができます。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201905156364-O2-Ba9106r2 】(図2 酸化物ナノ粒子の粒度分布)
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201905156364-O3-5h8KG90f 】(図3 本研究で用いたビーズミル装置)
微細なナノ粒子を得る方法として、気相法(※6)やメソポーラスシリカを用いたハードテンプレート法(※7)などがありますが、気相法は大型の真空装置を必要とし、また、メソポーラスシリカを用いたハードテンプレート法はシリカの合成、除去といった多段プロセスが必要となります。本研究では卓上タイプの小型テスト機を使用しましたが(図3)、量産機にスケールアップすることで安価にナノ粒子触媒の大量生産が可能であると考えられます。
ペロブスカイト構造をもつナノ粒子は燃料電池や空気電池用の触媒だけでなく、NOxやCO、HCの酸化触媒としても使用されています。したがって、これらのアプリケーションでも触媒活性の向上が期待できます。
◆用語の説明◆
※1:燃料電池
空気中の酸素と水素等の燃料を利用して発電するデバイスです。燃料電池は水素と酸素の反応を利用して発電を行い、発電時には水のみが生成するため、地球温暖化の原因となる二酸化炭素や、大気汚染の原因となる窒素酸化物等が発生しません。しかし、正極に使用する白金触媒のコストや短い寿命等の問題があります。
※2:金属空気電池
空気中の酸素と金属または金属合金を利用して発電するデバイスです。金属空気電池は、電池の中でもエネルギー密度が極めて高いことから注目されています。アルミニウム空気電池や鉄空気電池は、現行の電池の中で高いエネルギー密度をもつリチウムイオン電池と比較しても、優れた理論エネルギー密度を有し、また、資源的にも豊富で安価であるため、早期の実用化が期待されていますが、正極に使用する白金触媒のコストや短い寿命等の問題があります。
※3:ペロブスカイト構造
ABX3という組成式で表される化合物の結晶構造です。触媒だけでなく圧電体や誘電体、酸化物高温超伝導体等に利用されています。
※4:ビーズミル
対象試料を粉砕あるいは分散する装置です。粉砕室内のビーズに回転軸で運動を与え、ビーズ間の衝突やせん断等により、対象試料を微細化することができます。ビーズミルは1960年代から塗料や繊維用途に使用されてきましたが、近年では使用するビーズの微粒子化が可能となったため、低コストの新しいナノ粒子分散方法として注目されています。
※5:結晶化度
結晶部分と非結晶部分が混在している試料の、結晶部分が全体に占める割合のことを示します。
※6:気相法
気相中で化学反応を進行させて目的とする物質を得る合成方法の総称です。
※7:ハードテンプレート法
数nmから数十nmの細孔をもつメソポーラスシリカ等を用いて、この小さな細孔を鋳型として物質を合成する方法です。
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
燃料電池や金属空気電池用ナノ粒子触媒の
大量生産に適した製造方法を開発
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(都産技研)は九州大学と共同で燃料電池や金属空気電池用ナノ粒子触媒の大量生産に適した製造方法を開発しました。本研究の成果は、2019年5月5日に学術誌「Electrochemistry」に掲載されました。
研究概要・研究のポイント
燃料電池(※1)や金属空気電池(※2)の安価な正極触媒として期待されているペロブスカイト構造(※3)を持つ酸化物ナノ粒子をビーズミル(※4)法により分散し、活性を大幅に向上させました。
・小径ビーズの使用によって、触媒粒子のペロブスカイト構造の破壊を抑制
・ナノ粒子触媒を細かく分散させることができ、処理前の触媒に対して触媒活性を2.7倍に向上させることに成功
・量産機にスケールアップすることで、安価にナノ粒子の大量生産が可能
以下の展示会に出展し、本研究のパネル展示を行います。
2019 防災産業展 in 東京
開催場所:東京ビッグサイト 青海展示棟(小間番号 B-52)
開催日時:2019年6月5日(水)〜6月7日(金)10:00〜17:00
今後の展開
小径ビーズによるビーズミル処理によれば、低コストでナノ粒子を供給できることから、電池材料だけでなく、光触媒、化粧品、電子材料等にも応用可能であると考えられます。この小径ビーズによるビーズミル処理は都産技研にてオーダーメード開発支援でご利用可能です。(URL: https://www.iri-tokyo.jp/setsubi/sentan-h27-beadmil.html)
特許・論文情報
論文掲載: N. Tachibana, H. Kobayashi, S. Somekawa, and K. Shimanoe, Electrochemistry, 87 (3), 193-195 (2019). (URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/87/3/87_18-00094/_article/-char/ja)
◆背景◆
燃料電池および金属空気電池は自動車や家庭用の次世代電源として注目されています。しかし、これらの電池に使用される活性の高い白金触媒はコストが高く、普及の妨げとなっています。ペロブスカイト型酸化物は安価であるため、白金の代替触媒として期待されていますが、粒子同士が凝集して表面積が小さいという問題がありました。触媒反応は、触媒表面で進行するため、表面積が小さいと低活性になります(図1)。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201905156364-O1-50UJ3WX1 】(図1 ナノ粒子触媒の分散状態)
◆実験内容◆
代表的なペロブスカイト構造をもつ触媒であるLaCoO3粒子をビーズミルで処理しました。従来から用いられている径が大きな0.1 mmのビーズを用いて処理したLaCoO3粒子は結晶化度(※5)が32%と大きく低下したことから、大きなビーズによって結晶が破壊されていると考えられ、その触媒活性も低いことがわかりました。一方で、径が30 ?mの小さなビーズを用いて処理した場合、LaCoO3粒子のペロブスカイト構造にはダメージを与えることなく、平均粒子径が77 nmのナノ粒子が得られました(図2)。この径の小さなビーズを用いて処理したLaCoO3触媒は、処理を施していない触媒に比べ、触媒活性が2.7倍に向上しました。この触媒活性の向上により電池の出力を向上させることができ、また、触媒担持量を低減することができます。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201905156364-O2-Ba9106r2 】(図2 酸化物ナノ粒子の粒度分布)
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201905156364-O3-5h8KG90f 】(図3 本研究で用いたビーズミル装置)
微細なナノ粒子を得る方法として、気相法(※6)やメソポーラスシリカを用いたハードテンプレート法(※7)などがありますが、気相法は大型の真空装置を必要とし、また、メソポーラスシリカを用いたハードテンプレート法はシリカの合成、除去といった多段プロセスが必要となります。本研究では卓上タイプの小型テスト機を使用しましたが(図3)、量産機にスケールアップすることで安価にナノ粒子触媒の大量生産が可能であると考えられます。
ペロブスカイト構造をもつナノ粒子は燃料電池や空気電池用の触媒だけでなく、NOxやCO、HCの酸化触媒としても使用されています。したがって、これらのアプリケーションでも触媒活性の向上が期待できます。
◆用語の説明◆
※1:燃料電池
空気中の酸素と水素等の燃料を利用して発電するデバイスです。燃料電池は水素と酸素の反応を利用して発電を行い、発電時には水のみが生成するため、地球温暖化の原因となる二酸化炭素や、大気汚染の原因となる窒素酸化物等が発生しません。しかし、正極に使用する白金触媒のコストや短い寿命等の問題があります。
※2:金属空気電池
空気中の酸素と金属または金属合金を利用して発電するデバイスです。金属空気電池は、電池の中でもエネルギー密度が極めて高いことから注目されています。アルミニウム空気電池や鉄空気電池は、現行の電池の中で高いエネルギー密度をもつリチウムイオン電池と比較しても、優れた理論エネルギー密度を有し、また、資源的にも豊富で安価であるため、早期の実用化が期待されていますが、正極に使用する白金触媒のコストや短い寿命等の問題があります。
※3:ペロブスカイト構造
ABX3という組成式で表される化合物の結晶構造です。触媒だけでなく圧電体や誘電体、酸化物高温超伝導体等に利用されています。
※4:ビーズミル
対象試料を粉砕あるいは分散する装置です。粉砕室内のビーズに回転軸で運動を与え、ビーズ間の衝突やせん断等により、対象試料を微細化することができます。ビーズミルは1960年代から塗料や繊維用途に使用されてきましたが、近年では使用するビーズの微粒子化が可能となったため、低コストの新しいナノ粒子分散方法として注目されています。
※5:結晶化度
結晶部分と非結晶部分が混在している試料の、結晶部分が全体に占める割合のことを示します。
※6:気相法
気相中で化学反応を進行させて目的とする物質を得る合成方法の総称です。
※7:ハードテンプレート法
数nmから数十nmの細孔をもつメソポーラスシリカ等を用いて、この小さな細孔を鋳型として物質を合成する方法です。