(立教大学・Kavli IPMU)超高エネルギーガンマ線で世界最高の空間分解能を達成
[19/11/16]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2019年11月16日
立教学院(立教大学)
超高エネルギーガンマ線で世界最高の空間分解能を達成
超高エネルギーガンマ線で世界最高の空間分解能を達成
〜宇宙の標準光源「かに星雲」のサイズを超高エネルギーガンマ線で測定〜
立教大学理学部(東京都豊島区、学部長:枝元一之)と東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(千葉県柏市、機構長:大栗博司)は、内山泰伸立教大学理学部物理学科教授の研究室が参加する国際共同実験プロジェクトH.E.S.S.チームが、1054年に観測された超新星爆発の名残である「かに星雲」が放つ超高エネルギーガンマ線の空間的広がりの測定に世界で初めて成功したことを発表します。
データサイエンス技術を極限まで追求することで、超高エネルギーガンマ線源の大きさの測定が初めて実現し、その結果、星雲内部の高エネルギー粒子の振る舞いを正確に記述することが可能になりました。今回の研究成果からは、「宇宙線」と呼ばれる高エネルギー粒子が天体内でどのように生成され伝搬するのか理解が深まると期待されています。
本研究成果は2019年10月28日発行の科学雑誌『Nature Astronomy』誌に掲載されました(論文タイトル:Resolving the Crab pulsar wind nebula at teraelectronvolt energies)。 なお、内山研究室所属のDmitry Khangulyan研究員は、本研究においてチーム内で主要な役割を果たし、特に物理モデリング・理論計算を担当しました。
1.発表の背景
M1(メシエ・カタログの第1番目)として有名な「かに星雲」*1は双眼鏡で見ても大きく広がった姿が確認できます。「かに星雲」のサイズは光の波長によって異なり、その違いは「かに星雲」における高エネルギー粒子の生成メカニズや磁場構造を反映しています。特に、本研究で観測に用いた「超高エネルギーガンマ線」は、観測可能な光のうちでも最も波長が短い光であり、宇宙からの飛来を初めて確認できたのが1989年と宇宙観測では最も新しい光の窓になります。そのため、従来の観測装置の性能では、「かに星雲」からの超高エネルギー放射は中心のごく一部から発しているか、あるいは星雲内で大きく広がった領域が光っているか判別できず、放射の過程には多くの謎が残されていました。
2.今回の研究成果
本研究では、アフリカ南西部のナミビアの位置する「H.E.S.S.望遠鏡群」*2を用いて超高エネルギーガンマ線を観測しました。H.E.S.S.望遠鏡群は「大気チェレンコフ望遠鏡」と呼ばれ、超高エネルギーガンマ線が地球大気に入射した際に発する「チェレンコフ光」を捉えて間接的にガンマ線を観測する望遠鏡です。地球大気を大きな検出器として利用しており、観測されたガンマ線の到来方向やエネルギーを決定するためには、地球大気を記述したモデルが必要となります。しかし、大気の構造は複雑で時々刻々と変化してしまい、実際の観測時の条件に合った正確な大気モデルを構築することは容易ではなく、大気のおおよそな状態を記述した代表的なモデルを用意するのが限界でした。
今回H.E.S.S.チームは、近年飛躍的に向上した計算機性能を生かしてより詳細に大気の状態を記述し、実際の観測条件を正確に反映した新たなシミュレーションデータを構築することができました。そのためにチェレンコフ望遠鏡の新しい解析方法が導入可能となり、ガンマ線の到来方向の誤差を従来の約半分にまで減少させ、かに星雲からの超高エネルギーガンマ線放射は一点のごく小さな領域からではなく、空間的な広がりを持っていることを突き止めました。
その広がりの大きさは、X線で観測される姿よりは大きい一方で、紫外線で見る姿よりは小さいことが明らかになりました。超高エネルギーガンマ線の放射過程は「逆コンプトン散乱」であることが通説ではありますが、確固たる観測的証拠は乏しいのが現状です。今回の結果は、高エネルギー電子が星雲内の終端衝撃波で生成され内部を拡散していくモデルに基づくと、紫外線、X線そして今回新たに観測されたガンマ線の明るさと空間的な広がりが説明可能となるもので、ガンマ線の起源が逆コンプトン散乱であることを強く支持する証拠といえます。今後、望遠鏡の性能向上により得られる天体の空間的情報を生かして、謎の多い宇宙の超高エネルギー粒子「宇宙線」が天体内でどのように生成・伝搬して光を放射するのか、その理解がより深まると期待されています。
【注釈】
*1) かに星雲
牡牛座に位置する超新星残骸で、地球から約7000光年に位置します。超新星は大質量星が最 期に起こす爆発で強烈に輝く現象ですが、かに星雲の源となった超新星爆発は1054年に出現したことが『明月記』などの鎌倉時代の文献に残されています。その中心には中性子星が高速で回転して短時間の周期的な放射を示す「パルサー」が存在しています。かに星雲は光の全てのエネルギー帯で明るく輝いています。そのため宇宙物理学で最も盛んに研究されている天体の一つであり「標準光源天体」とも呼ばれています。一方、高エネルギーガンマ線では明るさが何倍も変化する現象が近年新たに発見され、内山研究室ではその変動の起源を探る研究も行なっています。
*2) H.E.S.S.望遠鏡群
H.E.S.S.望遠鏡群は、1912年に宇宙線を発見し1936年ノーベル賞を受賞したVictor Franz Hessにちなんで名付けられ、アフリカ南西部のナミビアの約1800mの高地に設置され、2002年から国際コラボレーションにて運用されています。主鏡口径12mのチェレンコフ望遠鏡4台で構成される「望遠鏡群」で、数十ギガ電子ボルトから数十テラ電子ボルトまでの「超高エネルギーガンマ線」を測定可能です。2012年には、中央に主鏡口径28mを有する世界最大のチェレンコフ望遠鏡も加わりました。ヨーロッパ諸国や日本を含んだ13カ国から260人以上の科学者が参加する国際共同研究プロジェクトであり、日本からは立教大学および東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構が参画しています。
3.発表論文
・雑誌名:『Nature Astronomy』
・論文タイトル:「Resolving the Crab pulsar wind nebula at teraelectronvolt energies」
・著者:Abdalla, H., et al. (H.E.S.S. Collaboration)
・URL:https://doi.org/10.1038/s41550-019-0910-0
4.その他
本研究の成果は、JSPS科研費基盤研究(A)「H.E.S.S.望遠鏡とフェルミ衛星による宇宙線加速機構の解明」(研究代表者: 内山泰伸、課題番号: 18H03722)および新学術領域研究「宇宙硬エックス線・ガンマ線検出テクノロジーの異分野への展開」(研究代表者: 高橋忠幸、課題番号: 18H05463)により助成を受けたものです。
立教学院(立教大学)
超高エネルギーガンマ線で世界最高の空間分解能を達成
超高エネルギーガンマ線で世界最高の空間分解能を達成
〜宇宙の標準光源「かに星雲」のサイズを超高エネルギーガンマ線で測定〜
立教大学理学部(東京都豊島区、学部長:枝元一之)と東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(千葉県柏市、機構長:大栗博司)は、内山泰伸立教大学理学部物理学科教授の研究室が参加する国際共同実験プロジェクトH.E.S.S.チームが、1054年に観測された超新星爆発の名残である「かに星雲」が放つ超高エネルギーガンマ線の空間的広がりの測定に世界で初めて成功したことを発表します。
データサイエンス技術を極限まで追求することで、超高エネルギーガンマ線源の大きさの測定が初めて実現し、その結果、星雲内部の高エネルギー粒子の振る舞いを正確に記述することが可能になりました。今回の研究成果からは、「宇宙線」と呼ばれる高エネルギー粒子が天体内でどのように生成され伝搬するのか理解が深まると期待されています。
本研究成果は2019年10月28日発行の科学雑誌『Nature Astronomy』誌に掲載されました(論文タイトル:Resolving the Crab pulsar wind nebula at teraelectronvolt energies)。 なお、内山研究室所属のDmitry Khangulyan研究員は、本研究においてチーム内で主要な役割を果たし、特に物理モデリング・理論計算を担当しました。
1.発表の背景
M1(メシエ・カタログの第1番目)として有名な「かに星雲」*1は双眼鏡で見ても大きく広がった姿が確認できます。「かに星雲」のサイズは光の波長によって異なり、その違いは「かに星雲」における高エネルギー粒子の生成メカニズや磁場構造を反映しています。特に、本研究で観測に用いた「超高エネルギーガンマ線」は、観測可能な光のうちでも最も波長が短い光であり、宇宙からの飛来を初めて確認できたのが1989年と宇宙観測では最も新しい光の窓になります。そのため、従来の観測装置の性能では、「かに星雲」からの超高エネルギー放射は中心のごく一部から発しているか、あるいは星雲内で大きく広がった領域が光っているか判別できず、放射の過程には多くの謎が残されていました。
2.今回の研究成果
本研究では、アフリカ南西部のナミビアの位置する「H.E.S.S.望遠鏡群」*2を用いて超高エネルギーガンマ線を観測しました。H.E.S.S.望遠鏡群は「大気チェレンコフ望遠鏡」と呼ばれ、超高エネルギーガンマ線が地球大気に入射した際に発する「チェレンコフ光」を捉えて間接的にガンマ線を観測する望遠鏡です。地球大気を大きな検出器として利用しており、観測されたガンマ線の到来方向やエネルギーを決定するためには、地球大気を記述したモデルが必要となります。しかし、大気の構造は複雑で時々刻々と変化してしまい、実際の観測時の条件に合った正確な大気モデルを構築することは容易ではなく、大気のおおよそな状態を記述した代表的なモデルを用意するのが限界でした。
今回H.E.S.S.チームは、近年飛躍的に向上した計算機性能を生かしてより詳細に大気の状態を記述し、実際の観測条件を正確に反映した新たなシミュレーションデータを構築することができました。そのためにチェレンコフ望遠鏡の新しい解析方法が導入可能となり、ガンマ線の到来方向の誤差を従来の約半分にまで減少させ、かに星雲からの超高エネルギーガンマ線放射は一点のごく小さな領域からではなく、空間的な広がりを持っていることを突き止めました。
その広がりの大きさは、X線で観測される姿よりは大きい一方で、紫外線で見る姿よりは小さいことが明らかになりました。超高エネルギーガンマ線の放射過程は「逆コンプトン散乱」であることが通説ではありますが、確固たる観測的証拠は乏しいのが現状です。今回の結果は、高エネルギー電子が星雲内の終端衝撃波で生成され内部を拡散していくモデルに基づくと、紫外線、X線そして今回新たに観測されたガンマ線の明るさと空間的な広がりが説明可能となるもので、ガンマ線の起源が逆コンプトン散乱であることを強く支持する証拠といえます。今後、望遠鏡の性能向上により得られる天体の空間的情報を生かして、謎の多い宇宙の超高エネルギー粒子「宇宙線」が天体内でどのように生成・伝搬して光を放射するのか、その理解がより深まると期待されています。
【注釈】
*1) かに星雲
牡牛座に位置する超新星残骸で、地球から約7000光年に位置します。超新星は大質量星が最 期に起こす爆発で強烈に輝く現象ですが、かに星雲の源となった超新星爆発は1054年に出現したことが『明月記』などの鎌倉時代の文献に残されています。その中心には中性子星が高速で回転して短時間の周期的な放射を示す「パルサー」が存在しています。かに星雲は光の全てのエネルギー帯で明るく輝いています。そのため宇宙物理学で最も盛んに研究されている天体の一つであり「標準光源天体」とも呼ばれています。一方、高エネルギーガンマ線では明るさが何倍も変化する現象が近年新たに発見され、内山研究室ではその変動の起源を探る研究も行なっています。
*2) H.E.S.S.望遠鏡群
H.E.S.S.望遠鏡群は、1912年に宇宙線を発見し1936年ノーベル賞を受賞したVictor Franz Hessにちなんで名付けられ、アフリカ南西部のナミビアの約1800mの高地に設置され、2002年から国際コラボレーションにて運用されています。主鏡口径12mのチェレンコフ望遠鏡4台で構成される「望遠鏡群」で、数十ギガ電子ボルトから数十テラ電子ボルトまでの「超高エネルギーガンマ線」を測定可能です。2012年には、中央に主鏡口径28mを有する世界最大のチェレンコフ望遠鏡も加わりました。ヨーロッパ諸国や日本を含んだ13カ国から260人以上の科学者が参加する国際共同研究プロジェクトであり、日本からは立教大学および東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構が参画しています。
3.発表論文
・雑誌名:『Nature Astronomy』
・論文タイトル:「Resolving the Crab pulsar wind nebula at teraelectronvolt energies」
・著者:Abdalla, H., et al. (H.E.S.S. Collaboration)
・URL:https://doi.org/10.1038/s41550-019-0910-0
4.その他
本研究の成果は、JSPS科研費基盤研究(A)「H.E.S.S.望遠鏡とフェルミ衛星による宇宙線加速機構の解明」(研究代表者: 内山泰伸、課題番号: 18H03722)および新学術領域研究「宇宙硬エックス線・ガンマ線検出テクノロジーの異分野への展開」(研究代表者: 高橋忠幸、課題番号: 18H05463)により助成を受けたものです。