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蚊取り線香の原料として知られる 「除虫菊」 のゲノム解読に世界で初めて成功

令和1年12月4日

大日本除虫菊株式会社

蚊取り線香の原料として知られる 「除虫菊」 のゲノム解読に世界で初めて成功

 大日本除蟲菊株式会社(所在地:大阪府大阪市西区、代表取締役社長:上山直英)は、公益財団法人サントリー生命科学財団(所在地:京都府相楽郡精華町、理事長:垣見吉彦)と共同で、除虫菊(シロバナムシヨケギク、Tanacetum cinerariifolium)のゲノム解析に取り組み、今般、世界で初めてそのドラフトゲノム配列を得ることに成功しました。なお、大日本除蟲菊株式会社は、日本における殺虫剤産業のパイオニアで、ブランド名“金鳥”として知られ、一方、公益財団法人サントリー生命科学財団は、独自の次世代シーケンサー解析手法を開発し、2014年にビール香味を左右する「ホップ」のゲノム解読に貢献するなど、バイオテクノロジーの分野で先進的な研究活動に携わっています。
 本研究成果は、Nature Research社の国際総合科学誌 “Scientific Reports” 電子版に、「蚊取り線香の天然産原料であるシロバナムシヨケギク(Tanacetum cinerariifolium)のドラフトゲノム」の表題で2019年12月3日に掲載されました。

【研究の背景】
 デイジーに似た白色の花をつける多年生キク科植物の除虫菊は、ダルマチア地方(現 バルカン半島)が原産地と言われ、日本には19世紀末に渡来しました。大日本除蟲菊株式会社(以後、当社)の創業者である上山英一郎は、自らの手で「除虫菊栽培書」を発刊して栽培・普及に努めるとともに、除虫菊粉に糊を加えて棒状に成型し、1890年に世界初の棒状蚊取り線香を発明しました。その後、蚊取り線香の形状は渦巻型に改良され、120年以上経過した現在でも世界的に殺虫剤の主流である蚊取り線香の原型として受け継がれています。また、除虫菊に含まれる天然殺虫成分・ピレトリン類に関わる化学的研究を礎として数多くの合成ピレスロイドが開発され、殺虫剤産業の今日の発展に繋がりました。その歴史の過程で当社が果たした役割は大きく、当社黎明期の「除虫菊栽培書」、棒状蚊取り線香、渦巻型蚊取り線香及びその製造装置は、その歴史的価値が認められて2013年に国立科学博物館の「未来技術遺産」として登録され、さらに2017年には日本化学会から化学遺産の認定を受けています。
 今日、除虫菊に関する研究は分子生物学の分野に拡がり、当社がその発見に携わったピレトリンエステル化酵素など、天然ピレトリン類産生に関わるいくつかの生合成酵素が発表されています。しかしながら、その分子基盤は未だ十分解明されているとは言えず、当社と公益財団法人サントリー生命科学財団は、その全体像の把握に有用な情報を得るためゲノム解析に着手しました。

【研究の内容】
1)研究用試料としては、広島県尾道市立美術館の野外で栽培されている野生型除虫菊
  の成長した生体を採取しました。この品種は、当社の上山英一郎が和歌山県で初め
  て栽培を開始した除虫菊をルーツとするものです。この試料につきゲノム解析を行
  った結果、2,016,451個のスキャホールドに基づき、60,080個の推定遺伝子を含
  む約71億塩基対のドラフトゲノム配列を得ることに成功しました。
2)転移因子(TE)の解析から、TEがゲノム配列の約34%を占め、ゲノムサイズ巨大化
  の一因と考えられました。さらに、そのなかでsire 及びoryco クレードのTEが除虫
  菊に特異的な進化系統で増幅したことが示唆されました。
3)InterProScanを用いた遺伝子の機能予測の結果、生体防御に関連する毒性タンパク質
  (例えば、リボソーム不活性化タンパク質)、シグナル伝達に関連するタンパク質
  (例えば、ヒスチジンキナーゼ)、代謝酵素(例えば、リポキシゲナーゼ、アシル
  CoAデヒドロゲナーゼ/オキシゲナーゼ、及びP450)が除虫菊ゲノムにおいて増幅し
  ていることが分りました。

【今後の期待】
1)今後、更なるゲノム解析やトランスクリプトーム解析等のアプローチによって遺伝子
  の機能解析が進み、天然ピレトリン類産生機構の全体像が明らかになれば、天然ピレ
  トリン類を高濃度に含有する品種や生育期間が短縮された品種の作出など、新しい
  栽培技術への応用が可能となります。
2)天然ピレトリン類は人畜に対する毒性が低く安全性に優れていますが、魚類や甲殻類
  等の水生生物に対しては他のタイプの殺虫剤と同様に毒性を有するという課題があり
  ます。本研究成果ならびに蓄積・整備されたゲノム情報を活用し、遺伝子操作等の技
  術を駆使することによって、人畜安全性が一層改善されるとともに水生生物に対して
  もやさしい天然ピレトリン類の創製に繋がることが期待されます。
3)近年、ピレスロイド系化合物に対して抵抗性を示す害虫が出現し、虫媒介感染症に対
  するリスクが世界的に高まっています。天然ピレトリン類は、合成ピレスロイドに較
  べると害虫における抵抗性の発達が遅い傾向があると言われていますので、この特性
  を遺伝子操作等の技術によって増幅することができれば、抵抗性問題の解決に大きく
  貢献できるものと考えられます。また、このような遺伝子操作等の技術は、病原体に
  対する耐性などの新たな価値を付与させる手段として有用であり、除虫菊品種改良の
  加速化に役立つものと期待されます。

論文情報:
Yamashiro T., Shiraishi A., Satake H. & Nakayama K.
Draft genome of Tanacetum cinerariifolium, the natural source of mosquito coil.
Scientific Reports (2019) doi:10.1038/s41598-019-54815-6
論文のURL: https://www.nature.com/articles/s41598-019-54815-6



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