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連載インタビュー 未来をつなぐ、明日の司会者 〜Story of  Tomorrow〜 第1回

ハセガワエスティ代表取締役会長 長谷川高士さん、代表取締役社長 阿久津五代子さん[私は妄想のアスリート]

##結婚式はハプニングの連続。全てを受け入れることから始まる

――新年号の『婦人画報』(2020年2月号 ハースト婦人画報社)に掲載されていた「福を呼ぶ人」という記事を興味深く読みました。阿久津さんと役者、別所哲也さんとの対談でした。その中で別所さんが舞台で「日々、お客様の気持ちを体感、共感しています」と話され、お客様の思いや期待や熱意の高まりを毎回、舞台で感じておられることについて「同じ瞬間は二度と来ない新しい出合い」と表現されていました。これは阿久津さんや長谷川さんをはじめ、ハセガワエスティの司会者のお仕事にも通じるのではないですか?

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阿久津五代子さん(以下、敬称略)確かにそうですね。私たちの仕事も新郎新婦さんはもちろんのこと、結婚式に参列される、全てのお客様との出合いが一期一会です。別所さんはラジオのパーソナリティを長く勤められていますが、司会者としていつも感心することは本質のつかみ方です。何気ない会話の中で、とても深いエピソードや感想、コメントが自然に出ていらっしゃる。やはりそれは本質をしっかり掴んでいないと出来ないこと。

まさしく、これは私達の司会業にも通じます。芝居や映画と違い、たとえ進行が決まっていても、結婚式の会場では全く想像もできないことが起きます。毎回お客様が異なる会場でお客様の気持ちの流れや本質を捉えられていないと司会者は瞬時に反応できないし、何か言葉を発してもお客様に共感してもらえません。

―――たとえばハプニングが起きた時に、プロとしてどうかわすか、どう間をもたせるか。そういうコツを訓練する研修などはあるのですか。

 
 
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長谷川高士さん(以下、長谷川) かわす、というよりは起きたことはもう仕方がないんです。それでもやるしかないですから。「どうしよう」と困っている自分を受け入れるしかない。自分が困っている姿をお客様に見せたって構わない。なぜなら相手も「どうしよう」と感じているわけですから。おそらく、別所さんのラジオの生放送も一緒だと思います。何か思いがけないことが起きた場合、隠そうとかつなごうと意図するよりも、目の前で起きている生の空気感を面白がり、自分をさらけ出して、その場で必要なものを受け入れることの連続なのではないでしょうか。

##本質はお客様の中にある。それをどう引き出すか

――なるほど。お二人は長谷川さんが別所さんの披露宴の司会をなさったことがきっかけで、今も変わらずご縁が続いているのだとか。素敵なパーティのご様子は『心にしみた セレブウエディング』(長谷川高士著 主婦の友社)に書かれていますが、司会者の役割として今振り返って印象に残っていることがあれば教えてください。

長谷川 披露宴の席で自分達へのお祝いの言葉をゲストの方から頂戴するよりも、パーティに参加しているお一人お一人が「自分の家族や夫婦について、どんなことを考えているか、感じているかを聞きたい」とお二人がリクエストされたことです。そこで私が20人近い方にテーブルインタビューを試みることになりました。最初は正直、「討論会とかシンポジウムみたいな空気になったらどうしよう」と内心戸惑いましたね。ところが、いざ始めてみると、即興にもかかわらず、皆さんが本当にじーんとくる、いいお話をしてくださるんですよ! ひとりが家族やパートナーへの思いやエピソードを語り始めると、それが火種となり、耳を傾ける周りの人の心に温かい灯が自然に点っていくような……。そんな素敵な時間が1時間以上も続いたんです。その場にいらした全ての方が「自分にとっての家族とは何だろう?」「大切な人って誰だろう?」と、我が事と受け止め、思いを馳せていらしたようでした。そんなに長い時間、人の話にじっと耳を傾けられるってすごいことですよ。それがとても心に残っています。

―――それは長谷川さん自身のファシリテーション力といいますか、ゲストの内側にある「本質」を引き出す能力に左右されるものではないのですか?

長谷川 本質はお客様の中にあるんです。皆さんが素晴らしかったからこそ、生まれた時間だと思います。

阿久津 と同時に、司会者の役割はある時はしゃべり手であり、ある時は女優であり、ある時はコピーライターであり、ある時はその場の空気をつくる監督であり……と一人何役もこなす、エンターテナーでなければなりません。

## 「ここだけは敵わない」お互いの強みとは?

――何役もこなせる司会者になるために必要な資質があれば教えてください。

阿久津 性格がいいこと。思いやりがあって謙虚で上品なことでしょうか。ちょっと素敵だけど、普通の人が理想です。

――最後に。阿久津さんと長谷川さん。同業者として、互いの「ここだけは敵わない」と思う点はどんなところですか? それぞれお聞かせください。

阿久津 私が長谷川に敵わないのは瞬発力ですね。瞬時に面白いコメントを発してその場を笑わせたり、なごませたりできること。瞬間的に「適切なこと」を言えるベテラン司会者は多いですが、人を笑わせるほど面白いことを瞬時に言える司会者はなかなかいません。
たとえば、お笑い芸人の中には目の前の人を一回けなして最後に褒めて気分を上げるとか、自分を貶めて自虐ネタで笑いをとる方が少なくありませんが、長谷川の場合、誰のことも貶さないし、誰一人傷つけることもしない。なのに会場が笑いで包まれる。

――長谷川さんから見た、阿久津さんの「ここだけは真似できない」という強みは何ですか?

長谷川 緻密に計算されたシナリオづくり。まるで推理小説のように細部に至るまで計算してパーツを組み立てていくような緻密さがあるんです。本番でその力を最大限発揮するために、何パターンもシミュレーションをしている。空間や時間の流れを計算した設計図の書ける人です。いつも考えている。

阿久津 確かに、私はいつも考えているんですよ。高校生の頃からアガサ・クリスティやシャーロック・ホームズにハマっていました。
読み終わった後も「この小説に登場した殺人者は10年後どうなっているだろうか」などとずっと考え続けているようなところがあります。言ってみれば、妄想のアスリートですね(笑)。
長谷川 私の場合は常に考えることができなくて、最後にパーンとジャンプするだけ。

阿久津 でも、常に緊張していなければ高くジャンプ出来ないのでは? どうすれば人がドキドキするだろう? 何を言えば人は喜んでくれるだろう? とその場の空気を捉えようと、いつも緊張状態にあるからできることのように思えます。

―――絶好のタイミングでスポットライトが当たるよう、気持ちを張り巡らせている?

長谷川 そうかもしれません。スポットライトで思い出したんですけどね。司会業に就く前に、和モノのお芝居をしていたことがあるんです。所属の役者さんたちは皆、踊りができたり、歌が上手だったり、それぞれ芸達者。だからそう簡単に私にいい役などめぐってこないわけです。役がついたと思えば、ポストとか(笑)。でも、ただ立っていればいいポストの役なのに、どうしたら中心的な役割になれるかと必死でした。たとえどんな端役でも毎回全身全霊で目立てるように工夫していましたね。

阿久津 私から見てOFUKUは、おそらく6歳で母を亡くした時から、そうだったかもしれません。きっと誰も自分のことを気にしてくれない大人たちに囲まれて、どうすれば愛されるか、どうすれば周りの大人に認めてもらえるか、そんなことばかりを考えている子どもだったのかもしれないですね。それが司会業にも映画『OFUKU』にもつながっていったのだと思います。

(取材・文/砂塚美穂)

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