【2020×東洋大学】女性アスリートの健康と競技の両立めざし、戦える体をつくる教育プログラムを
[20/07/21]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2020年7月21日
東洋大学
<NewsLetter Vol.09>
東洋大学は研究成果である「知」で2020へ貢献します
女性アスリートの健康と競技の両立めざし、
戦える体をつくる教育プログラムを
本ニュースレターでは、東洋大学が2020年から未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。
今回は、ライフデザイン学部健康スポーツ学科 岩本 紗由美 教授に、女性アスリートの健康問題と健全な育成への取り組みについて聞きました。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O1-Tp6519Mn 】
ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 岩本 紗由美 教授
Point
1.女性アスリート特有の健康問題「三主徴」とは
2.早期発見のためのアプリと予防のための教育プログラムづくり
3.選手自身が自分で考えてコンディショニングを行うために
女性アスリート特有の健康問題「三主徴」とは
岩本先生は、女性アスリート育成のための研究開発に取り組んでおられると伺いました。女性アスリートがパフォーマンス向上を目指す中で健康上の課題となる「三主徴」について教えてください。
「女性アスリートの三主徴(さんしゅちょう)/Female athlete triad」とは、女性アスリート特有の健康問題として 「利用可能エネルギー不足」、「月経障害」、 「骨量低下」 の3つの代表的症状が国際オリンピック委員会(IOC)からも発表されています(※)。7〜8年ほど前から日本のスポーツ界でも着目されるようになり、最近は指導者講習会などでもよく取り上げられているトピックです。アスリートが体重を意識しすぎるあまり、食事摂取が過度に不足したり、過剰な練習量などにより、「IN」と「OUT」のエネルギーバランスが取れず、利用可能エネルギーが少なくなることで、人としての様々な機能に支障をきたし、それが女性の場合は「月経機能」に異常が起きることとなります。月経障害はホルモン分泌の異常から起こり、そのホルモン分泌は骨代謝にも影響していますので、ホルモンが正常に機能しないことで骨量低下に至ると言われています。特に体重コントロールが必要とされる陸上長距離選手や、新体操やフィギュアスケートなど審美系の競技の女性アスリートに多くみられる健康問題として注目されているのです。
※(参考文献)Mountjoy M, Sundgot-Borgen J, Burke L, Carter S, Constantini N, Lebrun C, Meyer N, Sherman R, Steffen K, Budgett R, Ljungqvist A.(2014)The IOC consensus statement: beyond the Female Athlete Triad-Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S).British Journal of Sports Medicine 48(7):491-7.doi:10.1136/bjsports-2014-093502.
岩本先生が、実際に、女性アスリートのコンディショニングディレクターを務められる中での見解としてはいかがでしょうか。
確かに「女性アスリートの三主徴」は予防しなければならない健康問題です。しかし難しいのは、月経障害の原因は様々な要因が関わっており、すべてが利用可能エネルギー不足によって起きるとは現時点では断定できないことです。ホルモン生成過程は非常に複雑で ストレスに敏感に反応することは知られています。月経障害=栄養不足と安易に判定できませんので、食べれば解決するという単純な問題ではありません。更に、月経障害が起きている時点でのエネルギー摂取量や消費量の情報のみでは判断するための情報量が不十分で、初経前からの生活パターンも影響しているようです。
正確な原因を明らかにするために、どのような知見が必要になりますか。
月経機能や骨代謝については、ホルモン分泌の影響が大きく関わる領域です。そのため、経験豊富な専門医から経時的に診ていただくのが良いと思いますし、スポーツ現場においては個別の記録を蓄積していくことにより、個人の傾向を把握することが、最も大切ではないかと考えています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O2-fMzenhHB 】
早期発見のためのアプリと予防のための教育プログラムづくり
岩本先生は、このような症状が見られる選手に対して、どのような指導をされているのでしょうか。
私が手がけているのは、いわば選手が「健康」と「競技」を両立するためのコンディショニング指導です。そのひとつが、私が委員長を務める東洋大学アスリートサポート委員会が制作したシステム「あすログ」。これは、睡眠時間や体重、体脂肪率、血圧、月経、排便、気分、体の痛み、運動内容などを記録し、女性アスリートが日々の自己管理を行うために開発したものです。当初、このシステムは、東洋大学の学生アスリートを対象として構築したもので、気分の良くない日のアラートが数日続いたり、SOSアラートが出たりすると、私がその学生に直接連絡をするという仕組みになっていました。2019年12月、このシステムがiPad用アプリ「あすログ」として公開されてからは、「さくらちゃん」というキャラクターが、栄養やトレーニングなどのアドバイスを行っています。この「あすログ」を活用してみて副次的に分かったことは、数値の面で選手の体調が良ければ良い記録が出るというものではなく、むしろ、良い記録には「気分が良い」ことが影響していることです。女性アスリートには自分が不調の時の数値傾向や、良い記録を出した時の状態を把握するためにも、ぜひ、このツールを活用してほしいと思います。
現在進行している「女性アスリートの三主徴の早期発見と予防のための教育プログラム」研究についても、東洋大学の各領域の専門家(医師、管理栄養士や運動生理学者)と連携しながらチームサポートの構築を進めています。ここでいう予防のための教育とは、主に、1.必要なエネルギー量、2.ボディイメージ、3.筋量の維持について、選手自身が見直し、考える力を養うことが主な目的です。むやみな栄養摂取や減量を進めたりせず、あくまで選手が自発的に、パフォーマンス向上のために必要なものを見直す材料を提供することで、戦える体づくりをサポートしていくことを基本としています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O3-0PxoW50m 】
あすログ キャラクター「さくらちゃん」
選手自身が自分で考えてコンディショニングを行うために
女性アスリート自身がコンディショニングを行うことを重視されているということですね。
三主徴に陥る女性アスリートは、減量に固執してしまい、目標が「体重××キロになること」になってしまうケースも多いのですが、何を目標として競技に取り組んでいるのかを忘れずに、自ら正しい選択をして、健康問題を予防できる行動がとれるようになってほしいと思っています。競技における「目指すゴール」を考え、現状とのギャップを埋めていくことが、アスリートとしての取り組みだと考えています。誤った方向に進まないためには、早期からのコンディショニング教育が必要であることも実感しています。2021年には、この教育プログラムのワークブックを一部の中学校・高校にも配布予定です。これが新たな一歩になることを願っています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O4-6NG56u5c 】
岩本 紗由美(いわもと さゆみ)
東洋大学 ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 教授/博士(スポーツ科学)
専門分野:スポーツ科学
研究キーワード:アスレティック・トレーニング、スポーツ外傷・障害予防、
フィジカルトレーニング指導
著書:写真とイラストで学べるレジスタンストレーニングの基礎の基礎 [慧文社] ほか
【本News Letterのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。】
https://www.toyo.ac.jp/s/letter2020/
東洋大学
<NewsLetter Vol.09>
東洋大学は研究成果である「知」で2020へ貢献します
女性アスリートの健康と競技の両立めざし、
戦える体をつくる教育プログラムを
本ニュースレターでは、東洋大学が2020年から未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。
今回は、ライフデザイン学部健康スポーツ学科 岩本 紗由美 教授に、女性アスリートの健康問題と健全な育成への取り組みについて聞きました。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O1-Tp6519Mn 】
ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 岩本 紗由美 教授
Point
1.女性アスリート特有の健康問題「三主徴」とは
2.早期発見のためのアプリと予防のための教育プログラムづくり
3.選手自身が自分で考えてコンディショニングを行うために
女性アスリート特有の健康問題「三主徴」とは
岩本先生は、女性アスリート育成のための研究開発に取り組んでおられると伺いました。女性アスリートがパフォーマンス向上を目指す中で健康上の課題となる「三主徴」について教えてください。
「女性アスリートの三主徴(さんしゅちょう)/Female athlete triad」とは、女性アスリート特有の健康問題として 「利用可能エネルギー不足」、「月経障害」、 「骨量低下」 の3つの代表的症状が国際オリンピック委員会(IOC)からも発表されています(※)。7〜8年ほど前から日本のスポーツ界でも着目されるようになり、最近は指導者講習会などでもよく取り上げられているトピックです。アスリートが体重を意識しすぎるあまり、食事摂取が過度に不足したり、過剰な練習量などにより、「IN」と「OUT」のエネルギーバランスが取れず、利用可能エネルギーが少なくなることで、人としての様々な機能に支障をきたし、それが女性の場合は「月経機能」に異常が起きることとなります。月経障害はホルモン分泌の異常から起こり、そのホルモン分泌は骨代謝にも影響していますので、ホルモンが正常に機能しないことで骨量低下に至ると言われています。特に体重コントロールが必要とされる陸上長距離選手や、新体操やフィギュアスケートなど審美系の競技の女性アスリートに多くみられる健康問題として注目されているのです。
※(参考文献)Mountjoy M, Sundgot-Borgen J, Burke L, Carter S, Constantini N, Lebrun C, Meyer N, Sherman R, Steffen K, Budgett R, Ljungqvist A.(2014)The IOC consensus statement: beyond the Female Athlete Triad-Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S).British Journal of Sports Medicine 48(7):491-7.doi:10.1136/bjsports-2014-093502.
岩本先生が、実際に、女性アスリートのコンディショニングディレクターを務められる中での見解としてはいかがでしょうか。
確かに「女性アスリートの三主徴」は予防しなければならない健康問題です。しかし難しいのは、月経障害の原因は様々な要因が関わっており、すべてが利用可能エネルギー不足によって起きるとは現時点では断定できないことです。ホルモン生成過程は非常に複雑で ストレスに敏感に反応することは知られています。月経障害=栄養不足と安易に判定できませんので、食べれば解決するという単純な問題ではありません。更に、月経障害が起きている時点でのエネルギー摂取量や消費量の情報のみでは判断するための情報量が不十分で、初経前からの生活パターンも影響しているようです。
正確な原因を明らかにするために、どのような知見が必要になりますか。
月経機能や骨代謝については、ホルモン分泌の影響が大きく関わる領域です。そのため、経験豊富な専門医から経時的に診ていただくのが良いと思いますし、スポーツ現場においては個別の記録を蓄積していくことにより、個人の傾向を把握することが、最も大切ではないかと考えています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O2-fMzenhHB 】
早期発見のためのアプリと予防のための教育プログラムづくり
岩本先生は、このような症状が見られる選手に対して、どのような指導をされているのでしょうか。
私が手がけているのは、いわば選手が「健康」と「競技」を両立するためのコンディショニング指導です。そのひとつが、私が委員長を務める東洋大学アスリートサポート委員会が制作したシステム「あすログ」。これは、睡眠時間や体重、体脂肪率、血圧、月経、排便、気分、体の痛み、運動内容などを記録し、女性アスリートが日々の自己管理を行うために開発したものです。当初、このシステムは、東洋大学の学生アスリートを対象として構築したもので、気分の良くない日のアラートが数日続いたり、SOSアラートが出たりすると、私がその学生に直接連絡をするという仕組みになっていました。2019年12月、このシステムがiPad用アプリ「あすログ」として公開されてからは、「さくらちゃん」というキャラクターが、栄養やトレーニングなどのアドバイスを行っています。この「あすログ」を活用してみて副次的に分かったことは、数値の面で選手の体調が良ければ良い記録が出るというものではなく、むしろ、良い記録には「気分が良い」ことが影響していることです。女性アスリートには自分が不調の時の数値傾向や、良い記録を出した時の状態を把握するためにも、ぜひ、このツールを活用してほしいと思います。
現在進行している「女性アスリートの三主徴の早期発見と予防のための教育プログラム」研究についても、東洋大学の各領域の専門家(医師、管理栄養士や運動生理学者)と連携しながらチームサポートの構築を進めています。ここでいう予防のための教育とは、主に、1.必要なエネルギー量、2.ボディイメージ、3.筋量の維持について、選手自身が見直し、考える力を養うことが主な目的です。むやみな栄養摂取や減量を進めたりせず、あくまで選手が自発的に、パフォーマンス向上のために必要なものを見直す材料を提供することで、戦える体づくりをサポートしていくことを基本としています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O3-0PxoW50m 】
あすログ キャラクター「さくらちゃん」
選手自身が自分で考えてコンディショニングを行うために
女性アスリート自身がコンディショニングを行うことを重視されているということですね。
三主徴に陥る女性アスリートは、減量に固執してしまい、目標が「体重××キロになること」になってしまうケースも多いのですが、何を目標として競技に取り組んでいるのかを忘れずに、自ら正しい選択をして、健康問題を予防できる行動がとれるようになってほしいと思っています。競技における「目指すゴール」を考え、現状とのギャップを埋めていくことが、アスリートとしての取り組みだと考えています。誤った方向に進まないためには、早期からのコンディショニング教育が必要であることも実感しています。2021年には、この教育プログラムのワークブックを一部の中学校・高校にも配布予定です。これが新たな一歩になることを願っています。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202007172159-O4-6NG56u5c 】
岩本 紗由美(いわもと さゆみ)
東洋大学 ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 教授/博士(スポーツ科学)
専門分野:スポーツ科学
研究キーワード:アスレティック・トレーニング、スポーツ外傷・障害予防、
フィジカルトレーニング指導
著書:写真とイラストで学べるレジスタンストレーニングの基礎の基礎 [慧文社] ほか
【本News Letterのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。】
https://www.toyo.ac.jp/s/letter2020/