ヒトノロウイルス不活化効果を混合物で評価する新手法を開発
[20/07/21]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
ヒトノロウイルス不活化効果を混合物で評価する新手法を開発
2020年7月21日
花王株式会社(社長・澤田道隆)安全性科学研究所・ハウスホールド研究所は、北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学? 片山和彦教授、および慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座 佐藤俊朗教授との共同研究にて、これまで代替ウイルスでの評価が一般的であった混合物での不活化※1効果を、ヒトノロウイルスそのもので評価できる新手法を開発しました。
この評価法を用いた実験の結果、従来ヒトノロウイルスの不活化に効果があると報告されていた次亜塩素酸ナトリウムのほか、一部の酸素系漂白混合物(過炭酸ナトリウム、界面活性剤、漂白活性化剤を含んだ混合物)で、ヒトノロウイルスの増殖が抑制されることを確認しました。
本研究成果は、「日本薬学会 第140回年会(2020年3月25〜28日・京都)」にて発表しました。
※1 ウイルスの感染性を失わせること
背景
冬季に流行するノロウイルスは、食中毒の主要な原因のひとつです。手指や食品などを介して感染し、ヒトの腸管で増殖することで、嘔吐や下痢、腹痛などを引き起こします。厚生労働省の調査によると、平成30年の日本の食中毒患者のうち、最も多かったのはノロウイルスによるものでした。世界でも、発展途上国を中心に多くの人々がノロウイルスによる食中毒を発症しています。
ノロウイルスにはワクチンや根本的な治療法がないため、食中毒や流行の拡大を防ぐには、ノロウイルスを不活化できる消毒剤等の開発が求められています。
しかしながら、これまで、人に感染する“ヒトノロウイルス”の除去に有効な消毒剤の開発は困難でした。なぜなら、ヒトノロウイルスを試験管内培養によって増殖・感染させる技術がなく、ヒトノロウイルスの不活化効果を直接的に確認する方法がなかったためです。現状では、ネコに感染するネコカリシウイルス(FCV)や、マウスに感染するマウスノロウイルス(MNV)などの、ヒトノロウイルスと近縁の代替ウイルスを用いた評価によって、ヒトノロウイルスへの効果が推測されています。ただし、FCVは酸性条件下で、MNVはアルコール処理で、それぞれ容易に不活化することが報告されており、ヒトノロウイルスとは性質が異なることが指摘されています。
このような状況の中、2016年、腸管オルガノイド※2を用いることでヒトノロウイルスの培養を可能にした研究報告が発表されました。この報告を応用した新しい研究によって、実際のヒトノロウイルスで、単独の不活化剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)は有効性が評価できたと報告されました。
※2 ヒトの腸管上皮組織に似た構造をもつ小型の三次元組織。ノロウイルスのみならず、腸内細菌や腸の病気の研究での活用も期待されています。別名エンテロイド。
複数の成分からなる混合物におけるヒトノロウイルス評価法を開発
ある不活化剤のヒトノロウイルスへの有効性を評価する際には、まず評価したい不活化剤サンプルとヒトノロウイルスを混合して一定時間反応させたものを腸管オルガノイドに添加し、ヒトノロウイルスを感染させます。感染後に、PCRを実施し、腸管オルガノイド内でヒトノロウイルスの遺伝子数が増えていないことがわかれば、その不活化剤がヒトノロウイルスを不活化したことを確認できます。
一般的に、製品は単独ではなく複数の成分からなる混合物です。不活化剤としても評価したいこれらのサンプルには、腸管オルガノイドに悪影響を及ぼす成分(界面活性剤など)が含まれることがあります。そのため、ヒトノロウイルスとサンプルを混ぜた溶液を腸管オルガノイドに添加した際、腸管オルガノイドがダメージを受けてしまい、不活化効果を評価できないことが数多くありました。そこで今回花王は、北里大学および慶應義塾大学と共同で研究を行ない、腸管オルガノイドに悪影響を与えずに、ヒトノロウイルスを用いて複雑な混合物の不活化効果を評価する方法の構築をめざしました。
さまざまな方法を検討する中、ヒトノロウイルスを混合したサンプルに、血清成分※3を添加することで腸管オルガノイドに悪影響を及ぼす成分が捕捉され、さらに超遠心※4することで、それらの成分を分離できることを見いだしました。この手法で、混合物中の一部の成分による腸管オルガノイドへのダメージを抑えられることが明らかとなり(図1)、世界で初めて※5、複雑な混合物のヒトノロウイルスの不活化効果評価法の構築に成功しました。
※3 多くのタンパク質が含まれており、腸管オルガノイドに有害な分子の吸着に寄与したと考えられます
※4 毎分数万回転以上の回転数で遠心力を発生させ、混合物の成分を分離する方法
※5 生命科学、生物医学を検索できる世界で代表的な科学文献データベースPubMedを用いて、“human norovirus” and “organoid or enteroid” and “inactivation or inactivated” で検索。「複数の成分からなる混合物による不活化」について該当なし (2020年6月1日現在、花王調べ)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202007202242-O4-EL6BPp2Z】
一部の酸素系漂白混合物でヒトノロウイルスが不活化
花王は、構築した評価法を用いて、多数の混合物や化合物の不活化効果を評価しました。腸管オルガノイドに未処理のヒトノロウイルスを感染させると増殖することから、この増殖の抑制を基準として不活化剤の有効性を判断しました。
その結果、従来ヒトノロウイルスの不活化に効果があると報告されていた塩素系漂白剤の構成成分である次亜塩素酸ナトリウムで37℃で1分以上処理した場合のみならず、一部の酸素系漂白混合物(過炭酸ナトリウム、界面活性剤、漂白活性化剤を含んだ混合物)で水溶液中で37℃で10分以上処理した場合にも、ヒトノロウイルスの増殖が抑制されることを確認しました (図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202007202242-O5-QK9N6Pw8】
まとめ
花王は、今回開発したヒトノロウイルスに対する不活化評価法を活用し、ヒトノロウイルスに対して効果を示す技術を開発することで、広く社会に貢献していきます。
2020年7月21日
花王株式会社(社長・澤田道隆)安全性科学研究所・ハウスホールド研究所は、北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学? 片山和彦教授、および慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座 佐藤俊朗教授との共同研究にて、これまで代替ウイルスでの評価が一般的であった混合物での不活化※1効果を、ヒトノロウイルスそのもので評価できる新手法を開発しました。
この評価法を用いた実験の結果、従来ヒトノロウイルスの不活化に効果があると報告されていた次亜塩素酸ナトリウムのほか、一部の酸素系漂白混合物(過炭酸ナトリウム、界面活性剤、漂白活性化剤を含んだ混合物)で、ヒトノロウイルスの増殖が抑制されることを確認しました。
本研究成果は、「日本薬学会 第140回年会(2020年3月25〜28日・京都)」にて発表しました。
※1 ウイルスの感染性を失わせること
背景
冬季に流行するノロウイルスは、食中毒の主要な原因のひとつです。手指や食品などを介して感染し、ヒトの腸管で増殖することで、嘔吐や下痢、腹痛などを引き起こします。厚生労働省の調査によると、平成30年の日本の食中毒患者のうち、最も多かったのはノロウイルスによるものでした。世界でも、発展途上国を中心に多くの人々がノロウイルスによる食中毒を発症しています。
ノロウイルスにはワクチンや根本的な治療法がないため、食中毒や流行の拡大を防ぐには、ノロウイルスを不活化できる消毒剤等の開発が求められています。
しかしながら、これまで、人に感染する“ヒトノロウイルス”の除去に有効な消毒剤の開発は困難でした。なぜなら、ヒトノロウイルスを試験管内培養によって増殖・感染させる技術がなく、ヒトノロウイルスの不活化効果を直接的に確認する方法がなかったためです。現状では、ネコに感染するネコカリシウイルス(FCV)や、マウスに感染するマウスノロウイルス(MNV)などの、ヒトノロウイルスと近縁の代替ウイルスを用いた評価によって、ヒトノロウイルスへの効果が推測されています。ただし、FCVは酸性条件下で、MNVはアルコール処理で、それぞれ容易に不活化することが報告されており、ヒトノロウイルスとは性質が異なることが指摘されています。
このような状況の中、2016年、腸管オルガノイド※2を用いることでヒトノロウイルスの培養を可能にした研究報告が発表されました。この報告を応用した新しい研究によって、実際のヒトノロウイルスで、単独の不活化剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)は有効性が評価できたと報告されました。
※2 ヒトの腸管上皮組織に似た構造をもつ小型の三次元組織。ノロウイルスのみならず、腸内細菌や腸の病気の研究での活用も期待されています。別名エンテロイド。
複数の成分からなる混合物におけるヒトノロウイルス評価法を開発
ある不活化剤のヒトノロウイルスへの有効性を評価する際には、まず評価したい不活化剤サンプルとヒトノロウイルスを混合して一定時間反応させたものを腸管オルガノイドに添加し、ヒトノロウイルスを感染させます。感染後に、PCRを実施し、腸管オルガノイド内でヒトノロウイルスの遺伝子数が増えていないことがわかれば、その不活化剤がヒトノロウイルスを不活化したことを確認できます。
一般的に、製品は単独ではなく複数の成分からなる混合物です。不活化剤としても評価したいこれらのサンプルには、腸管オルガノイドに悪影響を及ぼす成分(界面活性剤など)が含まれることがあります。そのため、ヒトノロウイルスとサンプルを混ぜた溶液を腸管オルガノイドに添加した際、腸管オルガノイドがダメージを受けてしまい、不活化効果を評価できないことが数多くありました。そこで今回花王は、北里大学および慶應義塾大学と共同で研究を行ない、腸管オルガノイドに悪影響を与えずに、ヒトノロウイルスを用いて複雑な混合物の不活化効果を評価する方法の構築をめざしました。
さまざまな方法を検討する中、ヒトノロウイルスを混合したサンプルに、血清成分※3を添加することで腸管オルガノイドに悪影響を及ぼす成分が捕捉され、さらに超遠心※4することで、それらの成分を分離できることを見いだしました。この手法で、混合物中の一部の成分による腸管オルガノイドへのダメージを抑えられることが明らかとなり(図1)、世界で初めて※5、複雑な混合物のヒトノロウイルスの不活化効果評価法の構築に成功しました。
※3 多くのタンパク質が含まれており、腸管オルガノイドに有害な分子の吸着に寄与したと考えられます
※4 毎分数万回転以上の回転数で遠心力を発生させ、混合物の成分を分離する方法
※5 生命科学、生物医学を検索できる世界で代表的な科学文献データベースPubMedを用いて、“human norovirus” and “organoid or enteroid” and “inactivation or inactivated” で検索。「複数の成分からなる混合物による不活化」について該当なし (2020年6月1日現在、花王調べ)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202007202242-O4-EL6BPp2Z】
一部の酸素系漂白混合物でヒトノロウイルスが不活化
花王は、構築した評価法を用いて、多数の混合物や化合物の不活化効果を評価しました。腸管オルガノイドに未処理のヒトノロウイルスを感染させると増殖することから、この増殖の抑制を基準として不活化剤の有効性を判断しました。
その結果、従来ヒトノロウイルスの不活化に効果があると報告されていた塩素系漂白剤の構成成分である次亜塩素酸ナトリウムで37℃で1分以上処理した場合のみならず、一部の酸素系漂白混合物(過炭酸ナトリウム、界面活性剤、漂白活性化剤を含んだ混合物)で水溶液中で37℃で10分以上処理した場合にも、ヒトノロウイルスの増殖が抑制されることを確認しました (図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202007202242-O5-QK9N6Pw8】
まとめ
花王は、今回開発したヒトノロウイルスに対する不活化評価法を活用し、ヒトノロウイルスに対して効果を示す技術を開発することで、広く社会に貢献していきます。