手指が本来そなえている、感染症に対するバリア機能を発見
[20/12/14]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
2020年12月14日
花王株式会社
花王株式会社(社長・澤田道隆)パーソナルヘルスケア研究所、生物科学研究所、解析科学研究所は、ヒトの手指には生来、感染症の原因となる菌やウイルスを減少させる機能、すなわちバリア機能が備わっており、風邪やインフルエンザのかかりやすさに関連していることを世界で初めて※1明らかにしました。また、手指のバリア機能には個人差があること、さらに、このバリア機能には手汗から分泌される乳酸が寄与していることを解明しました。
これまでの手指衛生の手段である手洗いやアルコール消毒の菌やウイルスの除去・不活化効果は、一過性のものであるのに対して、生来の手指のバリア機能は恒常的であることが特徴的です。このバリア機能の発見は、生来の手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案につながるものです。
本研究の詳細は、プレプリント※2としてmedRxivにて公開しています※3。
※1 生命科学、生物医学を検索できる世界で代表的な科学文献データベースPubMedを用いて、“Risk of Infection” and “Hand, Palm, Finger” で検索。「手指の菌やウイルスに対する抗微生物力と感染症の罹患性との関連」について該当なし(2020年11月30日現在、花王調べ)。
※2 プレプリント:専門家による検証(査読)がされる前の段階の論文。
※3 https://medrxiv.org/cgi/content/short/2020.12.09.20246306v1 現在査読ありのジャーナルにも投稿しており、内容は一部変更になる可能性があります。
背景
感染症の伝播において接触感染は重要な感染経路です。接触感染は、感染者と直接的に接触、または、汚染されたドアノブやトイレ、スマートフォンなどを介して間接的に未感染者が接触することによる感染経路を指します。手指は、ものを持つ運動機能のほかに、触ることで対象物を理解する知覚機能も持っているため、接触感染で重要な役割を果たします。
ヒトは菌やウイルスと長く共存してきたため、進化の過程で感染症を防御する多様な免疫機能を獲得してきました。抗体は体内の免疫機能のひとつですが、花王は、ヒトと体外との界面、すなわちヒトの表層の感染防御機構に着目しました。特に手指は、前述したようにヒトと外界との重要な接点であるため、菌やウイルスに対抗する力を獲得している可能性が考えられます。
そこで、感染症にかかりにくいヒトとかかりやすいヒトで、手指にどのような違いがあるのかを検討することから研究に着手しました。
研究成果
(1) 感染症にかかりやすいヒト・かかりにくいヒトの手指の違いの追究から、手指には菌やウイルスに対抗する「手指バリア」が備わっている、そのバリア機能には個人差がある、との着想を得ました。
予備的な試験として、感染症にかかりにくい意識のあるヒトとかかりやすい意識のあるヒト数名を選別し、手指に大腸菌を塗布して、直後と3分後の手指の菌の状態を調べました。その結果、かかりにくい意識のあるヒトの手指では3分後に菌が大幅に減少していました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O1-MpK3Hgl0】
図1 感染症にかかりやすい意識のあるヒトとかかりにくい意識のあるヒトの手指バリアの違い
寒天培地によるハンドスタンプ法による、大腸菌塗布直後と3分後の評価(大腸菌を緑色に発色させています)。
感染症にかかりにくい意識のあるヒトでは、大腸菌塗布3分後に菌数が大幅に減っています。
次に、6名のヒトの手指表面の成分を採取して、抗菌・抗ウイルス活性(菌やウイルスを減少させる効果)を評価したところ、手指表面の成分には、大腸菌だけでなく、黄色ブドウ球菌やインフルエンザウイルス(H3N2)を減少させる効果があることが確認できました。また、この効果には個人差があり、いずれの菌・ウイルスに対しても高い効果を持つヒトや、その逆のヒトがいることもわかりました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O2-X5xXI3r9】
図2 手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性
さらに、10名のヒトを対象にした数日間の調査で、手指表面の成分の抗菌性の日内・日間変動を検証しました。抗菌性が高い5名と低い5名に分けたところ、その関係が維持されていることがわかりました(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O11-0rRviULd】
これらの結果から、ヒトの手指には菌やウイルスを減少させる機能が備わっていて、その機能には個人差があり、その機能が恒常的に高いヒトがいるとの着想を得ました。この機能を「手指バリア」と名づけ、さらに研究を深めました。
(2)手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることを定量的に確認しました。
20〜49歳の健常な男女から、感染症にかかりやすいヒト※4 55名、かかりにくいヒト54名の計109名を選抜し、手指表面の成分を採取して、その抗菌活性を調べました。その結果、評価に用いた大腸菌と黄色ブドウ球菌のいずれに対しても、感染症にかかりにくいヒトの成分の抗菌活性が有意に高いことがわかりました(図4)。すなわち、手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることが強く示唆されました。
※4 かかりやすいヒトは、過去3年間にインフルエンザに2回以上かかり、過去1年間に風邪の発症が3回以上のヒト。かかりにくいヒトは、いずれも0回のヒト。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O4-843RNGBv】
図4 感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係
(3)手指バリア活性に重要な成分は「乳酸」でした。
20〜40代の男女54名の手指表面の成分を採取し、黄色ブドウ球菌とインフルエンザウイルス(H3N2)を用いて抗菌・抗ウイルス活性と相関の高い化合物の特定を試みました。その結果、その両方に対して相関がある複数の化合物の中でも特に、手汗から分泌される乳酸が重要であることがわかりました(図5)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O5-YLWvBbUD】
図5 手指上での乳酸量と、手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係
乳酸水溶液を、手指に存在する範囲で乳酸量を変えて手指に塗布した実験では、乳酸量が多くなるほど抗菌活性が向上することを確認しました(図6)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O10-1qr8LphJ】
今後の展望
これまでの手指衛生の手段である手洗いやアルコール消毒の菌やウイルスの除去・不活化効果は、一過性のものであるのに対して、生来の手指のバリア機能は恒常的であることが特徴的です。この手指バリアの発見は、生来の手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案につながるものです。今後は、手指の感染症に対するバリア機能をより深く研究し、新しい衛生習慣の提案を通じて、世界の人々を感染とその不安から守る感染予防習慣の実現に貢献していきます。
花王株式会社
花王株式会社(社長・澤田道隆)パーソナルヘルスケア研究所、生物科学研究所、解析科学研究所は、ヒトの手指には生来、感染症の原因となる菌やウイルスを減少させる機能、すなわちバリア機能が備わっており、風邪やインフルエンザのかかりやすさに関連していることを世界で初めて※1明らかにしました。また、手指のバリア機能には個人差があること、さらに、このバリア機能には手汗から分泌される乳酸が寄与していることを解明しました。
これまでの手指衛生の手段である手洗いやアルコール消毒の菌やウイルスの除去・不活化効果は、一過性のものであるのに対して、生来の手指のバリア機能は恒常的であることが特徴的です。このバリア機能の発見は、生来の手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案につながるものです。
本研究の詳細は、プレプリント※2としてmedRxivにて公開しています※3。
※1 生命科学、生物医学を検索できる世界で代表的な科学文献データベースPubMedを用いて、“Risk of Infection” and “Hand, Palm, Finger” で検索。「手指の菌やウイルスに対する抗微生物力と感染症の罹患性との関連」について該当なし(2020年11月30日現在、花王調べ)。
※2 プレプリント:専門家による検証(査読)がされる前の段階の論文。
※3 https://medrxiv.org/cgi/content/short/2020.12.09.20246306v1 現在査読ありのジャーナルにも投稿しており、内容は一部変更になる可能性があります。
背景
感染症の伝播において接触感染は重要な感染経路です。接触感染は、感染者と直接的に接触、または、汚染されたドアノブやトイレ、スマートフォンなどを介して間接的に未感染者が接触することによる感染経路を指します。手指は、ものを持つ運動機能のほかに、触ることで対象物を理解する知覚機能も持っているため、接触感染で重要な役割を果たします。
ヒトは菌やウイルスと長く共存してきたため、進化の過程で感染症を防御する多様な免疫機能を獲得してきました。抗体は体内の免疫機能のひとつですが、花王は、ヒトと体外との界面、すなわちヒトの表層の感染防御機構に着目しました。特に手指は、前述したようにヒトと外界との重要な接点であるため、菌やウイルスに対抗する力を獲得している可能性が考えられます。
そこで、感染症にかかりにくいヒトとかかりやすいヒトで、手指にどのような違いがあるのかを検討することから研究に着手しました。
研究成果
(1) 感染症にかかりやすいヒト・かかりにくいヒトの手指の違いの追究から、手指には菌やウイルスに対抗する「手指バリア」が備わっている、そのバリア機能には個人差がある、との着想を得ました。
予備的な試験として、感染症にかかりにくい意識のあるヒトとかかりやすい意識のあるヒト数名を選別し、手指に大腸菌を塗布して、直後と3分後の手指の菌の状態を調べました。その結果、かかりにくい意識のあるヒトの手指では3分後に菌が大幅に減少していました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O1-MpK3Hgl0】
図1 感染症にかかりやすい意識のあるヒトとかかりにくい意識のあるヒトの手指バリアの違い
寒天培地によるハンドスタンプ法による、大腸菌塗布直後と3分後の評価(大腸菌を緑色に発色させています)。
感染症にかかりにくい意識のあるヒトでは、大腸菌塗布3分後に菌数が大幅に減っています。
次に、6名のヒトの手指表面の成分を採取して、抗菌・抗ウイルス活性(菌やウイルスを減少させる効果)を評価したところ、手指表面の成分には、大腸菌だけでなく、黄色ブドウ球菌やインフルエンザウイルス(H3N2)を減少させる効果があることが確認できました。また、この効果には個人差があり、いずれの菌・ウイルスに対しても高い効果を持つヒトや、その逆のヒトがいることもわかりました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O2-X5xXI3r9】
図2 手指表面の成分の抗菌・抗ウイルス活性
さらに、10名のヒトを対象にした数日間の調査で、手指表面の成分の抗菌性の日内・日間変動を検証しました。抗菌性が高い5名と低い5名に分けたところ、その関係が維持されていることがわかりました(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O11-0rRviULd】
これらの結果から、ヒトの手指には菌やウイルスを減少させる機能が備わっていて、その機能には個人差があり、その機能が恒常的に高いヒトがいるとの着想を得ました。この機能を「手指バリア」と名づけ、さらに研究を深めました。
(2)手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることを定量的に確認しました。
20〜49歳の健常な男女から、感染症にかかりやすいヒト※4 55名、かかりにくいヒト54名の計109名を選抜し、手指表面の成分を採取して、その抗菌活性を調べました。その結果、評価に用いた大腸菌と黄色ブドウ球菌のいずれに対しても、感染症にかかりにくいヒトの成分の抗菌活性が有意に高いことがわかりました(図4)。すなわち、手指バリアが感染症のかかりにくさに寄与していることが強く示唆されました。
※4 かかりやすいヒトは、過去3年間にインフルエンザに2回以上かかり、過去1年間に風邪の発症が3回以上のヒト。かかりにくいヒトは、いずれも0回のヒト。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O4-843RNGBv】
図4 感染症のかかりにくさと手指表面成分の抗菌活性の関係
(3)手指バリア活性に重要な成分は「乳酸」でした。
20〜40代の男女54名の手指表面の成分を採取し、黄色ブドウ球菌とインフルエンザウイルス(H3N2)を用いて抗菌・抗ウイルス活性と相関の高い化合物の特定を試みました。その結果、その両方に対して相関がある複数の化合物の中でも特に、手汗から分泌される乳酸が重要であることがわかりました(図5)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O5-YLWvBbUD】
図5 手指上での乳酸量と、手指表面成分の抗菌・抗ウイルス活性との関係
乳酸水溶液を、手指に存在する範囲で乳酸量を変えて手指に塗布した実験では、乳酸量が多くなるほど抗菌活性が向上することを確認しました(図6)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202012118462-O10-1qr8LphJ】
今後の展望
これまでの手指衛生の手段である手洗いやアルコール消毒の菌やウイルスの除去・不活化効果は、一過性のものであるのに対して、生来の手指のバリア機能は恒常的であることが特徴的です。この手指バリアの発見は、生来の手指のバリア機能を高めるという新しい衛生習慣の提案につながるものです。今後は、手指の感染症に対するバリア機能をより深く研究し、新しい衛生習慣の提案を通じて、世界の人々を感染とその不安から守る感染予防習慣の実現に貢献していきます。