葉緑体とミトコンドリアのゲノムを維持する機構を解明
[21/05/28]
提供元:共同通信PRワイヤー
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科学雑誌「Communications Biology」オンライン版に掲載
2021年5月28日
立教大学
前橋工科大学
富山県立大学
報道関係 各位
小田原真樹元立教大学理学部助教(現在、理化学研究所研究員)、関根靖彦立教大学理学部教授、中村建介前橋工科大学教授、大島拓富山県立大学准教授による共同研究グループは、次世代シークエンシングにより植物の葉緑体とミトコンドリアのゲノム(以下、オルガネラゲノム)に生じた変異を網羅的に同定して全容を明らかにすることにより、オルガネラゲノムの安定性を維持する機構を解明しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202105275486-O2-BAN4WJ08】
図1.次世代シークエンス法による変異の同定(左)と変異株ミトコンドリアゲノムに生じた変異のマップ(右)
今回、共同研究グループは、次世代シークエンシングとインフォマティクスを併せた手法によりオルガネラゲノムを高重複度で解析し、相同組換え機構が欠損した場合に生じる変異をゲノム全体から網羅的かつ高感度に検出しました。その結果、検出された変異のほとんどは、ゲノム構造の再編成を引き起こす異常な組換えであり、さらにその組換えがゲノム上で位置的、方向的に大きく偏っていることが明らかになりました。また、このゲノムではDNA複製が異常になっていることも明らかになりました。これらの結果は、オルガネラゲノムに変異が起きやすい領域が存在し、その変異にはDNA複製が関わっていること、そして相同組換えがDNA複製に関わっていることを示唆します。本研究は科学雑誌「Communications Biology」オンライン版(日本時間:2021年5月27日18時)に掲載されました。
1. 研究の背景
葉緑体やミトコンドリアは独自の遺伝情報(ゲノム)を持っており、そこには光合成や呼吸を行うために必要な遺伝子が含まれています。ゲノムは決して安定ではなく、活性酸素や紫外線等のDNA損傷因子が原因となり、DNAを複製する過程などで、変異や異常な組換え(再編成)といった不安定化が起きます。植物の場合、ミトコンドリアや葉緑体ゲノムの変異は成長に大きな影響を与え、ヒトの場合、ミトコンドリアゲノムの変異はさまざまな病気にも関係します。このため、ミトコンドリアや葉緑体ゲノムの維持機構は重要な研究課題となってきました。これまでの研究から、植物の葉緑体やミトコンドリアにおいては、長い相同な配列のDNAの組換えに基づいてDNAの損傷を修復する「相同組換え修復」という機構が異常な組換えを抑制することによりゲノムの安定性を維持していることがわかっていました。しかしながら、異常な組換えがゲノム上のどの位置にどれくらいの頻度で起きているか、また、異常な組換えの他にどのような種類の変異を抑制しているかは不明でした。
2. 研究手法と成果
共同研究グループは今回、中村教授が独自に開発してきた次世代シーケンスデータ解析プログラムMPSmapをベースにして、次世代シークエンシングとインフォマティクスにより、異常な組換えを含むさまざまな種類の変異(挿入、欠失、異常な組換え、Uターン)をゲノム全体から正確かつ網羅的に検出する方法を開発しました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202105275486-O3-v4LkD1aK】
図2.次世代シークエンシングとインフォマティクスによるゲノム上の変異の同定
150塩基対のシークエンスリード配列中に変異が存在する場合、1回目のマッピングでリードの後半に多くのミスマッチが生じる。このようなミスマッチを含む領域と一致する場所をゲノムから探す(図左)。この手法により、ゲノム上のさまざまな変異の種類(挿入、欠失、異常な組換え、Uターン)と場所を決定することができる(図右)。
この手法を用いて、モデル植物ヒメツリガネゴケのオルガネラ相同組換え修復に関わる遺伝子の変異体を解析した結果、これまで他の手法で検出してきた変異に加え、多くの変異をオルガネラゲノム全体から高感度に検出することに成功しました。検出された変異を分類した結果、変異のほとんどはゲノム構造を大きく変化させる20塩基対以下の短い相同配列間の異常な組換え(再編成)であり、挿入や欠失の変異は少ないことが明らかになりました。さらに、これらの組換えが起こる部位はオルガネラゲノム上で偏って分布しており、その組換えの方向も大きく偏っていること、また、それら組換えの特性は変異体の種類によって異なることも明らかになりました。これは、相同組換え修復が主に異常な組換えを抑制しており、その経路は複数であること示しています。今回の解析では、変異体のオルガネラゲノム複製も異常になっており、ゲノム複製における相同組換え修復の関与も明らかになりました。一方で、葉緑体とミトコンドリアで同様のゲノムの異常が観察されたことは、これらのオルガネラが共通するゲノム安定性維持機構を持つことを示唆します。
3. 今後の期待
今回開発された手法はオルガネラに限らずさまざまな生物のゲノムからさまざまな種類の変異を網羅的に同定することが可能であり、ゲノムの異常を詳細かつ効率的に解析する方法として有用です。オルガネラにおける組換えは、オルガネラの遺伝子改変技術や農業上有用な細胞質雄性不稔形質と深く関わっています。今回の研究でオルガネラにおける組換え機構を理解することにより、オルガネラ遺伝子改変技術や雄性不稔形質をコントロールするための組換え技術への応用が期待されます。一方で、オルガネラゲノムの複製機構は依然として不明な点が多く、今回の結果がオルガネラゲノム複製機構の解明に新たな展開をもたらすことが期待できます。
4. 論文情報
Ultra-deep sequencing reveals dramatic alteration of organellar genomes in Physcomitrella patens due to biased asymmetric recombination
Masaki Odahara, Kensuke Nakamura, Yasuhiko Sekine, and Taku Oshima
Communications Biology
5. 補足説明
[1]次世代シークエンシング
数百万本という大量のDNAの塩基配列を並列して決定する方法。1 T塩基対(ヒトゲノム[3.2 G塩基対]の約300倍)近くの塩基配列を一度に決定することが可能。
[2]細胞質雄性不稔
細胞質に原因があり、雄の花粉が不稔になる形質。多くの場合ミトコンドリアDNAにコードされる異常な遺伝子が原因となっている。自殖をする植物においては、この形質を利用することにより交配が容易になる。
2021年5月28日
立教大学
前橋工科大学
富山県立大学
報道関係 各位
小田原真樹元立教大学理学部助教(現在、理化学研究所研究員)、関根靖彦立教大学理学部教授、中村建介前橋工科大学教授、大島拓富山県立大学准教授による共同研究グループは、次世代シークエンシングにより植物の葉緑体とミトコンドリアのゲノム(以下、オルガネラゲノム)に生じた変異を網羅的に同定して全容を明らかにすることにより、オルガネラゲノムの安定性を維持する機構を解明しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202105275486-O2-BAN4WJ08】
図1.次世代シークエンス法による変異の同定(左)と変異株ミトコンドリアゲノムに生じた変異のマップ(右)
今回、共同研究グループは、次世代シークエンシングとインフォマティクスを併せた手法によりオルガネラゲノムを高重複度で解析し、相同組換え機構が欠損した場合に生じる変異をゲノム全体から網羅的かつ高感度に検出しました。その結果、検出された変異のほとんどは、ゲノム構造の再編成を引き起こす異常な組換えであり、さらにその組換えがゲノム上で位置的、方向的に大きく偏っていることが明らかになりました。また、このゲノムではDNA複製が異常になっていることも明らかになりました。これらの結果は、オルガネラゲノムに変異が起きやすい領域が存在し、その変異にはDNA複製が関わっていること、そして相同組換えがDNA複製に関わっていることを示唆します。本研究は科学雑誌「Communications Biology」オンライン版(日本時間:2021年5月27日18時)に掲載されました。
1. 研究の背景
葉緑体やミトコンドリアは独自の遺伝情報(ゲノム)を持っており、そこには光合成や呼吸を行うために必要な遺伝子が含まれています。ゲノムは決して安定ではなく、活性酸素や紫外線等のDNA損傷因子が原因となり、DNAを複製する過程などで、変異や異常な組換え(再編成)といった不安定化が起きます。植物の場合、ミトコンドリアや葉緑体ゲノムの変異は成長に大きな影響を与え、ヒトの場合、ミトコンドリアゲノムの変異はさまざまな病気にも関係します。このため、ミトコンドリアや葉緑体ゲノムの維持機構は重要な研究課題となってきました。これまでの研究から、植物の葉緑体やミトコンドリアにおいては、長い相同な配列のDNAの組換えに基づいてDNAの損傷を修復する「相同組換え修復」という機構が異常な組換えを抑制することによりゲノムの安定性を維持していることがわかっていました。しかしながら、異常な組換えがゲノム上のどの位置にどれくらいの頻度で起きているか、また、異常な組換えの他にどのような種類の変異を抑制しているかは不明でした。
2. 研究手法と成果
共同研究グループは今回、中村教授が独自に開発してきた次世代シーケンスデータ解析プログラムMPSmapをベースにして、次世代シークエンシングとインフォマティクスにより、異常な組換えを含むさまざまな種類の変異(挿入、欠失、異常な組換え、Uターン)をゲノム全体から正確かつ網羅的に検出する方法を開発しました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202105275486-O3-v4LkD1aK】
図2.次世代シークエンシングとインフォマティクスによるゲノム上の変異の同定
150塩基対のシークエンスリード配列中に変異が存在する場合、1回目のマッピングでリードの後半に多くのミスマッチが生じる。このようなミスマッチを含む領域と一致する場所をゲノムから探す(図左)。この手法により、ゲノム上のさまざまな変異の種類(挿入、欠失、異常な組換え、Uターン)と場所を決定することができる(図右)。
この手法を用いて、モデル植物ヒメツリガネゴケのオルガネラ相同組換え修復に関わる遺伝子の変異体を解析した結果、これまで他の手法で検出してきた変異に加え、多くの変異をオルガネラゲノム全体から高感度に検出することに成功しました。検出された変異を分類した結果、変異のほとんどはゲノム構造を大きく変化させる20塩基対以下の短い相同配列間の異常な組換え(再編成)であり、挿入や欠失の変異は少ないことが明らかになりました。さらに、これらの組換えが起こる部位はオルガネラゲノム上で偏って分布しており、その組換えの方向も大きく偏っていること、また、それら組換えの特性は変異体の種類によって異なることも明らかになりました。これは、相同組換え修復が主に異常な組換えを抑制しており、その経路は複数であること示しています。今回の解析では、変異体のオルガネラゲノム複製も異常になっており、ゲノム複製における相同組換え修復の関与も明らかになりました。一方で、葉緑体とミトコンドリアで同様のゲノムの異常が観察されたことは、これらのオルガネラが共通するゲノム安定性維持機構を持つことを示唆します。
3. 今後の期待
今回開発された手法はオルガネラに限らずさまざまな生物のゲノムからさまざまな種類の変異を網羅的に同定することが可能であり、ゲノムの異常を詳細かつ効率的に解析する方法として有用です。オルガネラにおける組換えは、オルガネラの遺伝子改変技術や農業上有用な細胞質雄性不稔形質と深く関わっています。今回の研究でオルガネラにおける組換え機構を理解することにより、オルガネラ遺伝子改変技術や雄性不稔形質をコントロールするための組換え技術への応用が期待されます。一方で、オルガネラゲノムの複製機構は依然として不明な点が多く、今回の結果がオルガネラゲノム複製機構の解明に新たな展開をもたらすことが期待できます。
4. 論文情報
Ultra-deep sequencing reveals dramatic alteration of organellar genomes in Physcomitrella patens due to biased asymmetric recombination
Masaki Odahara, Kensuke Nakamura, Yasuhiko Sekine, and Taku Oshima
Communications Biology
5. 補足説明
[1]次世代シークエンシング
数百万本という大量のDNAの塩基配列を並列して決定する方法。1 T塩基対(ヒトゲノム[3.2 G塩基対]の約300倍)近くの塩基配列を一度に決定することが可能。
[2]細胞質雄性不稔
細胞質に原因があり、雄の花粉が不稔になる形質。多くの場合ミトコンドリアDNAにコードされる異常な遺伝子が原因となっている。自殖をする植物においては、この形質を利用することにより交配が容易になる。