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細菌叢から細菌ゲノムを個別取得するデータ解析フレームワーク「SMAGLinker」を開発

シングルセルとメタゲノムの統合による高精度ゲノムデータの実現

 

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202110131515/_prw_PT1fl_xs3UcLUA.png

早稲田大学理工学術院の細川 正人(ほそかわ まさひと)准教授、竹山 春子(たけやま はるこ)教授、bitBiome株式会社※1(代表取締役社長:佐藤公彦、以下bitBiome)らの共同研究グループは、腸内細菌や皮膚常在菌などのヒト常在菌を単離培養することなく分析し、多様な細菌株のゲノムを正確かつ網羅的に獲得する「メタゲノム解析※2とシングルセル解析※3の統合データ解析法:シングルセルメタゲノミクス」を実現するためのフレームワーク「SMAGLinker」を開発しました。

本研究成果は、Springer NatureグループのBioMed Central社が発刊するオープンアクセス科学誌『Microbiome』に2021年10月12日(火)に掲載されました。

論文名:Recovery of strain-resolved genomes from human microbiome through an integration framework of single-cell genomics and metagenomics

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

ヒト常在菌はヒトの健康と深く関わり、これらの細菌の理解は新たな医療・産業の創出に向け重要です。しかし、細菌の多くは培養が難しく、その機能理解には多くの時間と労力が必要とされてきました。近年では、細菌を培養することなく、細菌群集からDNAを抽出して遺伝子配列を直接分析する「メタゲノム解析」が注目され、広く用いられるようになっています。しかしながら、多量の遺伝子断片の集合であるメタゲノムから構築された細菌ゲノムは、一部の配列が欠損することや近縁細菌の配列が混入することがあり、正確性に欠けているため、似た配列をもつ細菌株の識別が困難でした。

 

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

研究グループは、従来のメタゲノム解析のデータを有効活用し、正確な細菌ゲノム情報の獲得を実現するために、シングルセル解析と統合したデータ解析法「シングルセルメタゲノミクス」を開発しました。シングルセル解析は研究グループが以前より開発してきたもので、細胞1つずつ個別にゲノム配列を決定する特徴を持ち、近縁細菌・細菌株間の識別が可能です。しかし、シングルセル解析単独では得られたゲノムが不完全であることが多い課題も残されていました。本手法では、ヒト常在菌サンプルからメタゲノム解析とシングルセル解析をそれぞれ実行してデータを得たのち、シングルセルデータを参照先としてメタゲノムデータの分別を行い、細菌ごとに配列を割り当てます。最後に、ペアリングされた両データを統合することで、広範なメタゲノムデータと特異性の高いシングルセルデータの良さを足し合わせて、データを相互に補完した完全性の高いゲノム配列を出力します(図1)。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202110131515-O2-p0p5t6sf

図1:シングルメタゲノミクスを実現するフレームワークSMAGLinkerの流れ

 

実際に、15種類の細菌を含む模擬サンプル、糞便由来腸内細菌、皮膚常在菌を対象とし、シングルセルメタゲノミクスの有効性を評価しました。新規手法は従来法よりも正確な遺伝子配列の割当が実行されており、すべてのサンプルにおいて完全性が高い高品質な細菌ゲノムを数多く出力しました(図2)。皮膚常在菌の解析では、メタゲノム単独解析では、ブドウ球菌(Staphylococcus hominis)のゲノムが1つ取得されましたが、類縁菌の遺伝子配列が多く混入し、ゲノムサイズが推定値と大きく離れていたことから、ゲノム配列の誤った構築が行われたことが示唆されました。シングルセルメタゲノミクスを用いて取得データを再解析したところ、推定サイズと一致するゲノムが2つ取得され、測定サンプル中には皮膚常在菌として2種類のブドウ球菌株が存在することが明らかとなりました。また、各細菌株が固有のプラスミド※4を有し、異なる形質を持つことが示唆されました(図3)。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202110131515-O3-45A5oj8O

 

図2:新規手法は腸内細菌および皮膚常在菌の分析時に多種類・高品質の細菌ゲノムを取得できる

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202110131515-O4-b14Xw6T1



図3:新規手法シングルセルメタゲノミクスでは、皮膚常在菌サンプルから複数株のブドウ球菌のゲノムを混在させることなく正確に個別取得できる

 

(3)研究の波及効果や社会的影響

現在、ヒト常在菌の研究が世界中で活発に進んでいますが、同じ細菌種であっても外部からの遺伝子の取り込みや変異により異なる形質を持つことが明らかになっています。本研究で開発したシングルセルメタゲノミクスにより、ヒト常在菌ゲノムが正確に決定されることで、個々人によって異なる細菌株の特性を正しく理解し、ヒトとの相互作用による健康や疾患との関わりについての理解が進むことが期待されます。

細川正人准教授は、早稲田大学関係ベンチャー bitBiomeを2018年に創業し、シングルセル解析技術の提供と研究開発を展開しています。本研究成果は、bitBiomeにおいて、ヒト常在菌を標的とした新たな治療・診断法の開発や、常在菌が持つ酵素の化学工学・食品産業などへの利用に向けた研究開発の推進に活用されます。

 

(4)今後の課題

ヒト常在菌に比べて多種多様な細菌が存在する土壌細菌などの分析時には、メタゲノム配列の割当のために、より多くのシングルセルゲノム情報を必要とします。このようなサンプルにも適用していくため、大規模なシングルセル解析を実行可能な技術開発を継続して行います。

 

(5)研究者のコメント

培養という従来の細菌叢研究に必須のプロセスをスキップして、全ゲノムを網羅的に獲得できることにより、そのサンプルの中で「誰が何をしているのか?」を予測することができます。正確なデータが迅速に得られることで、細菌叢研究のスピードや戦略性を革新したデータ駆動型の応用研究アプローチが実現できると考えています。

 

(6)用語解説

※1 bitBiome

bitBiomeは、早稲田大学で開発された微生物を対象としたシングルセルゲノム解析手法をもとに設立されたベンチャー企業。早稲田大学オープンイノベーション戦略研究機構 革新的生物資源利用リサーチ・ファクトリーに参画。bitBiomeのミッションは、独自のシングルセルゲノム解析技術bit-MAP®により、地球上のあらゆる微生物の設計図=ゲノムデータを最高解像度で蓄積した微生物遺伝子データベースを構築し、データからモノを創り出す革新的バイオ生産プラットフォームを展開すること。

※2 メタゲノム解析

細菌叢から分離・培養を経ずに抽出したゲノムDNAをもとに、DNA塩基配列を解読する手法。得られた塩基配列から、細菌叢に存在する各種細菌の系統組成と遺伝子機能組成などを調べることに優れる。

※3 シングルセルゲノム解析

細菌1細胞から抽出したゲノムDNAをもとに、増幅などの前処理を行い、DNA塩基配列を解読する手法。得られた塩基配列から、各細菌のドラフトゲノム(ゲノム配列の概要)を得ることに優れる。

※4 プラスミド

染色体とは別に自律的に自己複製を行い、娘細胞に分配されるDNA分子の総称。

 

(7)論文情報

雑誌名:Microbiome

論文名:Recovery of strain-resolved genomes from human microbiome through an integration framework of single-cell genomics and metagenomics

執筆者名(所属機関名):Koji Arikawa1, Keigo Ide2,3, Masato Kogawa4, Tatsuya Saeki1, Takuya Yoda1, Taruho Endoh1, Ayumi Matsuhashi1, Haruko Takeyama2,3,4,5, Masahito Hosokawa1,2,4

所属機関名:

1. bitBiome株式会社

2. 早稲田大学 先進理工学研究科 生命医科学専攻

3. 産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ

4. 早稲田大学 ナノライフ創新研究機構

5. 早稲田大学 先進生命動態研究所

掲載日(現地時間):2021年10月12日(火)

掲載日(日本時間):2021年10月12日(火)
DOI:https://doi.org/10.1186/s40168-021-01152-4

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