テフロン™のケミカルリサイクルに成功 循環型社会構築に向けた技術利用へ期待
[22/08/22]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
〜フッ素系ホ?リマーからCaF2を回収することか?可能に〜
帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授の柳原尚久は、耐薬品性ならびに耐熱性に優れているが故にケミカルリサイクルには不適切であったテフロン™を効率良く鉱物化することに成功しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202208165143-O2-pXhxkA1w】
本研究成果によってフッ素系ポリマーから蛍石の主成分であるCaF2を回収することが可能となり、循環型社会の構築に向けた技術利用が期待されます。
【研究成果のポイント】
〇化学的・熱的に非常に安定したポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン™)のケミカルリサイクルに成功。
〇従来法と比べて反応が容易で簡単。反応に必要な主な試薬は、汎用薬品である水酸化ナトリウムNaOH。
〇溶融状態にあるNaOHを用いてテフロン™を分解。その分解生成物を水に溶かし、最終的にフッ化カルシウムCaF2として回収することに成功。
〇テフロン™以外のフッ素系ポリマーも同様の方法で鉱物化に成功。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202208165143-O4-K68tTM0H】
スキーム: テフロンTMのケミカルリサイクル
これまでにテフロン™以外のフッ素系ポリマーは、酸素O2、過酸化水素H2O2あるいは過マンガン酸カリウムKMnO4といった酸化剤を共存させた超臨界水あるいは亜臨界水を用いて分解できることが既に報告されていました。しかしながら、フッ素系ポリマーの中で最大の需要があり、最も融点の高いテフロン™(融点321˚C)に関する鉱物化の研究報告はなく、今回の研究成果が初めての成功事例となります。
【研究の背景】
炭素原子Cとフッ素原子Fから形成されるフッ素系ポリマーは、耐熱性・耐薬品性・非粘着性・難燃性など、他の汎用樹脂には見られない優れた特性を有しているため、フッ素系ポリマーがコーティングされたフライパンや自動車用部品(ベアリング、オイルシール、ATセンサー電線等)、半導体製造装置(洗浄薬液ラインチューブ、ウエハー搬送部材等)や電線被覆(ロボット、パソコン、通信、高周波対応、航空機電気系統等)、光ファイバーケーブル被覆材など、日用品から最先端素材に至るまで非常に幅広い分野で利用されています。一方で、大量生産・大量消費された汎用ポリマー同様、フッ素系ポリマーといえども長い年月が過ぎればいずれは大量廃棄される運命にあります。フッ素系ポリマーは焼却が可能であるものの、耐熱性に優れているため廃棄する際には高温で焼却しなければなりません。さらに、焼却に際して生成されるフッ化水素HFガスの影響により焼却炉剤の劣化が避けられません。したがって、廃棄されたフッ素系ポリマーの大半は埋め立て処分されています。
フッ素系ポリマーをはじめとするすべての有機フッ素化合物はフッ化水素酸を原料として化学的に合成されます。このフッ化水素酸は蛍石(フッ化カルシウムCaF2を主成分とする鉱物)に濃硫酸を加えて加熱し、発生するHFを水に吸収させて得られます。このように有機フッ素化合物の合成には蛍石が必要不可欠です。しかし、日本国内には蛍石の鉱脈は現存せず、海外からの輸入に依存しています。ところが、蛍石の産出国は世界的にも限定されており、総生産量の7割強を中国(約57%)とメキシコ(約17%)が占めています。特に中国産の蛍石は純度が高く日本にとって主要な輸入先となっていますが、蛍石の需要増加にともない乱獲が進み、産出量が減少することで、今後の輸出制限が懸念されています。フッ素系ポリマーに限らず半導体生産にも欠かせないフルオロカーボンの合成原料となる蛍石の輸入が特定国に偏在し、制約されている事実は、最先端技術をリードする日本にとって憂慮すべき要因の一つとなるかも知れません。今回、柳原教授は蛍石の産出減少や枯渇が問題視されている現状を踏まえ、フッ素資源をケミカルリサイクルする技術を開発し、フッ素系ポリマーから蛍石の主成分であるCaF2を回収することに成功しました。
【研究の内容】
今回開発された技術の基盤には、既に報告されているアルカリ金属水酸化物溶融塩を用いた酸化物超伝導体の低温合成に用いられた方法が応用されています。従来、超伝導酸化物の合成には高温・高圧合成法が大きな成果を挙げてきました。例えば、ある種の超伝導酸化物を作製しようとすると、1,000〜1,200℃、酸素圧4〜10GPa(約4万〜10万気圧)の高温・高圧条件が必要となります。この高温・高圧法は特殊で大がかりな装置を必要とする点にデメリットがあり、汎用性に欠けていました。この高温・高圧法に取って代わる形で発案された方法がアルカリ金属水酸化物溶融塩であり、低温(250℃〜400℃)かつ試料の大量合成を可能にしました。
柳原教授はこの超伝導酸化物の低温合成に使用された水酸化ナトリウムNaOH(融点318℃)をテフロン™の分解に応用しました。種々の実験条件を検討した結果、テフロン™に対して過剰の水酸化ナトリウムを用いることにより、500℃において3時間で分解することが確認されました。この反応で水酸化ナトリウムを過剰に用いている理由は、水酸化ナトリウム自身はテフロン™と反応する反応物であると同時に、この反応系の溶剤としての役割を担っているからです。最終的に、実験に用いたテフロン™の初期質量に対して約74%の収率でCaF2を得ることができました。
この分解反応は2段階で進行します。第1段階の反応は溶融水酸化ナトリウムによるテフロン™の分解です。所定量のテフロン™と水酸化ナトリウムをアルミナのるつぼに入れ、500℃で3時間反応させます。この反応の分解生成物はすべて固体であり、この固体の主成分は粉末X線回折によりフッ化ナトリウムNaFと炭酸ナトリウムNa2CO3であることが確認されています。この生成物中には、未反応の水酸化ナトリウムが残存していますが、これらのナトリウム塩はすべて水溶性です。この混合物を用いて次は第2段階の反応を行います。分解生成物がすべて溶解している水溶液のpHを弱酸性に調製後、塩化カルシウムCaCl2水溶液を滴下します。その結果、白色沈殿物が得られます。この沈殿物を乾燥後、第1段階目と同様、粉末X線回折を行うことにより、白色沈殿物が目的物質であるCaF2と同定されました。このようにして、汎用試薬を用い、かつ簡便な化学反応を利用することで、テフロン™から短時間でCaF2を選択的に回収する技術が開発されました。
分解反応のメカニズムは残念ながら現段階では解明されておりません。しかしながら、テフロン™の分解には溶融した水酸化ナトリウムから生じる酸化物イオンO2-、あるいは過酸化物イオンO22-が重要な役割を果たしていると推察されます。ただし、これらの酸化物イオンのみでは分解が進行していないと考えられます。なぜなら、CaF2が高収率で得られる反応温度は、テフロン™の融点321˚Cならびに水酸化ナトリウムの融点318℃より100℃以上も高い高温であるからです。この温度領域では、テフロン™自身が熱分解を起こし、テフロン™の主鎖がランダムに切断され、その結果としてオリゴマーやオリゴマーよりさらに分子量の小さい低分子が生成されると考えられます。そして、酸化物イオンがこれらの低分子化合物を攻撃し、
その結果CaF2が生成されると推測されます。したがって、溶融水酸化ナトリウムによるテフロン™の分解は、水酸化ナトリウムに由来する酸化物イオンとテフロン™自身の熱分解がもたらす相乗作用の結果であると考えられます。
【成果の意義】
溶融水酸化ナトリウムはテフロン™のみならず、他のフッ素樹脂にも有効であることが本研究で明らかにされています。今回の研究では、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンならびにフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体も容易に分解し、高収率(52%〜84%)で鉱物化することが確認されています。したがって、今回の研究結果は廃棄されたフッ素系ポリマーをケミカルリサイクルの原料とし、最終的には蛍石の主成分であるCaF2を回収する最新技術の開発に大きく寄与すると期待されます。CaF2があらゆる有機フッ素化合物の出発原料になることを考えれば、廃棄物からCaF2の回収を可能にしたばかりでなくフッ素資源の循環ループの構築をも可能にし、枯渇が危惧されている蛍石の輸入に依存している日本の現状を改善する解決策の一つとなることが期待されます。
また、ポリクロロトリフルオロエチレンが分解可能であることから、フッ素以外のハロゲン元素(塩素Cl、臭素Brなど)を有するポリマーも分解可能になることが期待できます。さらに、溶融水酸化ナトリウムは低分子ハロゲン化合物をも分解する可能性を有しています。すなわち、フッ素樹脂分解と同様、一般的に有害とされるハロゲン含有化合物を無排気反応で無害化することに可能性を見出すことが期待されます。無排気反応が実現すれば、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素CO2、さらには二酸化炭素よりも温暖化係数やオゾン破壊係数が圧倒的に高いフロン類似化合物の無害化処理技術の創出につながる可能性もあります。
【用語解説】
ポリテトラフルオロエチレン;英語名はpolytetrafluoroethylene、英語名の下線部のアルファベットを用いて、PTFEと略す。米国のデユポン社が開発した炭素原子Cとフッ素原子Fのみからなる代表的なフッ素樹脂。テトラフルオロエチレンの重合体。
テフロン™;PTFEの登録商品名でTeflonとも記される。テフロン加工のフライパンとして知られている。
蛍石;ハロゲン化鉱物(フッ素F、塩素Cl、臭素Br、ヨウ素Iを含む鉱物)の一種で、フッ化カルシウムCaF2を主成分とする。フローライト、もしくはフルオライトともいう。
ケミカルリサイクル;廃棄物(一般的にはプラスチック)を化学処理して分解し、他の化学物質に転換して再利用する方法。
超臨界水;水の臨界点[臨界温度374℃、臨界圧力218気圧(22.1MPa)]を超えた高温・高圧水。
亜超臨界水;水の臨界点を超えず、その近傍にある高温・高圧水。
オリゴマー;比較的少数の単量体(ポリマーを構成する繰り返し単位、モノマーともいう)からなる重合体。
【論文情報】
雑誌名: Green Chemistry(英国王立化学会の論文誌、IF = 11.0)
論文タイトル: Mineralization of poly(tetrafluoroethylene) and other fluoropolymers by molten sodium hydroxide.(溶融水酸化ナトリウムを用いたポリテトラフルオロエチレンならびにその他のフッ素樹脂の鉱物化)
受理日:2022年7月22日
DOI: 10.1039/D2GC00797E
URL:https://doi.org/10.1039/D2GC00797E
【著者(所属)】
Naohisa Yanagihara※, Takahiro Katoh (※corresponding author)
柳原 尚久(帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授、帝京大学先端機器分析センター長)
加藤 昴洋(帝京大学理工学部バイオサイエンス学科)※研究当時の所属
帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授の柳原尚久は、耐薬品性ならびに耐熱性に優れているが故にケミカルリサイクルには不適切であったテフロン™を効率良く鉱物化することに成功しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202208165143-O2-pXhxkA1w】
本研究成果によってフッ素系ポリマーから蛍石の主成分であるCaF2を回収することが可能となり、循環型社会の構築に向けた技術利用が期待されます。
【研究成果のポイント】
〇化学的・熱的に非常に安定したポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン™)のケミカルリサイクルに成功。
〇従来法と比べて反応が容易で簡単。反応に必要な主な試薬は、汎用薬品である水酸化ナトリウムNaOH。
〇溶融状態にあるNaOHを用いてテフロン™を分解。その分解生成物を水に溶かし、最終的にフッ化カルシウムCaF2として回収することに成功。
〇テフロン™以外のフッ素系ポリマーも同様の方法で鉱物化に成功。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202208165143-O4-K68tTM0H】
スキーム: テフロンTMのケミカルリサイクル
これまでにテフロン™以外のフッ素系ポリマーは、酸素O2、過酸化水素H2O2あるいは過マンガン酸カリウムKMnO4といった酸化剤を共存させた超臨界水あるいは亜臨界水を用いて分解できることが既に報告されていました。しかしながら、フッ素系ポリマーの中で最大の需要があり、最も融点の高いテフロン™(融点321˚C)に関する鉱物化の研究報告はなく、今回の研究成果が初めての成功事例となります。
【研究の背景】
炭素原子Cとフッ素原子Fから形成されるフッ素系ポリマーは、耐熱性・耐薬品性・非粘着性・難燃性など、他の汎用樹脂には見られない優れた特性を有しているため、フッ素系ポリマーがコーティングされたフライパンや自動車用部品(ベアリング、オイルシール、ATセンサー電線等)、半導体製造装置(洗浄薬液ラインチューブ、ウエハー搬送部材等)や電線被覆(ロボット、パソコン、通信、高周波対応、航空機電気系統等)、光ファイバーケーブル被覆材など、日用品から最先端素材に至るまで非常に幅広い分野で利用されています。一方で、大量生産・大量消費された汎用ポリマー同様、フッ素系ポリマーといえども長い年月が過ぎればいずれは大量廃棄される運命にあります。フッ素系ポリマーは焼却が可能であるものの、耐熱性に優れているため廃棄する際には高温で焼却しなければなりません。さらに、焼却に際して生成されるフッ化水素HFガスの影響により焼却炉剤の劣化が避けられません。したがって、廃棄されたフッ素系ポリマーの大半は埋め立て処分されています。
フッ素系ポリマーをはじめとするすべての有機フッ素化合物はフッ化水素酸を原料として化学的に合成されます。このフッ化水素酸は蛍石(フッ化カルシウムCaF2を主成分とする鉱物)に濃硫酸を加えて加熱し、発生するHFを水に吸収させて得られます。このように有機フッ素化合物の合成には蛍石が必要不可欠です。しかし、日本国内には蛍石の鉱脈は現存せず、海外からの輸入に依存しています。ところが、蛍石の産出国は世界的にも限定されており、総生産量の7割強を中国(約57%)とメキシコ(約17%)が占めています。特に中国産の蛍石は純度が高く日本にとって主要な輸入先となっていますが、蛍石の需要増加にともない乱獲が進み、産出量が減少することで、今後の輸出制限が懸念されています。フッ素系ポリマーに限らず半導体生産にも欠かせないフルオロカーボンの合成原料となる蛍石の輸入が特定国に偏在し、制約されている事実は、最先端技術をリードする日本にとって憂慮すべき要因の一つとなるかも知れません。今回、柳原教授は蛍石の産出減少や枯渇が問題視されている現状を踏まえ、フッ素資源をケミカルリサイクルする技術を開発し、フッ素系ポリマーから蛍石の主成分であるCaF2を回収することに成功しました。
【研究の内容】
今回開発された技術の基盤には、既に報告されているアルカリ金属水酸化物溶融塩を用いた酸化物超伝導体の低温合成に用いられた方法が応用されています。従来、超伝導酸化物の合成には高温・高圧合成法が大きな成果を挙げてきました。例えば、ある種の超伝導酸化物を作製しようとすると、1,000〜1,200℃、酸素圧4〜10GPa(約4万〜10万気圧)の高温・高圧条件が必要となります。この高温・高圧法は特殊で大がかりな装置を必要とする点にデメリットがあり、汎用性に欠けていました。この高温・高圧法に取って代わる形で発案された方法がアルカリ金属水酸化物溶融塩であり、低温(250℃〜400℃)かつ試料の大量合成を可能にしました。
柳原教授はこの超伝導酸化物の低温合成に使用された水酸化ナトリウムNaOH(融点318℃)をテフロン™の分解に応用しました。種々の実験条件を検討した結果、テフロン™に対して過剰の水酸化ナトリウムを用いることにより、500℃において3時間で分解することが確認されました。この反応で水酸化ナトリウムを過剰に用いている理由は、水酸化ナトリウム自身はテフロン™と反応する反応物であると同時に、この反応系の溶剤としての役割を担っているからです。最終的に、実験に用いたテフロン™の初期質量に対して約74%の収率でCaF2を得ることができました。
この分解反応は2段階で進行します。第1段階の反応は溶融水酸化ナトリウムによるテフロン™の分解です。所定量のテフロン™と水酸化ナトリウムをアルミナのるつぼに入れ、500℃で3時間反応させます。この反応の分解生成物はすべて固体であり、この固体の主成分は粉末X線回折によりフッ化ナトリウムNaFと炭酸ナトリウムNa2CO3であることが確認されています。この生成物中には、未反応の水酸化ナトリウムが残存していますが、これらのナトリウム塩はすべて水溶性です。この混合物を用いて次は第2段階の反応を行います。分解生成物がすべて溶解している水溶液のpHを弱酸性に調製後、塩化カルシウムCaCl2水溶液を滴下します。その結果、白色沈殿物が得られます。この沈殿物を乾燥後、第1段階目と同様、粉末X線回折を行うことにより、白色沈殿物が目的物質であるCaF2と同定されました。このようにして、汎用試薬を用い、かつ簡便な化学反応を利用することで、テフロン™から短時間でCaF2を選択的に回収する技術が開発されました。
分解反応のメカニズムは残念ながら現段階では解明されておりません。しかしながら、テフロン™の分解には溶融した水酸化ナトリウムから生じる酸化物イオンO2-、あるいは過酸化物イオンO22-が重要な役割を果たしていると推察されます。ただし、これらの酸化物イオンのみでは分解が進行していないと考えられます。なぜなら、CaF2が高収率で得られる反応温度は、テフロン™の融点321˚Cならびに水酸化ナトリウムの融点318℃より100℃以上も高い高温であるからです。この温度領域では、テフロン™自身が熱分解を起こし、テフロン™の主鎖がランダムに切断され、その結果としてオリゴマーやオリゴマーよりさらに分子量の小さい低分子が生成されると考えられます。そして、酸化物イオンがこれらの低分子化合物を攻撃し、
その結果CaF2が生成されると推測されます。したがって、溶融水酸化ナトリウムによるテフロン™の分解は、水酸化ナトリウムに由来する酸化物イオンとテフロン™自身の熱分解がもたらす相乗作用の結果であると考えられます。
【成果の意義】
溶融水酸化ナトリウムはテフロン™のみならず、他のフッ素樹脂にも有効であることが本研究で明らかにされています。今回の研究では、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンならびにフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体も容易に分解し、高収率(52%〜84%)で鉱物化することが確認されています。したがって、今回の研究結果は廃棄されたフッ素系ポリマーをケミカルリサイクルの原料とし、最終的には蛍石の主成分であるCaF2を回収する最新技術の開発に大きく寄与すると期待されます。CaF2があらゆる有機フッ素化合物の出発原料になることを考えれば、廃棄物からCaF2の回収を可能にしたばかりでなくフッ素資源の循環ループの構築をも可能にし、枯渇が危惧されている蛍石の輸入に依存している日本の現状を改善する解決策の一つとなることが期待されます。
また、ポリクロロトリフルオロエチレンが分解可能であることから、フッ素以外のハロゲン元素(塩素Cl、臭素Brなど)を有するポリマーも分解可能になることが期待できます。さらに、溶融水酸化ナトリウムは低分子ハロゲン化合物をも分解する可能性を有しています。すなわち、フッ素樹脂分解と同様、一般的に有害とされるハロゲン含有化合物を無排気反応で無害化することに可能性を見出すことが期待されます。無排気反応が実現すれば、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素CO2、さらには二酸化炭素よりも温暖化係数やオゾン破壊係数が圧倒的に高いフロン類似化合物の無害化処理技術の創出につながる可能性もあります。
【用語解説】
ポリテトラフルオロエチレン;英語名はpolytetrafluoroethylene、英語名の下線部のアルファベットを用いて、PTFEと略す。米国のデユポン社が開発した炭素原子Cとフッ素原子Fのみからなる代表的なフッ素樹脂。テトラフルオロエチレンの重合体。
テフロン™;PTFEの登録商品名でTeflonとも記される。テフロン加工のフライパンとして知られている。
蛍石;ハロゲン化鉱物(フッ素F、塩素Cl、臭素Br、ヨウ素Iを含む鉱物)の一種で、フッ化カルシウムCaF2を主成分とする。フローライト、もしくはフルオライトともいう。
ケミカルリサイクル;廃棄物(一般的にはプラスチック)を化学処理して分解し、他の化学物質に転換して再利用する方法。
超臨界水;水の臨界点[臨界温度374℃、臨界圧力218気圧(22.1MPa)]を超えた高温・高圧水。
亜超臨界水;水の臨界点を超えず、その近傍にある高温・高圧水。
オリゴマー;比較的少数の単量体(ポリマーを構成する繰り返し単位、モノマーともいう)からなる重合体。
【論文情報】
雑誌名: Green Chemistry(英国王立化学会の論文誌、IF = 11.0)
論文タイトル: Mineralization of poly(tetrafluoroethylene) and other fluoropolymers by molten sodium hydroxide.(溶融水酸化ナトリウムを用いたポリテトラフルオロエチレンならびにその他のフッ素樹脂の鉱物化)
受理日:2022年7月22日
DOI: 10.1039/D2GC00797E
URL:https://doi.org/10.1039/D2GC00797E
【著者(所属)】
Naohisa Yanagihara※, Takahiro Katoh (※corresponding author)
柳原 尚久(帝京大学理工学部バイオサイエンス学科教授、帝京大学先端機器分析センター長)
加藤 昴洋(帝京大学理工学部バイオサイエンス学科)※研究当時の所属