国際的にも限られている「相撲選手」の骨塩量・骨密度データを提示
[22/09/21]
提供元:共同通信PRワイヤー
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本発表の詳細は、早稲田大学のホームページをご覧ください。
発表のポイント
大学相撲選手は運動習慣がない男子大学生と比較して、骨格筋量の他、肝臓や腎臓も重いことをこれまでの研究で明らかにしてきた。
身体で比較的大きな割合を占める骨(本研究では骨塩量や骨密度)も大学相撲選手は大きく強いことが予測されるものの、現在でも確立された研究データが十分に揃っていない。
大学相撲選手の重量級グループ(115kg以上)は、中量級グループ(85kg以上115kg未満)よりも全身および腕部・脚部の骨塩量は高かった。一方、体重あたりのそれぞれの骨塩量は、重量級グループで低値となった。
重量級グループの全身と脚部の骨密度は高かったものの、腕部では中量級グループと差はみられなかった。先行研究の平均体重65.6kgの20代日本人男性と比較して、本研究の大学相撲選手の平均体重は中量級グループで約50%、重量級グループで約100%重いものの、全身の平均骨密度は両グループともに15%前後高い値となった。
日々鍛錬し大きな体格を有する大学相撲選手でさえも、体重に相応する骨塩量や骨密度を有することは簡単ではないことが明らかになった。
桜美林大学健康福祉学群の緑川 泰史(みどりかわ たいし)准教授(早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員)、早稲田大学スポーツ科学学術院の鳥居 俊(とりい すぐる)教授、中京大学教養教育研究院の太田 めぐみ(おおた めぐみ)教授、駿河台大学スポーツ科学部の坂本 静男(さかもと しずお)教授(早稲田大学名誉教授)らの研究グループは、これまで国際的にもデータが限られていた相撲選手の骨塩量*1と骨密度*2を提示した研究成果を発表しました。
なお、本研究成果は、国際学術雑誌『Scientific Reports』にて、2022年7月12日(火)に掲載されました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)
相撲は重い体重が勝敗の全てを決定するわけではありませんが、身体が大きいことが勝ち星をあげる一つの要因にはなっています。そのため、相撲には体重を増すこと、つまり、身体を構成する器官・組織の増量が必要になります。
我々のこれまでの研究*3によると、大学相撲選手(平均体重109.1kg)は運動トレーニングの習慣がない男子大学生(平均体重62.0kg)と比較して、脂肪組織25.7kg、骨格筋量12.4kgの他、スポーツ科学領域ではあまり着目されてこなかった肝臓1.00kgや腎臓0.16kgも重いことがわかっています。しかし、身体を構成する要素で比較的大きな割合を占める骨(本研究では骨塩量や骨密度を測定)に関する相撲選手の報告は限られています。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry:DXA)法*4を用いて、大学相撲選手の骨の特徴を探ったところ、重量級グループ(115kg以上)は中量級グループ(85kg以上115kg未満)と比較して、全身および腕部・脚部の骨塩量が高いことがわかりました(表1参照)。一方、体重あたりのそれぞれの骨塩量は、重量級グループで低値となりました(表1参照)。
重量級グループの全身と脚部の骨密度は高かったものの、腕部では中量級グループと差がみられませんでした(表1参照)。また、両グループを合わせて解析を行ったところ、体重と全身・脚部の骨密度の間に弱いですが有意な正の相関関係が認められました。
先行研究*5の平均体重65.6kgの20代日本人男性と比較して、本研究の大学相撲選手の平均体重は中量級グループで約50%、重量級グループで約100%重いものの、全身の平均骨密度は両グループともに15%前後高い値にとどまりました。日々鍛錬している相撲選手のような大型スポーツ選手でさえも体重に相応する骨密度を有することは簡単ではないことが推測されます。また、腕部よりも荷重負荷が掛かりやすい脚部の骨密度が高まりやすいことが考えられます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202209216877-O1-NJ1tFm9j】
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究は、一般人と大きく体格が異なる相撲選手の荷重部位と非荷重部位を含めた骨塩量と骨密度について、50名を超える対象者で示した資料的価値が高い報告です。本研究の結果から、体重が増えて体格が大きくなっても、骨は比例して多くなるわけではないことがわかります。柔道選手を対象とした鳥居らの先行研究*6でも、体重が100kgを超えると全身骨塩量の増加が鈍る結果が得られています。本研究結果と合わせて考えると、ヒトという動物の骨塩量や骨密度の上限値を探る基礎データになるのではないでしょうか。
(4)今後の課題
アメリカンフットボール選手を対象とした比較的最近の研究*7では、本研究の重量級相撲選手と体重がほぼ同様の130kg台にもかかわらず、全身の平均骨密度が1.50g/cm2を超えることが報告されています。測定するDXA機器の種類によって値に差が生じる場合もありますが、その他どのような要因がデータに影響しているのか検討が必要です。
(5)研究者のコメント
骨は荷重負荷や筋活動を伴う運動刺激によって強くなることが知られています。これらの負荷や刺激を日々の生活や稽古で受ける相撲選手の骨密度はどこまで高くなるのか興味を持ったことが本研究の出発点です。DXAやMRIといった機器を使用した測定のために5年前に取得した診療放射線技師資格も生かしながら、運動や栄養に対する身体の適応可能性の一端を今後も探れればと思います。
(6)用語解説
※1 骨塩量
骨に含まれるカルシウムやリンといったミネラルの量。
※2 骨密度
単位面積あたりの骨塩量。
※3 Midorikawaら, 2007
Midorikawa, T., Kondo, M., Beekley, M.D., Koizumi, K. & Abe T. High REE in Sumo wrestlers attributed to large organ-tissue mass. Med Sci Sports Exerc. 39, 688?693, (2007).
※4 二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry:DXA)法
全身および部位別の骨塩量や骨密度を正確に測定できる国際的にも認められている方法。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202209216877-O2-rbMV68Mz】
※5 Itoら, 2001
Ito, H., Ohshima, A., Ohto, N., Ogasawara, M., Tsuzuki, M., Takao, K., Hijii, C., Tanaka, H. & Nishioka, K. Relation between body composition and age in healthy Japanese subjects. Eur. J. Clin. Nutr. 55, 462-470, (2001).
※6 鳥居俊ら, 1993
鳥居俊, 林泰史. スポーツ選手の全身骨塩量と体格の関係. 関東整災誌24, 440-442, (1993).
※7 Boschら, 2019
Bosch, T.A., Carbuhn, A.F. & Stanforth, P.R. Body composition and bone mineral density of division 1 collegiate football players: A consortium of college athlete research study. J. Strength. Cond. Res. 33, 1339-1346, (2019).
※8 緑川泰史, 2019
スポーツでのばす健康寿命 編著:深代千之・安部孝 第3章 教養として知りたい運動の効果−生活習慣病・運動器疾患・認知能力 3.7 骨粗しょう症の予防と改善 p202-209 2019年10 月30日初版 東京大学出版会
(7)論文情報
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Characteristics of total body and appendicular bone mineral content and density in Japanese collegiate Sumo wrestlers
執筆者名(所属機関名):MIDORIKAWA Taisihi (College of Health and Welfare, J.F. Oberlin University, and Waseda Institute for Sport Sciences, Waseda University), TORII Suguru (Faculty of Sport Sciences, Waseda University), OHTA Megumi (Faculty of Liberal Arts and Sciences, Chukyo University), SAKAMOTO Shizuo (Faculty of Sport Science, Surugadai University, and Faculty of Sport Sciences, Waseda University)
掲載日時(現地時間):2022年7月12日(火)
掲載日時(日本時間):2022年7月12日(火)
(オンライン掲載)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-15576-x
DOI:10.1038/s41598-022-15576-x
(8)研究助成
研究費名:科学研究費補助金(若手研究A・課題番号24680069)
研究課題名:長期間の運動トレーニングが器官組織レベルの身体組成と基礎代謝量に及ぼす影響
研究代表者名(所属機関名):緑川泰史(桜美林大学)
発表のポイント
大学相撲選手は運動習慣がない男子大学生と比較して、骨格筋量の他、肝臓や腎臓も重いことをこれまでの研究で明らかにしてきた。
身体で比較的大きな割合を占める骨(本研究では骨塩量や骨密度)も大学相撲選手は大きく強いことが予測されるものの、現在でも確立された研究データが十分に揃っていない。
大学相撲選手の重量級グループ(115kg以上)は、中量級グループ(85kg以上115kg未満)よりも全身および腕部・脚部の骨塩量は高かった。一方、体重あたりのそれぞれの骨塩量は、重量級グループで低値となった。
重量級グループの全身と脚部の骨密度は高かったものの、腕部では中量級グループと差はみられなかった。先行研究の平均体重65.6kgの20代日本人男性と比較して、本研究の大学相撲選手の平均体重は中量級グループで約50%、重量級グループで約100%重いものの、全身の平均骨密度は両グループともに15%前後高い値となった。
日々鍛錬し大きな体格を有する大学相撲選手でさえも、体重に相応する骨塩量や骨密度を有することは簡単ではないことが明らかになった。
桜美林大学健康福祉学群の緑川 泰史(みどりかわ たいし)准教授(早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員)、早稲田大学スポーツ科学学術院の鳥居 俊(とりい すぐる)教授、中京大学教養教育研究院の太田 めぐみ(おおた めぐみ)教授、駿河台大学スポーツ科学部の坂本 静男(さかもと しずお)教授(早稲田大学名誉教授)らの研究グループは、これまで国際的にもデータが限られていた相撲選手の骨塩量*1と骨密度*2を提示した研究成果を発表しました。
なお、本研究成果は、国際学術雑誌『Scientific Reports』にて、2022年7月12日(火)に掲載されました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)
相撲は重い体重が勝敗の全てを決定するわけではありませんが、身体が大きいことが勝ち星をあげる一つの要因にはなっています。そのため、相撲には体重を増すこと、つまり、身体を構成する器官・組織の増量が必要になります。
我々のこれまでの研究*3によると、大学相撲選手(平均体重109.1kg)は運動トレーニングの習慣がない男子大学生(平均体重62.0kg)と比較して、脂肪組織25.7kg、骨格筋量12.4kgの他、スポーツ科学領域ではあまり着目されてこなかった肝臓1.00kgや腎臓0.16kgも重いことがわかっています。しかし、身体を構成する要素で比較的大きな割合を占める骨(本研究では骨塩量や骨密度を測定)に関する相撲選手の報告は限られています。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry:DXA)法*4を用いて、大学相撲選手の骨の特徴を探ったところ、重量級グループ(115kg以上)は中量級グループ(85kg以上115kg未満)と比較して、全身および腕部・脚部の骨塩量が高いことがわかりました(表1参照)。一方、体重あたりのそれぞれの骨塩量は、重量級グループで低値となりました(表1参照)。
重量級グループの全身と脚部の骨密度は高かったものの、腕部では中量級グループと差がみられませんでした(表1参照)。また、両グループを合わせて解析を行ったところ、体重と全身・脚部の骨密度の間に弱いですが有意な正の相関関係が認められました。
先行研究*5の平均体重65.6kgの20代日本人男性と比較して、本研究の大学相撲選手の平均体重は中量級グループで約50%、重量級グループで約100%重いものの、全身の平均骨密度は両グループともに15%前後高い値にとどまりました。日々鍛錬している相撲選手のような大型スポーツ選手でさえも体重に相応する骨密度を有することは簡単ではないことが推測されます。また、腕部よりも荷重負荷が掛かりやすい脚部の骨密度が高まりやすいことが考えられます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202209216877-O1-NJ1tFm9j】
(3)研究の波及効果や社会的影響
本研究は、一般人と大きく体格が異なる相撲選手の荷重部位と非荷重部位を含めた骨塩量と骨密度について、50名を超える対象者で示した資料的価値が高い報告です。本研究の結果から、体重が増えて体格が大きくなっても、骨は比例して多くなるわけではないことがわかります。柔道選手を対象とした鳥居らの先行研究*6でも、体重が100kgを超えると全身骨塩量の増加が鈍る結果が得られています。本研究結果と合わせて考えると、ヒトという動物の骨塩量や骨密度の上限値を探る基礎データになるのではないでしょうか。
(4)今後の課題
アメリカンフットボール選手を対象とした比較的最近の研究*7では、本研究の重量級相撲選手と体重がほぼ同様の130kg台にもかかわらず、全身の平均骨密度が1.50g/cm2を超えることが報告されています。測定するDXA機器の種類によって値に差が生じる場合もありますが、その他どのような要因がデータに影響しているのか検討が必要です。
(5)研究者のコメント
骨は荷重負荷や筋活動を伴う運動刺激によって強くなることが知られています。これらの負荷や刺激を日々の生活や稽古で受ける相撲選手の骨密度はどこまで高くなるのか興味を持ったことが本研究の出発点です。DXAやMRIといった機器を使用した測定のために5年前に取得した診療放射線技師資格も生かしながら、運動や栄養に対する身体の適応可能性の一端を今後も探れればと思います。
(6)用語解説
※1 骨塩量
骨に含まれるカルシウムやリンといったミネラルの量。
※2 骨密度
単位面積あたりの骨塩量。
※3 Midorikawaら, 2007
Midorikawa, T., Kondo, M., Beekley, M.D., Koizumi, K. & Abe T. High REE in Sumo wrestlers attributed to large organ-tissue mass. Med Sci Sports Exerc. 39, 688?693, (2007).
※4 二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry:DXA)法
全身および部位別の骨塩量や骨密度を正確に測定できる国際的にも認められている方法。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202209216877-O2-rbMV68Mz】
※5 Itoら, 2001
Ito, H., Ohshima, A., Ohto, N., Ogasawara, M., Tsuzuki, M., Takao, K., Hijii, C., Tanaka, H. & Nishioka, K. Relation between body composition and age in healthy Japanese subjects. Eur. J. Clin. Nutr. 55, 462-470, (2001).
※6 鳥居俊ら, 1993
鳥居俊, 林泰史. スポーツ選手の全身骨塩量と体格の関係. 関東整災誌24, 440-442, (1993).
※7 Boschら, 2019
Bosch, T.A., Carbuhn, A.F. & Stanforth, P.R. Body composition and bone mineral density of division 1 collegiate football players: A consortium of college athlete research study. J. Strength. Cond. Res. 33, 1339-1346, (2019).
※8 緑川泰史, 2019
スポーツでのばす健康寿命 編著:深代千之・安部孝 第3章 教養として知りたい運動の効果−生活習慣病・運動器疾患・認知能力 3.7 骨粗しょう症の予防と改善 p202-209 2019年10 月30日初版 東京大学出版会
(7)論文情報
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Characteristics of total body and appendicular bone mineral content and density in Japanese collegiate Sumo wrestlers
執筆者名(所属機関名):MIDORIKAWA Taisihi (College of Health and Welfare, J.F. Oberlin University, and Waseda Institute for Sport Sciences, Waseda University), TORII Suguru (Faculty of Sport Sciences, Waseda University), OHTA Megumi (Faculty of Liberal Arts and Sciences, Chukyo University), SAKAMOTO Shizuo (Faculty of Sport Science, Surugadai University, and Faculty of Sport Sciences, Waseda University)
掲載日時(現地時間):2022年7月12日(火)
掲載日時(日本時間):2022年7月12日(火)
(オンライン掲載)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-15576-x
DOI:10.1038/s41598-022-15576-x
(8)研究助成
研究費名:科学研究費補助金(若手研究A・課題番号24680069)
研究課題名:長期間の運動トレーニングが器官組織レベルの身体組成と基礎代謝量に及ぼす影響
研究代表者名(所属機関名):緑川泰史(桜美林大学)