ヤブカラシの花色は3度変わる
[22/12/01]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2022年12月1日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
ヤブカラシの花色は3度変わる
1.発表者:
古川 友紀子(研究当時:岐阜大学 応用生物科学部 修士課程)
川窪 伸光 (岐阜大学 応用生物科学部 教授)
塚谷 裕一 (東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授)
2.発表のポイント:
・ヤブカラシの花が、開花中に3度周期的に色を変えること、さらにそれがカロテノイド含量の増減や、花の性の成熟と関係していることを発見した。
・花色が一度変わる事例は非常に多くの植物で知られているが、一度変化した色がまたもとに戻り、そこからまた色を変えることで、合計3度も色を変える事例はこの発見が初である。
・花色の変化は昆虫などの花粉媒介者に対するサービスとして進化したと考えられてきたが、今回の発見で、そのメカニズムについての研究の見直しが進むと期待される。また栄養として重要なカロテノイドの植物における含量の制御系の理解が進むと期待される。
3.発表概要:
岐阜大学応用生物科学部の川窪伸光教授と古川友紀子大学院生(研究当時)、東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授は、世界で類を見ない、3度も色が変わる花色の周期的変化を発見し、そのメカニズムの一端を明らかにしました。
身近な桜でも開花直後は白っぽく、そして後にピンクが濃くなります。こうした花色の不可逆的変化は数多くの植物で見られ、これは花粉を媒介する昆虫に対して、どの色の花を訪れると効率よく蜜を集められるかを示す「正直なシグナル」(注1)として進化したと考えられてきました。
ところが日本で身近なヤブカラシの花の経時観察から、実は3度も周期的に色が変わるという、他に知られていない性質を持つことを発見しました。しかもその花色は、性成熟したタイミングと同調して変化していました。そしてこの花色変化は、カロテノイド(注2)の含量の増減によるものでした。カロテノイドの量が周期的に増減する植物組織は、これまで知られていません。
今後、このメカニズム解明が進むことで、重要な栄養源のカロテノイドの生合成量を自由にコントロールできるようになるかもしれません。また花の色の「正直なシグナル」がどのように進化してきたかの理解も進むと思われます。
本研究成果は、2022年12月1日午前10時(英国時間)に科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
4.発表内容:
本研究グループは、このほど世界で初めて花色を3度も変える花を発見しました。身近なソメイヨシノも開花直後は白に近く、後にピンクが濃くなりますし、その名も七変化の別名で知られるランタナも、黄色から赤、あるいは白からピンクといったように花色を変えます。こうした花色の1度の変化は、花粉を媒介する昆虫に対して、どの色の花を訪れると効率よく蜜を集められるかを示す「正直なシグナル」として進化したと考えられてきました。実際、数百種にのぼる植物がこれまでに、花色を開花期中に一回変えることが確認されています。この花色の変化は不可逆的であり、可逆的にもとに戻る事例は、わずか一例、アフリカに生えるマメ科の植物で、特殊な条件のもとで、しかも不完全な花色の復帰として報告があるのみでした。
ところが日本で身近に生えるヤブカラシの花を経時観察していたところ、予想外なことにヤブカラシは開花直後のオレンジ色から、やがてピンクに色を変えるばかりでなく、更にもう一度オレンジに復帰した後、最後に再びピンクになることが分かりました。花色は一回変わるだけという思い込みから、この3度も色が変わるという事実には、ありふれた植物の花にもかかわらずこれまで誰も気づいていませんでした(図1)。
もしこれが他の花のように「正直なシグナル」なのだとしたら、なぜ3度も色が変わるのでしょうか。連続撮影映像を多数観察した結果、オレンジの花色は、ヤブカラシの花の性が成熟したタイミングと一致することが分かりました。すなわち開花直後の花は、雄しべだけが成熟しており、オスとして成熟したタイミングです。このときに最初のオレンジの状態が生じます。そのあと雄しべが散るとともに、色がピンクになります。その後、雌しべが成熟して伸び始めると、これに同期して色がオレンジに戻るのです。最後は花が機能を終え、二度目のピンク色に戻るのでした。
この一連の色の変化は、たった1日半か2日程度で起きます。一体何がこの花色の変化をもたらしているのでしょうか。組織構造的にはこの間、変化は見られません。組織から色素を抽出して調べたところ、花色の変化は、ニンジンのオレンジの色と同じようなカロテノイドの含量の増減によっていることが判明しました。これほどの短期間に、カロテノイドの量を周期的に増やしたり減らしたりする例は、これまで知られていません。
今後、このメカニズム解明が進むことで、人間にとっても重要な栄養源であるカロテノイドを、植物がどのように制御しているかの理解が進むと期待されます。また花の色の「正直なシグナル」がどのように進化してきたのか純粋に科学的な理解も進むと期待されます。
本研究は、科研費「新学術領域研究(課題番号:JP19H05672)」、「基盤研究(C)(課題番号:26440237)」の支援により実施されました。
5.発表雑誌:
雑誌名:「Scientific Reports 」
論文タイトル:Oscillating flower colour changes of Causonis japonica (Thunb.) Raf. (Vitaceae) linked to sexual phase changes
著者:Furukawa Y, Tsukaya H*, and Kawakubo N
DOI番号:10.1038/s41598-022-24252-z
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-24252-z
6.用語解説:
(注1)「正直なシグナル」
花色が変わることで、学習能力のあるミツバチのような昆虫にとっては、たくさんある花の中でどれを狙って訪れれば効率よく蜜が集められるかが分かりやすくなる。これが花粉媒介者に対する「正直な」シグナルである。その一方で、植物側としては蜜のない状態の花も色を変えて周りに沢山配置し、「枯れ木も花の賑わい」のように遠目にも目立たせることで、多くの昆虫を集める効果も発揮するという説がある。
(注2)カロテノイド
ニンジンやカボチャのオレンジや黄色、あるいはイチョウの黄葉の黄色など、植物に広く含まれる黄色からオレンジの色素。人間にとってはビタミンA補給源にもなる。
7.添付資料:
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211300573-O1-r55QKR6H】
図1:ヤブカラシの花色の変化
花の縦断面で示す。左から開花直後のオスの段階、雄しべが脱離した第一休止段階、雌しべが新調したメスの段階、そして雌しべも老化した最終段階。オスの段階とメスの段階だけオレンジ色を示し、他の段階ではピンク色をしている。花の中心にある柱状のものが雌しべ。
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
ヤブカラシの花色は3度変わる
1.発表者:
古川 友紀子(研究当時:岐阜大学 応用生物科学部 修士課程)
川窪 伸光 (岐阜大学 応用生物科学部 教授)
塚谷 裕一 (東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授)
2.発表のポイント:
・ヤブカラシの花が、開花中に3度周期的に色を変えること、さらにそれがカロテノイド含量の増減や、花の性の成熟と関係していることを発見した。
・花色が一度変わる事例は非常に多くの植物で知られているが、一度変化した色がまたもとに戻り、そこからまた色を変えることで、合計3度も色を変える事例はこの発見が初である。
・花色の変化は昆虫などの花粉媒介者に対するサービスとして進化したと考えられてきたが、今回の発見で、そのメカニズムについての研究の見直しが進むと期待される。また栄養として重要なカロテノイドの植物における含量の制御系の理解が進むと期待される。
3.発表概要:
岐阜大学応用生物科学部の川窪伸光教授と古川友紀子大学院生(研究当時)、東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授は、世界で類を見ない、3度も色が変わる花色の周期的変化を発見し、そのメカニズムの一端を明らかにしました。
身近な桜でも開花直後は白っぽく、そして後にピンクが濃くなります。こうした花色の不可逆的変化は数多くの植物で見られ、これは花粉を媒介する昆虫に対して、どの色の花を訪れると効率よく蜜を集められるかを示す「正直なシグナル」(注1)として進化したと考えられてきました。
ところが日本で身近なヤブカラシの花の経時観察から、実は3度も周期的に色が変わるという、他に知られていない性質を持つことを発見しました。しかもその花色は、性成熟したタイミングと同調して変化していました。そしてこの花色変化は、カロテノイド(注2)の含量の増減によるものでした。カロテノイドの量が周期的に増減する植物組織は、これまで知られていません。
今後、このメカニズム解明が進むことで、重要な栄養源のカロテノイドの生合成量を自由にコントロールできるようになるかもしれません。また花の色の「正直なシグナル」がどのように進化してきたかの理解も進むと思われます。
本研究成果は、2022年12月1日午前10時(英国時間)に科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
4.発表内容:
本研究グループは、このほど世界で初めて花色を3度も変える花を発見しました。身近なソメイヨシノも開花直後は白に近く、後にピンクが濃くなりますし、その名も七変化の別名で知られるランタナも、黄色から赤、あるいは白からピンクといったように花色を変えます。こうした花色の1度の変化は、花粉を媒介する昆虫に対して、どの色の花を訪れると効率よく蜜を集められるかを示す「正直なシグナル」として進化したと考えられてきました。実際、数百種にのぼる植物がこれまでに、花色を開花期中に一回変えることが確認されています。この花色の変化は不可逆的であり、可逆的にもとに戻る事例は、わずか一例、アフリカに生えるマメ科の植物で、特殊な条件のもとで、しかも不完全な花色の復帰として報告があるのみでした。
ところが日本で身近に生えるヤブカラシの花を経時観察していたところ、予想外なことにヤブカラシは開花直後のオレンジ色から、やがてピンクに色を変えるばかりでなく、更にもう一度オレンジに復帰した後、最後に再びピンクになることが分かりました。花色は一回変わるだけという思い込みから、この3度も色が変わるという事実には、ありふれた植物の花にもかかわらずこれまで誰も気づいていませんでした(図1)。
もしこれが他の花のように「正直なシグナル」なのだとしたら、なぜ3度も色が変わるのでしょうか。連続撮影映像を多数観察した結果、オレンジの花色は、ヤブカラシの花の性が成熟したタイミングと一致することが分かりました。すなわち開花直後の花は、雄しべだけが成熟しており、オスとして成熟したタイミングです。このときに最初のオレンジの状態が生じます。そのあと雄しべが散るとともに、色がピンクになります。その後、雌しべが成熟して伸び始めると、これに同期して色がオレンジに戻るのです。最後は花が機能を終え、二度目のピンク色に戻るのでした。
この一連の色の変化は、たった1日半か2日程度で起きます。一体何がこの花色の変化をもたらしているのでしょうか。組織構造的にはこの間、変化は見られません。組織から色素を抽出して調べたところ、花色の変化は、ニンジンのオレンジの色と同じようなカロテノイドの含量の増減によっていることが判明しました。これほどの短期間に、カロテノイドの量を周期的に増やしたり減らしたりする例は、これまで知られていません。
今後、このメカニズム解明が進むことで、人間にとっても重要な栄養源であるカロテノイドを、植物がどのように制御しているかの理解が進むと期待されます。また花の色の「正直なシグナル」がどのように進化してきたのか純粋に科学的な理解も進むと期待されます。
本研究は、科研費「新学術領域研究(課題番号:JP19H05672)」、「基盤研究(C)(課題番号:26440237)」の支援により実施されました。
5.発表雑誌:
雑誌名:「Scientific Reports 」
論文タイトル:Oscillating flower colour changes of Causonis japonica (Thunb.) Raf. (Vitaceae) linked to sexual phase changes
著者:Furukawa Y, Tsukaya H*, and Kawakubo N
DOI番号:10.1038/s41598-022-24252-z
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-24252-z
6.用語解説:
(注1)「正直なシグナル」
花色が変わることで、学習能力のあるミツバチのような昆虫にとっては、たくさんある花の中でどれを狙って訪れれば効率よく蜜が集められるかが分かりやすくなる。これが花粉媒介者に対する「正直な」シグナルである。その一方で、植物側としては蜜のない状態の花も色を変えて周りに沢山配置し、「枯れ木も花の賑わい」のように遠目にも目立たせることで、多くの昆虫を集める効果も発揮するという説がある。
(注2)カロテノイド
ニンジンやカボチャのオレンジや黄色、あるいはイチョウの黄葉の黄色など、植物に広く含まれる黄色からオレンジの色素。人間にとってはビタミンA補給源にもなる。
7.添付資料:
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211300573-O1-r55QKR6H】
図1:ヤブカラシの花色の変化
花の縦断面で示す。左から開花直後のオスの段階、雄しべが脱離した第一休止段階、雌しべが新調したメスの段階、そして雌しべも老化した最終段階。オスの段階とメスの段階だけオレンジ色を示し、他の段階ではピンク色をしている。花の中心にある柱状のものが雌しべ。