放射光の光電場を計測する新しい方法を発見
[23/02/21]
提供元:共同通信PRワイヤー
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―シンクロトロン放射光の光波が振動する様子を観測―
2023/02/21
豊田工業大学
広島大学
分子科学研究所
九州シンクロトロン光研究センター
富山大学
豊田工業大学 レーザ科学研究室 藤 貴夫 教授と広島大学 放射光科学研究センター 加藤 政博 教授(自然科学研究機構分子科学研究所特任教授兼任)、九州シンクロトロン光研究センター 金安 達夫 副主任研究員、名古屋大学シンクロトロン光研究センター 保坂 将人 客員准教授、富山大学 学術研究部教養教育学系(教養教育院)彦坂 泰正 教授らは、分子科学研究所の極端紫外光研究施設の放射光源UVSOR-IIIにおいて、シンクロトロン光源から出射される光電場がフェムト秒からアト秒*の周期で振動する様子を観測する新しい手法の開発に成功しました。この手法は、小惑星の成分分析や犯罪捜査における毒物検出などのさまざまな実験、研究に用いられる自由電子レーザーを含めた放射光源の開発に大きく貢献することが見込まれます。 本研究成果は、2023年2月18日(日本時間)米国光学会の学術誌『OPTICA』に掲載されました。
*1フェムト秒=10の-15乗(1000兆分の1)秒、1アト秒=10の?18乗(100京分の1)秒
発表のポイント
■ シンクロトロン放射光は、電子を強力な磁石で曲げることによって発生させる。そのような放射光の光電場の形を世界ではじめて計測することに成功した。
■ 放射光の光波の振動回数は、磁石のペア数で決まっている。本研究での放射光施設では、10ペアの磁石を使っているが、光波が0.1フェムト秒の周期で10回振動する様子がはっきりと観測された。
■放射光は多数の電子の塊から放射されるので、レーザー光のように位相が揃った光ではないが、1つ1つの電子から放射する光波が同じであることを利用して、測定することができた。
■極端紫外光という波長の短い光での光電場波形ができた。より波長の短いX線の波形計測に利用できる可能性があり、X線自由電子レーザーの開発などに貢献することが期待される。
研究概要
シンクロトロン放射光は広帯域で、かつ高い輝度を持った光であり、紫外光やX 線などのレーザー発振が困難な波長で高い品質の光を発生できることが特徴である。世界各地に様々なシンクロトロン放射光施設が建設されており、医学・宇宙科学・生命科学・材料科学・考古学・地球科学・物質科学・分析科学などの幅広い分野で利用されている。
最近のシンクロトロン放射光施設では、アンジュレータと呼ばれる永久磁石を交互に並べた装置によって電子を蛇行させ、光を発生させていることが多い(図1a参照)。交互に並べた永久磁石の数だけ電子が蛇行するため、その数だけ振動する矩形の包絡線をもった光電場波束が発生する(図1b参照)と考えられている。しかし、フェムト秒からアト秒で振動する光電場を計測する手法がなかったため、実際にシンクロトロン放射光の光電場が測定されたことはなかった。
藤教授らは、2つのアンジュレータが直列に並べてあれば、フェムト秒レーザーパルスを測定するためによく使われるスペクトル位相干渉法(SPIDER 法) を適用して、シンクロトロン放射光の光電場を測定できることを見出した(図1c)。それぞれ10 ペアの永久磁石で構成された直列アンジュレータから発生する光に対し、その技術を適用させた。紫外光の350 nmおよび極端紫外光の35 nmの2つの波長で実験を行い、両方とも10回光電場が振動する矩形の包絡線をもった波束が測定された。
今後の展開
波長が短い極端紫外光やX線の光電場波形は、位相の揃ったレーザー光でも計測が困難であるが、本手法ではアンジュレータをうまく使うことによって、波形を計測することができた。将来的には、X 線の放射光や自由電子レーザーパルスに適用させ、これまでできなかった短波長の光電場波形計測を実現化するなど、放射光施設の可能性を広げ、各分野のさらなる発展に貢献したい。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302102856-O1-GPUR5c2E】
図1 (a)直列アンジュレータから発生するシンクロトロン放射光の模式図。(b)放射光パルス内の光電場波形の様子。1つ1つは1フェムト秒の幅を持った光波であり、波形は同じである。(c) 2つのアンジュレータから発生する光が干渉し、その干渉縞の解析から元の光電場波形を再構築できる。この施設では10ペアの磁石による発生なので、10周期の光波が観測された。右の図は実際に再現された極端紫外光の光電場波形。
論文の詳細情報
タイトル :Spectral phase interferometry for direct electric-field reconstruction of synchrotron radiation
著者名 :T.FUJI, T.KANEYASU, M. FUJIMOTO, Y. OKANO, E. SALEHI, M. HOSAKA, Y. TAKASHIMA, A. MANO, Y. HIKOSAKA, S. WADA, and M. KATOH
雑誌 :OPTICA
DOI : https://doi.org/10.1364/OPTICA.477535
研究支援
本研究は、JSPS科研費(20H00164、22H02044)などの支援を受けて行われたものです。また、豊田工業大学 藤 貴夫 教授が所属している「スマート光・物質研究センター」(文部科学省私立大学等経常費補助金特別補助「大学院等の機能の高度化」の対象となる本学の研究センター)の研究成果の一つです。
2023/02/21
豊田工業大学
広島大学
分子科学研究所
九州シンクロトロン光研究センター
富山大学
豊田工業大学 レーザ科学研究室 藤 貴夫 教授と広島大学 放射光科学研究センター 加藤 政博 教授(自然科学研究機構分子科学研究所特任教授兼任)、九州シンクロトロン光研究センター 金安 達夫 副主任研究員、名古屋大学シンクロトロン光研究センター 保坂 将人 客員准教授、富山大学 学術研究部教養教育学系(教養教育院)彦坂 泰正 教授らは、分子科学研究所の極端紫外光研究施設の放射光源UVSOR-IIIにおいて、シンクロトロン光源から出射される光電場がフェムト秒からアト秒*の周期で振動する様子を観測する新しい手法の開発に成功しました。この手法は、小惑星の成分分析や犯罪捜査における毒物検出などのさまざまな実験、研究に用いられる自由電子レーザーを含めた放射光源の開発に大きく貢献することが見込まれます。 本研究成果は、2023年2月18日(日本時間)米国光学会の学術誌『OPTICA』に掲載されました。
*1フェムト秒=10の-15乗(1000兆分の1)秒、1アト秒=10の?18乗(100京分の1)秒
発表のポイント
■ シンクロトロン放射光は、電子を強力な磁石で曲げることによって発生させる。そのような放射光の光電場の形を世界ではじめて計測することに成功した。
■ 放射光の光波の振動回数は、磁石のペア数で決まっている。本研究での放射光施設では、10ペアの磁石を使っているが、光波が0.1フェムト秒の周期で10回振動する様子がはっきりと観測された。
■放射光は多数の電子の塊から放射されるので、レーザー光のように位相が揃った光ではないが、1つ1つの電子から放射する光波が同じであることを利用して、測定することができた。
■極端紫外光という波長の短い光での光電場波形ができた。より波長の短いX線の波形計測に利用できる可能性があり、X線自由電子レーザーの開発などに貢献することが期待される。
研究概要
シンクロトロン放射光は広帯域で、かつ高い輝度を持った光であり、紫外光やX 線などのレーザー発振が困難な波長で高い品質の光を発生できることが特徴である。世界各地に様々なシンクロトロン放射光施設が建設されており、医学・宇宙科学・生命科学・材料科学・考古学・地球科学・物質科学・分析科学などの幅広い分野で利用されている。
最近のシンクロトロン放射光施設では、アンジュレータと呼ばれる永久磁石を交互に並べた装置によって電子を蛇行させ、光を発生させていることが多い(図1a参照)。交互に並べた永久磁石の数だけ電子が蛇行するため、その数だけ振動する矩形の包絡線をもった光電場波束が発生する(図1b参照)と考えられている。しかし、フェムト秒からアト秒で振動する光電場を計測する手法がなかったため、実際にシンクロトロン放射光の光電場が測定されたことはなかった。
藤教授らは、2つのアンジュレータが直列に並べてあれば、フェムト秒レーザーパルスを測定するためによく使われるスペクトル位相干渉法(SPIDER 法) を適用して、シンクロトロン放射光の光電場を測定できることを見出した(図1c)。それぞれ10 ペアの永久磁石で構成された直列アンジュレータから発生する光に対し、その技術を適用させた。紫外光の350 nmおよび極端紫外光の35 nmの2つの波長で実験を行い、両方とも10回光電場が振動する矩形の包絡線をもった波束が測定された。
今後の展開
波長が短い極端紫外光やX線の光電場波形は、位相の揃ったレーザー光でも計測が困難であるが、本手法ではアンジュレータをうまく使うことによって、波形を計測することができた。将来的には、X 線の放射光や自由電子レーザーパルスに適用させ、これまでできなかった短波長の光電場波形計測を実現化するなど、放射光施設の可能性を広げ、各分野のさらなる発展に貢献したい。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302102856-O1-GPUR5c2E】
図1 (a)直列アンジュレータから発生するシンクロトロン放射光の模式図。(b)放射光パルス内の光電場波形の様子。1つ1つは1フェムト秒の幅を持った光波であり、波形は同じである。(c) 2つのアンジュレータから発生する光が干渉し、その干渉縞の解析から元の光電場波形を再構築できる。この施設では10ペアの磁石による発生なので、10周期の光波が観測された。右の図は実際に再現された極端紫外光の光電場波形。
論文の詳細情報
タイトル :Spectral phase interferometry for direct electric-field reconstruction of synchrotron radiation
著者名 :T.FUJI, T.KANEYASU, M. FUJIMOTO, Y. OKANO, E. SALEHI, M. HOSAKA, Y. TAKASHIMA, A. MANO, Y. HIKOSAKA, S. WADA, and M. KATOH
雑誌 :OPTICA
DOI : https://doi.org/10.1364/OPTICA.477535
研究支援
本研究は、JSPS科研費(20H00164、22H02044)などの支援を受けて行われたものです。また、豊田工業大学 藤 貴夫 教授が所属している「スマート光・物質研究センター」(文部科学省私立大学等経常費補助金特別補助「大学院等の機能の高度化」の対象となる本学の研究センター)の研究成果の一つです。