炭素資源循環を革新する新しい触媒反応技術を開発
[23/02/21]
提供元:共同通信PRワイヤー
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〜バイオマスや廃プラスチックからの高機能化成品製造に期待〜
1.概要
2050年カーボンニュートラル実現のために、再生可能資源や廃棄物などの有効利用を可能にする新しい技術が求められています。再生可能な炭素資源である木質バイオマスや、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステルなどには、多くの炭素―酸素結合(C?O結合)が含まれており、それらを効率的に変換できる化学反応は非常に重要です。これまではC?O結合を炭素―水素結合(C?H結合)に変換することで付加価値の低い炭化水素へと誘導する触媒系が多く、より直接的に有用化成品へと誘導できる新しい結合変換技術の開発が強く望まれていました(図1)。
東京都立大学大学院 都市環境科学研究科の三浦大樹准教授、土井雅文(大学院生)、安井祐希(大学院生)、正木洋佑(修士課程修了)、西尾英倫(大学院生)、宍戸哲也教授らは、C?O結合を炭素―ケイ素結合(C?Si結合)に効率的に変換し、有機無機ハイブリッド材料や医薬品などの原料として非常に有用な有機ケイ素化合物を効率よく合成できる新しい触媒反応の開発に成功しました。今回開発した技術は、木質バイオマス由来化合物から有機ケイ素化合物などの有用化成品を効率よく合成できるだけでなく、従来、炭素資源として利用されていなかったポリエステルなどを原料とすることも可能にしました。本技術により、新しい資源循環経路の提案や、カーボンニュートラルの実現が期待されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302203096-O2-nOcf6lBp】
本研究成果は、2月20日付(アメリカ東部時間)でアメリカ化学会が発行する英文誌『Journal of the American Chemical Society』にて発表されました。また、本研究は創発的研究支援事業 FOREST(JPMJFR203V)および日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP17H06443、JP21H01719、JP22K18927)の支援のもとで行われたものです。
2.ポイント
・安定なC?O結合をC?Si結合に直接変換することが可能な担持金ナノ粒子触媒の開発に成功した。
・バイオマス由来の有機化合物を付加価値の高い有機ケイ素化合物へと効率よく変換できる。
・ポリエステル中のC?O結合もC?Si結合へと変換でき、廃プラスチック資源化への応用が期待される。
・担持金ナノ粒子触媒は繰り返し利用することが可能であり、低コストで高付加価値化成品を製造することが可能である。
3.研究の背景
地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの早急な実現が望まれています。そのためには、石油などの化石資源を主な炭素源とする現代の化合物製造体系を、バイオマスなどの再生可能な資源を利用する炭素資源循環系へと転換する必要があります。また、現在、海洋・森林ごみとして世界的な環境問題となっている廃プラスチック群を、付加価値の高い有機化合物の炭素資源として有効活用する手法を実証できれば、プラスチックごみ問題の解決に貢献するだけでなく、これまでにない革新的な炭素資源循環経路を提案することにもつながります。こうしたバイオマスやプラスチックの一種であるポリエステルには多くのC?O結合が含まれるため、これらの化学結合を自在に変換できる高機能な“触媒”を適用することが鍵となります。しかし、これまでの触媒反応は、水素(H2)などによって、C?O結合をC?H結合へと変換し、付加価値の低い炭化水素へと一度ダウングレードするのもがほとんどであり、これらから有用な化成品を製造するためには多段階のプロセスにおいて多大なエネルギーを費やす必要がありました。今後、より高度な炭素資源循環系を実現するためには、付加価値の高い化合物を直接かつ効率的に合成できる革新的なC?O結合変換技術を開発する必要がありました。
4. 研究の詳細
本研究では、まずセラミックスの一種である酸化ジルコニウムに、直径が3ナノメートル程度の金ナノ粒子を担持した触媒を調製しました(図2)。この担持金ナノ粒子触媒とケイ素源としてジシランを用いることで、木質バイオマスなどから容易に得られるエステルやエーテル中のC?O結合が効率的にC?Si結合へと変換され、有機無機ハイブリッド材料や医薬品などの原料として非常に付加価値の高い化合物である有機ケイ素化合物を効率的に合成できることを初めて明らかにしました。本担持金ナノ粒子触媒は様々なエステル、エーテル、ジシランの組み合わせの反応に有効であるため、多岐にわたる有機ケイ素化合物を合成することが可能です。さらに本触媒系は、プラスチックの一種であり多くのC?O結合を有するポリエステルを原料として有機ケイ素化合物を合成することができます。一般的にポリエステルの分解には多量の酸・塩基を用いる必要があるだけでなく、排水処理など反応後の処理も煩雑であるという問題点がありますが、本触媒系は中性条件下で行うことができるため環境に優しいプラスチック分解ができるという利点もあります。将来的に、廃棄されたプラスチックから有用化成品を直接製造するプロセスに、本研究で開発した技術の応用が期待されます。(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302203096-O3-P0N7i8h9】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302203096-O1-5O7z7PFX】
反応後の担持金ナノ粒子触媒は、ろ過などによって容易に回収することができ、生成物に異物として混入することはないため、環境に優しいモノづくりを実現できます。さらにこの触媒は高い活性を示すにもかかわらず、化学的に非常に安定であるため、反応に繰り返し使用することが可能です。金は高価な金属ではありますが、こういった担持金触媒の高い耐久性は製造コストを低減することにも役立ちます。
5. 研究の意義と波及効果
本研究で開発した触媒反応技術を活用することで、木材などの再生可能な炭素資源から有機無機ハイブリッド材料や医薬品の中間体など高い付加価値を有する化学品を大量かつ迅速に製造するプロセスの実現が期待できます。さらに、ポリエステルなどを原料にして有用化成品を製造することが可能であるため、プラスチックごみ問題の解決に貢献するだけでなく、これまで用いられていなかった廃プラスチックなどを炭素資源とする新しい資源循環経路の提案や、カーボンニュートラルの実現が期待されます。
6. 論文情報
<タイトル>
“Diverse Alkyl?Silyl Cross-Coupling via Homolysis of Unactivated C(sp3)?O Bonds with the Cooperation of Gold Nanoparticles and Amphoteric Zirconium Oxides”
<著者名>
Hiroki Miura, Masafumi Doi, Yuki Yasui, Yosuke Masaki, Hidenori Nishio, and Tetsuya Shishido
<雑誌名>
Journal of the American Chemical Society
<DOI>
10.1021/jacs.2c12311
1.概要
2050年カーボンニュートラル実現のために、再生可能資源や廃棄物などの有効利用を可能にする新しい技術が求められています。再生可能な炭素資源である木質バイオマスや、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステルなどには、多くの炭素―酸素結合(C?O結合)が含まれており、それらを効率的に変換できる化学反応は非常に重要です。これまではC?O結合を炭素―水素結合(C?H結合)に変換することで付加価値の低い炭化水素へと誘導する触媒系が多く、より直接的に有用化成品へと誘導できる新しい結合変換技術の開発が強く望まれていました(図1)。
東京都立大学大学院 都市環境科学研究科の三浦大樹准教授、土井雅文(大学院生)、安井祐希(大学院生)、正木洋佑(修士課程修了)、西尾英倫(大学院生)、宍戸哲也教授らは、C?O結合を炭素―ケイ素結合(C?Si結合)に効率的に変換し、有機無機ハイブリッド材料や医薬品などの原料として非常に有用な有機ケイ素化合物を効率よく合成できる新しい触媒反応の開発に成功しました。今回開発した技術は、木質バイオマス由来化合物から有機ケイ素化合物などの有用化成品を効率よく合成できるだけでなく、従来、炭素資源として利用されていなかったポリエステルなどを原料とすることも可能にしました。本技術により、新しい資源循環経路の提案や、カーボンニュートラルの実現が期待されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302203096-O2-nOcf6lBp】
本研究成果は、2月20日付(アメリカ東部時間)でアメリカ化学会が発行する英文誌『Journal of the American Chemical Society』にて発表されました。また、本研究は創発的研究支援事業 FOREST(JPMJFR203V)および日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP17H06443、JP21H01719、JP22K18927)の支援のもとで行われたものです。
2.ポイント
・安定なC?O結合をC?Si結合に直接変換することが可能な担持金ナノ粒子触媒の開発に成功した。
・バイオマス由来の有機化合物を付加価値の高い有機ケイ素化合物へと効率よく変換できる。
・ポリエステル中のC?O結合もC?Si結合へと変換でき、廃プラスチック資源化への応用が期待される。
・担持金ナノ粒子触媒は繰り返し利用することが可能であり、低コストで高付加価値化成品を製造することが可能である。
3.研究の背景
地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの早急な実現が望まれています。そのためには、石油などの化石資源を主な炭素源とする現代の化合物製造体系を、バイオマスなどの再生可能な資源を利用する炭素資源循環系へと転換する必要があります。また、現在、海洋・森林ごみとして世界的な環境問題となっている廃プラスチック群を、付加価値の高い有機化合物の炭素資源として有効活用する手法を実証できれば、プラスチックごみ問題の解決に貢献するだけでなく、これまでにない革新的な炭素資源循環経路を提案することにもつながります。こうしたバイオマスやプラスチックの一種であるポリエステルには多くのC?O結合が含まれるため、これらの化学結合を自在に変換できる高機能な“触媒”を適用することが鍵となります。しかし、これまでの触媒反応は、水素(H2)などによって、C?O結合をC?H結合へと変換し、付加価値の低い炭化水素へと一度ダウングレードするのもがほとんどであり、これらから有用な化成品を製造するためには多段階のプロセスにおいて多大なエネルギーを費やす必要がありました。今後、より高度な炭素資源循環系を実現するためには、付加価値の高い化合物を直接かつ効率的に合成できる革新的なC?O結合変換技術を開発する必要がありました。
4. 研究の詳細
本研究では、まずセラミックスの一種である酸化ジルコニウムに、直径が3ナノメートル程度の金ナノ粒子を担持した触媒を調製しました(図2)。この担持金ナノ粒子触媒とケイ素源としてジシランを用いることで、木質バイオマスなどから容易に得られるエステルやエーテル中のC?O結合が効率的にC?Si結合へと変換され、有機無機ハイブリッド材料や医薬品などの原料として非常に付加価値の高い化合物である有機ケイ素化合物を効率的に合成できることを初めて明らかにしました。本担持金ナノ粒子触媒は様々なエステル、エーテル、ジシランの組み合わせの反応に有効であるため、多岐にわたる有機ケイ素化合物を合成することが可能です。さらに本触媒系は、プラスチックの一種であり多くのC?O結合を有するポリエステルを原料として有機ケイ素化合物を合成することができます。一般的にポリエステルの分解には多量の酸・塩基を用いる必要があるだけでなく、排水処理など反応後の処理も煩雑であるという問題点がありますが、本触媒系は中性条件下で行うことができるため環境に優しいプラスチック分解ができるという利点もあります。将来的に、廃棄されたプラスチックから有用化成品を直接製造するプロセスに、本研究で開発した技術の応用が期待されます。(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302203096-O3-P0N7i8h9】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302203096-O1-5O7z7PFX】
反応後の担持金ナノ粒子触媒は、ろ過などによって容易に回収することができ、生成物に異物として混入することはないため、環境に優しいモノづくりを実現できます。さらにこの触媒は高い活性を示すにもかかわらず、化学的に非常に安定であるため、反応に繰り返し使用することが可能です。金は高価な金属ではありますが、こういった担持金触媒の高い耐久性は製造コストを低減することにも役立ちます。
5. 研究の意義と波及効果
本研究で開発した触媒反応技術を活用することで、木材などの再生可能な炭素資源から有機無機ハイブリッド材料や医薬品の中間体など高い付加価値を有する化学品を大量かつ迅速に製造するプロセスの実現が期待できます。さらに、ポリエステルなどを原料にして有用化成品を製造することが可能であるため、プラスチックごみ問題の解決に貢献するだけでなく、これまで用いられていなかった廃プラスチックなどを炭素資源とする新しい資源循環経路の提案や、カーボンニュートラルの実現が期待されます。
6. 論文情報
<タイトル>
“Diverse Alkyl?Silyl Cross-Coupling via Homolysis of Unactivated C(sp3)?O Bonds with the Cooperation of Gold Nanoparticles and Amphoteric Zirconium Oxides”
<著者名>
Hiroki Miura, Masafumi Doi, Yuki Yasui, Yosuke Masaki, Hidenori Nishio, and Tetsuya Shishido
<雑誌名>
Journal of the American Chemical Society
<DOI>
10.1021/jacs.2c12311