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GIPは過食・肥満・糖尿病を改善することを解明

レプチン-満腹神経系を活性化する新規インクレチン治療の確立

2023年2月28日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

GIPは過食・肥満・糖尿病を改善することを解明: レプチン-満腹神経系を活性化する新規インクレチン治療の確立

【本研究のポイント】
・食事に伴い腸から分泌され、膵に作用してグルコース誘発インスリン分泌を促進するホルモンをインクレチン1)と呼び、GLP-1とGIPがある。長時間作用型のGLP-1受容体作動薬2)は糖尿病治療薬として使用され、血糖降下に加えて体重・摂食低下作用を示すことから、米国では肥満への適応が承認されている。
・GIPは肥満との関連が指摘されてきたにも関わらず、GIP受容体作動薬は単独およびGLP-1受容体作動薬との併用で体重・摂食低下を示すためGLP-1パラドックスとして注目されている。その解決には、GIPの体重、摂食への作用の解明が不可欠であるため、本研究では特異的なGIP受容体作動薬であるGIPFA-085の作用を調べた。
・高脂肪食負荷肥満(DIO)マウス3)において、GIPFA-085の皮下投与は、満腹誘導・代謝亢進作用を有する脂肪ホルモン:レプチン4)の分泌を誘導し、摂食量低下と脂肪利用増加を起こし、1日一回連日投与することで体重および血糖値を12日目まで低下させた。一方、機能的レプチン欠損ob/obマウス5)ではGIPFA-085は効果がなかった。
・GIPFA-085は摂食・代謝の司令塔である視床下部弓状核6) proopiomelanocortin(POMC)神経7)を直接活性化し、その際レプチンと協働作用を発揮した。
・本研究結果によって、GIPFA-085はレプチン分泌を引き起こし、レプチンとの協働作用により弓状核POMC神経を活性化させ、摂食抑制と体重低下を起こし、血糖を制御して、過食・肥満・糖尿病を改善することを明らかにした。
・本研究の意義として、(1)GIPの食欲抑制、肥満改善作用を明らかにし、(2)GIP受容体作動薬による新規インクレチン治療を確立し、(3)近く肥満を適応として承認が予想されるGIP/GLP-1二重受容体作動薬の治療の根拠を与える。

【研究概要】
 関西電力医学研究所統合生理学研究センターおよび岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学の矢田俊彦センター長・客員教授、韓婉昕医学研究員、矢部大介教授、関西電力医学研究所の清野裕研究所長、京都府立大学大学院生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 岩?有作教授らの研究グループは、マウスを用いた研究で、インクレチンGIPの受容体作動薬がレプチン分泌を引き起こし、弓状核神経・POMC神経を活性化し、摂食抑制と脂肪利用亢進を介して体重を低下させ、血糖を制御し、食事性肥満・糖尿病を改善することを発見しました。
 食事に伴い消化管から分泌され、膵に作用してグルコース誘発インスリン分泌を促進するホルモンをインクレチンと呼び、グルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide-1; GLP-1)とグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide; GIP)があります。これらは、生体の分解酵素で速やかに切断されるため、分解酵素耐性の分子修飾をした長時間作用型の受容体作動薬が作られています。GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として広く用いられ、血糖降下に加えて体重・摂食低下作用を示し、米国では肥満への適用が承認されています。一方、GIPと肥満の関連が指摘されてきたにも関わらず、GIP受容体作動薬は単独およびGLP-1受容体作動薬との併用で体重・摂食低下を示すため、GLP-1パラドックスとして注目されています。
 GIPパラドックスの解決には、GIPの体重、摂食への効果と作用機序の解明が不可欠です。本研究は、安定(半減期>6時間)で特異的なGIP受容体作動薬であるGIPFA-085を肥満・糖尿病マウスに皮下投与し作用を調べました。摂食・代謝の司令塔である視床下部弓状核神経細胞に対するGIPFA-085の作用を、Ca2+イメージングにより測定しました。
 高脂肪食負荷肥満(DIO)マウスにおいて、GIPFA-085皮下投与は、投与1時間後から糖負荷試験での血糖値と摂食量(図1b)を低下させ、血中レプチン濃度を増加させ(図1a)ました。GIPFA-085(300 nm/kg)を連日投与すると、投与後1-3日目で摂食量が低下(図2d)、呼吸商8)が低下(脂肪利用亢進)し(図2e,f)、1-12日目で血糖値が低下(図2a)、3-12日目で体重が低下(4%)し(図2b,c)、投与中止後リバウンドは見られませんでした。一方、機能的レプチン欠損ob/obマウスではGIPFA-085は効果を示しませんでした(図3)。GIPFA-085は弓状核のproopiomelanocortin(POMC)神経を含む満腹系神経を直接活性化し(図4a)、その際レプチンと協働作用を発揮しました(図4b)。
 本研究結果によって、GIPFA-085はレプチン分泌を引き起こし、レプチンとの協働作用により弓状核満腹神経、POMC神経を活性化させ、摂食抑制、脂肪利用亢進、体重低下を起こし、血糖を制御して、過食・肥満・糖尿病を改善することを明らかにしました(図5)。
 本研究グループは長年、インクレチンの研究を国内外で先導してきましたが、今回新たに、
  (1)GIPの食欲抑制、肥満改善作用を明らかにし、
  (2)GIP受容体作動薬による新規インクレチン治療を確立し、
  (3)GIP受容体作動薬の治療効果に、レプチン系の状態(分泌能、抵抗性)が影響することを明らかにしました。
 本研究成果は、日本時間2023年2月28日(火)20時にDiabetes Obesity And Metabolism誌のオンライン版で発表されます。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302223178-O8-u4w8F2Ci
図1. GIPFA-085 の高脂肪食負荷肥満(DIO)マウスへの皮下投与は、(a)投与後0.5〜6時間の血中レプチン濃度上昇、(b)投与後0〜8時間の時間間隔摂食量(2時間毎)の低下を起こす。
図2. GIPFA-085皮下投与は、DIOマウスの(a)血糖値、(b)体重、(c)体重増加量、(d)1日摂食量、(d)明期呼吸商、(d)暗期呼吸商を低下させる。
図3. GIPFA-085皮下投与は、機能的レプチン欠損ob/obマウスの(a)血糖値、(b)体重増加量、(c)1日摂食に有意な効果がない。
図4. GIPFA-085投与は、(a)視床下部から単離した弓状核POMC神経の細胞内Ca2+濃度を増加させ、(b)GIPFA-085とレプチンは相乗効果を発揮する。(a)健常マウス、(b)DIOマウス。

【研究背景】
 食事に伴い消化管赤から分泌され、膵に作用してグルコース誘発インスリン分泌を促進するホルモンをインクレチンと称し、代表的なものとしてGLP-1とGIPがあります。これらは、生体の分解酵素で速やかに切断されるため、分解酵素耐性の分子修飾をした長時間作用型の受容体活性化分子(受容体作動薬)が作られています。GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療薬として広く用いられ、血糖降下に加えて体重・摂食低下作用を示し、一部の受容体作動薬は米国で肥満への適用が承認されています。これに対しGIPは体重、脂肪組織量の増加作用を示し、一方、GIP受容体作動薬はGLP-1RAによる体重・摂食低下を増強することが最近報告されて、GIPには肥満の促進と改善の相反する効果が報告され、パラドックスを呈しています。
 GIPパラドックスの解決およびGIP/GLP-1二重受容体作動薬の評価の前提として、GIPの体重、摂食への効果と作用機序の解明が不可欠です。

【研究成果】
 本研究は、ヒトGIP(1-42)にアミノ酸置換と脂肪酸修飾を施した安定(半減期>6時間)で選択的なGIP-1RAのGIPFA-085を用いました。これを高脂肪食負荷肥満(DIO)マウスと機能的レプチン欠損ob/ob肥満・糖尿病マウスに皮下投与し、摂食、体重、血糖値、呼吸商に対する作用を調べました。摂食・体重・血糖値を制御する中枢である視床下部弓状の神経細胞、とりわけPOMC神経に対するGIPFA-085の作用を、単離神経のCa2+イメージングにより評価しました。
 DIOマウスにおいて、GIPFA-085は投与後直後から糖負荷試験での血糖値、摂食量を低下させ、血中レプチン濃度を増加させ、300 nm/kgで最大効果を示しました。GIPFA-085(300 nm/kg)を連日投与すると、投与後1-3日目で摂食量が低下、呼吸商が低下(脂肪利用亢進)し、1-12日目で血糖値が低下、3-12日目で体重が低下(4%)し、投与中止後リバウンドは見られませんでした。一方、ob/obマウスではGIPFA-085は血糖、摂食、体重に効果を示しませんでした。GIPFA-085はPOMC神経を含む弓状核神経細胞を直接活性化し、その活性化においてレプチンと協働作用を示しました。脂肪利用亢進が、GIPFA-085の直接作用であるのか摂食量低下に対する二次的反応であるのかは今後の課題です。
 本研究結果は、GIPFA-085はレプチン分泌を引き起こし、レプチンとの協働作用により弓状核POMC神経を活性化させ、摂食抑制、脂肪利用亢進、体重低下を起こし、血糖を制御して、過食・肥満・糖尿病を改善することを明らかにし、GIP受容体作動薬による新規インクレチン治療を確立しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302223178-O9-uKZ3frAS
図5. GIP の代謝改善効果と機序の模式図。GIPFA-085によるレプチン分泌とPOMC 神経活性化を介した食欲・体重・血糖値低下(抗肥満・糖尿病作用)。レプチン欠損マウスにおける作用の消失。

【今後の展開】
・GIP受容体作動薬(GIPFA-085)によるレプチン分泌促進の機序の解明:脂肪細胞のGIP-1受容体活性化によるレプチン合成および分泌の検証。
・GIP受容体作動薬による脂肪利用亢進(脂肪分解促進)の機序の解明。レプチンの脂肪細胞への直接効果、および、交感神経活性化を介した脂肪細胞への効果、の関与を解析する。
・GIP受容体作動薬とGLP-1受容体作動薬の併用による強力な摂食・体重・血糖値低下の機序の解明:協働作用発揮におけるレプチンの役割の検証。
・病態成因と程度が異なる糖尿病・肥満モデルマウスを用いて、レプチン機能(分泌、作用など)の質的・量的変化とGIP受容体作動薬の有効性の関係を調べる。その結果から、GIP受容体作動薬またはGIP/GLP-1二重受容体作動薬により代謝改善が期待される糖尿病・肥満者の予測、選択につながると期待される。

【論文情報】
雑誌名: Diabetes Obesity and Metabolism
論文タイトル:Glucose-dependent insulinotropic polypeptide counteracts diet-induced obesity along with reduced feeding, elevated plasma leptin and activation of leptin-responsive and proopiomelanocortin neurons in the arcuate nucleus.
著者:Wanxin Han 1,2, Lei Wang 1,2 , Kento Ohbayashi 3, Masakazu Takeuchi 4, Libbey O’Farrell 4, Tamer Coskun 4, Yermek Rakhat 1,2 , Daisuke Yabe 1,2,5, Yusaku Iwasaki 3, Yutaka Seino 1 and Toshihiko Yada 1,2, †
所属: 1関西電力医学研究所関係者、2岐阜大学関係者、3京都府立大学関係者、4 Eli Lilly社関係者、5岐阜大学高等研究院 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター関係者
DOI: 10.1111/dom.15001
                                     
【用語解説】
1) インクレチン:
食後に腸から分泌され、膵に作用してグルコース誘発インスリン分泌を促進するホルモン。代表的なものがGLP-1 とGIPである。
2) 受容体作動薬:
GLP-1とGIPは、生体の分解酵素で速やかに切断されるため、分解酵素耐性の分子修飾をした長寿命の受容体作動分子のGLP-1受容体作動薬、GIP受容体作動薬が作られている。
3) Diet-induced obese(DIO)マウス:
高脂肪食を与えて肥満にしたマウス。ヒト肥満の多くは、生活習慣特に食事により誘導されると考えられ、その適切なマウスモデルである。
4) レプチン:
脂肪細胞から分泌されるホルモンをアディポカインと呼ぶが、レプチンはその中で最初に発見され、最も重要なものの1つ。脂肪細胞から分泌されたレプチンは、摂食を抑制し、エネルギー消費を亢進し、これらの結果体重を低下させる。体重調節の主役であり、健常者では体重が増加しても元に戻るのはレプチンの働きによる:体重増加に伴う脂肪細胞の増加により、レプチン分泌が増加し、摂食抑制とエネルギー消費亢進が高まり体重が元に戻る。
5) ob/obマウス:
レプチン(ob)遺伝子の変異により、機能のあるレプチンが作れないマウス。著明な過食と肥満を呈する。
6) 弓状核:
視床下部のなかで真っ先に全身代謝情報を感知する領域であり、一次摂食代謝中枢とも呼ばれる。シナプス神経伝達により二次中枢に情報を送る。
7) POMC神経:
弓状核に存在し、神経ペプチドProopiomelanocortin (POMC)を産生する神経細胞。この神経の活性化は、強力な摂食抑制を起こし、また交感神経を介して末梢に情報を送りエネルギー消費亢進・体重低下・血糖値低下を起こす。レプチンはこの神経を標的として、中枢性の摂食・体重・血糖低下作用を発揮すると考えられている。
8) 呼吸商:
生体の酸素消費量と二酸化炭素発生量の比:VO2/VCO2. この値が下がることは、生体のエネルギー源として脂質を糖質よりもより多く利用することを意味し、脂肪燃焼が高まっていることに対応する。

 
【研究者プロフィール】
・Toshihiko Yada、矢田俊彦:
2022.4〜 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 客員教授
2018.4〜 関西電力医学研究所 統合生理学研究センター センター長
〜2018.3 自治医科大学 生理学講座統合生理学部門 教授

・Wanxin Han、韓 婉昕:
2022.4〜 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 医学研究員
2019.9〜 関西電力医学研究所 統合生理学研究センター 医学研究員

・Daisuke Yabe、矢部 大介:
岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学 教授 
関西電力医学研究所 副所長

・Yusaku Iwasaki、岩? 有作:
京都府立大学 大学院生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 動物機能学研究室 教授

・Yutaka Seino、清野 裕:
関西電力医学研究所 所長
関西電力病院 総長

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