新しい(2−エキソメチレン型)擬複合糖質を開発
[23/04/28]
提供元:共同通信PRワイヤー
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―触媒的な合成法確立と生物活性分子としての有用性の実証に成功―
2023年4月28日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
新しい(2−エキソメチレン型)擬複合糖質を開発
―触媒的な合成法確立と生物活性分子としての有用性の実証に成功―
ポイント
(1)天然型複合糖質の構造をわずかに改変したアナログ分子(擬複合糖質)は、有用な生物機能分子として期待できますが、そのポテンシャルの検証は遅れていました。
(2)今回、新たに設計した2-エキソメチレン型擬複合糖質を触媒的・立体選択的に合成する手法を確立し、さらにそのユニークな生物活性を見出しました。
(3)今後、天然型複合糖質の生物活性を変えられる2-エキソメチレン型擬複合糖質は、興味深い機能をもつ生物活性分子として用いられることが期待されます。
概要
天然型複合糖質の構造をわずかに改変したアナログ分子(擬複合糖質)の開発は、複合糖質を起点とする創薬研究において極めて重要ですが、合成の煩雑さなどの理由から、限られた検討にとどまっていました。
九州大学大学院薬学研究院の平井剛教授を中心とする研究グループ(大阪大学微生物病研究所の山崎晶教授ら、順天堂大学健康総合科学先端研究機構の秋山央子特任助教、岐阜大学応用生物科学部の石田秀治教授ら)は、従来とは異なる特徴をもつ2-エキソメチレン型擬複合糖質を設計し、これを触媒反応によって効率的に合成しました。従来法では、生成しうる2種の立体異性体を選択的に合成するには、それぞれに適した原料を調製する必要がありましたが、本成果では触媒の配位子を選択することで両異性体の立体選択的合成に成功しました。さらに合成したα-擬グルコシルセラミドが、ナチュラルキラーT(NKT)細胞のT細胞抗原受容体を活性化せず、C型レクチン受容体Mincleを選択的に、かつ天然型α-グルコシルセラミドよりも効果的に活性化することを見出しました。
本研究成果は、ドイツ化学会が出版する国際誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版にて2023年4月27日に掲載されました。
2-エキソメチレン型擬複合糖質の開発
Tsuji-Trost反応を利用したグリコシル化において、パラジウム触媒のリガンドを変えることで、2種の異性体の選択的な合成に成功しました。合成した2-エキソメチレン型α-擬グルコシルセラミドが、天然型よりも効果的に免疫受容体Mincleを活性化するリガンドとして機能することを見出しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O9-B4E8KoQ6】
【研究の背景と経緯】
複合糖質は、糖の種類・数・立体化学、これに結合するアグリコン構造・結合様式によって多様な生物活性を発揮します。その糖部2位官能基には多様性があり、生物機能の変化の要因となっています。一方、2位をフルオロ基に置き換えた擬複合糖質は、これを分解する酵素の阻害剤となり、生物機能が劇的に変化することが知られています。しかし、これ以外の擬複合糖質開発はその有機合成の煩雑さなどの理由から、あまり検証されてきませんでした。
今回共同研究グループは、新規の擬複合糖質、2位にエキソメチレン基を導入した2-エキソメチレン型擬複合糖質を設計しました(図1)。本分子は、天然型同様イス型に近い形を持ちますが、導入したエキソメチレン基によりわずかに歪み、天然型複合糖質や従来の擬複合糖質とはやや異なる分子構造を有しています。また、天然型でみられる2位官能基を介した水素結合形成はできませんが、二重結合上のπ電子が新たな分子間相互作用に関与する可能性があります。このように、従来とは異なる特徴を持つ2-エキソメチレン型擬複合糖質は、天然型複合糖質とは異なる生物活性を示すと期待しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O10-zkUAa647】
図1. 2-エキソメチレン型擬複合糖質の分子設計
従来の擬複合糖質の2位炭素はsp3炭素であり、天然型と同様にイス型の配座をとると考えられます。一方で、2-エキソメチレン型グリコシドもイス型に近い配座をとりますが、2位のsp2炭素によりわずかに歪み、天然型複合糖質や従来の擬複合糖質とは異なる立体的な特徴を有していると考えられます。また、2位官能基で水素結合を形成する能力を失っていますが、二重結合上のπ電子により新たな分子間相互作用が期待できる電子特徴を有しています。
【研究の内容と成果】
本研究ではまず、2-エキソメチレン型擬複合糖質の立体選択的な合成法を開発しました。ポイントとなるのは、糖部とアグリコン構造をつなぐグリコシル化反応で、如何に2種の異性体を合成しわけるかにありました。2位官能基がエキソメチレン基になっていることで、立体化学の制御の足がかりがなくなってしまっているためでした。
研究グループは、Tsuji-Trost反応を利用したグリコシル化反応を利用し、用いるパラジウム触媒のリガンドを変えることで立体選択性を制御できると考えました(図2)。リガンドを徹底的に検討した結果、dppfを用いるとα体を選択的に、(R)-DTBM-SEGPHOSを用いるとβ体を選択的に合成できること見出しました。本反応によって、糖や脂質をはじめとして、計24種のアグリコン構造と連結できることを実証し、広範な擬複合糖質合成に展開できる手法の確立に成功しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O12-SmNoy8iY】
図2. リガンド制御型の立体選択的なグリコシル化反応の開発
Tsuji-Trost反応を利用したグリコシル化において、用いるパラジウム触媒のリガンドを変えることで、立体選択性の制御に成功しました。本反応は、糖や脂質など広範なアグリコンに適用可能でした。また糖部においてもグルコース型に加えて、ガラクトース型、アロース型にも適用でき、本手法の適用拡大にも成功しました。
2-エキソメチレン型擬複合糖質のポテンシャルを評価するため、免疫受容体のリガンドとして機能するグルコシルセラミドのアナログ、2-エキソメチレン型擬グルコシルセラミドを合成し、生物活性を評価しました(図3)。天然型α-グルコシルセラミドはナチュラルキラーT(NKT)細胞のT細胞抗原受容体の活性化リガンドであり、天然型β-グルコシルセラミドはC型レクチン受容体Mincleの活性化リガンドとして機能します。一方で、2-エキソメチレン型α-擬グルコシルセラミドは、NKT細胞抗原受容体を活性化せず、Mincleを選択的に活性化することを見出しました。本結果により、エキソメチレン基を導入した擬複合糖質は、天然型の複合糖質の生物活性を変化させることができることを実証しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O14-1w1jV2P2】
図3. 免疫受容体に対するリガンドの機能評価
天然型α-グルコシルセラミドはNKT細胞のT細胞抗原受容体のリガンド、天然型β-グルコシルセラミドはC型レクチン受容体Mincleのリガンドとして機能します。一方で、2-エキソメチレン型α-擬グルコシルセラミドはNKT細胞抗原受容体のリガンドとはならず、Mincleに選択的なリガンドとして機能しました。
【今後の展開】
本研究により、従来の擬複合糖質にはない立体的、電子的特徴を有する新規擬複合糖質の合成が可能となりました。今後、様々な2-エキソメチレン型擬複合糖質を創製することで、さらに興味深い機能を持った生物活性分子の開発につながると期待できます。
【論文情報】
掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
タイトル:Ligand-controlled Stereoselective Synthesis and Biological Activities of 2-Exomethylene Pseudo-glycoconjugates: Discovery of Mincle-Selective Ligands
著者名:Takahiro Ikazaki, Eri Ishikawa, Hiroto Tamashima, Hisako Akiyama, Yusuke Kimuro, Makoto Yoritate, Hiroaki Matoba, Akihiro Imamura, Hideharu Ishida, Sho Yamasaki, and Go Hirai
DOI:https://doi.org/10.1002/anie.202302569
2023年4月28日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
新しい(2−エキソメチレン型)擬複合糖質を開発
―触媒的な合成法確立と生物活性分子としての有用性の実証に成功―
ポイント
(1)天然型複合糖質の構造をわずかに改変したアナログ分子(擬複合糖質)は、有用な生物機能分子として期待できますが、そのポテンシャルの検証は遅れていました。
(2)今回、新たに設計した2-エキソメチレン型擬複合糖質を触媒的・立体選択的に合成する手法を確立し、さらにそのユニークな生物活性を見出しました。
(3)今後、天然型複合糖質の生物活性を変えられる2-エキソメチレン型擬複合糖質は、興味深い機能をもつ生物活性分子として用いられることが期待されます。
概要
天然型複合糖質の構造をわずかに改変したアナログ分子(擬複合糖質)の開発は、複合糖質を起点とする創薬研究において極めて重要ですが、合成の煩雑さなどの理由から、限られた検討にとどまっていました。
九州大学大学院薬学研究院の平井剛教授を中心とする研究グループ(大阪大学微生物病研究所の山崎晶教授ら、順天堂大学健康総合科学先端研究機構の秋山央子特任助教、岐阜大学応用生物科学部の石田秀治教授ら)は、従来とは異なる特徴をもつ2-エキソメチレン型擬複合糖質を設計し、これを触媒反応によって効率的に合成しました。従来法では、生成しうる2種の立体異性体を選択的に合成するには、それぞれに適した原料を調製する必要がありましたが、本成果では触媒の配位子を選択することで両異性体の立体選択的合成に成功しました。さらに合成したα-擬グルコシルセラミドが、ナチュラルキラーT(NKT)細胞のT細胞抗原受容体を活性化せず、C型レクチン受容体Mincleを選択的に、かつ天然型α-グルコシルセラミドよりも効果的に活性化することを見出しました。
本研究成果は、ドイツ化学会が出版する国際誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版にて2023年4月27日に掲載されました。
2-エキソメチレン型擬複合糖質の開発
Tsuji-Trost反応を利用したグリコシル化において、パラジウム触媒のリガンドを変えることで、2種の異性体の選択的な合成に成功しました。合成した2-エキソメチレン型α-擬グルコシルセラミドが、天然型よりも効果的に免疫受容体Mincleを活性化するリガンドとして機能することを見出しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O9-B4E8KoQ6】
【研究の背景と経緯】
複合糖質は、糖の種類・数・立体化学、これに結合するアグリコン構造・結合様式によって多様な生物活性を発揮します。その糖部2位官能基には多様性があり、生物機能の変化の要因となっています。一方、2位をフルオロ基に置き換えた擬複合糖質は、これを分解する酵素の阻害剤となり、生物機能が劇的に変化することが知られています。しかし、これ以外の擬複合糖質開発はその有機合成の煩雑さなどの理由から、あまり検証されてきませんでした。
今回共同研究グループは、新規の擬複合糖質、2位にエキソメチレン基を導入した2-エキソメチレン型擬複合糖質を設計しました(図1)。本分子は、天然型同様イス型に近い形を持ちますが、導入したエキソメチレン基によりわずかに歪み、天然型複合糖質や従来の擬複合糖質とはやや異なる分子構造を有しています。また、天然型でみられる2位官能基を介した水素結合形成はできませんが、二重結合上のπ電子が新たな分子間相互作用に関与する可能性があります。このように、従来とは異なる特徴を持つ2-エキソメチレン型擬複合糖質は、天然型複合糖質とは異なる生物活性を示すと期待しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O10-zkUAa647】
図1. 2-エキソメチレン型擬複合糖質の分子設計
従来の擬複合糖質の2位炭素はsp3炭素であり、天然型と同様にイス型の配座をとると考えられます。一方で、2-エキソメチレン型グリコシドもイス型に近い配座をとりますが、2位のsp2炭素によりわずかに歪み、天然型複合糖質や従来の擬複合糖質とは異なる立体的な特徴を有していると考えられます。また、2位官能基で水素結合を形成する能力を失っていますが、二重結合上のπ電子により新たな分子間相互作用が期待できる電子特徴を有しています。
【研究の内容と成果】
本研究ではまず、2-エキソメチレン型擬複合糖質の立体選択的な合成法を開発しました。ポイントとなるのは、糖部とアグリコン構造をつなぐグリコシル化反応で、如何に2種の異性体を合成しわけるかにありました。2位官能基がエキソメチレン基になっていることで、立体化学の制御の足がかりがなくなってしまっているためでした。
研究グループは、Tsuji-Trost反応を利用したグリコシル化反応を利用し、用いるパラジウム触媒のリガンドを変えることで立体選択性を制御できると考えました(図2)。リガンドを徹底的に検討した結果、dppfを用いるとα体を選択的に、(R)-DTBM-SEGPHOSを用いるとβ体を選択的に合成できること見出しました。本反応によって、糖や脂質をはじめとして、計24種のアグリコン構造と連結できることを実証し、広範な擬複合糖質合成に展開できる手法の確立に成功しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O12-SmNoy8iY】
図2. リガンド制御型の立体選択的なグリコシル化反応の開発
Tsuji-Trost反応を利用したグリコシル化において、用いるパラジウム触媒のリガンドを変えることで、立体選択性の制御に成功しました。本反応は、糖や脂質など広範なアグリコンに適用可能でした。また糖部においてもグルコース型に加えて、ガラクトース型、アロース型にも適用でき、本手法の適用拡大にも成功しました。
2-エキソメチレン型擬複合糖質のポテンシャルを評価するため、免疫受容体のリガンドとして機能するグルコシルセラミドのアナログ、2-エキソメチレン型擬グルコシルセラミドを合成し、生物活性を評価しました(図3)。天然型α-グルコシルセラミドはナチュラルキラーT(NKT)細胞のT細胞抗原受容体の活性化リガンドであり、天然型β-グルコシルセラミドはC型レクチン受容体Mincleの活性化リガンドとして機能します。一方で、2-エキソメチレン型α-擬グルコシルセラミドは、NKT細胞抗原受容体を活性化せず、Mincleを選択的に活性化することを見出しました。本結果により、エキソメチレン基を導入した擬複合糖質は、天然型の複合糖質の生物活性を変化させることができることを実証しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202304275307-O14-1w1jV2P2】
図3. 免疫受容体に対するリガンドの機能評価
天然型α-グルコシルセラミドはNKT細胞のT細胞抗原受容体のリガンド、天然型β-グルコシルセラミドはC型レクチン受容体Mincleのリガンドとして機能します。一方で、2-エキソメチレン型α-擬グルコシルセラミドはNKT細胞抗原受容体のリガンドとはならず、Mincleに選択的なリガンドとして機能しました。
【今後の展開】
本研究により、従来の擬複合糖質にはない立体的、電子的特徴を有する新規擬複合糖質の合成が可能となりました。今後、様々な2-エキソメチレン型擬複合糖質を創製することで、さらに興味深い機能を持った生物活性分子の開発につながると期待できます。
【論文情報】
掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
タイトル:Ligand-controlled Stereoselective Synthesis and Biological Activities of 2-Exomethylene Pseudo-glycoconjugates: Discovery of Mincle-Selective Ligands
著者名:Takahiro Ikazaki, Eri Ishikawa, Hiroto Tamashima, Hisako Akiyama, Yusuke Kimuro, Makoto Yoritate, Hiroaki Matoba, Akihiro Imamura, Hideharu Ishida, Sho Yamasaki, and Go Hirai
DOI:https://doi.org/10.1002/anie.202302569