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若年成人男性における代謝異常関連脂肪性肝疾患とアルコール関連肝疾患の実態とスクリーニング法の確立

2023月5月18日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

若年成人男性における代謝異常関連脂肪性肝疾患とアルコール関連肝疾患の実態とスクリーニング法の確立

【本研究のポイント】
・肥満人口の増加や過剰飲酒の問題により代謝異常関連脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、およびアルコール関連肝疾患は増加しているが、若年世代での実態や健康診断におけるスクリーニング法に関しては明らかではない。
・平均年齢23歳の若年成人男性において17%が非アルコール性脂肪性肝疾患、11%が代謝異常関連脂肪性肝疾患、1%がアルコール関連肝疾患を有した。
・スクリーニング法に関しては、血清alanine aminotransferase(ALT)値およびbody mass index(BMI)が代謝異常関連脂肪性肝疾患および非アルコール性脂肪性肝疾患と関連する因子であり、問題飲酒に関する質問票(alcohol use disorders identification test; AUDIT)がアルコール関連肝疾患と関連した。
・本研究により、若年成人男性における脂肪性肝疾患およびアルコール関連肝疾患の実態が明らかとなり、健康診断におけるスクリーニング法の確立、生活習慣の是正と肝疾患進展予防に寄与することが期待される。

【研究概要】
 肥満人口および問題飲酒の増加に伴い、脂肪性肝疾患に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされています。東海国立大学機構 岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授らのグループは、若年成人男性の代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)1)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)2)、およびアルコール関連肝疾患(ALD) 3)の現状と健康診断におけるスクリーニング法を明らかにしました。
 本研究では、健康診断を受診した男子大学院生313名を対象とし、MAFLD、NAFLD、およびALDの現状に関して調査しました。平均年齢23歳の若年成人男性においてNAFLDは17%、MAFLDは11%、ALDは1%、それぞれ有していました(図1)。若年世代では健康診断において腹部超音波検査を実施しないため、本研究における実態調査は世界に類を見ない貴重な研究成果となりました。また、健康診断等において全例で腹部超音波検査を実施することは困難であるため、健康診断で測定する身体所見、血液生化学検査および問題飲酒に関する質問票(AUDIT)4)のデータを用いてこれらの肝疾患をスクリーニングする方法を検討しました。MAFLDおよびNAFLDに関してはALT 5)およびBMI 6)がスクリーニングに有用な因子であり、ALDに関しては身体所見や血液生化学検査からスクリーニングすることは困難であり、AUDITがスクリーニング可能な唯一の方法であることが明らかとなりました。以上のことから、健康診断により若年成人男性におけるMAFLDおよびNAFLDをスクリーニングするにはALTおよびBMIが有用であり、AUDITを用いた問題飲酒の調査はALDのスクリーニングに有用であることが明らかとなりました。
 山本教授らの研究により平均年齢23歳の若年男性の脂肪肝の現状が明らかとなり、健康診断におけるスクリーニング法が確立されました。本研究により健康診断は若年世代の脂肪性肝疾患を早期発見する貴重な機会であることが示され、健康診断結果に基づく生活習慣の是正が健康寿命の延長に寄与することが期待されます。
 本研究成果は、日本時間2023年5月18日にScientific Reports誌で発表されました。

【研究背景】
 肥満人口の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)は世界的に増加傾向であり、本邦でも増加することが見込まれています。近年、NAFLDの高リスク因子を包括した代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)が提唱されました。MAFLDは脂肪肝と「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」を併発することで診断され、NAFLDの高リスク因子を考慮することで、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の発生リスクが高い患者を効率的に拾い上げることが期待されています。また、近年の肝硬変の成因調査によりアルコール関連肝疾患(alcohol-related liver disease; ALD)が増加していることが知られています。しかし、若年世代におけるMAFLD、NAFLDおよびALD実態と健康診断におけるスクリーニング法に関しては明らかではありません。本研究では、若年成人男性を対象としてMAFLD、NAFLDおよびALDの実態と健康診断におけるスクリーニング法に関して検討しました。

【研究成果】
 本研究では本学入学時健康診断を受診した男子大学院生313名を対象とし、通常の健康診断項目に加えて腹部超音波検査、問題飲酒に関する質問票(alcohol use disorders identification test; AUDIT)を行い、MAFLD、NAFLDおよびALDの実態と健康診断測定項目を用いたスクリーニング法に関して検討しました。参加者の平均年齢は23歳、平均body mass index(BMI)は21.2 kg/m2であり、4%がアルコール20 g/日以上摂取する過剰飲酒者でした。腹部超音波検査により脂肪肝は全体の18%が有し、17%がNAFLD、11%がMAFLD、1%がALDと判定されました。また、11%はMAFLDおよびNAFLDの両者を有していました(図1)。一般的に日本人の約30%がNAFLDを有するとされておりますが、20代前半の若年成人男性においては健康診断等で腹部エコーを実施しないため、これまでに若年世代での実態は明らかではありませんでした。本研究結果により若年成人男性においても約1割以上にMAFLDあるいはNAFLDを認め、約1%がALDを有することが明らかとなりました。これらの肝疾患は生活習慣の是正により改善する可能性があり、食事・運動療法を含めた生活指導が必要である可能性が示唆されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305185711-O5-rUkT52bO
 次に健康診断におけるMAFLDおよびNAFLDのスクリーニング法に関して検討しました。MAFLDに関しては多変量解析でBMIと血清alanine aminotransferase (ALT) 値が独立したMAFLDに関連する因子であり、NAFLDに関しても同様の結果でした。Receiver operating characteristic (ROC) 解析7)ではALTとBMIが他の血液検査項目よりも効率的にMAFLDおよびNAFLDを検出可能であることが示されました(図2)。MAFLD検出においては感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率がALT 26 U/L以上で0.82、0.77、0.31、0.97であり、同様にNAFLDに関してはALT 23 U/L以上で0.94、0.34、0.69、0.77でした。以上のことから健康診断で一般的に測定するALT値が若年成人男性のMAFLDおよびNAFLDのスクリーニングにおいて有用な検査であることが明らかとなりました。また、BMIのカットオフ値はMAFLDが22.9 kg/m2、NAFLDが21.5 kg/m2であり、非肥満者においても脂肪肝を来す可能性を示唆する所見でした。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305185711-O6-49NTt044
 血清ALT値に関してMAFLD/NAFLDのない群、NAFLDのみの群、MAFLDのみの群、両者を有した群に群分けすると両者を有した群はNAFLDのみの群と比して血清ALT値が高いことが分かりました(図3)。血清ALT値は肝細胞障害の程度を反映することが知られており、本研究結果からMAFLDはNAFLDよりも肝細胞破壊の程度が強いことが示唆されました(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305185711-O7-uI27REjT
 ALDは血液性化学検査で検査値異常を来さない場合も多く、スクリーニング法と介入法が喫緊の課題となっています。本研究でも血液性化学検査、飲酒以外の生活習慣はALDをスクリーニングにおける有用性は示されませんでした。一方でAUDITは過剰飲酒およびALDのスクリーニングにおいて唯一有用であることが示されました。AUDIT 12点以上をカットオフ値とした場合のALDの検出に関して感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は1.00、0.96、0.19、1.00であり、健康診断においてAUDITを追加することが問題飲酒の把握とALDのスクリーニングにおいて有用であることが示唆されました。
 本研究結果により、若年成人男性におけるMAFLD、NAFLDおよびALDの現状が明らかになり、これらの肝疾患を健康診断でいかにスクリーニングするとよいかが明らかとなりました。若年成人男性の脂肪肝リスクを同定することで脂肪性肝疾患の早期発見、生活習慣改善による将来の健康寿命の延長に寄与することが期待されます。

【今後の展開】
 本研究により、若年成人男性におけるMAFLD、NAFLDおよびALDの現状と健康診断におけるスクリーニング法が明らかになりました。この知見により若年世代での肝疾患の早期発見につながる可能性があります。また、肝疾患につながる生活習慣を把握し、健康診断結果に応じた栄養・運動療法を提案することで、若年世代からの肝疾患への介入方法を確立し、肝硬変、肝発癌、心臓血管疾患を含めた予後改善につながることが期待されます。

【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Usefulness of health checkup for screening metabolic dysfunction-associated fatty liver disease and alcohol-related liver disease in Japanese male young adults
著者: Satoko Tajirika 1,2, Takao Miwa 1,2, Cathelencia Francisque 3, Tatsunori Hanai 2, Nanako Imamura 1, Miho Adachi 1, Ryo Horita 1, Lynette J Menezes 3, Masahito Shimizu 2, and Mayumi Yamamoto 1,4,5
1 岐阜大学保健管理センター
2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学
3 南フロリダ大学医学部
4 岐阜大学医学部附属病院糖尿病代謝内科
5 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科医療情報学専攻
DOI:10.1038/s41598-023-34942-x                                  

【用語解説】
1) 代謝異常関連脂肪性肝疾患:
代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)は2020年に提唱された脂肪性肝疾患の新概念である。MAFLDは脂肪肝に加えて「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」のいずれかが併存することで診断する。MAFLDは脂肪性肝疾患の高リスク因子を包括した疾患概念であり、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の高リスク患者を効率的に同定することが期待されている。

2) 非アルコール性脂肪性肝疾患:
従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。NAFLDの診断は脂肪肝の原因となる他の肝疾患の除外に基づく。NAFLDの診断概念より過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも肝硬変や肝発癌を来たす可能性があることが広く認知された。

3) アルコール関連肝疾患(alcohol-related liver disease; ALD):
アルコール関連肝疾患(alcohol-related liver disease; ALD)はアルコールの常用により引き起こされる一連の肝臓疾患のことである。日本における肝硬変症の成因の約25%を占め、近年ALDの増加が注目されている。

4) Alcohol use disorders identification test; AUDIT):
Alcohol use disorders identification test; AUDIT)は世界保健機関により開発された問題飲酒者のスクリーニングテストであり、問題飲酒の早期発見・早期介入を目的として利用される。AUDITは10項目の質問から成り、各項目の合計点で飲酒問題の程度を評価する。

5) Alanine aminotransferase (ALT):
Alanine aminotransferase (ALT)は肝細胞への分布が多い酵素であり、肝細胞の破壊の際に血中濃度が上昇する。その性質から血清中のALT濃度は肝障害の程度の指標として利用される。

6) Body mass index(BMI):
Body mass index(BMI)は体重と身長から算出される肥満度を示す簡易指標である。肥満症診療ガイドライン2022ではBMI ?25kg/m2以上を肥満症と定義している。

7) Receiver operating characteristic (ROC) 解析:
Receiver operating characteristic (ROC) 解析は診断やスクリーニング検査の精度評価に用いる解析である。検査におけるカットオフ値や、陽性者を正しく陽性と判定する感度、陰性者を正しく陰性者と判定する特異度、陽性者のうち真に疾患を有している者の割合である陽性的中率、陰性者のうち真に疾患のない者の割合である陰性的中率を判定できる。

【研究者プロフィール】
氏名: 三輪 貴生 (Miwa Takao)
機関: 東海国立大学機構 岐阜大学
所属・職名: 岐阜大学保健管理センター・非常勤講師
学歴(大学):
2015年:岐阜大学医学部医学科卒業
2021年〜:岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻(消化器内科学分野在学中)
勤務歴:
2015年4月〜2016年6月:岐阜市民病院(研修医)
2016年7月〜2017年3月:岐阜大学医学部附属病院 (研修医)
2017年4月〜2018年3月:岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
2018年4月〜2020年9月:中濃厚生病院(医員)
2020年10月〜2022年3月:岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
2022年4月〜2023年4月:岐阜大学 保健管理センター(助教)
2023年4月〜:岐阜大学 保健管理センター(非常勤講師)、岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
所属等学会:
日本内科学会(認定内科医)
日本消化器病学会(専門医)
日本肝臓学会(専門医)
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本臨床栄養代謝学(認定医)
日本病態栄養学会
日本門脈圧亢進症学会
日本超音波医学会
表彰:
2017年度:第233回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2017年度:第234回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2018年度:第237回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2019年度:第239回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2021年度:JDDW2021 若手奨励賞
2022年度:JDDW2021 The Best Presenter Award in International Session 
  第26回日本病態栄養学会年次学術集会 若手研究特別賞

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