長良川アユ漁師と共同で落ちアユの産卵降河トリガーを解明
[23/05/30]
提供元:共同通信PRワイヤー
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〜温暖化影響で約1カ月の遅れを示唆〜
2023年5月30日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
長良川アユ漁師と共同で落ちアユの産卵降河トリガーを解明 〜温暖化影響で約1カ月の遅れを示唆〜
【本研究のポイント】
・漁師、県、大学等の協働により、長良川を下るアユの動きを捉えることができた。これにより、日本を代表する淡水魚であるアユの生態について新たな科学的知見を得ることができた。
・秋のアユの産卵降河は、「水温低下(日平均で約18℃以下)+増水(規模に依らない)」という段階的な2つのトリガーによって生じることが分かった。
・近年、この「水温低下」の条件が満たされる時期は10月中下旬以降であり、これがアユの産卵降河とそれに続く産卵がおよそ半世紀前に比べて約1カ月遅れている主な要因と考えられた。すなわち温暖化影響と考えられた。
『秋、雨が降って川の水が冷たくなると、下流の産卵場に向けてアユが下ってくる』。これは、アユ漁師たちが長い経験の中から得た「落ちアユの産卵降河タイミング」に関する経験知でした。また最近では『秋になっても、なかなかアユが下ってこない』と、川やアユの変化に対する戸惑いが広がっていました。このたび、東海国立大学機構 岐阜大学地域環境変動適応研究センターの永山滋也特任助教と原田守啓センター長・准教授は、岐阜県水産研究所の藤井亮吏さん、(国研)国立環境研究所の末吉正尚さんと共同研究を行い、長良川の7つの漁場で漁をする漁師の協力で得られた日々の漁獲量データを分析して、アユが産卵のために川を下るのに必要な環境条件を明らかにしました。
本研究は、日本時間2023年5月22日にFisheries Science誌のオンライン版で発表されました。
【研究背景】
・アユは代表的な水産重要種であり、明治以来、水産増殖学的研究は盛んに行われてきた。しかし、実際の川における生態学的研究は意外にも少なく、多くの知見は漁師や釣り人の経験知によるものであった。
・秋のアユの産卵降河行動が雨や水温に関連して生じることはよく知られた経験知の1つであった。しかし、アユが川を下り始める「きっかけ」について、予測に役立つほどの詳しい要因は未解明であった。
・また近年、落ちアユが川を下ってくる時期が遅くなっている要因として温暖化の影響が疑われていたが、明確な裏付けはないままだった。
・長良川には1300年の伝統を持つ鵜飼漁があり、「長良川の鮎」が世界農業遺産に認定されているなど、地域の自然資源としてのアユに対する社会的関心が高い中で、温暖化による影響が懸念されていた。
【研究方法】
・長良川本川を主とする中上流域(海から48.4〜119.4km)の7つの「瀬張り網漁場(図1)」において、漁師さんたちの協力を得て日々の漁獲データ(2020年・2021年の9〜11月)と水温を記録した。また、地形と降雨を考慮したモデルで流量を計算した。そして、毎日の漁獲量との関係を解析した。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305305969-O8-Ye5iIx77】
図1.瀬張り網漁の様子と漁獲されたアユ。用語解説も参照。
【研究結果】
・「アユの産卵降河行動は、1日の平均水温が約18℃を下回り、かつ雨が降って川が増水したときに活発になる」ことが明らかになった(図2)。つまり、「水温低下+増水」という段階的な2つの要因が、アユの産卵降河トリガーとして重要であった。増水の大小はあまり関係なく、水温が18℃以下であれば少しの増水でも、そのたびにアユは活発に川を下った。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305305969-O9-3JNRK7Cq】
図2.瀬張り網漁場における日々の平均水温、流量、漁獲尾数の推移(2020年鏡島サイトの例)。水温が18℃を下回った10月中旬以降、流量が増大(増水)したタイミングでアユの漁獲尾数も増えた。
【研究の意義】
・日本の河川における代表的な魚種であるアユの生態のうち、産卵降河が引き起こされるためには水温低下が第一の条件となることを明らかにした。
・近年、「水温低下(日平均で約18℃以下)」の条件が満たされるのは10月中下旬以降であり、これがアユの産卵降河とそれに続く産卵がおよそ半世紀前にくらべて約1カ月遅れている主な要因と考えられた。すなわち、温暖化の影響でアユの産卵降河と産卵が遅れている実態を示した。
・漁師が落ちアユ漁のタイミングを図り、効率的に漁を行うための実践的な知見を得た。また、自然資源を活用した地域の重要産業に資する実践的な知見を得た。
・漁師や県との協働によってアユへの温暖化影響を解明できたことは、温暖化によるアユの行動パターンの変化に対し、今後我々がどう向き合い対策をたてるかという「適応策」を共創する足掛かりとなる。
【今後の展開】
・アユにとって好適な水温は生活ステージ(産卵、孵化、稚魚など)ごとに異なる。そのため、温暖化によって水温変動のパターンが変われば、アユの様々な行動様式や分布範囲が変化すると予想される(既に生じている可能性が高い)。今後は、アユの孵化・孵化仔魚の生残といった、その他の重要な生活ステージに対する温暖化影響も検討し、アユの保全と持続的な利用に資する、より網羅的な研究を推進する。
【論文情報】
雑誌名:Fisheries Science
論文タイトル:Low water temperature and increased discharge trigger downstream spawning migration of ayu Plecoglossus altivelis
著者:Shigeya Nagayama(永山滋也)、 Ryouji Fujii(藤井亮吏)、 Morihiro Harada(原田守啓)、 Masanao Sueyoshi(末吉正尚)
DOI: 10.1007/s12562-023-01694-6
本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20202004、研究代表者:原田守啓)などの支援を受けて行ったものであり、岐阜県・岐阜大学が共同設置運営する岐阜県気候変動適応センターにおける共同研究事業の一環として取り組まれたものです。
【用語解説】
1)アユの産卵降河(行動):
秋に川の中下流部を目指して、産卵のために上流からアユが下ってくること。春にアユが海から川へ遡上する様子は風物詩となっている。遡上したアユは山間地・上流域まで広範囲に分布を広げ、夏の間そこで成長する。そして、秋になると、産卵のために中下流部に向けて一斉に川を下って来る。産卵後は死亡する「年魚」でもある。
2)瀬張り網漁:
秋に川を下ってくるアユを捕らえる伝統漁法。水面に張ったロープと河床に沈めたビニール等の明色に驚いて滞留するアユの群れを投げ網で捕らえる。
2023年5月30日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
長良川アユ漁師と共同で落ちアユの産卵降河トリガーを解明 〜温暖化影響で約1カ月の遅れを示唆〜
【本研究のポイント】
・漁師、県、大学等の協働により、長良川を下るアユの動きを捉えることができた。これにより、日本を代表する淡水魚であるアユの生態について新たな科学的知見を得ることができた。
・秋のアユの産卵降河は、「水温低下(日平均で約18℃以下)+増水(規模に依らない)」という段階的な2つのトリガーによって生じることが分かった。
・近年、この「水温低下」の条件が満たされる時期は10月中下旬以降であり、これがアユの産卵降河とそれに続く産卵がおよそ半世紀前に比べて約1カ月遅れている主な要因と考えられた。すなわち温暖化影響と考えられた。
『秋、雨が降って川の水が冷たくなると、下流の産卵場に向けてアユが下ってくる』。これは、アユ漁師たちが長い経験の中から得た「落ちアユの産卵降河タイミング」に関する経験知でした。また最近では『秋になっても、なかなかアユが下ってこない』と、川やアユの変化に対する戸惑いが広がっていました。このたび、東海国立大学機構 岐阜大学地域環境変動適応研究センターの永山滋也特任助教と原田守啓センター長・准教授は、岐阜県水産研究所の藤井亮吏さん、(国研)国立環境研究所の末吉正尚さんと共同研究を行い、長良川の7つの漁場で漁をする漁師の協力で得られた日々の漁獲量データを分析して、アユが産卵のために川を下るのに必要な環境条件を明らかにしました。
本研究は、日本時間2023年5月22日にFisheries Science誌のオンライン版で発表されました。
【研究背景】
・アユは代表的な水産重要種であり、明治以来、水産増殖学的研究は盛んに行われてきた。しかし、実際の川における生態学的研究は意外にも少なく、多くの知見は漁師や釣り人の経験知によるものであった。
・秋のアユの産卵降河行動が雨や水温に関連して生じることはよく知られた経験知の1つであった。しかし、アユが川を下り始める「きっかけ」について、予測に役立つほどの詳しい要因は未解明であった。
・また近年、落ちアユが川を下ってくる時期が遅くなっている要因として温暖化の影響が疑われていたが、明確な裏付けはないままだった。
・長良川には1300年の伝統を持つ鵜飼漁があり、「長良川の鮎」が世界農業遺産に認定されているなど、地域の自然資源としてのアユに対する社会的関心が高い中で、温暖化による影響が懸念されていた。
【研究方法】
・長良川本川を主とする中上流域(海から48.4〜119.4km)の7つの「瀬張り網漁場(図1)」において、漁師さんたちの協力を得て日々の漁獲データ(2020年・2021年の9〜11月)と水温を記録した。また、地形と降雨を考慮したモデルで流量を計算した。そして、毎日の漁獲量との関係を解析した。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305305969-O8-Ye5iIx77】
図1.瀬張り網漁の様子と漁獲されたアユ。用語解説も参照。
【研究結果】
・「アユの産卵降河行動は、1日の平均水温が約18℃を下回り、かつ雨が降って川が増水したときに活発になる」ことが明らかになった(図2)。つまり、「水温低下+増水」という段階的な2つの要因が、アユの産卵降河トリガーとして重要であった。増水の大小はあまり関係なく、水温が18℃以下であれば少しの増水でも、そのたびにアユは活発に川を下った。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202305305969-O9-3JNRK7Cq】
図2.瀬張り網漁場における日々の平均水温、流量、漁獲尾数の推移(2020年鏡島サイトの例)。水温が18℃を下回った10月中旬以降、流量が増大(増水)したタイミングでアユの漁獲尾数も増えた。
【研究の意義】
・日本の河川における代表的な魚種であるアユの生態のうち、産卵降河が引き起こされるためには水温低下が第一の条件となることを明らかにした。
・近年、「水温低下(日平均で約18℃以下)」の条件が満たされるのは10月中下旬以降であり、これがアユの産卵降河とそれに続く産卵がおよそ半世紀前にくらべて約1カ月遅れている主な要因と考えられた。すなわち、温暖化の影響でアユの産卵降河と産卵が遅れている実態を示した。
・漁師が落ちアユ漁のタイミングを図り、効率的に漁を行うための実践的な知見を得た。また、自然資源を活用した地域の重要産業に資する実践的な知見を得た。
・漁師や県との協働によってアユへの温暖化影響を解明できたことは、温暖化によるアユの行動パターンの変化に対し、今後我々がどう向き合い対策をたてるかという「適応策」を共創する足掛かりとなる。
【今後の展開】
・アユにとって好適な水温は生活ステージ(産卵、孵化、稚魚など)ごとに異なる。そのため、温暖化によって水温変動のパターンが変われば、アユの様々な行動様式や分布範囲が変化すると予想される(既に生じている可能性が高い)。今後は、アユの孵化・孵化仔魚の生残といった、その他の重要な生活ステージに対する温暖化影響も検討し、アユの保全と持続的な利用に資する、より網羅的な研究を推進する。
【論文情報】
雑誌名:Fisheries Science
論文タイトル:Low water temperature and increased discharge trigger downstream spawning migration of ayu Plecoglossus altivelis
著者:Shigeya Nagayama(永山滋也)、 Ryouji Fujii(藤井亮吏)、 Morihiro Harada(原田守啓)、 Masanao Sueyoshi(末吉正尚)
DOI: 10.1007/s12562-023-01694-6
本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20202004、研究代表者:原田守啓)などの支援を受けて行ったものであり、岐阜県・岐阜大学が共同設置運営する岐阜県気候変動適応センターにおける共同研究事業の一環として取り組まれたものです。
【用語解説】
1)アユの産卵降河(行動):
秋に川の中下流部を目指して、産卵のために上流からアユが下ってくること。春にアユが海から川へ遡上する様子は風物詩となっている。遡上したアユは山間地・上流域まで広範囲に分布を広げ、夏の間そこで成長する。そして、秋になると、産卵のために中下流部に向けて一斉に川を下って来る。産卵後は死亡する「年魚」でもある。
2)瀬張り網漁:
秋に川を下ってくるアユを捕らえる伝統漁法。水面に張ったロープと河床に沈めたビニール等の明色に驚いて滞留するアユの群れを投げ網で捕らえる。