若年成人男性における脂肪性肝疾患と体組成の関係を解明
[23/08/02]
提供元:共同通信PRワイヤー
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肥満者と非肥満者の病態の違いに着目
2023年8月2日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
若年成人男性における脂肪性肝疾患と体組成の関係を解明 肥満者と非肥満者の病態の違いに着目
【本研究のポイント】
・肥満人口の増加に伴い、代謝異常関連脂肪性肝疾患および非アルコール性脂肪性肝疾患は増加しているが、若年世代での実態や体組成との関係は明らかではない。
・年齢中央値22歳の若年成人男性において8%が代謝異常関連脂肪性肝疾患、16%が非アルコール性脂肪性肝疾患を有した。
・脂肪性肝疾患と体組成の関係は体脂肪量が代謝異常関連脂肪性肝疾患および非アルコール性脂肪性肝疾患と関連する因子であり、非肥満者においては体脂肪量に加えて骨格筋量や血清中性脂肪値など包括的な病態把握が必要であることが示唆された。
・本研究結果により、若年成人男性における脂肪性肝疾患の現状が明らかになり、個人の病態に応じた栄養療法・運動療法を含む予防および治療方針の策定に寄与することが期待される。
【研究概要】
近年、肥満人口の増加により脂肪性肝疾患に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされています。東海国立大学機構 岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、若年成人男性の体組成と代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)1)および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)2)との関連を明らかにしました。
本研究では、健康診断を受診した男子大学院生335名を対象とし、MAFLDおよびNAFLDに関連する因子に関して生体電気インピーダンス法による体組成測定(骨格筋量, 体脂肪量)3)を含めて検討しました。年齢中央値22歳の若年成人男性において肥満(BMI ? 25 kg/m2)は9%、MAFLDは8%、NAFLDは16%、それぞれ有していました(図1)。参加者全体では、体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDと関連する因子でした。また、非肥満者(BMI < 25 kg/m2)においても体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDと関連する因子であり、いわゆる「かくれ肥満」が脂肪性肝疾患に関与することが明らかとなりました。決定木解析4)の結果、全体ではBMIが脂肪性肝疾患を規定する第一の因子であり、非肥満者では第一にBMI、第二に骨格筋量が抽出されました(図2)。また、体組成と各血液検査を含むランダムフォレスト解析5)の結果、全体ではBMIが、非肥満者では血清中性脂肪値が脂肪性肝疾患に寄与する因子でした(図3)。以上のことから、若年成人男性において肥満が脂肪性肝疾患を規定する重要な因子であり、非肥満者では体脂肪量に加えて骨格筋量や血清中性脂肪値など包括的な病態把握が必要であることが示唆されました。
三輪貴生医師らの研究により年齢中央値22歳の若年男性の17%に脂肪肝があり、そのうち半数は肥満や脂質異常などの代謝異常に関連することが明らかとなりました。また、若年の脂肪性肝疾患と体組成の関係を明らかにすることで、若年世代からの予防法および介入法の確立に寄与することが期待されます。
本研究成果は、日本時間2023年8月1日付でHepatology Research誌53巻8号に掲載されました。
【研究背景】
肥満人口の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)は世界的に増加傾向であり、本邦でも今後NAFLDが増加することが見込まれています。近年、脂肪性肝疾患の新概念として脂肪肝と「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」を併発することで診断する代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)が提唱されました。MAFLDはNAFLDの高リスク因子を包括した概念であるため、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の発生リスクが高い患者を効率的に同定することが期待されています。しかし、若年世代におけるMAFLDおよびNAFLDの現状と体組成との関係に関しては明らかではありません。本研究では、若年成人男性を対象としてMAFLDおよびNAFLDの現状と体組成を含む関連因子に関して検討しました。
【研究成果】
本研究では本学入学時健康診断を受診した男子大学院生335名を対象とし、通常の健康診断項目に加えて腹部超音波検査と生体電気インピーダンス法による体組成測定、握力測定を行い、MAFLDおよびNAFLDの現状と体組成を含む関連する因子に関して検討しました。参加者の年齢中央値は22歳、body mass index(BMI)中央値は21 kg/m2であり、9%がBMI 25 kg/m2以上の肥満症を有しました。腹部超音波検査により脂肪肝は全体の17%が有し、8%がMAFLD、16%がNAFLDと判定されました。また、8%はMAFLDおよびNAFLDの両者を有していました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306156363-O5-uyBG467A】
体組成とMAFLDおよびNAFLDとの関連に関する検討では、年齢、骨格筋量(skeletal muscle mass index)、体脂肪量(fat mass index)、握力を含めた多変量解析を行い、体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDを規定する独立因子であることが明らかとなりました。また、非肥満(BMI < 25 kg/m2)の参加者305名を対象として同様の多変量解析を行ったところ、非肥満の参加者においても体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDを規定する独立因子でした。このことから、日本人若年成人男性において体脂肪の蓄積は、新規概念であるMAFLDと既存概念であるNAFLDの両者を規定する重要な因子であることが明らかとなりました。また、非肥満の日本人若年成人男性においても、脂肪の蓄積がMAFLDおよびNAFLDの原因となることが明らかとなりました。これらの因子を用いた決定木解析やランダムフォレスト解析でも同様の解析結果でした。以上のことによりBMIでは正常体重と判定されるが、実際には脂肪が蓄積している「かくれ肥満」が若年成人男性の脂肪性肝疾患を規定する重要な因子であることがわかりました。
次に日常診療における体組成の簡易指標であるBMIの役割を明らかにするため、年齢、BMI、骨格筋量、体脂肪量、握力を含めて決定木解析を行いました。参加者全体ではMAFLDおよびNAFLDを規定する因子としてBMIが抽出され、日常診療における脂肪性肝疾患の簡易指標としてのBMIの有用性が明らかとなりました(図2a、2b)。また、非肥満の参加者では第一にBMI、第二に骨格筋量が抽出されました(図2c、2d)。このことからBMIは非肥満の対象者においてもMAFLDおよびNAFLDの簡易指標となり、脂肪蓄積に次いで骨格筋量が脂肪性肝疾患の病態に寄与していることが明らかとなりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306156363-O6-DHaft34y】
最後に各内分泌代謝異常を代表する血液検査指標および体組成を含めてランダムフォレスト解析を行いました。ランダムフォレスト解析では参加者全体においてBMIがMAFLDおよびNAFLDに最も寄与する因子であり、非肥満の参加者では血清中性脂肪値がMAFLDおよびNAFLDに最も寄与する因子であることが明らかとなりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306156363-O7-3B5Yqt7G】
以上のことから、年齢中央値22歳の若年成人男性において8%がMAFLD、16%がNAFLDを有し、体脂肪量が病態に重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。また、非肥満の脂肪性肝疾患に関しては体脂肪量のみならず骨格筋量や血清中性脂肪値を含めた包括的なアセスメントが必要であることが示唆されました。本研究結果により、若年成人男性における脂肪性肝疾患の現状が明らかになり、個人の病態に応じた予防および治療方針の策定に寄与することが期待されます。
【今後の展開】
本研究により、若年成人男性における脂肪性肝疾患と体組成の関係が明らかになりました。この知見により若年世代での脂肪性肝疾患の病態理解および早期発見につながる可能性があります。また体組成を含む個人の病態に応じた栄養・運動療法を行うことにより、若年世代からの脂肪性肝疾患への介入方法を確立し、肝硬変、肝発癌、心臓血管疾患を含めた予後改善につながることが期待されます。
【論文情報】
雑誌名:Hepatology Research
論文タイトル:Impact of body fat accumulation on metabolic dysfunction-associated fatty liver disease and nonalcoholic fatty liver disease in Japanese male young adults
著者: Takao Miwa1,2, Cathelencia Francisque3, Satoko Tajirika1,2, Tatsunori Hanai2, Nanako Imamura1, Miho Adachi1, Ryo Horita1, Lynette J Menezes3, Takumi Kawaguchi4, Masahito Shimizu2, and Mayumi Yamamoto1,5
1 岐阜大学保健管理センター
2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学
3 南フロリダ大学医学部
4 久留米大学医学部内科学部講座消化器内科部門
5 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科医療情報学専攻
DOI:10.1111/hepr.13906
【用語解説】
1) 代謝異常関連脂肪性肝疾患:
代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)は2020年に世界22か国32名の専門医からなる国際専門研究班により提唱された脂肪性肝疾患の新概念である。MAFLDは脂肪肝に加えて「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」のいずれかが併存することで診断する。MAFLDは脂肪性肝疾患における高リスク因子を包括した疾患概念であり、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の高リスク患者を効率的に同定することが期待されている。
2) 非アルコール性脂肪性肝疾患:
従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。NAFLDの診断は脂肪肝の原因となる他の肝疾患の除外に基づく。NAFLDの診断概念より過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも肝硬変や肝発癌を来たす可能性があることが広く認知された。
3) 生体電気インピーダンス法による体組成測定:
生体電気インピーダンス法は生体に微弱な電流を流すことでその電気抵抗を測定し、簡便、低侵襲、短時間に体組成を測定することができる方法である。生体電気インピーダンス法で測定する指標の代表項目として骨格筋量の指標であるskeletal muscle mass index、脂肪量の指標であるfat mass indexがある。
4) 決定木解析:
決定木解析はデータの中から決定木と呼ばれる樹形図を作成して解析する方法である。決定木は目的の予測や目的に影響している因子の検証に活用することが可能であり、機械学習、マーケティング、意思決定などの場面で利用される。
5) ランダムフォレスト解析:
ランダムフォレスト解析はデータ全体の中からランダムにデータを抽出して複数の決定木解析を行い、最終的に複数の決定木の平均を求めることで精度の高い結果が得られる解析方法である。
【研究者プロフィール】
氏名: 三輪 貴生 (Miwa Takao)
機関: 東海国立大学機構 岐阜大学
所属・職名: 岐阜大学保健管理センター・非常勤講師
学歴(大学):
2015年:岐阜大学医学部医学科卒業
2021年〜:岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻(消化器内科学分野在学中)
勤務歴:
2015年4月〜2016年6月:岐阜市民病院(研修医)
2016年7月〜2017年3月:岐阜大学医学部附属病院 (研修医)
2017年4月〜2018年3月:岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
2018年4月〜2020年9月:中濃厚生病院(医員)
2020年10月〜2022年3月:岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
2022年4月〜2023年4月:岐阜大学 保健管理センター(助教)
2023年4月〜:岐阜大学 保健管理センター(非常勤講師)、岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
所属等学会:
日本内科学会(認定内科医)
日本消化器病学会(専門医)
日本肝臓学会(専門医)
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本臨床栄養代謝学(認定医)
日本病態栄養学会
日本門脈圧亢進症学会
日本超音波医学会
表彰:
2017年度:第233回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2017年度:第234回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2018年度:第237回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2019年度:第239回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2021年度:JDDW2021 若手奨励賞
2022年度:JDDW2021 The Best Presenter Award in International Session
第26回日本病態栄養学会年次学術集会 若手研究特別賞
2023年8月2日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
若年成人男性における脂肪性肝疾患と体組成の関係を解明 肥満者と非肥満者の病態の違いに着目
【本研究のポイント】
・肥満人口の増加に伴い、代謝異常関連脂肪性肝疾患および非アルコール性脂肪性肝疾患は増加しているが、若年世代での実態や体組成との関係は明らかではない。
・年齢中央値22歳の若年成人男性において8%が代謝異常関連脂肪性肝疾患、16%が非アルコール性脂肪性肝疾患を有した。
・脂肪性肝疾患と体組成の関係は体脂肪量が代謝異常関連脂肪性肝疾患および非アルコール性脂肪性肝疾患と関連する因子であり、非肥満者においては体脂肪量に加えて骨格筋量や血清中性脂肪値など包括的な病態把握が必要であることが示唆された。
・本研究結果により、若年成人男性における脂肪性肝疾患の現状が明らかになり、個人の病態に応じた栄養療法・運動療法を含む予防および治療方針の策定に寄与することが期待される。
【研究概要】
近年、肥満人口の増加により脂肪性肝疾患に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされています。東海国立大学機構 岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、若年成人男性の体組成と代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)1)および非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)2)との関連を明らかにしました。
本研究では、健康診断を受診した男子大学院生335名を対象とし、MAFLDおよびNAFLDに関連する因子に関して生体電気インピーダンス法による体組成測定(骨格筋量, 体脂肪量)3)を含めて検討しました。年齢中央値22歳の若年成人男性において肥満(BMI ? 25 kg/m2)は9%、MAFLDは8%、NAFLDは16%、それぞれ有していました(図1)。参加者全体では、体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDと関連する因子でした。また、非肥満者(BMI < 25 kg/m2)においても体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDと関連する因子であり、いわゆる「かくれ肥満」が脂肪性肝疾患に関与することが明らかとなりました。決定木解析4)の結果、全体ではBMIが脂肪性肝疾患を規定する第一の因子であり、非肥満者では第一にBMI、第二に骨格筋量が抽出されました(図2)。また、体組成と各血液検査を含むランダムフォレスト解析5)の結果、全体ではBMIが、非肥満者では血清中性脂肪値が脂肪性肝疾患に寄与する因子でした(図3)。以上のことから、若年成人男性において肥満が脂肪性肝疾患を規定する重要な因子であり、非肥満者では体脂肪量に加えて骨格筋量や血清中性脂肪値など包括的な病態把握が必要であることが示唆されました。
三輪貴生医師らの研究により年齢中央値22歳の若年男性の17%に脂肪肝があり、そのうち半数は肥満や脂質異常などの代謝異常に関連することが明らかとなりました。また、若年の脂肪性肝疾患と体組成の関係を明らかにすることで、若年世代からの予防法および介入法の確立に寄与することが期待されます。
本研究成果は、日本時間2023年8月1日付でHepatology Research誌53巻8号に掲載されました。
【研究背景】
肥満人口の増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)は世界的に増加傾向であり、本邦でも今後NAFLDが増加することが見込まれています。近年、脂肪性肝疾患の新概念として脂肪肝と「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」を併発することで診断する代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)が提唱されました。MAFLDはNAFLDの高リスク因子を包括した概念であるため、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の発生リスクが高い患者を効率的に同定することが期待されています。しかし、若年世代におけるMAFLDおよびNAFLDの現状と体組成との関係に関しては明らかではありません。本研究では、若年成人男性を対象としてMAFLDおよびNAFLDの現状と体組成を含む関連因子に関して検討しました。
【研究成果】
本研究では本学入学時健康診断を受診した男子大学院生335名を対象とし、通常の健康診断項目に加えて腹部超音波検査と生体電気インピーダンス法による体組成測定、握力測定を行い、MAFLDおよびNAFLDの現状と体組成を含む関連する因子に関して検討しました。参加者の年齢中央値は22歳、body mass index(BMI)中央値は21 kg/m2であり、9%がBMI 25 kg/m2以上の肥満症を有しました。腹部超音波検査により脂肪肝は全体の17%が有し、8%がMAFLD、16%がNAFLDと判定されました。また、8%はMAFLDおよびNAFLDの両者を有していました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306156363-O5-uyBG467A】
体組成とMAFLDおよびNAFLDとの関連に関する検討では、年齢、骨格筋量(skeletal muscle mass index)、体脂肪量(fat mass index)、握力を含めた多変量解析を行い、体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDを規定する独立因子であることが明らかとなりました。また、非肥満(BMI < 25 kg/m2)の参加者305名を対象として同様の多変量解析を行ったところ、非肥満の参加者においても体脂肪量がMAFLDおよびNAFLDを規定する独立因子でした。このことから、日本人若年成人男性において体脂肪の蓄積は、新規概念であるMAFLDと既存概念であるNAFLDの両者を規定する重要な因子であることが明らかとなりました。また、非肥満の日本人若年成人男性においても、脂肪の蓄積がMAFLDおよびNAFLDの原因となることが明らかとなりました。これらの因子を用いた決定木解析やランダムフォレスト解析でも同様の解析結果でした。以上のことによりBMIでは正常体重と判定されるが、実際には脂肪が蓄積している「かくれ肥満」が若年成人男性の脂肪性肝疾患を規定する重要な因子であることがわかりました。
次に日常診療における体組成の簡易指標であるBMIの役割を明らかにするため、年齢、BMI、骨格筋量、体脂肪量、握力を含めて決定木解析を行いました。参加者全体ではMAFLDおよびNAFLDを規定する因子としてBMIが抽出され、日常診療における脂肪性肝疾患の簡易指標としてのBMIの有用性が明らかとなりました(図2a、2b)。また、非肥満の参加者では第一にBMI、第二に骨格筋量が抽出されました(図2c、2d)。このことからBMIは非肥満の対象者においてもMAFLDおよびNAFLDの簡易指標となり、脂肪蓄積に次いで骨格筋量が脂肪性肝疾患の病態に寄与していることが明らかとなりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306156363-O6-DHaft34y】
最後に各内分泌代謝異常を代表する血液検査指標および体組成を含めてランダムフォレスト解析を行いました。ランダムフォレスト解析では参加者全体においてBMIがMAFLDおよびNAFLDに最も寄与する因子であり、非肥満の参加者では血清中性脂肪値がMAFLDおよびNAFLDに最も寄与する因子であることが明らかとなりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202306156363-O7-3B5Yqt7G】
以上のことから、年齢中央値22歳の若年成人男性において8%がMAFLD、16%がNAFLDを有し、体脂肪量が病態に重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。また、非肥満の脂肪性肝疾患に関しては体脂肪量のみならず骨格筋量や血清中性脂肪値を含めた包括的なアセスメントが必要であることが示唆されました。本研究結果により、若年成人男性における脂肪性肝疾患の現状が明らかになり、個人の病態に応じた予防および治療方針の策定に寄与することが期待されます。
【今後の展開】
本研究により、若年成人男性における脂肪性肝疾患と体組成の関係が明らかになりました。この知見により若年世代での脂肪性肝疾患の病態理解および早期発見につながる可能性があります。また体組成を含む個人の病態に応じた栄養・運動療法を行うことにより、若年世代からの脂肪性肝疾患への介入方法を確立し、肝硬変、肝発癌、心臓血管疾患を含めた予後改善につながることが期待されます。
【論文情報】
雑誌名:Hepatology Research
論文タイトル:Impact of body fat accumulation on metabolic dysfunction-associated fatty liver disease and nonalcoholic fatty liver disease in Japanese male young adults
著者: Takao Miwa1,2, Cathelencia Francisque3, Satoko Tajirika1,2, Tatsunori Hanai2, Nanako Imamura1, Miho Adachi1, Ryo Horita1, Lynette J Menezes3, Takumi Kawaguchi4, Masahito Shimizu2, and Mayumi Yamamoto1,5
1 岐阜大学保健管理センター
2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学
3 南フロリダ大学医学部
4 久留米大学医学部内科学部講座消化器内科部門
5 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科医療情報学専攻
DOI:10.1111/hepr.13906
【用語解説】
1) 代謝異常関連脂肪性肝疾患:
代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)は2020年に世界22か国32名の専門医からなる国際専門研究班により提唱された脂肪性肝疾患の新概念である。MAFLDは脂肪肝に加えて「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」のいずれかが併存することで診断する。MAFLDは脂肪性肝疾患における高リスク因子を包括した疾患概念であり、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の高リスク患者を効率的に同定することが期待されている。
2) 非アルコール性脂肪性肝疾患:
従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。NAFLDの診断は脂肪肝の原因となる他の肝疾患の除外に基づく。NAFLDの診断概念より過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも肝硬変や肝発癌を来たす可能性があることが広く認知された。
3) 生体電気インピーダンス法による体組成測定:
生体電気インピーダンス法は生体に微弱な電流を流すことでその電気抵抗を測定し、簡便、低侵襲、短時間に体組成を測定することができる方法である。生体電気インピーダンス法で測定する指標の代表項目として骨格筋量の指標であるskeletal muscle mass index、脂肪量の指標であるfat mass indexがある。
4) 決定木解析:
決定木解析はデータの中から決定木と呼ばれる樹形図を作成して解析する方法である。決定木は目的の予測や目的に影響している因子の検証に活用することが可能であり、機械学習、マーケティング、意思決定などの場面で利用される。
5) ランダムフォレスト解析:
ランダムフォレスト解析はデータ全体の中からランダムにデータを抽出して複数の決定木解析を行い、最終的に複数の決定木の平均を求めることで精度の高い結果が得られる解析方法である。
【研究者プロフィール】
氏名: 三輪 貴生 (Miwa Takao)
機関: 東海国立大学機構 岐阜大学
所属・職名: 岐阜大学保健管理センター・非常勤講師
学歴(大学):
2015年:岐阜大学医学部医学科卒業
2021年〜:岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻(消化器内科学分野在学中)
勤務歴:
2015年4月〜2016年6月:岐阜市民病院(研修医)
2016年7月〜2017年3月:岐阜大学医学部附属病院 (研修医)
2017年4月〜2018年3月:岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
2018年4月〜2020年9月:中濃厚生病院(医員)
2020年10月〜2022年3月:岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
2022年4月〜2023年4月:岐阜大学 保健管理センター(助教)
2023年4月〜:岐阜大学 保健管理センター(非常勤講師)、岐阜大学医学部附属病院 第1内科(医員)
所属等学会:
日本内科学会(認定内科医)
日本消化器病学会(専門医)
日本肝臓学会(専門医)
日本消化器内視鏡学会(専門医)
日本臨床栄養代謝学(認定医)
日本病態栄養学会
日本門脈圧亢進症学会
日本超音波医学会
表彰:
2017年度:第233回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2017年度:第234回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2018年度:第237回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2019年度:第239回日本内科学会東海地方会 若手優秀演題賞
2021年度:JDDW2021 若手奨励賞
2022年度:JDDW2021 The Best Presenter Award in International Session
第26回日本病態栄養学会年次学術集会 若手研究特別賞