ステップアンバンチング現象の発見
[23/07/20]
提供元:共同通信PRワイヤー
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半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術
2023年7月20日
早稲田大学
名古屋大学
日本原子力研究開発機構
ステップアンバンチング現象の発見
半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202307197254/_prw_PT1fl_JAaWfG0c.png】
早稲田大学理工学術院の乗松 航(のりまつ わたる)教授(名古屋大学客員教授)らの研究グループは、名古屋大学博士後期課程学生の榊原 涼太郎(さかきばら りょうたろう)、中国内モンゴル民族大学講師の包 建峰(ほう けんほう)、日本原子力研究開発機構研究員の寺澤 知潮(てらさわ ともお)、名古屋大学未来材料システム研究所名誉教授の楠 美智子(くすのき みちこ)らとの共同研究で、半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術として応用可能な、ステップアンバンチング現象を発見しました。
パワーデバイス材料として使われる半導体であるSiCにおいて、ウェハの表面を原子レベルで平坦にすることは、デバイス特性や新材料作製に関して極めて重要です。SiCウェハ表面は、ステップと呼ばれる原子1個程度の高さ(約0.25 nm)の段差を持っています。SiCを加熱すると、表面の原子が移動することでステップが集まり、はじめに1〜1.5 nmの高さステップを形成し、さらに高温で加熱すると数nm〜数十nmのステップになります。これはステップバンチング※3と呼ばれ、ステップが次第に高くなっていくことはあっても、低くなることはないと旧来考えられてきました。このたび本研究グループは、ある特定の条件下に置くと、一旦高くなったステップが低くなることを見出しました。これをステップアンバンチング現象と名付けました。
従来の半導体製造技術には、表面は非常に平坦にできるものの加工によるダメージ層が残る手法や、ダメージ層はないものの表面が少し荒くなる手法はありました。それに対して本研究の手法では、単一のシンプルなプロセスで、ダメージ層もなく原子レベルで平坦な表面を得ることができます。従って、半導体製造工程のコストと時間を大幅に削減できる可能性があると期待されます。
本成果は、2023年7月19日(水)付(現地時間)で、米国物理学協会が発行する『Applied Physics Letters』誌に掲載されました。本研究は、文科省科研費基盤研究Bや、早稲田大学各務記念材料技術研究所共同利用・共同研究拠点事業などの支援のもとで行われたものです。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202307197254-O1-qifKH66r】
■ 研究の波及効果や社会的影響
SiCのステップバンチング現象に関して、MSB、LSB共にこれまで多くの議論が行われ、様々なメカニズムが提案されてきました。それらのメカニズムに基づくと、LSBが生じた後にMSBが生じる現象を単純に説明することはできません。そのため、本成果は表面科学理論に一石を投じるものと考えられます。
また、一般的な半導体製造プロセスにおいて、インゴットを切断してウェハとし、その表面を機械研磨した後で、CMPと水素エッチング※4処理が施されます。CMPだけでは加工ダメージ層が残り、単純な水素エッチングだけではLSBが生じてしまいます。それに対して、研磨痕の残るSiC表面に対して、Ar/4%H2雰囲気中でまず高温で処理することで研磨痕を除去し、その後低温で保持すれば、原子レベルで平坦な表面を得ることができます。すなわち、本技術によって、加工ダメージ層もなく原子レベルで平坦な表面を得られる上に、CMPを含むプロセスを削減できる可能性があります。これは、半導体製造工程をシンプルにすることができるため、大幅なコスト・時間の削減が可能になることも期待されます。
■今後の課題
本研究では、半導体としてSiCのみを対象としました。一方で、半導体としては窒化ガリウム(GaN)やヒ化ガリウム(GaAs)など、他にも様々な物質があります。これらに関しても、結晶構造が類似していることからステップアンバンチングが生じる可能性があります。他の半導体物質への本技術の適用が今後の課題です。
■用語解説
※1 SiC
ケイ素Siと炭素Cからなる半導体物質。Siよりバンドギャップが大きいためワイドギャップ半導体と呼ばれ、耐電圧性が高いことから電力変換などのパワー半導体として用いられている。
※2 化学機械研磨(CMP)
半導体基板表面を機械的に研磨する際に、研磨液に酸・アルカリなどを含めることで、その化学作用によって極めて平坦な研磨面を高速で得る技術。SiCでは、最小構造単位である高さ0.25 nmのステップのみで形成された図2(b)のような表面を得ることができる。半導体製造プロセスに必須の技術であるが、室温で機械的に加工するため、表面近傍に加工ダメージ層が残ることが課題。
※3 ステップバンチング
高さの低いステップが集まって高いステップになる現象。bunchとは、束になるという意味。SiCにおいて、最小高さ0.25 nmのステップが4あるいは6つ集まって1.0あるいは1.5 nmの高さのステップになるMSBと、それらがさらに複数集まって数nm〜数十nmの高さになるLSBに分かれる。MSBはエネルギー論的に安定な表面が現れることで生じ、LSBは外因性の速度論的な効果で生じると考えられている。
※4 水素エッチング
SiやSiCなどの半導体を、水素を含む雰囲気で、千数百度で加熱すると、表面からSiやCが水素によって除去される現象。加工ダメージ層も合わせて除去することができるが、ステップバンチング現象が同時に起こるため、ステップの高さは図2(c)のように数nm〜数十nmとなってしまう。
■論文情報
雑誌名:Applied Physics Letters
論文名:Step unbunching phenomenon on 4H-SiC (0001) surface during hydrogen etching
執筆者名(所属機関名、役割):Ryotaro Sakakibara (名古屋大学、実験・解析・論文執筆)、Jianfeng Bao (名古屋大学・内モンゴル民族大学、実験・解析・論文編集)、Keisuke Yuhara (名古屋大学、実験)、Keita Matsuda (名古屋大学、実験・解析)、Tomo-o Terasawa (名古屋大学・日本原子力研究開発機構、実験・解析・論文編集)、Michiko Kusunoki (名古屋大学、解析・論文編集)、and Wataru Norimatsu (名古屋大学・早稲田大学、総括・解析・論文執筆)
掲載日(現地時間):2023年7月19日(水)
掲載URL:https://pubs.aip.org/aip/apl/issue/123/3
DOI:https://doi.org/10.1063/5.0153565
※記事にされる場合には https://doi.org/10.1063/5.0153565 の掲載をお願いいたします。
2023年7月20日
早稲田大学
名古屋大学
日本原子力研究開発機構
ステップアンバンチング現象の発見
半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202307197254/_prw_PT1fl_JAaWfG0c.png】
早稲田大学理工学術院の乗松 航(のりまつ わたる)教授(名古屋大学客員教授)らの研究グループは、名古屋大学博士後期課程学生の榊原 涼太郎(さかきばら りょうたろう)、中国内モンゴル民族大学講師の包 建峰(ほう けんほう)、日本原子力研究開発機構研究員の寺澤 知潮(てらさわ ともお)、名古屋大学未来材料システム研究所名誉教授の楠 美智子(くすのき みちこ)らとの共同研究で、半導体表面を原子レベルで平坦にする新技術として応用可能な、ステップアンバンチング現象を発見しました。
パワーデバイス材料として使われる半導体であるSiCにおいて、ウェハの表面を原子レベルで平坦にすることは、デバイス特性や新材料作製に関して極めて重要です。SiCウェハ表面は、ステップと呼ばれる原子1個程度の高さ(約0.25 nm)の段差を持っています。SiCを加熱すると、表面の原子が移動することでステップが集まり、はじめに1〜1.5 nmの高さステップを形成し、さらに高温で加熱すると数nm〜数十nmのステップになります。これはステップバンチング※3と呼ばれ、ステップが次第に高くなっていくことはあっても、低くなることはないと旧来考えられてきました。このたび本研究グループは、ある特定の条件下に置くと、一旦高くなったステップが低くなることを見出しました。これをステップアンバンチング現象と名付けました。
従来の半導体製造技術には、表面は非常に平坦にできるものの加工によるダメージ層が残る手法や、ダメージ層はないものの表面が少し荒くなる手法はありました。それに対して本研究の手法では、単一のシンプルなプロセスで、ダメージ層もなく原子レベルで平坦な表面を得ることができます。従って、半導体製造工程のコストと時間を大幅に削減できる可能性があると期待されます。
本成果は、2023年7月19日(水)付(現地時間)で、米国物理学協会が発行する『Applied Physics Letters』誌に掲載されました。本研究は、文科省科研費基盤研究Bや、早稲田大学各務記念材料技術研究所共同利用・共同研究拠点事業などの支援のもとで行われたものです。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202307197254-O1-qifKH66r】
■ 研究の波及効果や社会的影響
SiCのステップバンチング現象に関して、MSB、LSB共にこれまで多くの議論が行われ、様々なメカニズムが提案されてきました。それらのメカニズムに基づくと、LSBが生じた後にMSBが生じる現象を単純に説明することはできません。そのため、本成果は表面科学理論に一石を投じるものと考えられます。
また、一般的な半導体製造プロセスにおいて、インゴットを切断してウェハとし、その表面を機械研磨した後で、CMPと水素エッチング※4処理が施されます。CMPだけでは加工ダメージ層が残り、単純な水素エッチングだけではLSBが生じてしまいます。それに対して、研磨痕の残るSiC表面に対して、Ar/4%H2雰囲気中でまず高温で処理することで研磨痕を除去し、その後低温で保持すれば、原子レベルで平坦な表面を得ることができます。すなわち、本技術によって、加工ダメージ層もなく原子レベルで平坦な表面を得られる上に、CMPを含むプロセスを削減できる可能性があります。これは、半導体製造工程をシンプルにすることができるため、大幅なコスト・時間の削減が可能になることも期待されます。
■今後の課題
本研究では、半導体としてSiCのみを対象としました。一方で、半導体としては窒化ガリウム(GaN)やヒ化ガリウム(GaAs)など、他にも様々な物質があります。これらに関しても、結晶構造が類似していることからステップアンバンチングが生じる可能性があります。他の半導体物質への本技術の適用が今後の課題です。
■用語解説
※1 SiC
ケイ素Siと炭素Cからなる半導体物質。Siよりバンドギャップが大きいためワイドギャップ半導体と呼ばれ、耐電圧性が高いことから電力変換などのパワー半導体として用いられている。
※2 化学機械研磨(CMP)
半導体基板表面を機械的に研磨する際に、研磨液に酸・アルカリなどを含めることで、その化学作用によって極めて平坦な研磨面を高速で得る技術。SiCでは、最小構造単位である高さ0.25 nmのステップのみで形成された図2(b)のような表面を得ることができる。半導体製造プロセスに必須の技術であるが、室温で機械的に加工するため、表面近傍に加工ダメージ層が残ることが課題。
※3 ステップバンチング
高さの低いステップが集まって高いステップになる現象。bunchとは、束になるという意味。SiCにおいて、最小高さ0.25 nmのステップが4あるいは6つ集まって1.0あるいは1.5 nmの高さのステップになるMSBと、それらがさらに複数集まって数nm〜数十nmの高さになるLSBに分かれる。MSBはエネルギー論的に安定な表面が現れることで生じ、LSBは外因性の速度論的な効果で生じると考えられている。
※4 水素エッチング
SiやSiCなどの半導体を、水素を含む雰囲気で、千数百度で加熱すると、表面からSiやCが水素によって除去される現象。加工ダメージ層も合わせて除去することができるが、ステップバンチング現象が同時に起こるため、ステップの高さは図2(c)のように数nm〜数十nmとなってしまう。
■論文情報
雑誌名:Applied Physics Letters
論文名:Step unbunching phenomenon on 4H-SiC (0001) surface during hydrogen etching
執筆者名(所属機関名、役割):Ryotaro Sakakibara (名古屋大学、実験・解析・論文執筆)、Jianfeng Bao (名古屋大学・内モンゴル民族大学、実験・解析・論文編集)、Keisuke Yuhara (名古屋大学、実験)、Keita Matsuda (名古屋大学、実験・解析)、Tomo-o Terasawa (名古屋大学・日本原子力研究開発機構、実験・解析・論文編集)、Michiko Kusunoki (名古屋大学、解析・論文編集)、and Wataru Norimatsu (名古屋大学・早稲田大学、総括・解析・論文執筆)
掲載日(現地時間):2023年7月19日(水)
掲載URL:https://pubs.aip.org/aip/apl/issue/123/3
DOI:https://doi.org/10.1063/5.0153565
※記事にされる場合には https://doi.org/10.1063/5.0153565 の掲載をお願いいたします。