GIP受容体シグナル抑制はサルコペニア改善に寄与する
[23/11/02]
提供元:共同通信PRワイヤー
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国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
GIP受容体シグナル抑制はサルコペニア改善に寄与する
○ 概要
秋田大学(学長:山本文雄)大学院医学系研究科代謝・内分泌内科学講座の?橋侑也医員、藤田浩樹准教授、脇裕典教授は、関西電力医学研究所、藤田医科大学、岐阜大学との共同研究で、食後に分泌が増加する消化管ホルモンGIP (Gastric inhibitory polypeptide) が骨格筋の間葉系前駆細胞の脂肪分化を促進し、サルコペニア(老化による筋量・筋機能の低下)の一因となること、そして、このホルモンの作用シグナルを抑制することがサルコペニアの改善に繋がることを明らかにしました。本研究は、筋肉老化の新しいメカニズムを提示するのみならず、サルコペニアの新規治療法開発の基盤となることが期待されます。この研究成果は、国際医学誌『Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle』での掲載に先立ち、2023年10月27日にオンライン公開されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O9-f1EFh3q1】
研究概要の図
○ 研究の背景
我が国は世界有数の長寿国でありますが、平均寿命と健康寿命の間には男女とも約10年の乖離があり、健康寿命の延伸が課題となっています。身体を動かす筋肉を総称して骨格筋と呼びますが、骨格筋は身体を動かすのみならず、血糖値をはじめとした代謝調節の作用を持つなど健康を保つうえで重要な役割を果たしており、骨格筋を若い状態に維持することが健康寿命延伸には不可欠です。しかし、骨格筋は加齢に伴ってその量と機能が低下することが知られています。この骨格筋の老化をサルコペニアといい、近年解決すべき健康課題の一つとなっています。
サルコペニアは種々の要因で引き起こされますが、その一つに骨格筋内脂肪(Intramuscular adipose tissue, IMAT)蓄積があります。これは、いわば ”牛肉の霜降り”のごとく骨格筋内に脂肪が沈着している状態でありますが、これがヒトでも起こっており、加齢とともにこのIMATが増加し、IMATが増加すると筋力は低下することが示されています。骨格筋内にある間葉系前駆細胞 Fibro/adipogenic progenitors(FAPs)が脂肪細胞に分化(=特定の機能を持つ細胞に変化すること)して、IMATを構成することが知られていますが、これを調節するメカニズムについては十分明らかとなっていません。私たちは長年、GIPと呼ばれる消化管ホルモンを研究してきました。GIPは脂肪細胞の成熟化を促し、肥満を促進する作用があることから、このGIPが間葉系前駆細胞の脂肪分化の調節を介して、IMATを増加させると考え、研究に取り組みました。
○ 研究結果
まず、GIPの役割を明らかにするため、GIPの受け手であるGIP受容体を欠損している遺伝子改変マウス(GIP受容体欠損マウス)を高齢条件で検討を行いました。野生型マウス(=GIP受容体が働いている通常のマウス)では、高齢になると体脂肪率が増え、逆に筋肉量が減り、握力が弱くなります。しかし、GIP受容体欠損マウスは高齢になっても、骨格筋を含む除脂肪組織の割合が多く、脚の筋肉群は重量が大きく、また握力が強いことを示しました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O5-Q1Z2xl5u】
図1 高齢のGIP受容体欠損マウスにおいてサルコペニアが抑制されている
続いて、野生型マウスの骨格筋から間葉系前駆細胞を取り出して、この細胞の性質を調べました。間葉系前駆細胞にはGIP 受容体が発現しており、GIP を添加することで間葉系前駆細胞の脂肪分化の効率が上昇することがわかりました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O6-3z5H9A77】
図2 GIPは間葉系前駆細胞の脂肪分化を促進する
実験的にIMAT 形成を誘導する方法として、グリセロール筋注法があります。これはマウスの前脛骨筋と呼ばれる脚の筋肉にグリセロールを注射する実験方法です。GIP 受容体欠損マウスではグリセロール筋注後のIMAT 形成が抑制されていました。また、筋線維の断面積が大きくなっていることを確認しました。また、野生型マウスにGIP 受容体の働きをブロックする薬(GIP 受容体拮抗薬)を投与したところ、同様に、グリセロール筋注後のIMAT 形成が抑制され、また、筋線維の断面積が大きくなっていることを確認しました(図3,4)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O7-piQkH584】
図3 GIP受容体シグナルの抑制によりIMAT形成が減少する
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O8-cY6sjnLB】
図4 GIP受容体シグナルの抑制により筋線維断面積が増加する
○ 本研究の意義と今後の展開
間葉系前駆細胞は脂肪分化しIMAT形成に関わる一方で、未分化な間葉系前駆細胞は筋形成を促進する物質を放出して、筋肉量の維持に寄与することが近年注目されています。したがって、GIP受容体シグナルの抑制により、単にIMATを減らすのみならず、骨格筋量の増加に寄与することが考えられます。また、GIP受容体拮抗薬によりIMATの形成を抑制できたという研究結果は、サルコペニアに対する治療法開発の基盤となると期待されます。
○ 原論文
?橋侑也1、藤田浩樹1*、清野祐介2,3、服部聡子4、日高志保美2、宮川剛4、鈴木敦詞2、脇裕典1、矢部大介3,5,6、清野裕3,7、山田祐一郎3,7*
“Gastric inhibitory polypeptide receptor antagonism suppresses intramuscular adipose tissue accumulation and ameliorates sarcopenia”, Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, doi: 10.1002/jcsm.13346
1)秋田大学大学院医学系研究科代謝・内分泌内科学講座
2)藤田医科大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学
3)関西電力医学研究所糖尿病研究センター
4)藤田医科大学総合医科学研究所システム医科学研究部門
5)岐阜大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学
6)東海国立大学機構One Medicine 創薬シーズ開発・育成研究教育拠点
7)関西電力病院糖尿病・内分泌代謝センター
*責任著者
○ 研究支援
日本学術振興会(JSPS)科研費、日本医療研究開発機構(AMED)、公益財団法人鈴木謙三記念医科学応用研究財団、文部科学省特色ある共同研究拠点の整備の推進事業
GIP受容体シグナル抑制はサルコペニア改善に寄与する
○ 概要
秋田大学(学長:山本文雄)大学院医学系研究科代謝・内分泌内科学講座の?橋侑也医員、藤田浩樹准教授、脇裕典教授は、関西電力医学研究所、藤田医科大学、岐阜大学との共同研究で、食後に分泌が増加する消化管ホルモンGIP (Gastric inhibitory polypeptide) が骨格筋の間葉系前駆細胞の脂肪分化を促進し、サルコペニア(老化による筋量・筋機能の低下)の一因となること、そして、このホルモンの作用シグナルを抑制することがサルコペニアの改善に繋がることを明らかにしました。本研究は、筋肉老化の新しいメカニズムを提示するのみならず、サルコペニアの新規治療法開発の基盤となることが期待されます。この研究成果は、国際医学誌『Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle』での掲載に先立ち、2023年10月27日にオンライン公開されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O9-f1EFh3q1】
研究概要の図
○ 研究の背景
我が国は世界有数の長寿国でありますが、平均寿命と健康寿命の間には男女とも約10年の乖離があり、健康寿命の延伸が課題となっています。身体を動かす筋肉を総称して骨格筋と呼びますが、骨格筋は身体を動かすのみならず、血糖値をはじめとした代謝調節の作用を持つなど健康を保つうえで重要な役割を果たしており、骨格筋を若い状態に維持することが健康寿命延伸には不可欠です。しかし、骨格筋は加齢に伴ってその量と機能が低下することが知られています。この骨格筋の老化をサルコペニアといい、近年解決すべき健康課題の一つとなっています。
サルコペニアは種々の要因で引き起こされますが、その一つに骨格筋内脂肪(Intramuscular adipose tissue, IMAT)蓄積があります。これは、いわば ”牛肉の霜降り”のごとく骨格筋内に脂肪が沈着している状態でありますが、これがヒトでも起こっており、加齢とともにこのIMATが増加し、IMATが増加すると筋力は低下することが示されています。骨格筋内にある間葉系前駆細胞 Fibro/adipogenic progenitors(FAPs)が脂肪細胞に分化(=特定の機能を持つ細胞に変化すること)して、IMATを構成することが知られていますが、これを調節するメカニズムについては十分明らかとなっていません。私たちは長年、GIPと呼ばれる消化管ホルモンを研究してきました。GIPは脂肪細胞の成熟化を促し、肥満を促進する作用があることから、このGIPが間葉系前駆細胞の脂肪分化の調節を介して、IMATを増加させると考え、研究に取り組みました。
○ 研究結果
まず、GIPの役割を明らかにするため、GIPの受け手であるGIP受容体を欠損している遺伝子改変マウス(GIP受容体欠損マウス)を高齢条件で検討を行いました。野生型マウス(=GIP受容体が働いている通常のマウス)では、高齢になると体脂肪率が増え、逆に筋肉量が減り、握力が弱くなります。しかし、GIP受容体欠損マウスは高齢になっても、骨格筋を含む除脂肪組織の割合が多く、脚の筋肉群は重量が大きく、また握力が強いことを示しました(図1)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O5-Q1Z2xl5u】
図1 高齢のGIP受容体欠損マウスにおいてサルコペニアが抑制されている
続いて、野生型マウスの骨格筋から間葉系前駆細胞を取り出して、この細胞の性質を調べました。間葉系前駆細胞にはGIP 受容体が発現しており、GIP を添加することで間葉系前駆細胞の脂肪分化の効率が上昇することがわかりました(図2)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O6-3z5H9A77】
図2 GIPは間葉系前駆細胞の脂肪分化を促進する
実験的にIMAT 形成を誘導する方法として、グリセロール筋注法があります。これはマウスの前脛骨筋と呼ばれる脚の筋肉にグリセロールを注射する実験方法です。GIP 受容体欠損マウスではグリセロール筋注後のIMAT 形成が抑制されていました。また、筋線維の断面積が大きくなっていることを確認しました。また、野生型マウスにGIP 受容体の働きをブロックする薬(GIP 受容体拮抗薬)を投与したところ、同様に、グリセロール筋注後のIMAT 形成が抑制され、また、筋線維の断面積が大きくなっていることを確認しました(図3,4)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O7-piQkH584】
図3 GIP受容体シグナルの抑制によりIMAT形成が減少する
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310312033-O8-cY6sjnLB】
図4 GIP受容体シグナルの抑制により筋線維断面積が増加する
○ 本研究の意義と今後の展開
間葉系前駆細胞は脂肪分化しIMAT形成に関わる一方で、未分化な間葉系前駆細胞は筋形成を促進する物質を放出して、筋肉量の維持に寄与することが近年注目されています。したがって、GIP受容体シグナルの抑制により、単にIMATを減らすのみならず、骨格筋量の増加に寄与することが考えられます。また、GIP受容体拮抗薬によりIMATの形成を抑制できたという研究結果は、サルコペニアに対する治療法開発の基盤となると期待されます。
○ 原論文
?橋侑也1、藤田浩樹1*、清野祐介2,3、服部聡子4、日高志保美2、宮川剛4、鈴木敦詞2、脇裕典1、矢部大介3,5,6、清野裕3,7、山田祐一郎3,7*
“Gastric inhibitory polypeptide receptor antagonism suppresses intramuscular adipose tissue accumulation and ameliorates sarcopenia”, Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, doi: 10.1002/jcsm.13346
1)秋田大学大学院医学系研究科代謝・内分泌内科学講座
2)藤田医科大学医学部内分泌・代謝・糖尿病内科学
3)関西電力医学研究所糖尿病研究センター
4)藤田医科大学総合医科学研究所システム医科学研究部門
5)岐阜大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学
6)東海国立大学機構One Medicine 創薬シーズ開発・育成研究教育拠点
7)関西電力病院糖尿病・内分泌代謝センター
*責任著者
○ 研究支援
日本学術振興会(JSPS)科研費、日本医療研究開発機構(AMED)、公益財団法人鈴木謙三記念医科学応用研究財団、文部科学省特色ある共同研究拠点の整備の推進事業