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傷ついたDNAの修復機能において重要な「ポリ(ADP-リボース)」の部分構造の高効率な合成法の開発に成功

〜癌治療の一助へ〜

2023年11月24日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

傷ついたDNAの修復機能において重要な 「ポリ(ADP-リボース)」の部分構造の高効率な合成法の開発に成功 〜癌治療の一助へ〜

【本研究のポイント】
・ポリ(ADP-リボース)は、傷ついたDNAの修復機能において重要な生体高分子で癌にも関連しています。
・ポリ(ADP-リボース)の部分構造の高効率な合成法の開発に成功しました。
・これによりポリ(ADP-リボース)の大量供給が可能となるため、同化合物の詳細な役割の解明や癌治療の一助になると期待されます。

【研究概要】
 岐阜大学糖鎖生命コア研究所の田中 秀則 助教、安藤 弘宗 教授らの研究グループは、ポリ(ADP-リボース)1)の部分構造の高効率な合成法の開発に成功しました。
 ポリ(ADP-リボース)は、タンパク質に結合して存在する生体高分子であり、DNAが傷ついた時の修復機能において重要な役割を担っています。また、ポリ(ADP-リボース)を合成する酵素および分解する酵素を阻害すると、特定の癌を細胞死誘導できるため、癌治療への応用が報告されています。しかし、この細胞死誘導でポリ(ADP-リボース)が分子レベルでどのように働いているかは未だ明らかになっていません。これは、ポリ(ADP-リボース)が生体内に極微量しか存在せず、研究試料を大量に供給ができないためです。本研究は、この課題を解決するためにポリ(ADP-リボース)の部分構造の高効率な合成法を開発しました。この成果は、ポリ(ADP-リボース)の大量供給の実現に向けた重要なステップになります。
 本研究成果は、 2023 年 11 月 2 日発刊の国際学術誌『 European Journal of Organic Chemistry 』の Very Important Paper (同雑誌掲載全論文の 5% 未満)として掲載されました。また、研究内容のイラストが同誌の表紙に採用されました。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202311213166-O6-Y2e1CopJ
複数ある合成法(ルート)から適切なものを選び、化合物(駒)が化学反応(升目)を経て、目的生成物(ゴール)にたどり着くイメージを双六で表現したイラスト。

【研究背景】
 ポリ(ADP-リボース)は、ADPリボース2)を単量体として、ADPリボース同士が1,2-cisグリコシド結合を介して繋がってできる鎖状の生体高分子です。核内のタンパク質に結合して存在することが多く、DNAが傷ついた時の修復機能において重要な役割を担っていることが知られています。DNA修復ではポリ(ADP-リボース)の合成と分解が特異的に起こっていることから、近年がん研究においてポリ(ADP-リボース)を対象にした研究が精力的に進められています。これまでにポリ(ADP-リボース)を合成する酵素および分解する酵素を阻害すると特定のがんを細胞死誘導できることが報告されています。しかし、この細胞死誘導でポリ(ADP-リボース)が分子レベルでどのように働いているかは未だ明らかになっていません。これは、ポリ(ADP-リボース)が生体内に極微量しか存在せず、研究試料を大量に供給できないためです。分子レベルでの機能解明研究を進めるために、化学合成によるポリ(ADP-リボース)の大量供給が望まれています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202311213166-O7-gfIRH2sU】 図1.ポリ(ADP-リボース)の化学構造

【研究内容】
 本研究では、ポリ(ADP-リボース)合成に向けて、その部分(フラグメント)構造であるリボシルアデノシン5′,5″-二リン酸の効率的な合成法の開発に取り組みました。合成段階数が少なく、合成総収率が高い経路を確立するため、リボシルアデノシン骨格をO-グリコシル化反応とN-グリコシル化反応により逐次的に構築する経路(A経路)とO-グリコシル化反応のみで直截的に構築する経路(B経路)を立案しました。今回、我々は、両経路のO-グリコシル化反応において、リボース供与体の5位保護基がグリコシド結合形成の1,2-cis選択性に大きな影響を与えることを発見しました。適切な5位保護基を選択することで、望みの1,2-cisグリコシド結合を選択的に形成することに成功しました。更に、リボシルアデノシン骨格構築後のリン酸化において、リン酸基の適切な導入順は5″位から5′位であることを見出しました。共通中間体に誘導した後に保護基を除去することで、A経路では最長直線工程14工程、総収率6.8%、B経路では最長直線工程12工程、総収率4.8%でリボシルアデノシン5′,5″-二リン酸の合成を達成しました。つまり、A経路は総収率、B経路は最長直線工程数に優れたポリ(ADP-リボース)フラグメント構造の効率的な合成法です。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202311213166-O8-1F0TEJtz】 図2.A経路およびB経路によるポリ(ADP-リボース)フラグメント構造の合成法

【成果の意義】
 本研究では、ポリ(ADP-リボース)フラグメント構造の効率的な合成法を開発しました。この合成法によって得たフラグメント構造を利用すれば、鎖状にADP-リボースを繋ぎ合わせることが容易になるため、ポリ(ADP-リボース)の大量供給の実現に一歩前進しました。本成果は、ポリ(ADP-リボース)の詳細な役割の解明に繋がるため、癌治療の一助になると期待されます。

【研究助成】
 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業、日本学術振興会研究拠点形成事業、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業、サントリー生命科学財団SUNBOR GRANT、宇部興産学術振興財団の支援のもとで行われたものです。

【用語説明】
1)ポリ(ADP-リボース):ADPリボースを単量体として、ADPリボース同士が1,2-cisグリコシド結合を介して繋がってできる鎖状の生体高分子。
2)ADP-リボース:リボース(5炭糖)とアデノシン(ヌクレオシド)が2つのリン酸を介して結合した物質。

【論文情報】
雑誌名:European Journal of Organic Chemistry
論文タイトル:Synthetic Approaches to Ribosyl Adenosine 5′,5″-Diphosphate Fragment of Poly(ADP-ribose)
著者:Rui Hagino, Keita Mozaki, Naoko Komura, Akihiro Imamura, Hideharu Ishida, Hiromune Ando, Hide-Nori Tanaka(下線は本学教職員)
DOI: 10.1002/ejoc.202300875

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