世界初!光で物質構造を原子レベルで制御する方法を発見 ! −新材料の開発を加速−
[23/12/18]
提供元:共同通信PRワイヤー
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高知工科大学、金沢工業大学、大阪公立大学
【研究成果のポイント】
●光を当てると物質の構造や性質が変化する「光誘起相転移」の初期プロセスを、世界で初めて原子スケールで観察することに成功
● 光誘起相転移における一連のプロセスを光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを発見
● 従来の材料プロセスの限界を超えた物質創成法の実現に貢献、新材料の開発を加速
【概要説明】
高知工科大学の稲見栄一准教授、金沢工業大学の西岡圭太准教授、大阪公立大学の金崎順一教授らの研究グループは、光を当てると物質の構造や性質が変化する「光誘起相転移」の初期プロセスを世界で初めて原子スケールで観察することに成功しました。また、この相転移における一連のプロセスを光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを見出しました。光誘起相転移を応用すると、従来の手法ではアクセスできないような未知の材料を創出できるようになります。今回の成果は、そのような革新的な物質創成法の実現に大きく貢献し、新しい材料の開発を加速させるものと期待できます。本研究成果は、Springer Nature社が刊行するオープンアクセス電子ジャーナル誌「Scientific Reports」に、12月15日(金) 19時(日本時間)に公開されます。
【研究の背景】
物質は、温度や圧力などの外部環境の変化に伴って、同じ化学組成を保ちながらも異なる構造や性質の状態(相)に変化します。この現象は「相転移」と呼ばれ、材料の熱処理や合金設計を始めとする今日の材料工学で広く利用されています。一方、近年、特定の物質に光(可視光)を照射して相転移を起こす「光誘起相転移」の研究が盛んに行われています。可視光は、温度に換算すると数万℃にもなる高いエネルギーを持ちます。そのため、光誘起相転移を利用すると、従来の手法では実現できないような未知の物質を作り出すことが可能になると期待されています。この光を使った革新的な物質創成の実現には、「光でいかに相転移を制御的(選択的かつ効率的)に引き起こせるか」が鍵となり、そのためには光誘起相転移の背景にあるメカニズムの十分な理解が重要です。特に「光照射によって、物質が初期構造からどのようなプロセスを経て相転移に至るのか?」という問題は、理論的な考察はなされているものの、直接観察した例はありませんでした。その理由は、これまでの研究が、主に光照射による物質のマクロな構造や物性の変化に焦点を当てており、相転移に伴う原子レベルでのミクロな変化を捉えられていなかったためです。
【研究内容と成果】
そこで、本研究グループでは、物質表面を超高解像度で観察できる走査型トンネル顕微鏡(※1)を活用して、光誘起相転移に伴う構造の変化を原子レベルで直接検出しようと試みました。実験では、炭素原子から成る黒鉛(グラファイト)が光照射によってダイヤファイト(※2)と呼ばれる秩序構造へ相転移する現象を対象としました。その結果、光を照射した黒鉛上では、始めにわずか2個の炭素原子から成る0.5ナノメートル(※3)程度の核が形成されること、さらに、その核が、周辺へ拡大しながらドメインを形成し、そのサイズが約5ナノメートルに達すると、構造が黒鉛からダイヤファイトへ大きく変化することを明らかにしました(図1)。これら一連の相転移プロセスは、理論的には予測されていましたが、今回、走査型トンネル顕微鏡を用いた原子分解能での構造観察により、世界で初めて検出に成功したものです。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312184458-O2-kiQ597jl】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312184458-O1-c0Ly8yjg】
また、上記の相転移プロセスが、当てる光の波長に依存して大きく変化することを発見しました。図2で示すように、短い波長の光を当てると、黒鉛上のいたるところで核が効果的に形成されますが、長い波長の光を当てると、核の形成よりも核がドメインへ拡大するプロセスが優先的に生じます。この結果は、光のチューニングにより、相転移の一連のプロセスを原子レベルで制御できること示しています。
【今後の展開】
本研究では、光誘起相転移の初期プロセスを直接観察することに成功しました。また、相転移の一連のプロセスは光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを示しました。今後、このような原子スケールでの知見をさらに蓄積していくことで、光で特定の相転移を選択的かつ効率的に引き起こせるようになります。これにより、光誘起相転移を利用した革新的な材料創成法の実現に貢献し、従来の物質科学の枠を超えた新しい材料開発を加速させると、微細加工技術や材料科学の分野での応用が期待できます。
【用語解説】
※1走査型トンネル顕微鏡
極めて鋭い針を使って物質の表面をなぞるようにスキャンしながら観察する顕微鏡。針と表面の間に流れる微弱な電流を測定することで、表面の形状を原子レベルで観察できる。
※2ダイヤファイト
炭素原子から構成されるダイヤモンド様構造。従来の材料プロセスでは形成されず、黒鉛に可視光を当てることによってのみ生じる構造として知られている。"ダイヤファイト"という名前は、この構造が、黒鉛(グラファイト)とダイヤモンドの中間的な性質を持つことに由来する。
※3ナノメートル
長さの単位で、1ナノメートルは1メートルの10億分の1に相当する。このスケールは、原子や分子のサイズと同程度であり、ナノテクノロジーの分野で頻繁に使用される。
【論文情報】
タイトル:Atomic-scale view of the photoinduced structural transition to form sp3-like bonded order phase in graphite(光誘起構造転移に伴うsp3様秩序相形成の原子スケール観察)
著者:Eiichi Inami, Keita Nishioka, Jun’ichi Kanasaki
掲載誌:Scientific Reports
公開日:2023年12月15日
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-023-47389-x
【研究成果のポイント】
●光を当てると物質の構造や性質が変化する「光誘起相転移」の初期プロセスを、世界で初めて原子スケールで観察することに成功
● 光誘起相転移における一連のプロセスを光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを発見
● 従来の材料プロセスの限界を超えた物質創成法の実現に貢献、新材料の開発を加速
【概要説明】
高知工科大学の稲見栄一准教授、金沢工業大学の西岡圭太准教授、大阪公立大学の金崎順一教授らの研究グループは、光を当てると物質の構造や性質が変化する「光誘起相転移」の初期プロセスを世界で初めて原子スケールで観察することに成功しました。また、この相転移における一連のプロセスを光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを見出しました。光誘起相転移を応用すると、従来の手法ではアクセスできないような未知の材料を創出できるようになります。今回の成果は、そのような革新的な物質創成法の実現に大きく貢献し、新しい材料の開発を加速させるものと期待できます。本研究成果は、Springer Nature社が刊行するオープンアクセス電子ジャーナル誌「Scientific Reports」に、12月15日(金) 19時(日本時間)に公開されます。
【研究の背景】
物質は、温度や圧力などの外部環境の変化に伴って、同じ化学組成を保ちながらも異なる構造や性質の状態(相)に変化します。この現象は「相転移」と呼ばれ、材料の熱処理や合金設計を始めとする今日の材料工学で広く利用されています。一方、近年、特定の物質に光(可視光)を照射して相転移を起こす「光誘起相転移」の研究が盛んに行われています。可視光は、温度に換算すると数万℃にもなる高いエネルギーを持ちます。そのため、光誘起相転移を利用すると、従来の手法では実現できないような未知の物質を作り出すことが可能になると期待されています。この光を使った革新的な物質創成の実現には、「光でいかに相転移を制御的(選択的かつ効率的)に引き起こせるか」が鍵となり、そのためには光誘起相転移の背景にあるメカニズムの十分な理解が重要です。特に「光照射によって、物質が初期構造からどのようなプロセスを経て相転移に至るのか?」という問題は、理論的な考察はなされているものの、直接観察した例はありませんでした。その理由は、これまでの研究が、主に光照射による物質のマクロな構造や物性の変化に焦点を当てており、相転移に伴う原子レベルでのミクロな変化を捉えられていなかったためです。
【研究内容と成果】
そこで、本研究グループでは、物質表面を超高解像度で観察できる走査型トンネル顕微鏡(※1)を活用して、光誘起相転移に伴う構造の変化を原子レベルで直接検出しようと試みました。実験では、炭素原子から成る黒鉛(グラファイト)が光照射によってダイヤファイト(※2)と呼ばれる秩序構造へ相転移する現象を対象としました。その結果、光を照射した黒鉛上では、始めにわずか2個の炭素原子から成る0.5ナノメートル(※3)程度の核が形成されること、さらに、その核が、周辺へ拡大しながらドメインを形成し、そのサイズが約5ナノメートルに達すると、構造が黒鉛からダイヤファイトへ大きく変化することを明らかにしました(図1)。これら一連の相転移プロセスは、理論的には予測されていましたが、今回、走査型トンネル顕微鏡を用いた原子分解能での構造観察により、世界で初めて検出に成功したものです。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312184458-O2-kiQ597jl】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202312184458-O1-c0Ly8yjg】
また、上記の相転移プロセスが、当てる光の波長に依存して大きく変化することを発見しました。図2で示すように、短い波長の光を当てると、黒鉛上のいたるところで核が効果的に形成されますが、長い波長の光を当てると、核の形成よりも核がドメインへ拡大するプロセスが優先的に生じます。この結果は、光のチューニングにより、相転移の一連のプロセスを原子レベルで制御できること示しています。
【今後の展開】
本研究では、光誘起相転移の初期プロセスを直接観察することに成功しました。また、相転移の一連のプロセスは光の波長チューニングにより原子レベルで制御できることを示しました。今後、このような原子スケールでの知見をさらに蓄積していくことで、光で特定の相転移を選択的かつ効率的に引き起こせるようになります。これにより、光誘起相転移を利用した革新的な材料創成法の実現に貢献し、従来の物質科学の枠を超えた新しい材料開発を加速させると、微細加工技術や材料科学の分野での応用が期待できます。
【用語解説】
※1走査型トンネル顕微鏡
極めて鋭い針を使って物質の表面をなぞるようにスキャンしながら観察する顕微鏡。針と表面の間に流れる微弱な電流を測定することで、表面の形状を原子レベルで観察できる。
※2ダイヤファイト
炭素原子から構成されるダイヤモンド様構造。従来の材料プロセスでは形成されず、黒鉛に可視光を当てることによってのみ生じる構造として知られている。"ダイヤファイト"という名前は、この構造が、黒鉛(グラファイト)とダイヤモンドの中間的な性質を持つことに由来する。
※3ナノメートル
長さの単位で、1ナノメートルは1メートルの10億分の1に相当する。このスケールは、原子や分子のサイズと同程度であり、ナノテクノロジーの分野で頻繁に使用される。
【論文情報】
タイトル:Atomic-scale view of the photoinduced structural transition to form sp3-like bonded order phase in graphite(光誘起構造転移に伴うsp3様秩序相形成の原子スケール観察)
著者:Eiichi Inami, Keita Nishioka, Jun’ichi Kanasaki
掲載誌:Scientific Reports
公開日:2023年12月15日
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-023-47389-x