不規則なガラス構造に隠された規則性
[24/05/13]
提供元:共同通信PRワイヤー
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原子の柱が作り出す密度の”むら”の構造抽出に成功
2024年5月13日
早稲田大学
東北大学
本発表の詳細は、早稲田大学公式WEBサイトをご覧ください⇒
発表のポイント
最先端の電子顕微鏡法の1つであるオングストロームビーム電子回折法※1を用いて、シリカ(SiO2)ガラス※2の非常に細かい構造を直接観察することに成功した。
ガラスに存在する原子のナノスケール柱状構造※3及びその配列に関係した複数の異なる周期性を発見した。
これらの柱状構造がほぼ周期的に配列することで「擬格子面※4」と呼ばれる面状の領域が形成され、これにより古くから議論されてきたガラスの「FSDP※5(First Sharp Diffraction Peak)」と呼ばれる特徴的な回折ピークの起源を解明した。
この柱状構造の配列は、ガラスにおける密度の”むら”(密度ゆらぎ)と密接に関係しており、例えば、ガラスを電池用材料、窓ガラス、光ファイバーとして利用する際のイオン伝導特性、強度、光学特性の改善に繋がる基礎として重要となる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202405130666-O1-vXw21kti】
図1.オングストロームビーム電子回折実験を用いた観察による、シリカガラス中に存在するナノスケール柱状構造の局所的な擬周期配列の発見。
早稲田大学理工学術院教授 平田秋彦、東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター教授 志賀元紀 、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターグループリーダー 小原真司 らの研究グループは、オングストロームビーム電子回折法を用いることで、ナノスケール柱状構造がほぼ等間隔に並んで形成される局所秩序構造を、一見不規則な構造を持つとされる、もっとも一般的なガラス材料であるシリカ(SiO2)ガラスの中に見い出しました。
この秩序構造は、複数の異なる周期からなる密度ゆらぎを含む複雑な構造であることがわかりました。このような柱状構造配列の発見は、ガラス構造の科学に新たな視点を与え、さらに、柱状構造配列が作る密度ゆらぎの理解は、ガラス材料の特性や性能を制御するために欠かせない知見となると考えられます。
本研究成果は、Springer Nature社発行の科学ジャーナル『NPG Asia Materials』誌に、2024年5月10日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass)。
用語解説
※1 オングストロームビーム電子回折法
●ガラス構造の局所領域から回折パターン(物質に波を当てたときに得られる干渉パターン)を取得するための透過電子顕微鏡を用いた実験方法。通常、マイクロビームあるいはナノビーム電子回折と呼ばれるが、ガラス構造の観察には特にオングストロームスケール(1nm以下)での観測が本質的に重要となるため、このように呼んでいる。ガラス構造の10nm以上の十分に広い領域から回折パターンを取得した場合は、ハローリングと呼ばれる複数の回折リングが見られるが、領域が1nm以下になると回折スポットを呈するようになり、これが局所構造を反映していると考えられる。
※2 シリカガラス
●シリコンと酸素から成りSiO2の化学組成を持つガラス物質のこと。ガラスとは通常液体状態が冷却されて過冷却状態になり、さらなる冷却により粘性が極度に高まることで得られる固体状の物質を指す。過冷却液体からガラスへの転移をガラス転移といい、体積の温度に対する変化率(熱膨張係数)等が「ガラス転移が起こる温度(ガラス転移点)」を境に変化する。このガラス状態の原子配列に本研究では特に着目しており、それは結晶のような規則性を持たない不規則なものである。
※3 ナノスケール柱状構造
●本研究において、シリカガラスの中に見いだされた原子が結合してできた2nm程度の長さを持つ直線状の構造。これは独立して存在するわけではなく、ブリッジ原子と呼ぶ原子によってお互いに接続されている。また、同じ領域に対して他の方向から見た場合に、その入射方向に沿って別の柱状構造が存在する可能性もあり、この特徴は結晶構造の場合と同様である。
※4 擬格子面
●結晶学や固体物理学では、原子が規則正しく並んだ結晶構造において、周期性を反映する格子という概念を考え、それを基に原子を置いていくことで結晶が作られるとする。この格子中に作られる周期的に配列される面が格子面であり、結晶構造にX線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてた場合、格子面の間隔がある条件を満たすと波が強めあう性質があるため、この概念が重要となる。一方、ガラスなどの不規則な構造では、このような明瞭な格子面は存在しないが、局所的にある程度の規則性を示す部分があり、これを擬格子面とここでは呼んでいる。擬格子面の存在は、結晶のおける格子面と同様に波が強め合う原因となると考えられている。
※5 FSDP
●First Sharp Diffraction Peakの略。シリカガラスのような化学結合によるネットワークから構成されるガラス構造に対し、X線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてることにより現れる回折ピーク(Diffraction Peak)のうち、もっとも小さい回折角で観測されるもの。低角側から数えて最初に出現するピークであり、ガラスのような非晶質物質にしてはシャープであるため、この名前がついている。このピークに対応する距離スケールは4Å前後であり、原子間距離のスケールより2倍程度大きいことが特徴である。つまり、原子の結合よりも大きいスケールの構造を反映したものであると考えられる。
論文情報
雑誌名:NPG Asia Materials
論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass
執筆者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)、佐藤 柊哉(東京理科大学)、志賀 元紀(東北大学)、小野寺 陽平(物質・材料研究機構)、木本 浩司(物質・材料研究機構)、小原 真司(物質・材料研究機構)
掲載日(現地時間):2024年5月10日(金)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41427-024-00544-w
DOI:https://doi.org/10.1038/s41427-024-00544-w
2024年5月13日
早稲田大学
東北大学
本発表の詳細は、早稲田大学公式WEBサイトをご覧ください⇒
発表のポイント
最先端の電子顕微鏡法の1つであるオングストロームビーム電子回折法※1を用いて、シリカ(SiO2)ガラス※2の非常に細かい構造を直接観察することに成功した。
ガラスに存在する原子のナノスケール柱状構造※3及びその配列に関係した複数の異なる周期性を発見した。
これらの柱状構造がほぼ周期的に配列することで「擬格子面※4」と呼ばれる面状の領域が形成され、これにより古くから議論されてきたガラスの「FSDP※5(First Sharp Diffraction Peak)」と呼ばれる特徴的な回折ピークの起源を解明した。
この柱状構造の配列は、ガラスにおける密度の”むら”(密度ゆらぎ)と密接に関係しており、例えば、ガラスを電池用材料、窓ガラス、光ファイバーとして利用する際のイオン伝導特性、強度、光学特性の改善に繋がる基礎として重要となる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202405130666-O1-vXw21kti】
図1.オングストロームビーム電子回折実験を用いた観察による、シリカガラス中に存在するナノスケール柱状構造の局所的な擬周期配列の発見。
早稲田大学理工学術院教授 平田秋彦、東北大学未踏スケールデータアナリティクスセンター教授 志賀元紀 、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センターグループリーダー 小原真司 らの研究グループは、オングストロームビーム電子回折法を用いることで、ナノスケール柱状構造がほぼ等間隔に並んで形成される局所秩序構造を、一見不規則な構造を持つとされる、もっとも一般的なガラス材料であるシリカ(SiO2)ガラスの中に見い出しました。
この秩序構造は、複数の異なる周期からなる密度ゆらぎを含む複雑な構造であることがわかりました。このような柱状構造配列の発見は、ガラス構造の科学に新たな視点を与え、さらに、柱状構造配列が作る密度ゆらぎの理解は、ガラス材料の特性や性能を制御するために欠かせない知見となると考えられます。
本研究成果は、Springer Nature社発行の科学ジャーナル『NPG Asia Materials』誌に、2024年5月10日(金)(現地時間)にオンラインで掲載されました(論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass)。
用語解説
※1 オングストロームビーム電子回折法
●ガラス構造の局所領域から回折パターン(物質に波を当てたときに得られる干渉パターン)を取得するための透過電子顕微鏡を用いた実験方法。通常、マイクロビームあるいはナノビーム電子回折と呼ばれるが、ガラス構造の観察には特にオングストロームスケール(1nm以下)での観測が本質的に重要となるため、このように呼んでいる。ガラス構造の10nm以上の十分に広い領域から回折パターンを取得した場合は、ハローリングと呼ばれる複数の回折リングが見られるが、領域が1nm以下になると回折スポットを呈するようになり、これが局所構造を反映していると考えられる。
※2 シリカガラス
●シリコンと酸素から成りSiO2の化学組成を持つガラス物質のこと。ガラスとは通常液体状態が冷却されて過冷却状態になり、さらなる冷却により粘性が極度に高まることで得られる固体状の物質を指す。過冷却液体からガラスへの転移をガラス転移といい、体積の温度に対する変化率(熱膨張係数)等が「ガラス転移が起こる温度(ガラス転移点)」を境に変化する。このガラス状態の原子配列に本研究では特に着目しており、それは結晶のような規則性を持たない不規則なものである。
※3 ナノスケール柱状構造
●本研究において、シリカガラスの中に見いだされた原子が結合してできた2nm程度の長さを持つ直線状の構造。これは独立して存在するわけではなく、ブリッジ原子と呼ぶ原子によってお互いに接続されている。また、同じ領域に対して他の方向から見た場合に、その入射方向に沿って別の柱状構造が存在する可能性もあり、この特徴は結晶構造の場合と同様である。
※4 擬格子面
●結晶学や固体物理学では、原子が規則正しく並んだ結晶構造において、周期性を反映する格子という概念を考え、それを基に原子を置いていくことで結晶が作られるとする。この格子中に作られる周期的に配列される面が格子面であり、結晶構造にX線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてた場合、格子面の間隔がある条件を満たすと波が強めあう性質があるため、この概念が重要となる。一方、ガラスなどの不規則な構造では、このような明瞭な格子面は存在しないが、局所的にある程度の規則性を示す部分があり、これを擬格子面とここでは呼んでいる。擬格子面の存在は、結晶のおける格子面と同様に波が強め合う原因となると考えられている。
※5 FSDP
●First Sharp Diffraction Peakの略。シリカガラスのような化学結合によるネットワークから構成されるガラス構造に対し、X線、電子線、中性子線のような波長の短い波をあてることにより現れる回折ピーク(Diffraction Peak)のうち、もっとも小さい回折角で観測されるもの。低角側から数えて最初に出現するピークであり、ガラスのような非晶質物質にしてはシャープであるため、この名前がついている。このピークに対応する距離スケールは4Å前後であり、原子間距離のスケールより2倍程度大きいことが特徴である。つまり、原子の結合よりも大きいスケールの構造を反映したものであると考えられる。
論文情報
雑誌名:NPG Asia Materials
論文名:Direct observation of the atomic density fluctuation originating from the first sharp diffraction peak in SiO2 glass
執筆者名(所属機関名):平田 秋彦(早稲田大学)、佐藤 柊哉(東京理科大学)、志賀 元紀(東北大学)、小野寺 陽平(物質・材料研究機構)、木本 浩司(物質・材料研究機構)、小原 真司(物質・材料研究機構)
掲載日(現地時間):2024年5月10日(金)
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41427-024-00544-w
DOI:https://doi.org/10.1038/s41427-024-00544-w