世界初となるペロブスカイト太陽電池自動作製システムを開発
[24/10/02]
提供元:共同通信PRワイヤー
提供元:共同通信PRワイヤー
さまざまな条件で基板電極から自動作製し、開発時間を短縮
ポイント
・ 自動化で研究者による作業誤差を取り除き、太陽電池性能のばらつきを抑制
・ 高い太陽電池性能が得られる最適作製条件の探索が可能
・ 材料やプロセスの開発時間を短縮し、研究開発の効率を向上
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409307277-O1-ex74UYS4】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター 有機系太陽電池研究チーム 山本晃平 主任研究員、江口直人 産総研特別研究員、村上拓郎 研究チーム長は、世界初となるペロブスカイト太陽電池自動セル作製システム(以下、本システム)を開発しました。本システムは太陽電池の基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行い、さまざまなセル作製条件での自動試作が可能となります。
本システムにより、ペロブスカイト太陽電池の実用化に必要な材料開発における評価や作製条件の検討を行う際に太陽電池性能を少ないばらつきで評価することが容易になります。セル作製条件の最適化を効率よく行うことで、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と高性能化に貢献します。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241002/pr20241002.html)をご覧ください。
開発の社会的背景
カーボンニュートラルの達成に向けた社会的要請の高まりを受けて、国内の太陽光発電設備は、設置しやすい平地において既に導入が進んでいます。他方、太陽光発電は材料を輸入に頼るなどの問題があり、さらなる導入拡大には、今後は都市部などにおいてこれまで設置が難しかった工場・倉庫などの耐荷重の低い屋根および建物の壁や窓などにも設置が可能な新しい超軽量太陽電池が求められています。
従来型の結晶シリコン太陽電池パネルは発電部位のシリコンウエハーが割れやすく、ガラスで保護する必要があり、その結果10 kg/m2以上の重さになるため、太陽電池パネルの設置が難しい建物が多く残されていました。ペロブスカイト太陽電池は、従来型の結晶シリコン太陽電池と異なり、曲げなどのひずみに強いという特性を生かし、基材のフィルム化で1 kg/m2程度の軽量化も期待されています。また曲面への設置も容易であり、これまで設置が困難だった場所へも導入できるなど、発電の場所を大幅に拡大できる新しい太陽電池として期待されています。さらに、ペロブスカイト太陽電池は原料や製造方法がこれまでの太陽電池と異なるため、新しいサプライチェーンや産業が構築される点も期待されています。
開発の経緯と内容
ペロブスカイト太陽電池は実用化が期待されていますが、不十分な耐久性などの課題が残されています。産総研では、ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指し、高効率化・高耐久化に向けてペロブスカイト組成の改良、新規材料開発、大面積への材料成膜技術、電力を効率よく取り出す技術などの研究を進めてきました。開発した新材料や新プロセスの効果を初期評価するには一般的には面積1 cm2程度の小さな太陽電池セルを作製し、性能を評価します。しかし、一般にペロブスカイト太陽電池の性能のばらつきは大きく、材料やプロセスを評価するためには、多くのセルを作製し検討する必要がありました。太陽電池を構成する材料を一つ変えると、高い太陽電池性能が得られる作製条件も変わるため、材料に合わせた作製条件の最適化を行う必要があります。そこで、産総研ではペロブスカイト太陽電池のセル作製を自動化させ人為的な要因を排除することで、太陽電池性能のばらつきを抑制し、セル作製条件を変えて最適な太陽電池性能が得られる条件を探索することが可能となる本システムの開発に取り組みました。この基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行う本システムは、世界初の装置となります。この装置を活用することで、1日当たり、これまでの10倍以上の数のセルをさまざまな条件で作製することが可能となり、開発における時間の短縮と研究開発の効率を向上させることが期待されます。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発/次世代型太陽電池基盤技術開発事業/次世代型ペロブスカイト太陽電池の実用化に資する共通基盤技術開発(2021〜2025年度)」による支援を受けています。
今後の予定
今後はグリーンイノベーション基金に参画する企業を中心に、本システムを活用し、材料選定、プロセス検討、条件最適化の時間短縮により、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と性能向上に取り組みます。
また、将来的にはAIと連携させ、より効率的な条件最適化を目指します。
用語解説
ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイトとは、結晶構造の1種。元々は酸化物の灰チタン石を指す言葉であり、一般式ABX3で表せる物質の総称である。本稿ではAがメチルアンモニウムイオン(CH3NH3+)、Bが鉛イオン(Pb2+)、Xがハロゲン化物イオン(I-)で構成されるペロブスカイト結晶 (CH3NH3)PbI3およびその派生物を示す。有機と無機の材料で作られるペロブスカイト結晶からなるペロブスカイト層が電子輸送層とホール(正の電荷)輸送層に挟まれた構造を有している。ペロブスカイト結晶が光を吸収し、その光エネルギーで負電荷を持つ電子と正電荷を持つホールがペロブスカイト結晶層内で生成する。ここで生成した電子は電子輸送層を通して外部電極に取り出され、同様に生成したホールは正孔輸送層を通して外部電極に取り出されることで電流と電圧が発生し、光エネルギーを電気エネルギーに変換できる。
電子輸送層
発電層内で発生した電子を抽出し、電極に輸送するための層。ペロブスカイト太陽電池では酸化チタンや酸化スズなどのn型半導体が用いられることが多い。
正孔輸送層
発電層内で発生した正孔(ホール、正の電荷)を抽出し、電極に輸送するための層。ペロブスカイト太陽電池では有機p型半導体材料などが用いられることが多い。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241002/pr20241002.html
ポイント
・ 自動化で研究者による作業誤差を取り除き、太陽電池性能のばらつきを抑制
・ 高い太陽電池性能が得られる最適作製条件の探索が可能
・ 材料やプロセスの開発時間を短縮し、研究開発の効率を向上
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202409307277-O1-ex74UYS4】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター 有機系太陽電池研究チーム 山本晃平 主任研究員、江口直人 産総研特別研究員、村上拓郎 研究チーム長は、世界初となるペロブスカイト太陽電池自動セル作製システム(以下、本システム)を開発しました。本システムは太陽電池の基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行い、さまざまなセル作製条件での自動試作が可能となります。
本システムにより、ペロブスカイト太陽電池の実用化に必要な材料開発における評価や作製条件の検討を行う際に太陽電池性能を少ないばらつきで評価することが容易になります。セル作製条件の最適化を効率よく行うことで、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と高性能化に貢献します。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241002/pr20241002.html)をご覧ください。
開発の社会的背景
カーボンニュートラルの達成に向けた社会的要請の高まりを受けて、国内の太陽光発電設備は、設置しやすい平地において既に導入が進んでいます。他方、太陽光発電は材料を輸入に頼るなどの問題があり、さらなる導入拡大には、今後は都市部などにおいてこれまで設置が難しかった工場・倉庫などの耐荷重の低い屋根および建物の壁や窓などにも設置が可能な新しい超軽量太陽電池が求められています。
従来型の結晶シリコン太陽電池パネルは発電部位のシリコンウエハーが割れやすく、ガラスで保護する必要があり、その結果10 kg/m2以上の重さになるため、太陽電池パネルの設置が難しい建物が多く残されていました。ペロブスカイト太陽電池は、従来型の結晶シリコン太陽電池と異なり、曲げなどのひずみに強いという特性を生かし、基材のフィルム化で1 kg/m2程度の軽量化も期待されています。また曲面への設置も容易であり、これまで設置が困難だった場所へも導入できるなど、発電の場所を大幅に拡大できる新しい太陽電池として期待されています。さらに、ペロブスカイト太陽電池は原料や製造方法がこれまでの太陽電池と異なるため、新しいサプライチェーンや産業が構築される点も期待されています。
開発の経緯と内容
ペロブスカイト太陽電池は実用化が期待されていますが、不十分な耐久性などの課題が残されています。産総研では、ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指し、高効率化・高耐久化に向けてペロブスカイト組成の改良、新規材料開発、大面積への材料成膜技術、電力を効率よく取り出す技術などの研究を進めてきました。開発した新材料や新プロセスの効果を初期評価するには一般的には面積1 cm2程度の小さな太陽電池セルを作製し、性能を評価します。しかし、一般にペロブスカイト太陽電池の性能のばらつきは大きく、材料やプロセスを評価するためには、多くのセルを作製し検討する必要がありました。太陽電池を構成する材料を一つ変えると、高い太陽電池性能が得られる作製条件も変わるため、材料に合わせた作製条件の最適化を行う必要があります。そこで、産総研ではペロブスカイト太陽電池のセル作製を自動化させ人為的な要因を排除することで、太陽電池性能のばらつきを抑制し、セル作製条件を変えて最適な太陽電池性能が得られる条件を探索することが可能となる本システムの開発に取り組みました。この基板電極の洗浄から電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の各種材料の積層、裏面電極の蒸着、セルの分離まですべて自動で行う本システムは、世界初の装置となります。この装置を活用することで、1日当たり、これまでの10倍以上の数のセルをさまざまな条件で作製することが可能となり、開発における時間の短縮と研究開発の効率を向上させることが期待されます。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「グリーンイノベーション基金事業/次世代型太陽電池の開発/次世代型太陽電池基盤技術開発事業/次世代型ペロブスカイト太陽電池の実用化に資する共通基盤技術開発(2021〜2025年度)」による支援を受けています。
今後の予定
今後はグリーンイノベーション基金に参画する企業を中心に、本システムを活用し、材料選定、プロセス検討、条件最適化の時間短縮により、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化と性能向上に取り組みます。
また、将来的にはAIと連携させ、より効率的な条件最適化を目指します。
用語解説
ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイトとは、結晶構造の1種。元々は酸化物の灰チタン石を指す言葉であり、一般式ABX3で表せる物質の総称である。本稿ではAがメチルアンモニウムイオン(CH3NH3+)、Bが鉛イオン(Pb2+)、Xがハロゲン化物イオン(I-)で構成されるペロブスカイト結晶 (CH3NH3)PbI3およびその派生物を示す。有機と無機の材料で作られるペロブスカイト結晶からなるペロブスカイト層が電子輸送層とホール(正の電荷)輸送層に挟まれた構造を有している。ペロブスカイト結晶が光を吸収し、その光エネルギーで負電荷を持つ電子と正電荷を持つホールがペロブスカイト結晶層内で生成する。ここで生成した電子は電子輸送層を通して外部電極に取り出され、同様に生成したホールは正孔輸送層を通して外部電極に取り出されることで電流と電圧が発生し、光エネルギーを電気エネルギーに変換できる。
電子輸送層
発電層内で発生した電子を抽出し、電極に輸送するための層。ペロブスカイト太陽電池では酸化チタンや酸化スズなどのn型半導体が用いられることが多い。
正孔輸送層
発電層内で発生した正孔(ホール、正の電荷)を抽出し、電極に輸送するための層。ペロブスカイト太陽電池では有機p型半導体材料などが用いられることが多い。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241002/pr20241002.html