タンデム型太陽電池のトップセルとして有望な光吸収層を開発
[24/11/13]
提供元:共同通信PRワイヤー
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希少金属インジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の最高効率を更新
ポイント
・ 短波長光(青色系の光)吸収に特化した薄膜太陽電池の光電変換効率を向上
・ アルミニウムを傾斜添加し、太陽電池性能を向上
・ ペロブスカイト型や、同じCIS型などと組み合わせた次世代タンデム型太陽電池の実現にも期待
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411089601-O5-72b3xsRb】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター 石塚 尚吾 首席研究員は、希少金属インジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させる技術を開発しました。
現在普及している太陽電池よりも、さらに高性能化が期待できるタンデム型太陽電池においては、「安価」「高性能」「高信頼性(安定性)」の要素をすべて満たす、短波長光吸収用トップセル材料の開発が課題でした。本成果では、これらの要素を満たす有望な材料群であるCIS型化合物の中でも、特にトップセル材料として適した、広禁制帯幅という特性を持つ光吸収層の品質を向上させる技術を開発しました。今回作製した光吸収層は安定性にも優れ、将来的には安価で高性能、また柔軟性にも優れたタンデム型太陽電池への応用が期待されます。
なお、この技術の詳細は、2024年11月13日(米国東部標準時)に「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241113/pr20241113.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
カーボンニュートラル社会の実現に向けて二酸化炭素の排出量削減を目指す中で、再生可能エネルギーの普及に期待が高まっています。特に太陽光発電への関心は高く、最近では、従来の結晶シリコン系太陽電池とは異なるさまざまな太陽電池が提案されています。中でも、タンデム型太陽電池は従来の太陽電池よりもさらに高い光電変換効率が期待できますが、現在まで、III-V族化合物などの高価な材料が用いられ、宇宙用など特殊な用途に限られていました。そのため、タンデム型太陽電池を民生用として活用するには、普及可能な価格と性能を両立する材料やデバイスの開発が課題です。
安価で高性能なタンデム型太陽電池の実現を可能にする材料やデバイスの研究開発は、世界中で行われています。最近ではペロブスカイト型化合物の研究開発が盛んです。他方、CIS型化合物も有望であり、薄膜の特長を生かした、軽量で柔軟性のある太陽電池の作製も可能にする材料として以前から注目されています。約1.1 eV程度の、比較的禁制帯幅が狭いCIS型太陽電池はすでに製品化もされています。しかし、トップセルとして用いることが可能な、禁制帯幅約1.6 eV以上(短波長の光吸収に特化)のCIS型太陽電池で高い光電変換効率を得るのは難しく、これを実現するための技術開発が求められていました。
研究の経緯
産総研は、広禁制帯幅CIS型太陽電池の研究開発において、安価で高性能なタンデム型太陽電池の実現を可能にするトップセルや、水分解水素生成のための高性能光カソード応用を目指しています。1.7 eVの広禁制帯幅を有するCIS型材料であるCuGaSe2薄膜およびデバイスの高性能化技術の開発に取り組んできました(2014年1月20日 産総研プレス発表、2022年8月2日 産総研プレス発表)。これまで、希少金属インジウム(In)を含まない広禁制帯幅CuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化は困難な課題でした。その標準条件(エアマス1.5、光強度1000 W m-2、25 ℃)下における光電変換効率として10%を超える報告例は数例のみで、12%を超える効率に至っては皆無でした。
今回、太陽電池の光吸収層であるCuGaSe2薄膜にアルミニウム(Al)を添加し、裏面電界効果を得ることで性能向上を実現しました。これにより、インジウムを含まない広禁制帯幅のCIS型薄膜太陽電池として、初めて12%を超える光電変換効率を達成しました。
なお、本研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費助成事業(23K04899)、および一部は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/CO2大幅削減に資する革新的部材開発/CIS系タンデム太陽電池要素技術の国際共同研究開発」(2021〜2024年度)による支援を受けています。
研究の内容
1.7 eVの広禁制帯幅を有するCIS型化合物(CuGaSe2)薄膜に裏面電界効果を持たせるためのアルミニウム添加手法を考案し、インジウムを含まないCuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化技術の開発に至りました。アルミニウム添加によって禁制帯幅の拡大が期待できる反面、性能低下を招く結晶欠陥が増加するため、高性能な太陽電池を作製することはこれまで困難でした。今回、CuGaSe2光吸収層の製膜中に、アルミニウムを光吸収層の表面から裏面方向に向かって含有量が多くなる傾斜をつけて添加しました。さらにアルカリ金属化合物も添加することで、欠陥形成を抑制できる効果を見いだしました。これらの手法を製膜工程に取り入れることで、広禁制帯幅CuGaSe2薄膜太陽電池の性能向上を実現しました。また、CIS型太陽電池は安定性に優れることが知られており、今回作製した太陽電池は未封止の状態で数カ月放置した後も性能低下は見られず、CIS型太陽電池の優れた特長を維持していることも確認できています。
今回開発した技術では、アルミニウム添加によってCuGaSe2光吸収層裏面側の伝導帯下端を押し上げ、エネルギー帯に傾斜構造を形成します。さらにアルカリ金属化合物を添加することで、アルミニウム添加によって副作用的に形成されてしまう結晶欠陥を抑制する効果を得ました。図1に示すように、作製した光吸収層(CuGaSe2:Al)では裏面側のアルミニウム含有量が高く、そのため図のような裏面電界形成が期待できます。これにより、光吸収によって生成された電子の移動と外部回路への取り出しやすさが促進され、太陽電池の性能向上に成功しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411089601-O2-3QV1ai4F】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411089601-O3-Ka7ax7mo】
これまで、広禁制帯幅を有するCIS型化合物であるCuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化を目指した研究開発では、CuGaSe2単体、もしくはこれに銀(Ag)やアルカリ金属などを含有させることで性能向上が図られ、ようやく10%を超える程度の光電変換効率が報告されていました。前述の通り、インジウムを含有しないCIS型太陽電池の高性能化は特に難しい課題でしたが、今回、安価な材料であるアルミニウム添加による性能向上効果を見いだし、初めて12%を超える変換効率が得られました(表1)。これはインジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の最高効率となります。
今回の成果は、太陽電池だけでなく、水分解水素生成用光カソードとして光電気化学セルなどさまざまなエネルギー変換デバイスへの応用も期待できます。
今後の予定
今回開発した技術をさらに改良することで、より高効率な太陽電池の実現を目指します。具体的には、広禁制帯幅CIS型薄膜太陽電池のさらなる欠陥低減化や新しい電子輸送層の開発に取り組みます。また、裏面電極層を従来の金属電極層から透明電極層に置き換えるなど、タンデム型太陽電池への応用に向けた具体的な設計と試作も行う予定です。
将来的には、CIS型やペロブスカイト型など多様な材料の組み合わせから構成される、安価で高性能、かつ長期信頼性にも優れるフレキシブルタンデム型太陽電池の実現を目指します。
論文情報
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Photovoltaic Efficiency Enhancement of Indium-Free Wide-Bandgap Chalcopyrite Solar Cells via an Aluminum-Induced Back-Surface Field Effect
著者:Shogo Ishizuka, Jiro Nishinaga, Yukiko Kamikawa, Takeshi Nishida, and Paul J. Fons
DOI:https://doi.org/10.1021/acsami.4c12891
用語解説
CIS型
銅(Cu)と鉄(Fe)、硫黄(S)からなる黄銅鉱(カルコパイライト:CuFeS2)型の結晶構造を有する化合物全般の総称であり、中でも代表的な太陽電池材料である銅、インジウム(In)、セレン(Se)の化合物CuInSe2に由来しCIS型ともいわれる。さまざまな元素を混ぜた(Ag,Cu)(In,Ga)(S,Se)2など、元素の組み合わせやその組成比率の制御によって、禁制帯幅などの物性を制御することが可能な化合物材料群である。
タンデム型太陽電池
複数の太陽電池を組み合わせることで吸収する光の波長を分担させ、従来の単接合型太陽電池よりも高効率化を図った太陽電池。2、3接合、もしくはそれ以上の多接合型太陽電池もある。
トップセル
タンデム型や多接合型の太陽電池において、短波長光を吸収する構成セルをトップセルと呼び、構成上、光が入射する際に上部に配置される。長波長光(赤色系の光)を吸収する構成セルは下部に配置され、ボトムセルと呼ばれる。
広禁制帯幅
禁制帯とは、エネルギー空間において電子が存在できない領域であり、禁制帯幅とは、その領域の幅を意味する。エネルギーバンドギャップともいい、電子に占有された最も高いエネルギー帯(価電子帯)上端と、最も低い空のエネルギー帯(伝導帯)下端の間の領域を指す。ここでは「広」禁制帯幅の意味として、タンデム型太陽電池のトップセル用途に適した1.6 eV程度以上の禁制帯幅を指す言葉として用いている。
III-V族化合物
GaAsやInPなど、III族元素とV族元素で構成される化合物。高い変換効率が得られる太陽電池の作製が可能だが、極めて高価であるため、現在は宇宙用などにその用途は限られている。
ペロブスカイト型
結晶構造の一つで、セラミックコンデンサーの材料として知られるチタン酸バリウム(BaTiO3)などの構造として知られる。一般式はABX3で表され、太陽電池材料として研究が盛んな金属ハライドペロブスカイトでは、A:有機カチオン、B:金属カチオン、およびX:ハロゲン化アニオンにより構成される。
光カソード
水を水素と酸素に分解する光電気化学セルにおいて、光を当てると水素を発生する方の光電極のこと。
CuGaSe2薄膜
銅(Cu)とガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる黄銅鉱型(CIS型)化合物の薄膜で、1.7 eVの禁制帯幅を有する。
エアマス 1.5
太陽光が地上に届くまでに通過する大気の量をエアマスと呼ぶ。宇宙空間ではエアマス0となる。エアマス1は、太陽光が地上に垂直入射した場合のスペクトルとなる。エアマス1.5は太陽電池の評価に標準で用いられ、エアマス1よりも通過大気量は1.5倍多く、光の散乱や吸収量はその分増加する。垂直からの傾き48.2度の太陽光照射に相当し、エネルギーは1000 W m-2となる。
裏面電界効果
光吸収層の伝導帯下端に傾斜をつけて電子を表面側に移動、外部回路に取り出しやすくする効果。従来の禁制帯幅1.1 eV程度のCIS型太陽電池では、光吸収層のIII族元素を、インジウム(In)に対してガリウム(Ga)の組成比を裏面側で高くすることにより伝導帯最下部を上昇させ、傾斜を形成する手法が用いられている。
アルカリ金属化合物
CIS型太陽電池では、アルカリ金属を添加することで性能が向上する「アルカリ金属効果」が知られている。アルカリ金属単体は取り扱いが難しいため、通常はフッ化ナトリウム(NaF)やフッ化カリウム(KF)などの化合物が用いられる。本研究では、フッ化ルビジウム(RbF)を用いている。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241113/pr20241113.html
ポイント
・ 短波長光(青色系の光)吸収に特化した薄膜太陽電池の光電変換効率を向上
・ アルミニウムを傾斜添加し、太陽電池性能を向上
・ ペロブスカイト型や、同じCIS型などと組み合わせた次世代タンデム型太陽電池の実現にも期待
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411089601-O5-72b3xsRb】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)ゼロエミッション国際共同研究センター 石塚 尚吾 首席研究員は、希少金属インジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させる技術を開発しました。
現在普及している太陽電池よりも、さらに高性能化が期待できるタンデム型太陽電池においては、「安価」「高性能」「高信頼性(安定性)」の要素をすべて満たす、短波長光吸収用トップセル材料の開発が課題でした。本成果では、これらの要素を満たす有望な材料群であるCIS型化合物の中でも、特にトップセル材料として適した、広禁制帯幅という特性を持つ光吸収層の品質を向上させる技術を開発しました。今回作製した光吸収層は安定性にも優れ、将来的には安価で高性能、また柔軟性にも優れたタンデム型太陽電池への応用が期待されます。
なお、この技術の詳細は、2024年11月13日(米国東部標準時)に「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241113/pr20241113.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
カーボンニュートラル社会の実現に向けて二酸化炭素の排出量削減を目指す中で、再生可能エネルギーの普及に期待が高まっています。特に太陽光発電への関心は高く、最近では、従来の結晶シリコン系太陽電池とは異なるさまざまな太陽電池が提案されています。中でも、タンデム型太陽電池は従来の太陽電池よりもさらに高い光電変換効率が期待できますが、現在まで、III-V族化合物などの高価な材料が用いられ、宇宙用など特殊な用途に限られていました。そのため、タンデム型太陽電池を民生用として活用するには、普及可能な価格と性能を両立する材料やデバイスの開発が課題です。
安価で高性能なタンデム型太陽電池の実現を可能にする材料やデバイスの研究開発は、世界中で行われています。最近ではペロブスカイト型化合物の研究開発が盛んです。他方、CIS型化合物も有望であり、薄膜の特長を生かした、軽量で柔軟性のある太陽電池の作製も可能にする材料として以前から注目されています。約1.1 eV程度の、比較的禁制帯幅が狭いCIS型太陽電池はすでに製品化もされています。しかし、トップセルとして用いることが可能な、禁制帯幅約1.6 eV以上(短波長の光吸収に特化)のCIS型太陽電池で高い光電変換効率を得るのは難しく、これを実現するための技術開発が求められていました。
研究の経緯
産総研は、広禁制帯幅CIS型太陽電池の研究開発において、安価で高性能なタンデム型太陽電池の実現を可能にするトップセルや、水分解水素生成のための高性能光カソード応用を目指しています。1.7 eVの広禁制帯幅を有するCIS型材料であるCuGaSe2薄膜およびデバイスの高性能化技術の開発に取り組んできました(2014年1月20日 産総研プレス発表、2022年8月2日 産総研プレス発表)。これまで、希少金属インジウム(In)を含まない広禁制帯幅CuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化は困難な課題でした。その標準条件(エアマス1.5、光強度1000 W m-2、25 ℃)下における光電変換効率として10%を超える報告例は数例のみで、12%を超える効率に至っては皆無でした。
今回、太陽電池の光吸収層であるCuGaSe2薄膜にアルミニウム(Al)を添加し、裏面電界効果を得ることで性能向上を実現しました。これにより、インジウムを含まない広禁制帯幅のCIS型薄膜太陽電池として、初めて12%を超える光電変換効率を達成しました。
なお、本研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費助成事業(23K04899)、および一部は国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業「クリーンエネルギー分野における革新的技術の国際共同研究開発事業/CO2大幅削減に資する革新的部材開発/CIS系タンデム太陽電池要素技術の国際共同研究開発」(2021〜2024年度)による支援を受けています。
研究の内容
1.7 eVの広禁制帯幅を有するCIS型化合物(CuGaSe2)薄膜に裏面電界効果を持たせるためのアルミニウム添加手法を考案し、インジウムを含まないCuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化技術の開発に至りました。アルミニウム添加によって禁制帯幅の拡大が期待できる反面、性能低下を招く結晶欠陥が増加するため、高性能な太陽電池を作製することはこれまで困難でした。今回、CuGaSe2光吸収層の製膜中に、アルミニウムを光吸収層の表面から裏面方向に向かって含有量が多くなる傾斜をつけて添加しました。さらにアルカリ金属化合物も添加することで、欠陥形成を抑制できる効果を見いだしました。これらの手法を製膜工程に取り入れることで、広禁制帯幅CuGaSe2薄膜太陽電池の性能向上を実現しました。また、CIS型太陽電池は安定性に優れることが知られており、今回作製した太陽電池は未封止の状態で数カ月放置した後も性能低下は見られず、CIS型太陽電池の優れた特長を維持していることも確認できています。
今回開発した技術では、アルミニウム添加によってCuGaSe2光吸収層裏面側の伝導帯下端を押し上げ、エネルギー帯に傾斜構造を形成します。さらにアルカリ金属化合物を添加することで、アルミニウム添加によって副作用的に形成されてしまう結晶欠陥を抑制する効果を得ました。図1に示すように、作製した光吸収層(CuGaSe2:Al)では裏面側のアルミニウム含有量が高く、そのため図のような裏面電界形成が期待できます。これにより、光吸収によって生成された電子の移動と外部回路への取り出しやすさが促進され、太陽電池の性能向上に成功しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411089601-O2-3QV1ai4F】
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411089601-O3-Ka7ax7mo】
これまで、広禁制帯幅を有するCIS型化合物であるCuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化を目指した研究開発では、CuGaSe2単体、もしくはこれに銀(Ag)やアルカリ金属などを含有させることで性能向上が図られ、ようやく10%を超える程度の光電変換効率が報告されていました。前述の通り、インジウムを含有しないCIS型太陽電池の高性能化は特に難しい課題でしたが、今回、安価な材料であるアルミニウム添加による性能向上効果を見いだし、初めて12%を超える変換効率が得られました(表1)。これはインジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の最高効率となります。
今回の成果は、太陽電池だけでなく、水分解水素生成用光カソードとして光電気化学セルなどさまざまなエネルギー変換デバイスへの応用も期待できます。
今後の予定
今回開発した技術をさらに改良することで、より高効率な太陽電池の実現を目指します。具体的には、広禁制帯幅CIS型薄膜太陽電池のさらなる欠陥低減化や新しい電子輸送層の開発に取り組みます。また、裏面電極層を従来の金属電極層から透明電極層に置き換えるなど、タンデム型太陽電池への応用に向けた具体的な設計と試作も行う予定です。
将来的には、CIS型やペロブスカイト型など多様な材料の組み合わせから構成される、安価で高性能、かつ長期信頼性にも優れるフレキシブルタンデム型太陽電池の実現を目指します。
論文情報
掲載誌:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Photovoltaic Efficiency Enhancement of Indium-Free Wide-Bandgap Chalcopyrite Solar Cells via an Aluminum-Induced Back-Surface Field Effect
著者:Shogo Ishizuka, Jiro Nishinaga, Yukiko Kamikawa, Takeshi Nishida, and Paul J. Fons
DOI:https://doi.org/10.1021/acsami.4c12891
用語解説
CIS型
銅(Cu)と鉄(Fe)、硫黄(S)からなる黄銅鉱(カルコパイライト:CuFeS2)型の結晶構造を有する化合物全般の総称であり、中でも代表的な太陽電池材料である銅、インジウム(In)、セレン(Se)の化合物CuInSe2に由来しCIS型ともいわれる。さまざまな元素を混ぜた(Ag,Cu)(In,Ga)(S,Se)2など、元素の組み合わせやその組成比率の制御によって、禁制帯幅などの物性を制御することが可能な化合物材料群である。
タンデム型太陽電池
複数の太陽電池を組み合わせることで吸収する光の波長を分担させ、従来の単接合型太陽電池よりも高効率化を図った太陽電池。2、3接合、もしくはそれ以上の多接合型太陽電池もある。
トップセル
タンデム型や多接合型の太陽電池において、短波長光を吸収する構成セルをトップセルと呼び、構成上、光が入射する際に上部に配置される。長波長光(赤色系の光)を吸収する構成セルは下部に配置され、ボトムセルと呼ばれる。
広禁制帯幅
禁制帯とは、エネルギー空間において電子が存在できない領域であり、禁制帯幅とは、その領域の幅を意味する。エネルギーバンドギャップともいい、電子に占有された最も高いエネルギー帯(価電子帯)上端と、最も低い空のエネルギー帯(伝導帯)下端の間の領域を指す。ここでは「広」禁制帯幅の意味として、タンデム型太陽電池のトップセル用途に適した1.6 eV程度以上の禁制帯幅を指す言葉として用いている。
III-V族化合物
GaAsやInPなど、III族元素とV族元素で構成される化合物。高い変換効率が得られる太陽電池の作製が可能だが、極めて高価であるため、現在は宇宙用などにその用途は限られている。
ペロブスカイト型
結晶構造の一つで、セラミックコンデンサーの材料として知られるチタン酸バリウム(BaTiO3)などの構造として知られる。一般式はABX3で表され、太陽電池材料として研究が盛んな金属ハライドペロブスカイトでは、A:有機カチオン、B:金属カチオン、およびX:ハロゲン化アニオンにより構成される。
光カソード
水を水素と酸素に分解する光電気化学セルにおいて、光を当てると水素を発生する方の光電極のこと。
CuGaSe2薄膜
銅(Cu)とガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる黄銅鉱型(CIS型)化合物の薄膜で、1.7 eVの禁制帯幅を有する。
エアマス 1.5
太陽光が地上に届くまでに通過する大気の量をエアマスと呼ぶ。宇宙空間ではエアマス0となる。エアマス1は、太陽光が地上に垂直入射した場合のスペクトルとなる。エアマス1.5は太陽電池の評価に標準で用いられ、エアマス1よりも通過大気量は1.5倍多く、光の散乱や吸収量はその分増加する。垂直からの傾き48.2度の太陽光照射に相当し、エネルギーは1000 W m-2となる。
裏面電界効果
光吸収層の伝導帯下端に傾斜をつけて電子を表面側に移動、外部回路に取り出しやすくする効果。従来の禁制帯幅1.1 eV程度のCIS型太陽電池では、光吸収層のIII族元素を、インジウム(In)に対してガリウム(Ga)の組成比を裏面側で高くすることにより伝導帯最下部を上昇させ、傾斜を形成する手法が用いられている。
アルカリ金属化合物
CIS型太陽電池では、アルカリ金属を添加することで性能が向上する「アルカリ金属効果」が知られている。アルカリ金属単体は取り扱いが難しいため、通常はフッ化ナトリウム(NaF)やフッ化カリウム(KF)などの化合物が用いられる。本研究では、フッ化ルビジウム(RbF)を用いている。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241113/pr20241113.html