エポキシ樹脂のケミカルリサイクルに新たな道筋
[24/11/18]
提供元:共同通信PRワイヤー
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温和な条件で素早く分解し原料のビスフェノール類を回収、繊維強化複合材料中から繊維の回収にも成功
ポイント
・ エポキシ樹脂を化学分解し、原料化合物のビスフェノールAを回収する技術を開発
・ 適用範囲が広く、樹脂の合成に用いた硬化剤の種類、架橋の度合いを問わず分解可能
・ 炭素繊維およびガラス繊維強化エポキシ樹脂から、熱劣化を防いで繊維も回収
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149959-O1-I73NI4l9】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター ケイ素化学チーム 南 安規 主任研究員は、エポキシ樹脂を化学分解する新たな手法を開発しました。
この技術はエポキシ樹脂に対して、適量の水酸化ナトリウムやtert-ブトキシナトリウムなどの塩基と、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)などの高沸点溶媒を使用して常圧下、150 ºCで7時間という温和な条件で原料化合物のビスフェノールAを収率よく回収できます。また、エポキシ樹脂の合成に用いる硬化剤の種類や架橋度合いに関わらず分解でき、硬化剤の種類によってはエポキシ樹脂が含むビスフェノールAの量に対して最大収率95%のビスフェノールAが得られます。さらに、炭素繊維やガラス繊維との複合材料にも利用でき、繊維材料も熱劣化なく回収可能です。本成果によってさまざまなエポキシ樹脂を化学分解して原料回収できる道筋が示されました。
なお、この技術の詳細は、2024年11月18日に「Polymer Journal」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241118/pr20241118.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
エポキシ樹脂は優れた成形性、寸法安定性、接着性能、絶縁性、耐水性、耐薬品性能を有します。エポキシ樹脂の国内生産量は約13万トン/年(2021年、石油化学工業協会、「石油化学と合成樹脂」より)です。原料となるエポキシ主剤と硬化剤の組み合わせを工夫することによって硬化後のエポキシ樹脂の性質を制御できること、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などと複合化させると強度を向上できることから、目的に応じて多くの種類が取り扱われています。エポキシ樹脂は接着剤や塗料に配合したり、半導体配線保護剤、電装部品、医療機器、建材、自動車・航空機部品、船舶の船体やマスト、風力発電機ブレードの素材に使用されたりと、さまざまな用途に用いられています。
現在、容器包装や自動車や家電などは、リサイクル法のもとマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルが実施されています。しかし、これらに多く使われているエポキシ樹脂やその複合材料はリサイクルが難しいことが知られています。熱可塑性樹脂と違い、一旦硬化したエポキシ樹脂は難溶性のため新たな原料とは混ざり合わずマテリアルリサイクルはできません。従来、エポキシ樹脂のケミカルリサイクルは酸や塩基などを用いた方法が知られていますが、原料回収の収率がエポキシ樹脂の構造に依存するものが多く、高収率でモノマーやビスフェノール類分子などの有用な有機化合物に分解することは困難でした。ケミカルリサイクルが簡便に実施できるようになれば、上述した用途で使われるエポキシ樹脂の原料を回収するばかりでなく、さまざまな機器の材料の再生利用も期待されます。また、エポキシ樹脂系の接着剤を分解できると、強固に接着された部材を回収する易解体技術への展開が期待できます。
最近になり、遷移金属触媒または特定の塩基を用いるエポキシ樹脂の化学分解法が報告され、ビスフェノール類分子を収率良く回収できるようになりました。しかしながらこれらの方法は、ビスフェノール類に由来するエーテル化合物の副生などビスフェノール類分子以外の生成物も得られること、1日以上の反応時間を要すること、約200 ℃といった使用する溶媒の沸点を超えた高温が要求されるなどの理由から耐圧性を備えた容器が必要となること、硬化剤の種類が限定されることなど、技術ごとの個別課題がありました。このため、多様なエポキシ樹脂に対して広く簡便に適用でき、短時間で主原料のビスフェノール類分子を選択的に回収可能な化学分解技術が望まれてきました。
研究の経緯
本研究チームは、あらゆる炭素資源の循環利用および高付加価値化を目指して研究を進めています。そのなかで、高安定樹脂として知られるスーパーエンジニアリングプラスチックの化学分解法を実証してきました(2023年1月24日、2023年8月17日産総研プレス発表)。この化学分解法は、適切な分解反応剤を選定することによって約150 ℃という穏和な条件下で実施できます。今回、この成果がエポキシ樹脂のケミカルリサイクルにも利用でき、前述の課題を解決できると考えました。こうして、多様なエポキシ樹脂から重要な化学合成原料であるビスフェノール類を回収できる新たな化学分解法を開発しました。
なお、本研究開発は、科学技術振興機構(JST)ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト」(JPMJER2103)による支援を受けています。
研究の内容
本分解法の開発に際して、一般的なエポキシ主剤であるビスフェノールAのジグリシジルエーテルと、耐熱性のエポキシ樹脂を合成できる4,4‘―ジアミノジフェニルスルホンや酸無水物などのさまざまな硬化剤を用いてエポキシ樹脂を合成しました(図1左)。これらに対して、水酸化ナトリウムやtert-ブトキシナトリウムといった塩基と、極性溶媒DMIを適切な比率で混合し,常圧中で150 ℃で7時間かき混ぜて、エポキシ樹脂を分解することに成功しました(図1右下)。この温度は、合成した樹脂の熱分解温度(350 ºC弱で分解が始まる)よりも低く、エポキシ主剤に由来するビスフェノールAを収率よく回収できます。たとえば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと硬化剤のビス(4−アミノフェニル)スルホンをモル比1:1で合成したエポキシ樹脂の場合、本分解法によりビスフェノールAを収率95%で回収できます。今回開発した分解反応は硬化剤の種類を問わずに分解できるという特徴から、複数の硬化剤を組み合わせて合成されている市販のエポキシ樹脂接着剤にも適用可能です。また、DMIより反応速度が若干低下するものの、DMIより安価で入手できるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)も溶媒に使用できます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149959-O2-06Jxp5vQ】
この方法は、エポキシ樹脂を炭素繊維またはガラス繊維で強化した複合材料にも適用できます。市販の炭素繊維強化エポキシ樹脂のプレートを小さく切断し、高温や酸による前処理をしなくても本分解法を適用すると、ビスフェノールや炭素繊維を回収できました(図2上)。同様にガラス繊維強化エポキシ樹脂にも適用でき、ビスフェノールとガラス繊維の回収にも成功しました(図2下)。このように、本分解法は、単純なエポキシ樹脂から複合材料に至る幅広いエポキシ樹脂に広く適用できることがわかりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149959-O3-2iaBR604】
今回開発した技術は、常圧下において簡便な操作で実施でき、硬化剤の種類、繊維との複合化を問わずさまざまなエポキシ樹脂を短時間で分解できる点が大きなメリットです。本分解法によって、合成原料として広く利用されるビスフェノール類分子を収率よく回収することに成功しました。また、エポキシ樹脂の種類にほとんど影響を受けないことから、化学構造がわからないエポキシ樹脂の分解にも応用できると期待されます。さらに、樹脂と複合化した炭素繊維やガラス繊維などの回収法としても有効であると示唆されます。
今後の予定
今回開発した分解法を改良し、ビスフェノール類以外の原料化合物を収率よく回収できるケミカルリサイクル技術を開発します。加えて、エポキシ樹脂が用いられた廃棄物へ本分解法を適用し、リサイクルが難しかった廃棄物の再生を目指します。また、エポキシ樹脂を簡便に分解できることそのものに着目し、エポキシ樹脂で封止されたもしくは接着された金属・磁性体材料などの解体と有用部材を回収する技術として自動車業界などに展開するなど、材料の幅広いリサイクルを可能にする汎用的な技術の研究開発に取り組みます。
論文情報
掲載誌:Polymer Journal
論文タイトル:Degradation of Stable Thermosetting Epoxy Resins Mediated by Bases in Amide Solvents
著者:Yasunori Minami, Tomoo Tsuyuki, Hayato Ishikawa, Yoshihiro Shimoyama, Kazuhiko Sato, Masaru Yoshida
DOI:10.1038/s41428-024-00979-6
用語解説
エポキシ樹脂
エポキシ基を有する化合物を反応させて得られる熱硬化性樹脂。エポキシ基を含むエポキシ主剤と硬化剤、またはエポキシ基同士を反応させて合成される。
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)
1,3-Dimethyl-2-Imidazolidinoneのこと。尿素の誘導体で、非プロトン性極性溶媒として利用される有機化合物。沸点が220 ℃と高い。
ビスフェノールA
化学式 (CH3)2C(C6H4OH)2 で示される有機化合物。
エポキシ主剤
エポキシ樹脂の原料の一つ。硬化剤と反応するエポキシ基を二つ以上有する化合物。ビスフェノールAが代表的なエポキシ主剤である。
硬化剤
エポキシ主剤を架橋硬化させるための化合物。
マテリアルリサイクル
廃棄物の樹脂を破砕・分別・溶融などの主に物理的手法で新たな製品を作るリサイクル方法。
ケミカルリサイクル
廃棄物を化学反応により化学合成原料に変えて新たな製品を作るリサイクル方法。
モノマー
重合反応でポリマー(プラスチック)を合成する際の原料。
ビスフェノール類分子
ヒドロキシフェニル分子骨格(C6H4OH)を二つ有する分子の総称。化学構造の違いによりビスフェノールA、B、Fなどがある。エポキシ樹脂においては、主鎖の構成要素である。
エーテル化合物
アルキル基やフェニル基などの炭素骨格同士を酸素で連結した化合物の総称。
スーパーエンジニアリングプラスチック
耐熱性・機械的強度が非常に高い高機能樹脂。温度150 ℃以上の高温環境でも長時間使用できる。軽量でありながら機械的強度が高いため、金属の代替材料としても利用されることもある。
モル
国際単位系 (SI) における物質の量の単位。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241118/pr20241118.html
ポイント
・ エポキシ樹脂を化学分解し、原料化合物のビスフェノールAを回収する技術を開発
・ 適用範囲が広く、樹脂の合成に用いた硬化剤の種類、架橋の度合いを問わず分解可能
・ 炭素繊維およびガラス繊維強化エポキシ樹脂から、熱劣化を防いで繊維も回収
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149959-O1-I73NI4l9】
概 要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)触媒化学融合研究センター ケイ素化学チーム 南 安規 主任研究員は、エポキシ樹脂を化学分解する新たな手法を開発しました。
この技術はエポキシ樹脂に対して、適量の水酸化ナトリウムやtert-ブトキシナトリウムなどの塩基と、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)などの高沸点溶媒を使用して常圧下、150 ºCで7時間という温和な条件で原料化合物のビスフェノールAを収率よく回収できます。また、エポキシ樹脂の合成に用いる硬化剤の種類や架橋度合いに関わらず分解でき、硬化剤の種類によってはエポキシ樹脂が含むビスフェノールAの量に対して最大収率95%のビスフェノールAが得られます。さらに、炭素繊維やガラス繊維との複合材料にも利用でき、繊維材料も熱劣化なく回収可能です。本成果によってさまざまなエポキシ樹脂を化学分解して原料回収できる道筋が示されました。
なお、この技術の詳細は、2024年11月18日に「Polymer Journal」に掲載されました。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241118/pr20241118.html )をご覧ください。
開発の社会的背景
エポキシ樹脂は優れた成形性、寸法安定性、接着性能、絶縁性、耐水性、耐薬品性能を有します。エポキシ樹脂の国内生産量は約13万トン/年(2021年、石油化学工業協会、「石油化学と合成樹脂」より)です。原料となるエポキシ主剤と硬化剤の組み合わせを工夫することによって硬化後のエポキシ樹脂の性質を制御できること、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などと複合化させると強度を向上できることから、目的に応じて多くの種類が取り扱われています。エポキシ樹脂は接着剤や塗料に配合したり、半導体配線保護剤、電装部品、医療機器、建材、自動車・航空機部品、船舶の船体やマスト、風力発電機ブレードの素材に使用されたりと、さまざまな用途に用いられています。
現在、容器包装や自動車や家電などは、リサイクル法のもとマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルが実施されています。しかし、これらに多く使われているエポキシ樹脂やその複合材料はリサイクルが難しいことが知られています。熱可塑性樹脂と違い、一旦硬化したエポキシ樹脂は難溶性のため新たな原料とは混ざり合わずマテリアルリサイクルはできません。従来、エポキシ樹脂のケミカルリサイクルは酸や塩基などを用いた方法が知られていますが、原料回収の収率がエポキシ樹脂の構造に依存するものが多く、高収率でモノマーやビスフェノール類分子などの有用な有機化合物に分解することは困難でした。ケミカルリサイクルが簡便に実施できるようになれば、上述した用途で使われるエポキシ樹脂の原料を回収するばかりでなく、さまざまな機器の材料の再生利用も期待されます。また、エポキシ樹脂系の接着剤を分解できると、強固に接着された部材を回収する易解体技術への展開が期待できます。
最近になり、遷移金属触媒または特定の塩基を用いるエポキシ樹脂の化学分解法が報告され、ビスフェノール類分子を収率良く回収できるようになりました。しかしながらこれらの方法は、ビスフェノール類に由来するエーテル化合物の副生などビスフェノール類分子以外の生成物も得られること、1日以上の反応時間を要すること、約200 ℃といった使用する溶媒の沸点を超えた高温が要求されるなどの理由から耐圧性を備えた容器が必要となること、硬化剤の種類が限定されることなど、技術ごとの個別課題がありました。このため、多様なエポキシ樹脂に対して広く簡便に適用でき、短時間で主原料のビスフェノール類分子を選択的に回収可能な化学分解技術が望まれてきました。
研究の経緯
本研究チームは、あらゆる炭素資源の循環利用および高付加価値化を目指して研究を進めています。そのなかで、高安定樹脂として知られるスーパーエンジニアリングプラスチックの化学分解法を実証してきました(2023年1月24日、2023年8月17日産総研プレス発表)。この化学分解法は、適切な分解反応剤を選定することによって約150 ℃という穏和な条件下で実施できます。今回、この成果がエポキシ樹脂のケミカルリサイクルにも利用でき、前述の課題を解決できると考えました。こうして、多様なエポキシ樹脂から重要な化学合成原料であるビスフェノール類を回収できる新たな化学分解法を開発しました。
なお、本研究開発は、科学技術振興機構(JST)ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト」(JPMJER2103)による支援を受けています。
研究の内容
本分解法の開発に際して、一般的なエポキシ主剤であるビスフェノールAのジグリシジルエーテルと、耐熱性のエポキシ樹脂を合成できる4,4‘―ジアミノジフェニルスルホンや酸無水物などのさまざまな硬化剤を用いてエポキシ樹脂を合成しました(図1左)。これらに対して、水酸化ナトリウムやtert-ブトキシナトリウムといった塩基と、極性溶媒DMIを適切な比率で混合し,常圧中で150 ℃で7時間かき混ぜて、エポキシ樹脂を分解することに成功しました(図1右下)。この温度は、合成した樹脂の熱分解温度(350 ºC弱で分解が始まる)よりも低く、エポキシ主剤に由来するビスフェノールAを収率よく回収できます。たとえば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと硬化剤のビス(4−アミノフェニル)スルホンをモル比1:1で合成したエポキシ樹脂の場合、本分解法によりビスフェノールAを収率95%で回収できます。今回開発した分解反応は硬化剤の種類を問わずに分解できるという特徴から、複数の硬化剤を組み合わせて合成されている市販のエポキシ樹脂接着剤にも適用可能です。また、DMIより反応速度が若干低下するものの、DMIより安価で入手できるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、またN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)も溶媒に使用できます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149959-O2-06Jxp5vQ】
この方法は、エポキシ樹脂を炭素繊維またはガラス繊維で強化した複合材料にも適用できます。市販の炭素繊維強化エポキシ樹脂のプレートを小さく切断し、高温や酸による前処理をしなくても本分解法を適用すると、ビスフェノールや炭素繊維を回収できました(図2上)。同様にガラス繊維強化エポキシ樹脂にも適用でき、ビスフェノールとガラス繊維の回収にも成功しました(図2下)。このように、本分解法は、単純なエポキシ樹脂から複合材料に至る幅広いエポキシ樹脂に広く適用できることがわかりました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149959-O3-2iaBR604】
今回開発した技術は、常圧下において簡便な操作で実施でき、硬化剤の種類、繊維との複合化を問わずさまざまなエポキシ樹脂を短時間で分解できる点が大きなメリットです。本分解法によって、合成原料として広く利用されるビスフェノール類分子を収率よく回収することに成功しました。また、エポキシ樹脂の種類にほとんど影響を受けないことから、化学構造がわからないエポキシ樹脂の分解にも応用できると期待されます。さらに、樹脂と複合化した炭素繊維やガラス繊維などの回収法としても有効であると示唆されます。
今後の予定
今回開発した分解法を改良し、ビスフェノール類以外の原料化合物を収率よく回収できるケミカルリサイクル技術を開発します。加えて、エポキシ樹脂が用いられた廃棄物へ本分解法を適用し、リサイクルが難しかった廃棄物の再生を目指します。また、エポキシ樹脂を簡便に分解できることそのものに着目し、エポキシ樹脂で封止されたもしくは接着された金属・磁性体材料などの解体と有用部材を回収する技術として自動車業界などに展開するなど、材料の幅広いリサイクルを可能にする汎用的な技術の研究開発に取り組みます。
論文情報
掲載誌:Polymer Journal
論文タイトル:Degradation of Stable Thermosetting Epoxy Resins Mediated by Bases in Amide Solvents
著者:Yasunori Minami, Tomoo Tsuyuki, Hayato Ishikawa, Yoshihiro Shimoyama, Kazuhiko Sato, Masaru Yoshida
DOI:10.1038/s41428-024-00979-6
用語解説
エポキシ樹脂
エポキシ基を有する化合物を反応させて得られる熱硬化性樹脂。エポキシ基を含むエポキシ主剤と硬化剤、またはエポキシ基同士を反応させて合成される。
1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)
1,3-Dimethyl-2-Imidazolidinoneのこと。尿素の誘導体で、非プロトン性極性溶媒として利用される有機化合物。沸点が220 ℃と高い。
ビスフェノールA
化学式 (CH3)2C(C6H4OH)2 で示される有機化合物。
エポキシ主剤
エポキシ樹脂の原料の一つ。硬化剤と反応するエポキシ基を二つ以上有する化合物。ビスフェノールAが代表的なエポキシ主剤である。
硬化剤
エポキシ主剤を架橋硬化させるための化合物。
マテリアルリサイクル
廃棄物の樹脂を破砕・分別・溶融などの主に物理的手法で新たな製品を作るリサイクル方法。
ケミカルリサイクル
廃棄物を化学反応により化学合成原料に変えて新たな製品を作るリサイクル方法。
モノマー
重合反応でポリマー(プラスチック)を合成する際の原料。
ビスフェノール類分子
ヒドロキシフェニル分子骨格(C6H4OH)を二つ有する分子の総称。化学構造の違いによりビスフェノールA、B、Fなどがある。エポキシ樹脂においては、主鎖の構成要素である。
エーテル化合物
アルキル基やフェニル基などの炭素骨格同士を酸素で連結した化合物の総称。
スーパーエンジニアリングプラスチック
耐熱性・機械的強度が非常に高い高機能樹脂。温度150 ℃以上の高温環境でも長時間使用できる。軽量でありながら機械的強度が高いため、金属の代替材料としても利用されることもある。
モル
国際単位系 (SI) における物質の量の単位。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20241118/pr20241118.html