細胞の状態遷移の鍵となる遺伝子を検出する新手法を開発
[26/08/18]
提供元:共同通信PRワイヤー
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単一細胞のトラジェクトリー解析に新手法「scLS」
2026年8月18日
早稲田大学
細胞の状態遷移の鍵となる遺伝子を検出する新手法を開発 単一細胞のトラジェクトリー解析に新手法「scLS」
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202608174245/_prw_PT1fl_pxk1DMH5.png】
細胞は、分化や刺激応答の過程で少しずつ状態を変えます。最近では、一つひとつの細胞ごとに遺伝子の働きを調べる技術(単一細胞RNA-seq※1)によりその変化を細胞単位で調べられるようになりましたが、複雑な流れの中でどの遺伝子が重要に変化するかを見つけることは容易ではありません。早稲田大学理工学術院の井内 仁志(いうち ひとし)次席研究員と理工学術院の浜田 道昭(はまだ みちあき)教授らの研究グループは、不規則な時間データを扱える「Lomb-Scargle periodogram」※2を応用し、トラジェクトリー※3に沿った遺伝子発現の変化を検出するRパッケージ「scLS」を開発し、GitHubで公開しました。scLSは既存の単一細胞解析ワークフローに組み込んで利用でき、分岐を含む複雑な細胞のトラジェクトリーでも、注目すべき遺伝子候補を効率よく絞り込む手法として利用できます。
本研究成果は、2026年7月16日(日本時間)に国際学術誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202608174245-O2-ockF7vtZ】
概要図:scLSの解析の概要。トラジェクトリー(細胞状態の変化の流れ)に沿った遺伝子発現量を周波数領域に変換して評価し、トラジェクトリーに沿って発現が変化する遺伝子を順位付けする。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
単一細胞RNA-seqは、多数の細胞について遺伝子発現を一つひとつ測定できる技術です。このデータを用いると、細胞が分化する過程や刺激に反応する過程を、トラジェクトリーとして推定できます。これまでにMonocle3やSlingshotなど、細胞のトラジェクトリーを推定する多くの方法が開発されてきました。
しかし、トラジェクトリーを推定した後に、どの遺伝子がその流れに沿って変化するのか、また条件間で変化の流れがどう異なるのかを調べる下流解析は難しい課題でした。特に、細胞の流れが枝分かれする「分岐」がある場合や、野生型※4とノックアウト※5で枝の形が異なる場合には、どの枝を対応させるか、どのような数式で表すかが解析結果に影響します。
(2)今回の研究で明らかになったこと
本研究では、トラジェクトリーに沿った遺伝子発現の変化を、従来とは異なる周波数解析の考え方で検出することを目指しました。そのために開発したscLSは、天文学などで使われてきたLomb-Scargle periodogramを単一細胞データ解析に応用した手法です。この方法は、不規則な間隔で観測されたデータを周波数の形に変換できるため、細胞が均一な間隔で並ばないトラジェクトリー解析に適しています。
scLSは、1つのトラジェクトリーに沿って発現が変化する遺伝子を見つける解析と、その変化の仕方が2つの条件の間で異なる遺伝子を見つける解析の2つを備えています。遺伝子発現の変化を周波数の特徴に置き換えて比較するため、分岐を含むトラジェクトリーでも、枝を一つずつ対応付けずに全体的な変化を調べられます。
分岐を含む細胞の流れを再現したシミュレーションと複数の実データを用いて評価した結果、scLSは既存手法に匹敵する検出性能を示しました。さらに、一部の既存手法では捉えにくかった一時的な発現変化や、条件によって異なる発現パターンも検出できました。
また、論文に掲載した解析とは別に、scLSの利用例をGitHubで公開しています。ヒト造血細胞の分化データに適用した例では、赤血球分化に関係する既知のマーカー遺伝子が上位に入りました。この解析例は、scLSが重要な候補遺伝子を効率よく絞り込めることを示しています。
(3)研究の波及効果や社会的影響
scLSは、細胞分化、免疫応答、病気の進行、薬剤応答など、時間的に変化する細胞状態を調べる研究で、注目すべき遺伝子候補を絞り込む助けになります。解析の最初の段階で候補を整理できれば、その後の可視化、マーカー比較、実験検証に進みやすくなります。
また、scLSはRパッケージとしてGitHubで公開されており、既存の単一細胞解析ワークフローに組み込みやすいため、バイオインフォマティクス研究者だけでなく、分化や疾患を扱う生命科学研究者にも利用しやすい解析基盤となることが期待されます。
(4)課題、今後の展望
scLSは、トラジェクトリー全体に沿った遺伝子レベルの変化を拾うスクリーニング手法です。scLSだけでは変化が起きた枝や細胞集団までは特定できないため、詳しく調べるには、細胞を枝ごとに分けるか、枝分かれを考慮できる他の手法と組み合わせて解析する必要があります。さらに、今後はより大規模な単一細胞データに対応する高速化が課題です。特に、Python依存部分の削減やR/C++、GPUを用いた実装により、今後増加する大規模データへの適用性を高めることが期待されます。
(5)研究者のコメント
単一細胞解析では、細胞の流れを推定する技術が大きく進みました。一方で、その流れからどの遺伝子に注目すべきかを決める作業は、研究者にとって依然として重要な課題です。scLSが、複雑な細胞状態の変化を理解するための入り口として、多くの研究で役立つことを期待しています。
(6)用語解説
※1 単一細胞RNA-seq
細胞集団をまとめて測るのではなく、細胞一つひとつについてRNAの量を測定する技術です。細胞ごとの違いや状態変化を詳しく調べられます。
※2 Lomb-Scargle periodogram
不規則な間隔で観測されたデータに含まれる変化のパターンを調べる周波数解析の方法です。本研究では遺伝子発現のパターンを表すために用いています。
※3 トラジェクトリー解析
多数の細胞を、分化や応答の進み具合に沿って並べる解析です。実際の測定時刻ではなく、細胞状態から推定した順序を用います
※4 野生型
遺伝子を改変していない、基準となる通常の細胞です。
※5 ノックアウト
特定の遺伝子の働きを失わせる実験手法です。野生型と比較することで、その遺伝子が細胞状態に与える影響を調べられます。
(7)論文情報
雑誌名:Nucleic Acids Research
論文名:The Lomb?Scargle periodogram-based differentially expressed gene detection along pseudotime
執筆者名(所属機関名): 井内 仁志(早稲田大学理工学術院)、浜田 道昭(早稲田大学理工学術院/産業技術総合研究所 /日本医科大学大学院医学研究科)
掲載?時(?本時間): 2026年7月16日
掲載URL: https://doi.org/10.1093/nar/gkag682
DOI: 10.1093/nar/gkag682
(8)キーワード
単一細胞RNA-seq、トラジェクトリー解析、周波数解析、遺伝子発現
(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
本研究は、JSPS 科研費 JP21K15078、AMED生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)JP26ama121055、AMED 新興・再興感染症研究基盤創生事業JP26wm0325086の支援を受けて実施されました。
2026年8月18日
早稲田大学
細胞の状態遷移の鍵となる遺伝子を検出する新手法を開発 単一細胞のトラジェクトリー解析に新手法「scLS」
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M102172/202608174245/_prw_PT1fl_pxk1DMH5.png】
細胞は、分化や刺激応答の過程で少しずつ状態を変えます。最近では、一つひとつの細胞ごとに遺伝子の働きを調べる技術(単一細胞RNA-seq※1)によりその変化を細胞単位で調べられるようになりましたが、複雑な流れの中でどの遺伝子が重要に変化するかを見つけることは容易ではありません。早稲田大学理工学術院の井内 仁志(いうち ひとし)次席研究員と理工学術院の浜田 道昭(はまだ みちあき)教授らの研究グループは、不規則な時間データを扱える「Lomb-Scargle periodogram」※2を応用し、トラジェクトリー※3に沿った遺伝子発現の変化を検出するRパッケージ「scLS」を開発し、GitHubで公開しました。scLSは既存の単一細胞解析ワークフローに組み込んで利用でき、分岐を含む複雑な細胞のトラジェクトリーでも、注目すべき遺伝子候補を効率よく絞り込む手法として利用できます。
本研究成果は、2026年7月16日(日本時間)に国際学術誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202608174245-O2-ockF7vtZ】
概要図:scLSの解析の概要。トラジェクトリー(細胞状態の変化の流れ)に沿った遺伝子発現量を周波数領域に変換して評価し、トラジェクトリーに沿って発現が変化する遺伝子を順位付けする。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
単一細胞RNA-seqは、多数の細胞について遺伝子発現を一つひとつ測定できる技術です。このデータを用いると、細胞が分化する過程や刺激に反応する過程を、トラジェクトリーとして推定できます。これまでにMonocle3やSlingshotなど、細胞のトラジェクトリーを推定する多くの方法が開発されてきました。
しかし、トラジェクトリーを推定した後に、どの遺伝子がその流れに沿って変化するのか、また条件間で変化の流れがどう異なるのかを調べる下流解析は難しい課題でした。特に、細胞の流れが枝分かれする「分岐」がある場合や、野生型※4とノックアウト※5で枝の形が異なる場合には、どの枝を対応させるか、どのような数式で表すかが解析結果に影響します。
(2)今回の研究で明らかになったこと
本研究では、トラジェクトリーに沿った遺伝子発現の変化を、従来とは異なる周波数解析の考え方で検出することを目指しました。そのために開発したscLSは、天文学などで使われてきたLomb-Scargle periodogramを単一細胞データ解析に応用した手法です。この方法は、不規則な間隔で観測されたデータを周波数の形に変換できるため、細胞が均一な間隔で並ばないトラジェクトリー解析に適しています。
scLSは、1つのトラジェクトリーに沿って発現が変化する遺伝子を見つける解析と、その変化の仕方が2つの条件の間で異なる遺伝子を見つける解析の2つを備えています。遺伝子発現の変化を周波数の特徴に置き換えて比較するため、分岐を含むトラジェクトリーでも、枝を一つずつ対応付けずに全体的な変化を調べられます。
分岐を含む細胞の流れを再現したシミュレーションと複数の実データを用いて評価した結果、scLSは既存手法に匹敵する検出性能を示しました。さらに、一部の既存手法では捉えにくかった一時的な発現変化や、条件によって異なる発現パターンも検出できました。
また、論文に掲載した解析とは別に、scLSの利用例をGitHubで公開しています。ヒト造血細胞の分化データに適用した例では、赤血球分化に関係する既知のマーカー遺伝子が上位に入りました。この解析例は、scLSが重要な候補遺伝子を効率よく絞り込めることを示しています。
(3)研究の波及効果や社会的影響
scLSは、細胞分化、免疫応答、病気の進行、薬剤応答など、時間的に変化する細胞状態を調べる研究で、注目すべき遺伝子候補を絞り込む助けになります。解析の最初の段階で候補を整理できれば、その後の可視化、マーカー比較、実験検証に進みやすくなります。
また、scLSはRパッケージとしてGitHubで公開されており、既存の単一細胞解析ワークフローに組み込みやすいため、バイオインフォマティクス研究者だけでなく、分化や疾患を扱う生命科学研究者にも利用しやすい解析基盤となることが期待されます。
(4)課題、今後の展望
scLSは、トラジェクトリー全体に沿った遺伝子レベルの変化を拾うスクリーニング手法です。scLSだけでは変化が起きた枝や細胞集団までは特定できないため、詳しく調べるには、細胞を枝ごとに分けるか、枝分かれを考慮できる他の手法と組み合わせて解析する必要があります。さらに、今後はより大規模な単一細胞データに対応する高速化が課題です。特に、Python依存部分の削減やR/C++、GPUを用いた実装により、今後増加する大規模データへの適用性を高めることが期待されます。
(5)研究者のコメント
単一細胞解析では、細胞の流れを推定する技術が大きく進みました。一方で、その流れからどの遺伝子に注目すべきかを決める作業は、研究者にとって依然として重要な課題です。scLSが、複雑な細胞状態の変化を理解するための入り口として、多くの研究で役立つことを期待しています。
(6)用語解説
※1 単一細胞RNA-seq
細胞集団をまとめて測るのではなく、細胞一つひとつについてRNAの量を測定する技術です。細胞ごとの違いや状態変化を詳しく調べられます。
※2 Lomb-Scargle periodogram
不規則な間隔で観測されたデータに含まれる変化のパターンを調べる周波数解析の方法です。本研究では遺伝子発現のパターンを表すために用いています。
※3 トラジェクトリー解析
多数の細胞を、分化や応答の進み具合に沿って並べる解析です。実際の測定時刻ではなく、細胞状態から推定した順序を用います
※4 野生型
遺伝子を改変していない、基準となる通常の細胞です。
※5 ノックアウト
特定の遺伝子の働きを失わせる実験手法です。野生型と比較することで、その遺伝子が細胞状態に与える影響を調べられます。
(7)論文情報
雑誌名:Nucleic Acids Research
論文名:The Lomb?Scargle periodogram-based differentially expressed gene detection along pseudotime
執筆者名(所属機関名): 井内 仁志(早稲田大学理工学術院)、浜田 道昭(早稲田大学理工学術院/産業技術総合研究所 /日本医科大学大学院医学研究科)
掲載?時(?本時間): 2026年7月16日
掲載URL: https://doi.org/10.1093/nar/gkag682
DOI: 10.1093/nar/gkag682
(8)キーワード
単一細胞RNA-seq、トラジェクトリー解析、周波数解析、遺伝子発現
(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)
本研究は、JSPS 科研費 JP21K15078、AMED生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)JP26ama121055、AMED 新興・再興感染症研究基盤創生事業JP26wm0325086の支援を受けて実施されました。










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