天然ガスの高効率改質を実現する新規バイメタル触媒を開発〜【産技助成Vol.50】
[08/10/23]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
筑波大学大学院数理物質科学研究科
天然ガスから合成ガスに改質する高性能触媒を開発
プラントの高速・高効率化により改質装置を1/4に大幅小型化
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、筑波大学大学院数理物質科学研究科の准教授、富重圭一氏は、天然ガスから、一酸化炭素と水素の合成ガスの高効率な製造を可能にする高性能触媒を開発しました。
従来、天然ガスから内部熱供給式改質(注1)によって合成ガスを製造する際には、反応の高速化にともないNi(ニッケル)触媒層にホットスポット(注2)が生成され、その熱で触媒微粒子が凝集・焼結することによる触媒機能の劣化が問題となっていました。
本研究では、この問題を回避できるバイメタル(注3)微粒子からなる新規触媒を開発しました。「その場熱供給式」という新しい合成ガス製造技術により、天然ガスからの低環境負荷での液体燃料(メタノール、ジメチルエーテル等)の製造工程を効率化することができます。
新規触媒は、発熱反応と吸熱反応を同一反応場で進行させることで、ホットスポットの生成を抑制し、反応の高速化が実現できるとともに、貴金属類の使用量を減らすことができます。
また、装置を小型化し、触媒の使用量を低減できるため、高効率化および省エネルギー化が期待できます。
(注1)改質(reforming)とは、狭義ではガソリンの炭化水素の構造を変え、とくにオクタン価を改善することを指す。一般には石
油や天然ガスなどに水や水素などを作用させて、分子構造を変化させることを言う。熱による場合を熱改質、水蒸気を作
用させる場合は水蒸気改質という。ここでは特にメタンに水を作用させて、水素とCOを得ることを指す。
(注2)ホットスポットとは、周囲に比べて高温になっている部分のこと。
(注3)バイメタル(bimetal)とは、2種類の異なる金属によって構成される材料のこと。
1.研究成果概要
Ni触媒の表面に極微量のPt(白金)を含浸させるだけでホットスポットの生成を抑制できることが判明しました。Niの1/100程度のPtを含浸させた時、ホットスポット抑制効果は最も高くなりました。また、この触媒の調製法によって触媒性能に大きな差が出ることも解明しました。
具体的には、極めて微量の Ptでも逐次的に担持させることで、Ni微粒子の表面部分のみの修飾が可能となり、微粒子表面にPt-Ni合金相が効率良く形成できることが分かりました。この Ptによる表面修飾によってNiの還元性および耐酸化性が向上します。このNiの耐酸化性の向上の結果、本改質反応のように酸化的環境での水蒸気改質反応で、酸素が多い触媒層の入り口付近でもNiが酸化されることなく金属状態を維持し、触媒として機能を維持できるようになりました。また「その場熱供給式」ではメタン自身の燃焼反応と同時に改質反応が進行するため、燃焼反応で生じた熱が効率的に吸熱反応へと直接供給され、生産効率が高まるとともに、ホットスポットの生成が抑制されるものと考えられます。また同様な効果が、Ni触媒表面にPd(パラジウム)を極微量含浸させて、修飾したバイメタル触媒でも確認されています。
2.競合技術への強み
1)設備の大幅な小型化
天然ガスから合成ガスへの反応が内部で起こる改質反応器(ATR)のサイズで比較すると、内部熱供給式は8m×15m×2基ですが、その場熱供給式では4m×9m×1基と、およそ「1/4の規模」になると見込まれます。
2)製造効率の向上
内部熱供給式では、触媒層に通じるガスを高速化するとホットスポットが発生するため、ゆっくり流さなければなりませんでした。開発した新規触媒はホットスポットが生成しにくく「高速変換と製造効率の向上」を実現します。
3)劇的なコストダウンの実現
ホットスポット抑制機能を持つ触媒としては、これまでPt(白金)などの貴金属が使われていましたが、本研究ではごく微量の貴金属で表面修飾したNi触媒が、従来の貴金属触媒に匹敵する高いホットスポット抑制機能を示すことを解明。貴金属使用量の低減により、劇的なコストダウンに成功しました。
3.今後の展望
これまでGTLプロセス(注4)をターゲットに、天然ガスから合成ガスを製造する際に有効となる触媒に関する研究を進めてきました。しかし、本研究で見出された成果は、他の炭化水素を原料とする酸化的改質反応にも適応できる可能性を持っています。例えば燃料電池用水素の製造には、原料として都市ガスやガソリン、メタノール、灯油など、様々な炭化水素を用いることが想定されているため、本研究で開発された「その場熱供給式用バイメタル触媒」を用いることで、高効率化を図ることが期待できます。現在行っている研究をスケールアップできれば、こうした方向への展開も可能になると考えています。
(注4)天然ガスを一酸化炭素と水素に分解後、分子構造を組み替えて液体燃料などを作る製造プロセスのこと。
4.参考
成果プレスダイジェスト:筑波大学准教授 冨重 圭一氏
筑波大学大学院数理物質科学研究科
天然ガスから合成ガスに改質する高性能触媒を開発
プラントの高速・高効率化により改質装置を1/4に大幅小型化
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、筑波大学大学院数理物質科学研究科の准教授、富重圭一氏は、天然ガスから、一酸化炭素と水素の合成ガスの高効率な製造を可能にする高性能触媒を開発しました。
従来、天然ガスから内部熱供給式改質(注1)によって合成ガスを製造する際には、反応の高速化にともないNi(ニッケル)触媒層にホットスポット(注2)が生成され、その熱で触媒微粒子が凝集・焼結することによる触媒機能の劣化が問題となっていました。
本研究では、この問題を回避できるバイメタル(注3)微粒子からなる新規触媒を開発しました。「その場熱供給式」という新しい合成ガス製造技術により、天然ガスからの低環境負荷での液体燃料(メタノール、ジメチルエーテル等)の製造工程を効率化することができます。
新規触媒は、発熱反応と吸熱反応を同一反応場で進行させることで、ホットスポットの生成を抑制し、反応の高速化が実現できるとともに、貴金属類の使用量を減らすことができます。
また、装置を小型化し、触媒の使用量を低減できるため、高効率化および省エネルギー化が期待できます。
(注1)改質(reforming)とは、狭義ではガソリンの炭化水素の構造を変え、とくにオクタン価を改善することを指す。一般には石
油や天然ガスなどに水や水素などを作用させて、分子構造を変化させることを言う。熱による場合を熱改質、水蒸気を作
用させる場合は水蒸気改質という。ここでは特にメタンに水を作用させて、水素とCOを得ることを指す。
(注2)ホットスポットとは、周囲に比べて高温になっている部分のこと。
(注3)バイメタル(bimetal)とは、2種類の異なる金属によって構成される材料のこと。
1.研究成果概要
Ni触媒の表面に極微量のPt(白金)を含浸させるだけでホットスポットの生成を抑制できることが判明しました。Niの1/100程度のPtを含浸させた時、ホットスポット抑制効果は最も高くなりました。また、この触媒の調製法によって触媒性能に大きな差が出ることも解明しました。
具体的には、極めて微量の Ptでも逐次的に担持させることで、Ni微粒子の表面部分のみの修飾が可能となり、微粒子表面にPt-Ni合金相が効率良く形成できることが分かりました。この Ptによる表面修飾によってNiの還元性および耐酸化性が向上します。このNiの耐酸化性の向上の結果、本改質反応のように酸化的環境での水蒸気改質反応で、酸素が多い触媒層の入り口付近でもNiが酸化されることなく金属状態を維持し、触媒として機能を維持できるようになりました。また「その場熱供給式」ではメタン自身の燃焼反応と同時に改質反応が進行するため、燃焼反応で生じた熱が効率的に吸熱反応へと直接供給され、生産効率が高まるとともに、ホットスポットの生成が抑制されるものと考えられます。また同様な効果が、Ni触媒表面にPd(パラジウム)を極微量含浸させて、修飾したバイメタル触媒でも確認されています。
2.競合技術への強み
1)設備の大幅な小型化
天然ガスから合成ガスへの反応が内部で起こる改質反応器(ATR)のサイズで比較すると、内部熱供給式は8m×15m×2基ですが、その場熱供給式では4m×9m×1基と、およそ「1/4の規模」になると見込まれます。
2)製造効率の向上
内部熱供給式では、触媒層に通じるガスを高速化するとホットスポットが発生するため、ゆっくり流さなければなりませんでした。開発した新規触媒はホットスポットが生成しにくく「高速変換と製造効率の向上」を実現します。
3)劇的なコストダウンの実現
ホットスポット抑制機能を持つ触媒としては、これまでPt(白金)などの貴金属が使われていましたが、本研究ではごく微量の貴金属で表面修飾したNi触媒が、従来の貴金属触媒に匹敵する高いホットスポット抑制機能を示すことを解明。貴金属使用量の低減により、劇的なコストダウンに成功しました。
3.今後の展望
これまでGTLプロセス(注4)をターゲットに、天然ガスから合成ガスを製造する際に有効となる触媒に関する研究を進めてきました。しかし、本研究で見出された成果は、他の炭化水素を原料とする酸化的改質反応にも適応できる可能性を持っています。例えば燃料電池用水素の製造には、原料として都市ガスやガソリン、メタノール、灯油など、様々な炭化水素を用いることが想定されているため、本研究で開発された「その場熱供給式用バイメタル触媒」を用いることで、高効率化を図ることが期待できます。現在行っている研究をスケールアップできれば、こうした方向への展開も可能になると考えています。
(注4)天然ガスを一酸化炭素と水素に分解後、分子構造を組み替えて液体燃料などを作る製造プロセスのこと。
4.参考
成果プレスダイジェスト:筑波大学准教授 冨重 圭一氏