カツオ主体の水産加工廃水を希釈・前処理なしで「藻類-微生物共生培地」に転換
[25/12/05]
提供元:PRTIMES
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静岡大学農学部長尾遼准教授らの研究グループの研究成果が学術誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」に掲載されました
【研究のポイント】
- 静岡県焼津市の水産加工施設(主にカツオを取り扱い)から得た未処理の原廃水を、そのまま培地として使用し、現地由来の藻類-微生物複合系の増殖と機能を実証しました。
- 9日間の培養でクロロフィル量が約5倍に増加し、バイオマスの顕著な蓄積を確認しました。
- 溶存有機炭素は85%、リン酸イオンは約68%それぞれ減少し、アンモニウムイオン(NH??)は一過的に増加後、緩やかに減少し、系内の窒素循環が有機態窒素の鉱化優位で推移したことを示唆しました。
- 16S/18S rRNA遺伝子解析から、緑藻クロレラと有機物分解に関与する細菌(Erythrobacter / Paracoccus等)が共存していることを見出しました。
- 前処理不要の実環境条件下で、栄養回収型“資源化”の実装に向けた有望な知見を得ました。
【研究概要】
静岡大学大学院総合科学技術研究科の加賀稜健(修士1年)と長尾遼准教授らの研究グループは、静岡県焼津市のカツオ加工施設から得られた未処理の原廃水を用い、現地由来の藻類-微生物複合系の培養実験を行いました。
本研究は、従来「処理困難」とされてきた水産加工廃水を“そのまま培地”へ転換する試みです。未処理廃水に自然適応した藻類-微生物複合系を接種すると、わずか9日で培地が鮮やかな緑に変化し、クロロフィル濃度は約5倍に増加しました。これは除去にとどまらず、廃水からバイオマスを創出する「資源化」の可能性を示す成果です。実験ではDOC(注1)が急速に減少し、リン酸イオンも大幅に低下する一方、アンモニウムイオンは一過的に増加後に緩やかに減少しました。この動態は、細菌による分解と藻類による栄養同化が時間差で進む「有機態窒素の鉱化-同化連携」を反映しています。さらに16S/18S rRNA遺伝子解析(注2)により、光合成を担うクロレラと、有機物分解や窒素変換に関与する細菌群(ErythrobacterやParacoccusなど)の共存が確認されました。
本成果は「廃水=除去対象」という従来の枠を超え、廃水を“培養資源”として捉える概念を提示するものです。肥料・飼料・エネルギー素材など多様な応用の端緒となり、今後の水産加工業における持続可能な廃水利用のモデルケースとして期待されます。
本研究成果は、2025年10月29日付で学術誌 Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry に掲載されました。
研究者コメント
静岡大学 農学部 准教授 長尾遼
未処理のまま扱いが難しいとされる水産加工廃水を、“希釈も前処理もせずに”藻類-微生物複合系の共生力で培地化できることを示しました。工程の簡素化は実装上の強みであり、資源回収・バイオマス創出の新しい道筋を開くと考えています。今後は反応器設計やスケールアップ、生成バイオマスの用途別品質評価を進める予定です。
【研究背景】
水産加工廃水はタンパク質や脂質に由来する有機物や窒素・リンを高濃度に含むため、処理が難しい廃水の一つとされてきました。これまでの研究は主としてCOD(注3)や栄養塩の除去に焦点が当てられ、活性汚泥法(注4)などの「処理プロセス」が中心でした。しかし近年、廃水を単なる負荷源として扱うのではなく、「資源」として捉え直す動きが進んでいます。特に藻類は、光合成により廃水中の栄養塩を取り込みながらバイオマスを生成し、肥料・飼料・エネルギー素材としての応用が期待されています。
藻類と細菌の共生関係は自然界で普遍的に見られ、藻類が光合成で有機物を供給し、細菌が有機物分解や窒素循環を担うことで、相互に安定した代謝ネットワークを形成します。廃水環境においても、このような藻類-微生物複合系は高い適応力を示す可能性があります。しかし、カツオの水産加工施設から得られる「未処理の原廃水」をそのまま培養培地に用いた事例はほとんど報告されていません。
本研究では、静岡県焼津市のカツオ加工施設由来の未処理廃水を用い、現地に自然適応した藻類-微生物複合系の培養を試みました。その成果により、従来は「処理困難」とされてきた廃水を“培養資源”として活用する新たな可能性を提示しました。
【研究の成果】
静岡大学の長尾遼准教授らの研究グループは、焼津市カツオ加工施設から得られた未処理廃水を用い、現地由来の藻類-微生物複合系の培養実験を行い、栄養塩動態・群集構造・資源化可能性を多面的に解析しました(下図)。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/99/96787-99-76ff870786030276123625c48ac8f0d4-1000x275.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
- バイオマス生成
廃水に藻類-微生物複合系を直接接種すると、培地は9日以内に鮮やかな緑色へと変化しました。クロロフィル濃度は初期の約5倍に上昇し、全懸濁物質量(TSS)も増加したことから、廃水中の栄養分が効率的に光合成バイオマスへ転換されたことが示されました。
- 水質動態
DOCは初期から急速に低下し、9日間で約85%が除去されました。リン酸イオン濃度も大幅に減少(約70%低下)し、窒素源のうちアンモニウムイオンは一過的に増加後、徐々に減少しました。この挙動は、細菌がタンパク質やペプチドを分解してアンモニウムを放出し、それを藻類が利用する「有機態窒素の鉱化-同化連携」が機能していることを反映しています。
- 微生物群集解析
16S/18S rRNA遺伝子解析により、光合成を担うクロレラ属藻類が優占し、同時にErythrobacterやParacoccusといった有機物分解に関与する細菌群の共存が確認されました。これらは藻類が供給する酸素や有機物を利用しつつ、藻類に利用可能な形で栄養塩を再供給する「機能的共生関係」を形成していることが示唆されました。
- 資源化の可能性
本培養系で得られた藻類-微生物バイオマスは、肥料や飼料、さらにはバイオエネルギー源としての利用が想定されます。とりわけ水産加工廃水はタンパク質や脂質が豊富であるため、通常の培地に比べて高付加価値な成分(例えば多価不飽和脂肪酸や有用タンパク質)を含むバイオマスが得られる可能性があります。
以上の成果は、「廃水=処理対象」という従来の発想を超えて、廃水をそのまま“培養資源”へと転換する新しい概念を実証しました。今後は得られたバイオマスの成分分析や肥料・飼料試験、さらには水産加工業への導入可能性の検討を進めることで、持続可能な廃水利用モデルの確立が期待されます。
【論文情報】
掲載誌名: Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
論文タイトル: Cultivation of a native microalgae-bacterial consortium in seafood processing wastewater primarily from skipjack tuna
著者: Ryo-Ken T. Kaga, Sota Yokoyama, Hideyuki Adachi, Atsushi Kubo, Kazumi Nimura, Yuu Hirose, Ryo Nagao
DOI: https://doi.org/10.1093/bbb/zbaf155
【用語説明】
注1:DOC(溶存有機炭素)
DOCは、水中に溶け込んでいる有機物に由来する炭素成分の総量を示す指標です。微生物が利用できる栄養源でもあり、藻類や細菌の増殖に影響します。河川・湖沼・排水などの水環境において、水質や生態系に関わる重要な要素とされています。
注2:16S/18S rRNA遺伝子解析
16S rRNA 遺伝子(細菌や古細菌に共通するリボソーム RNA 遺伝子の一部)や 18S rRNA 遺伝子(真核生物に共通するリボソーム RNA 遺伝子の一部)は、いずれも生物種ごとに配列が少しずつ異なります。そのため、これらの遺伝子配列を調べることで、試料中に存在する細菌・古細菌や藻類・真核微生物の種類や構成比を推定することができます。環境中の微生物群集の解析に広く利用される分子生物学的手法です。
注3:COD(化学的酸素要求量)
CODは、水中の有機物などを化学的に酸化するのに必要な酸素の量を示す指標です。数値が高いほど水中に有機物が多く含まれ、汚れが強いことを意味します。水質汚濁の程度を評価する代表的な環境指標として、排水や河川水の検査に広く用いられています。一方、DOCは「水に溶けた有機物に由来する炭素量」を直接測定するのに対し、CODは「水中の有機物を酸化させるのに必要な酸素量」として間接的に評価する点が異なります。つまり、DOCは有機物そのものの量を炭素で表した指標、CODはその有機物が環境に与える酸素消費の影響を表す指標です。
注4:活性汚泥法
活性汚泥法は、下水や工場排水に含まれる有機物を微生物のはたらきで分解・除去する代表的な廃水処理法です。排水を曝気槽で空気とともにかき混ぜることで、細菌や原生動物などの微生物群(活性汚泥)が増殖し、有機物を取り込み・分解します。その後、沈殿槽で微生物を沈降させて水を浄化します。世界的に最も広く利用されている生物学的廃水処理法です。
【研究のポイント】
- 静岡県焼津市の水産加工施設(主にカツオを取り扱い)から得た未処理の原廃水を、そのまま培地として使用し、現地由来の藻類-微生物複合系の増殖と機能を実証しました。
- 9日間の培養でクロロフィル量が約5倍に増加し、バイオマスの顕著な蓄積を確認しました。
- 溶存有機炭素は85%、リン酸イオンは約68%それぞれ減少し、アンモニウムイオン(NH??)は一過的に増加後、緩やかに減少し、系内の窒素循環が有機態窒素の鉱化優位で推移したことを示唆しました。
- 16S/18S rRNA遺伝子解析から、緑藻クロレラと有機物分解に関与する細菌(Erythrobacter / Paracoccus等)が共存していることを見出しました。
- 前処理不要の実環境条件下で、栄養回収型“資源化”の実装に向けた有望な知見を得ました。
【研究概要】
静岡大学大学院総合科学技術研究科の加賀稜健(修士1年)と長尾遼准教授らの研究グループは、静岡県焼津市のカツオ加工施設から得られた未処理の原廃水を用い、現地由来の藻類-微生物複合系の培養実験を行いました。
本研究は、従来「処理困難」とされてきた水産加工廃水を“そのまま培地”へ転換する試みです。未処理廃水に自然適応した藻類-微生物複合系を接種すると、わずか9日で培地が鮮やかな緑に変化し、クロロフィル濃度は約5倍に増加しました。これは除去にとどまらず、廃水からバイオマスを創出する「資源化」の可能性を示す成果です。実験ではDOC(注1)が急速に減少し、リン酸イオンも大幅に低下する一方、アンモニウムイオンは一過的に増加後に緩やかに減少しました。この動態は、細菌による分解と藻類による栄養同化が時間差で進む「有機態窒素の鉱化-同化連携」を反映しています。さらに16S/18S rRNA遺伝子解析(注2)により、光合成を担うクロレラと、有機物分解や窒素変換に関与する細菌群(ErythrobacterやParacoccusなど)の共存が確認されました。
本成果は「廃水=除去対象」という従来の枠を超え、廃水を“培養資源”として捉える概念を提示するものです。肥料・飼料・エネルギー素材など多様な応用の端緒となり、今後の水産加工業における持続可能な廃水利用のモデルケースとして期待されます。
本研究成果は、2025年10月29日付で学術誌 Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry に掲載されました。
研究者コメント
静岡大学 農学部 准教授 長尾遼
未処理のまま扱いが難しいとされる水産加工廃水を、“希釈も前処理もせずに”藻類-微生物複合系の共生力で培地化できることを示しました。工程の簡素化は実装上の強みであり、資源回収・バイオマス創出の新しい道筋を開くと考えています。今後は反応器設計やスケールアップ、生成バイオマスの用途別品質評価を進める予定です。
【研究背景】
水産加工廃水はタンパク質や脂質に由来する有機物や窒素・リンを高濃度に含むため、処理が難しい廃水の一つとされてきました。これまでの研究は主としてCOD(注3)や栄養塩の除去に焦点が当てられ、活性汚泥法(注4)などの「処理プロセス」が中心でした。しかし近年、廃水を単なる負荷源として扱うのではなく、「資源」として捉え直す動きが進んでいます。特に藻類は、光合成により廃水中の栄養塩を取り込みながらバイオマスを生成し、肥料・飼料・エネルギー素材としての応用が期待されています。
藻類と細菌の共生関係は自然界で普遍的に見られ、藻類が光合成で有機物を供給し、細菌が有機物分解や窒素循環を担うことで、相互に安定した代謝ネットワークを形成します。廃水環境においても、このような藻類-微生物複合系は高い適応力を示す可能性があります。しかし、カツオの水産加工施設から得られる「未処理の原廃水」をそのまま培養培地に用いた事例はほとんど報告されていません。
本研究では、静岡県焼津市のカツオ加工施設由来の未処理廃水を用い、現地に自然適応した藻類-微生物複合系の培養を試みました。その成果により、従来は「処理困難」とされてきた廃水を“培養資源”として活用する新たな可能性を提示しました。
【研究の成果】
静岡大学の長尾遼准教授らの研究グループは、焼津市カツオ加工施設から得られた未処理廃水を用い、現地由来の藻類-微生物複合系の培養実験を行い、栄養塩動態・群集構造・資源化可能性を多面的に解析しました(下図)。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/99/96787-99-76ff870786030276123625c48ac8f0d4-1000x275.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
- バイオマス生成
廃水に藻類-微生物複合系を直接接種すると、培地は9日以内に鮮やかな緑色へと変化しました。クロロフィル濃度は初期の約5倍に上昇し、全懸濁物質量(TSS)も増加したことから、廃水中の栄養分が効率的に光合成バイオマスへ転換されたことが示されました。
- 水質動態
DOCは初期から急速に低下し、9日間で約85%が除去されました。リン酸イオン濃度も大幅に減少(約70%低下)し、窒素源のうちアンモニウムイオンは一過的に増加後、徐々に減少しました。この挙動は、細菌がタンパク質やペプチドを分解してアンモニウムを放出し、それを藻類が利用する「有機態窒素の鉱化-同化連携」が機能していることを反映しています。
- 微生物群集解析
16S/18S rRNA遺伝子解析により、光合成を担うクロレラ属藻類が優占し、同時にErythrobacterやParacoccusといった有機物分解に関与する細菌群の共存が確認されました。これらは藻類が供給する酸素や有機物を利用しつつ、藻類に利用可能な形で栄養塩を再供給する「機能的共生関係」を形成していることが示唆されました。
- 資源化の可能性
本培養系で得られた藻類-微生物バイオマスは、肥料や飼料、さらにはバイオエネルギー源としての利用が想定されます。とりわけ水産加工廃水はタンパク質や脂質が豊富であるため、通常の培地に比べて高付加価値な成分(例えば多価不飽和脂肪酸や有用タンパク質)を含むバイオマスが得られる可能性があります。
以上の成果は、「廃水=処理対象」という従来の発想を超えて、廃水をそのまま“培養資源”へと転換する新しい概念を実証しました。今後は得られたバイオマスの成分分析や肥料・飼料試験、さらには水産加工業への導入可能性の検討を進めることで、持続可能な廃水利用モデルの確立が期待されます。
【論文情報】
掲載誌名: Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
論文タイトル: Cultivation of a native microalgae-bacterial consortium in seafood processing wastewater primarily from skipjack tuna
著者: Ryo-Ken T. Kaga, Sota Yokoyama, Hideyuki Adachi, Atsushi Kubo, Kazumi Nimura, Yuu Hirose, Ryo Nagao
DOI: https://doi.org/10.1093/bbb/zbaf155
【用語説明】
注1:DOC(溶存有機炭素)
DOCは、水中に溶け込んでいる有機物に由来する炭素成分の総量を示す指標です。微生物が利用できる栄養源でもあり、藻類や細菌の増殖に影響します。河川・湖沼・排水などの水環境において、水質や生態系に関わる重要な要素とされています。
注2:16S/18S rRNA遺伝子解析
16S rRNA 遺伝子(細菌や古細菌に共通するリボソーム RNA 遺伝子の一部)や 18S rRNA 遺伝子(真核生物に共通するリボソーム RNA 遺伝子の一部)は、いずれも生物種ごとに配列が少しずつ異なります。そのため、これらの遺伝子配列を調べることで、試料中に存在する細菌・古細菌や藻類・真核微生物の種類や構成比を推定することができます。環境中の微生物群集の解析に広く利用される分子生物学的手法です。
注3:COD(化学的酸素要求量)
CODは、水中の有機物などを化学的に酸化するのに必要な酸素の量を示す指標です。数値が高いほど水中に有機物が多く含まれ、汚れが強いことを意味します。水質汚濁の程度を評価する代表的な環境指標として、排水や河川水の検査に広く用いられています。一方、DOCは「水に溶けた有機物に由来する炭素量」を直接測定するのに対し、CODは「水中の有機物を酸化させるのに必要な酸素量」として間接的に評価する点が異なります。つまり、DOCは有機物そのものの量を炭素で表した指標、CODはその有機物が環境に与える酸素消費の影響を表す指標です。
注4:活性汚泥法
活性汚泥法は、下水や工場排水に含まれる有機物を微生物のはたらきで分解・除去する代表的な廃水処理法です。排水を曝気槽で空気とともにかき混ぜることで、細菌や原生動物などの微生物群(活性汚泥)が増殖し、有機物を取り込み・分解します。その後、沈殿槽で微生物を沈降させて水を浄化します。世界的に最も広く利用されている生物学的廃水処理法です。









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