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清酒と泡盛の双方に向く酒米の新品種「楽風(らくふう)舞(まい)」を開発

2011年9月8日

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター

清酒と泡盛の双方に向く酒米の新品種「楽風(らくふう)舞(まい)」を開発


■ ポイント

・清酒と泡盛の双方に適する酒米の新品種「楽風舞」を開発しました。
・清酒は「淡麗」に仕上がり、泡盛は口当たりが「軽快」で「華やか」に仕上がります。
・耐倒伏性が「五百万石」より明らかに強いため、栽培しやすいです。

■ 概要                  
 
1.農研機構 中央農業総合研究センター【所長 佐々木昭博】は、清酒、泡盛の双方に適する初の酒米の新品種「楽風舞」を育成いたしました。
2.清酒の醸造時の純アルコール数量およびアミノ酸度は酒米の品種「たかね錦」と同等で、酒質は「淡麗」に仕上がります。泡盛では、口当たりのソフトな「軽快」で「華やか」な酒となります。
3.「楽風舞」の玄米千粒重は「五百万石」より重く、心白の発現率は2割程度です。
4.耐倒伏性が「五百万石」より明らかに強いため栽培しやすく、収量性は「五百万石」並です。
5.高品質で栽培しやすい酒米の供給と、国内で生産される米からの高品質な泡盛の醸造が可能となることから、米の醸造に関わる産業や、地域経済の活性化への貢献が期待されます。
6.なお、本研究は農林水産省委託プロジェクト「低コストで質の良い加工・業務用農作物の安定供給技術の開発委託事業」の成果です。また、本品種は8月19日に品種登録出願公表されました。

■ 背景
                      
現在、清酒の酒造会社では、各社の個性を生かした製品開発の動きが活発化しており、高品質で低コスト生産が可能な栽培しやすい酒米への関心が高まっております。一方、泡盛の原料の大部分はタイ等からの輸入米で、国産米を利用したものはほとんどありません。国産米を利用した高品質な泡盛の醸造が可能となれば、希少価値があり、安全で安心感のある製品として新たな需要が見込めます。このような背景から、栽培しやすく、清酒および泡盛用の醸造適性を備えた酒米の品種開発が望まれていました。

■ 経緯                                
 
「楽風(らくふう)舞(まい)」は、栽培特性と醸造適性の両立を目指して、短稈の良食味品種である「どんとこい」と酒米の品種「五百万石」を交配した後代から育成されました。平成8年に育成を開始し、平成16年から「北陸酒203号」の系統名で関係各県に配付し、奨励品種決定調査および特性検定試験に供試してきました。同年から、原酒造株式会社と酒造適性の検討を開始し、平成17年度は協定研究、平成18年度からは製品の市場評価の調査を含めた共同研究を実施することで、酒造適性の検討を進め、清酒への適性を明らかにしました。また、一方で、沖縄県の奨励品種決定調査の一部として、沖縄県農業研究センターの委託により瑞穂酒造株式会社が泡盛の酒造適性試験を行った結果、泡盛への適性が評価されました。この結果を受け、「北陸酒203号」を「楽風舞」と名付けて品種登録申請を行いました。

■ 内容・意義                
 
以下に新品種「楽風舞」の特徴を示します。
1.育成地のある北陸地域では早生の熟期に属する品種であり、出穂期、成熟期は早生の酒米の主力品種である「五百万石」よりやや遅いです。(表1)。
2.「五百万石」に比較して稈長および穂長は短く、穂数は同程度で、草型は一穂当たりの穂重が重い草型をしています。耐倒伏性は「五百万石」より強く、収量性は「五百万石」と同程度です(表1、写真1、写真2)。
3.玄米の粒形は五百万石と同様の短粒で、粒大は大きく(写真3)、玄米千粒重は「五百万石」より重く、心白の発現率は2割程度です。60%精米時の砕米歩合は「五百万石」より少なく、無効精米歩合は低く、清酒の醸造に好適な高度精米耐性を有しています(表2)。
4.清酒、泡盛の双方に適する初の酒米の品種です。清酒の醸造時の純アルコール数量およびアミノ酸度は「たかね錦」と同等で、酒質は淡麗に仕上がります(表3)。泡盛では、口当たりのソフトな「軽快」で「華やか」な酒となります(図1)。
5.冷害の危険性の少ない東北中南部、北陸および関東以西の広い地域での栽培が可能です。

■ 今後の予定・期待
              
「楽風舞」は倒伏しにくいことから、本品種を用いて高品質な酒米を簡易に栽培することができます。清酒、泡盛の双方に適する初の酒米の品種であることから、国産米を用いた高品質な泡盛の醸造を行えるだけでなく、清酒と泡盛の企業間のコラボレーションによる製品の販売促進等に繋がることが期待されます。清酒では新潟県の原酒造株式会社、泡盛では沖縄県の瑞穂酒造株式会社から製品化されることが決まっています。今後米の醸造に関わる産業や地域経済の活性化により一層貢献していくことが期待されます。

■ 品種の名前の由来
                
酒の心地よい酔いとおだやかな風に当たって舞う姿のイメージから名付けました。

■ 用語の解説               

・五百万石:1938年に「菊水」を母、「新200号」を父として、新潟県農業試験場(現新潟県農業総合研究所)で育成された酒米の品種です。円状の大粒で、心白は大きく発現が良いです。五百万石で醸造した清酒は淡色で、味は淡麗な特徴をもちます。「山田錦」と並んで我が国を代表する酒米の品種です。

・たかね錦:1952年に「北陸12号」を母、「東北25号」を父として、長野県立農事試験場(現 長野県農業試験場)で育成された酒米の品種です。酒米としては粒がやや小さく、心白の発現も少なめですが、精米適性に優れ、吟醸造りに適し、高級酒の原料として定評があります。

・稈長:地面から穂の付け根にある穂首までの長さを差します。稈長が短いことを短稈であるといい、短稈であるほど、稲は倒れにくくなる傾向があります。

・精玄米重:米選機でくず米を除いた玄米の重量です。 ちなみに、くず米を含む玄米の総重量のことを粗玄米重といいます。

・同上比率:標準品種である「五百万石」の精玄米重を100とした時の「楽風舞」の精玄米重比

・千粒重:玄米1000粒の重さです。

・心白:米粒の中心部にある白色不透明な部分のことです。一般的な酒米は、心白を含む米の割合が高いです。

・砕米歩合:砕け米の全体に対する重量比(%)のことです。

・無効精米歩合:精米歩合とは、玄米に対する精米の重量パーセントをいいます。無効精米歩合とは真精米歩合(玄米とその玄米を精米して得た白米の千粒重の比率)から見かけ精米歩合(玄米とその玄米を精米して得た白米の重量の比率)を除したものです。すなわち、精米中に砕け米になって糠と一緒になってしまった米の比率をいいます。精米中の砕け米が少なく、きれいに精米できる米はこの値が小さいです。

・高度精米耐性:一般食用米の精米歩合は通常90%ですが、清酒の原料にする米は、精米歩合75%以下のものが用いられています。このように、玄米を表面から多く削って精米にする際に、砕けにくく、きれいに削れる特性のことを高度精米耐性といいます。


■ 醸造試験および現地栽培試験担当者                      
  
原酒造株式会社                代表取締役社長  原 吉隆 
〒 945-0056 新潟県柏崎市新橋5-12 
電話:0257(23)6221 FAX:0257(20)1032

沖縄県農業研究センター名護支所 作物園芸班    主任研究員 田部井 大介
〒905-0012 沖縄県名護市名護4605-3
電話:0980-53-5395 FAX 0980-53-6293

瑞穂酒造株式会社                代表取締役 岡田 美佐子
〒903-0801 沖縄県那覇市首里末吉町4-5-16 
電話:0120-151-304 FAX  098-885-0202
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