世界で初めて光時計が直近の協定世界時の一秒の長さを校正
[19/02/07]
提供元:共同通信PRワイヤー
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2019年2月7日
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
世界で初めて光時計が直近の協定世界時の一秒の長さを校正
〜国際度量衡局がNICT光格子時計による歩度評価を採用〜
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)電磁波研究所 時空標準研究室は、ストロンチウム光格子時計を用いて、光時計として世界で初めて直近の協定世界時(UTC)の歩度校正に寄与しました。各国の計量標準研究所は、保有する一次及び二次周波数標準によって直近のUTCが刻む一秒の長さ(歩度)の評価を行い、これを国際度量衡局(BIPM)に報告することで、UTCの生成に貢献する役割があります。この評価が実際の校正に採用されるには、まず、国際度量衡委員会 時間周波数諮問委員会(CCTF)の国際作業部会によって、その能力が認定される必要があり、NICTの光格子時計は、パリ天文台に続き、光時計として二例目となる二次周波数標準の認定を2018年11月末に取得しました。そして、その取得直後の同年12月、パリ天文台と同時に、初めて光時計によって直近のUTCの歩度を評価し、その結果が従来のマイクロ波周波数標準による評価結果と共に、BIPMによって計算される歩度の校正値決定に採用されました。
【背景】
グローバルな金融取引や第5世代移動通信システム(5G)等、実社会においては、より高精度な時刻情報がますます重要になっており、そこでは参照する国際的な時刻として協定世界時(UTC)が用いられます。UTCは、世界中の400台以上もの原子時計の情報を用いて、BIPMがその重み付き平均を算出して生成します。しかし、計算が行われるのは月に一度であり、直近では一か月前の時刻しか分からないため、そのままでは実用に不向きです。
そこで、実社会でUTCを利用するために、各国の計量標準研究所などは、UTCに同期するように実信号の時刻を生成・維持しています。NICTが生成する実信号は、UTCに対して通常5,000万分の1秒以内の精度で時刻差が維持され、+9時間の時刻差を付けて日本標準時として広く提供されています。
そして、各国の標準時が参照するUTCが刻む「秒」は、国際作業部会が認定した一次及び二次周波数標準によって常時評価され、BIPMはこの評価値を採用して校正値を決定しています。
一方、近年は光時計の進歩が目覚ましく、従来の周波数標準を上回る性能を示しているため、より高精度な光時計によるUTCの校正が待たれていましたが、装置が複雑な光時計は、その精度を維持しつつ長期的に再現性良く運用することが困難であり、また、系統誤差の評価に時間を要するため、これまで直近のUTCの歩度校正は実現していませんでした。
【今回の成果】
今回、私たちは、NICTが開発した光格子時計を2018年12月2日(日)から12日(水)までの10日間にわたり、90%以上の時間稼働率で運用し、光格子時計が刻む「秒」を基準に10日間のUTCの歩度を評価しました。その結果が毎月BIPMによって実行される校正値決定に採用され、同時に運用したパリ天文台と共に、光時計により、直近のUTCの歩度を初めて校正しました。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201902062911-O1-jxP0k0V8 】
図1: NICT光格子時計の装置の一部(写真)とBIPMからの今年1月の報告書(Circular T 372)の一部
写真左側に青白く見えるのはレーザー光で真空槽の窓が輝いている様子。ここで、光格子に捕獲した原子にレーザー光を照射し、原子が吸収するようにその光の周波数を調整することで、高精度な歩度情報を得ている。
この校正に寄与する資格を得るには、世界中の周波数標準研究者によって構成されるCCTFの国際作業部会から認定を取得する必要があります。この取得のために、NICTは、まず、NICT光格子時計の性能を評価し、この光格子時計が刻む「秒」を基準に、2016年4月から9月と2018年2月の7か月分の過去のUTCの歩度を評価し、2018年11月に作業部会に報告しました。この評価結果は、同期間の一次及び二次周波数標準の評価結果と高い整合性があり、私たちは、評価方法の妥当性について作業部会と議論した結果、同年11月末に、パリ天文台に続き、光時計としては二例目となる二次周波数標準の認定を取得しました。
加えて、私たちの校正値は、BIPM地球時という後処理で生成される更に高精度な研究用時刻の算出にも取り入れられました。BIPM地球時は、一次及び二次周波数標準がUTCを評価した期間の時刻もその評価結果を用いて校正されており、今回の光格子時計による校正値も反映させた、現在得られる時刻として最も歩度が秒の定義に近いものです。この時刻は、UTCでは参照時刻の精度として不十分である高精度な時刻や時間などを研究している科学者に主に利用されています。
さらに、本成果は、「秒」の再定義実現に貢献します。近年の光時計の精度は、現在の「秒」の定義を実現するセシウム一次周波数標準の精度を凌駕しています。この状況を受け、CCTFでは、早くて2026年頃に、「秒」の定義をセシウム原子のマイクロ波遷移から、原子の光学遷移に改定することを検討しています。光時計によるUTCの定常的な校正は、「秒」の再定義実現に課せられた課題の一つとして挙げられており、本成果は、これをクリアできるポテンシャルを示したことになります。
【今後の展望】
世界に先駆けて行った本成果が契機となり、UTCの歩度校正に世界中の多くの光時計が参加するようになれば、国際的な標準時の精度が向上します。一方で、光格子時計は複雑な装置であるため、精度を維持して長期連続運用することは、まだ難しい段階ですが、近い将来、定常的にUTCを評価し、これを高精度化できるように、NICTは、光格子時計がいつでも確実に再現性良く運用できるよう、システムの構成要素一つ一つを更に改良していきます。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
世界で初めて光時計が直近の協定世界時の一秒の長さを校正
〜国際度量衡局がNICT光格子時計による歩度評価を採用〜
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)電磁波研究所 時空標準研究室は、ストロンチウム光格子時計を用いて、光時計として世界で初めて直近の協定世界時(UTC)の歩度校正に寄与しました。各国の計量標準研究所は、保有する一次及び二次周波数標準によって直近のUTCが刻む一秒の長さ(歩度)の評価を行い、これを国際度量衡局(BIPM)に報告することで、UTCの生成に貢献する役割があります。この評価が実際の校正に採用されるには、まず、国際度量衡委員会 時間周波数諮問委員会(CCTF)の国際作業部会によって、その能力が認定される必要があり、NICTの光格子時計は、パリ天文台に続き、光時計として二例目となる二次周波数標準の認定を2018年11月末に取得しました。そして、その取得直後の同年12月、パリ天文台と同時に、初めて光時計によって直近のUTCの歩度を評価し、その結果が従来のマイクロ波周波数標準による評価結果と共に、BIPMによって計算される歩度の校正値決定に採用されました。
【背景】
グローバルな金融取引や第5世代移動通信システム(5G)等、実社会においては、より高精度な時刻情報がますます重要になっており、そこでは参照する国際的な時刻として協定世界時(UTC)が用いられます。UTCは、世界中の400台以上もの原子時計の情報を用いて、BIPMがその重み付き平均を算出して生成します。しかし、計算が行われるのは月に一度であり、直近では一か月前の時刻しか分からないため、そのままでは実用に不向きです。
そこで、実社会でUTCを利用するために、各国の計量標準研究所などは、UTCに同期するように実信号の時刻を生成・維持しています。NICTが生成する実信号は、UTCに対して通常5,000万分の1秒以内の精度で時刻差が維持され、+9時間の時刻差を付けて日本標準時として広く提供されています。
そして、各国の標準時が参照するUTCが刻む「秒」は、国際作業部会が認定した一次及び二次周波数標準によって常時評価され、BIPMはこの評価値を採用して校正値を決定しています。
一方、近年は光時計の進歩が目覚ましく、従来の周波数標準を上回る性能を示しているため、より高精度な光時計によるUTCの校正が待たれていましたが、装置が複雑な光時計は、その精度を維持しつつ長期的に再現性良く運用することが困難であり、また、系統誤差の評価に時間を要するため、これまで直近のUTCの歩度校正は実現していませんでした。
【今回の成果】
今回、私たちは、NICTが開発した光格子時計を2018年12月2日(日)から12日(水)までの10日間にわたり、90%以上の時間稼働率で運用し、光格子時計が刻む「秒」を基準に10日間のUTCの歩度を評価しました。その結果が毎月BIPMによって実行される校正値決定に採用され、同時に運用したパリ天文台と共に、光時計により、直近のUTCの歩度を初めて校正しました。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201902062911-O1-jxP0k0V8 】
図1: NICT光格子時計の装置の一部(写真)とBIPMからの今年1月の報告書(Circular T 372)の一部
写真左側に青白く見えるのはレーザー光で真空槽の窓が輝いている様子。ここで、光格子に捕獲した原子にレーザー光を照射し、原子が吸収するようにその光の周波数を調整することで、高精度な歩度情報を得ている。
この校正に寄与する資格を得るには、世界中の周波数標準研究者によって構成されるCCTFの国際作業部会から認定を取得する必要があります。この取得のために、NICTは、まず、NICT光格子時計の性能を評価し、この光格子時計が刻む「秒」を基準に、2016年4月から9月と2018年2月の7か月分の過去のUTCの歩度を評価し、2018年11月に作業部会に報告しました。この評価結果は、同期間の一次及び二次周波数標準の評価結果と高い整合性があり、私たちは、評価方法の妥当性について作業部会と議論した結果、同年11月末に、パリ天文台に続き、光時計としては二例目となる二次周波数標準の認定を取得しました。
加えて、私たちの校正値は、BIPM地球時という後処理で生成される更に高精度な研究用時刻の算出にも取り入れられました。BIPM地球時は、一次及び二次周波数標準がUTCを評価した期間の時刻もその評価結果を用いて校正されており、今回の光格子時計による校正値も反映させた、現在得られる時刻として最も歩度が秒の定義に近いものです。この時刻は、UTCでは参照時刻の精度として不十分である高精度な時刻や時間などを研究している科学者に主に利用されています。
さらに、本成果は、「秒」の再定義実現に貢献します。近年の光時計の精度は、現在の「秒」の定義を実現するセシウム一次周波数標準の精度を凌駕しています。この状況を受け、CCTFでは、早くて2026年頃に、「秒」の定義をセシウム原子のマイクロ波遷移から、原子の光学遷移に改定することを検討しています。光時計によるUTCの定常的な校正は、「秒」の再定義実現に課せられた課題の一つとして挙げられており、本成果は、これをクリアできるポテンシャルを示したことになります。
【今後の展望】
世界に先駆けて行った本成果が契機となり、UTCの歩度校正に世界中の多くの光時計が参加するようになれば、国際的な標準時の精度が向上します。一方で、光格子時計は複雑な装置であるため、精度を維持して長期連続運用することは、まだ難しい段階ですが、近い将来、定常的にUTCを評価し、これを高精度化できるように、NICTは、光格子時計がいつでも確実に再現性良く運用できるよう、システムの構成要素一つ一つを更に改良していきます。