極小振動数を持つ魔法数クラスターが存在
[21/09/21]
提供元:共同通信PRワイヤー
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ナノ微粒子のエネルギーと振動数の相関を示唆
令和3年9月21日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
極小振動数を持つ魔法数クラスターが存在
ナノ微粒子のエネルギーと振動数の相関を示唆
原子の数が数十から数百個の微粒子(少数原子系、クラスターなどとも呼ばれる)には、そのエネルギーが異常に小さく安定なものが存在します。一般に、その微粒子を構成する原子の数を「魔法数」と呼びます。岐阜大学工学部応用物理コースの小野頌太助教は、球面上の荷電粒子系(注1)を微粒子と見なし、その固有振動数の解析を行うことにより、微粒子のエネルギーだけでなく振動数も極小となるような魔法数が存在することを明らかにしました。本研究成果は、従来の魔法数の定義を拡張することに相当し、ナノ微粒子の構造安定性を研究するナノサイエンスに多大なインパクトを与えることが期待されます。また、球面上の荷電粒子系の安定構造は数理物理学においても多くの研究があり、当該分野にも新たな視点を提供するものと期待されます。本研究成果は、日本時間2021年9月18日(土)に米国物理学会発行のPhysical Review B誌のオンライン版で発表されました。
【研究背景】
ナノスケールの微粒子は数十から数百の原子が凝集したものであり、ナノサイエンスの黎明期から現在に至るまで、その構造安定性が研究されています。しかし、任意の原子数を持つ微粒子が実験的に合成されるわけではなく、ある特定の原子数(魔法数、マジックナンバー)を持つ微粒子だけが合成されることが知られています。これは、魔法数の微粒子は、幾何学的に高い対称性を持ち、そのエネルギーが低く安定であり、それゆえ合成されやすい、と理解されています。例えば炭素(C)の場合、魔法数は60, 70, 76, 78, 80などであり、59個や61個の炭素原子からなる分子は存在しません。特に、60個の炭素原子からなる微粒子はフラーレン分子と呼ばれ、サッカーボール状(12個の5角形と20個の6角形)の形をしています。
魔法数を決定するためには、横軸を原子数、縦軸を微粒子のエネルギーとするグラフを描く必要があります(図1)。原子同士が引力相互作用する場合、原子がまとまって一つの微粒子を作るので、原子数が増大するとエネルギーは減少します。原子数 M を持つ微粒子のエネルギーが、原子数 M±1 である微粒子よりもエネルギーが極端に低いとき、この M が魔法数となります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202109210364-O5-s2D87fBM】
数学的には、エネルギーは原子の座標の関数です。つまり、微粒子を構成する原子の座標を決めると、その微粒子のエネルギーがただ一つ決定されます。原子座標を変化させるとエネルギーも変化するので、一般にエネルギーは曲面を描きます。この曲面にはデコボコした山や谷がたくさんあり、最も深い谷底が安定な微粒子構造に相当します。したがって、エネルギー的に安定な魔法数の微粒子では、この谷が極めて深いということを意味します。これまで、微粒子の「谷の深さ」に関する研究は数多く行われてきましたが、「谷の形状」に注目する研究はほぼ皆無でした。微粒子の固有振動数は谷の形状によって決まるため、その詳細を理解することはナノサイエンスにおける重要な問題です。
【研究成果】
本研究では、球面上の荷電粒子系を微粒子とみなし、そのエネルギーと最大振動数を粒子数 N の関数として計算しました。その結果、エネルギーが極小となる N では、いくつかの例外を除き、最大振動数も極小となることが明らかになりました(図2左)。上述の谷の例を用いると、「深い谷の底は滑らかである」ということを示唆しています(図2右)。また例外の1つである N=122 の場合、粒子配置は高い対称性を持つが、荷電粒子の個々のエネルギーが複数に分裂するという、特殊な粒子数であることがわかりました。これは、谷は深くかつ鋭いという環境を生み出し、それゆえ最大振動数は極小値を取らないと解釈されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202109210364-O10-EPxUZb9W】
【今後の展開】
本研究では、球面上粒子系という簡単なモデルを使って、微粒子の最大振動数が極小となる魔法数が存在することを示しました。今後は、現実物質の安定構造に対しても同様の計算を行い、ナノ微粒子の実験と比較する必要があります。振動数と魔法数をキーワードとして、様々なナノマテリアルの構造物性を理解することが課題です。また、用語解説に記したように、球面上粒子系の安定構造を決定する問題は、数理物理学における未解決問題の1つです。本研究成果は、当該分野に新たな視点を提供するものと期待されます。
【論文情報】
雑誌名:Physical Review B誌
タイトル:Magic numbers for vibrational frequency of charged particles on a sphere
(球面上荷電粒子の固有振動数における魔法数)
著者:Shota Ono
DOI番号:10.1103/PhysRevB.104.094105
論文公開URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.104.094105
【用語解説】
(注1)球面上の荷電粒子系
半径1の球面上に拘束された N 個の粒子集団。粒子同士は、距離の逆数に比例する斥力で反発しあう。
N=2 の場合は、球面の北極と南極にそれぞれ粒子が分布する。N=3 の場合は、正三角形状に粒子が分布する。一般の N に対して安定な粒子配置を求める問題は、原子モデルの提案者に因んで「トムソン問題」として知られている。また、数学の18個の未解決問題を集めたスメイルの問題の1つとしても知られている。
【研究者プロフィール】
小野 頌太(おの しょうた)
岐阜大学工学部 電気電子・情報工学科 応用物理コース
<略歴>
2012年 北海道大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程 修了(工学)
2012年 横浜国立大学大学院工学研究院 研究教員、同助教(〜2016年3月)
2015年 米国カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員(3ヶ月)
2016年 岐阜大学工学部電気電子・情報工学科 助教
令和3年9月21日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
極小振動数を持つ魔法数クラスターが存在
ナノ微粒子のエネルギーと振動数の相関を示唆
原子の数が数十から数百個の微粒子(少数原子系、クラスターなどとも呼ばれる)には、そのエネルギーが異常に小さく安定なものが存在します。一般に、その微粒子を構成する原子の数を「魔法数」と呼びます。岐阜大学工学部応用物理コースの小野頌太助教は、球面上の荷電粒子系(注1)を微粒子と見なし、その固有振動数の解析を行うことにより、微粒子のエネルギーだけでなく振動数も極小となるような魔法数が存在することを明らかにしました。本研究成果は、従来の魔法数の定義を拡張することに相当し、ナノ微粒子の構造安定性を研究するナノサイエンスに多大なインパクトを与えることが期待されます。また、球面上の荷電粒子系の安定構造は数理物理学においても多くの研究があり、当該分野にも新たな視点を提供するものと期待されます。本研究成果は、日本時間2021年9月18日(土)に米国物理学会発行のPhysical Review B誌のオンライン版で発表されました。
【研究背景】
ナノスケールの微粒子は数十から数百の原子が凝集したものであり、ナノサイエンスの黎明期から現在に至るまで、その構造安定性が研究されています。しかし、任意の原子数を持つ微粒子が実験的に合成されるわけではなく、ある特定の原子数(魔法数、マジックナンバー)を持つ微粒子だけが合成されることが知られています。これは、魔法数の微粒子は、幾何学的に高い対称性を持ち、そのエネルギーが低く安定であり、それゆえ合成されやすい、と理解されています。例えば炭素(C)の場合、魔法数は60, 70, 76, 78, 80などであり、59個や61個の炭素原子からなる分子は存在しません。特に、60個の炭素原子からなる微粒子はフラーレン分子と呼ばれ、サッカーボール状(12個の5角形と20個の6角形)の形をしています。
魔法数を決定するためには、横軸を原子数、縦軸を微粒子のエネルギーとするグラフを描く必要があります(図1)。原子同士が引力相互作用する場合、原子がまとまって一つの微粒子を作るので、原子数が増大するとエネルギーは減少します。原子数 M を持つ微粒子のエネルギーが、原子数 M±1 である微粒子よりもエネルギーが極端に低いとき、この M が魔法数となります。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202109210364-O5-s2D87fBM】
数学的には、エネルギーは原子の座標の関数です。つまり、微粒子を構成する原子の座標を決めると、その微粒子のエネルギーがただ一つ決定されます。原子座標を変化させるとエネルギーも変化するので、一般にエネルギーは曲面を描きます。この曲面にはデコボコした山や谷がたくさんあり、最も深い谷底が安定な微粒子構造に相当します。したがって、エネルギー的に安定な魔法数の微粒子では、この谷が極めて深いということを意味します。これまで、微粒子の「谷の深さ」に関する研究は数多く行われてきましたが、「谷の形状」に注目する研究はほぼ皆無でした。微粒子の固有振動数は谷の形状によって決まるため、その詳細を理解することはナノサイエンスにおける重要な問題です。
【研究成果】
本研究では、球面上の荷電粒子系を微粒子とみなし、そのエネルギーと最大振動数を粒子数 N の関数として計算しました。その結果、エネルギーが極小となる N では、いくつかの例外を除き、最大振動数も極小となることが明らかになりました(図2左)。上述の谷の例を用いると、「深い谷の底は滑らかである」ということを示唆しています(図2右)。また例外の1つである N=122 の場合、粒子配置は高い対称性を持つが、荷電粒子の個々のエネルギーが複数に分裂するという、特殊な粒子数であることがわかりました。これは、谷は深くかつ鋭いという環境を生み出し、それゆえ最大振動数は極小値を取らないと解釈されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202109210364-O10-EPxUZb9W】
【今後の展開】
本研究では、球面上粒子系という簡単なモデルを使って、微粒子の最大振動数が極小となる魔法数が存在することを示しました。今後は、現実物質の安定構造に対しても同様の計算を行い、ナノ微粒子の実験と比較する必要があります。振動数と魔法数をキーワードとして、様々なナノマテリアルの構造物性を理解することが課題です。また、用語解説に記したように、球面上粒子系の安定構造を決定する問題は、数理物理学における未解決問題の1つです。本研究成果は、当該分野に新たな視点を提供するものと期待されます。
【論文情報】
雑誌名:Physical Review B誌
タイトル:Magic numbers for vibrational frequency of charged particles on a sphere
(球面上荷電粒子の固有振動数における魔法数)
著者:Shota Ono
DOI番号:10.1103/PhysRevB.104.094105
論文公開URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.104.094105
【用語解説】
(注1)球面上の荷電粒子系
半径1の球面上に拘束された N 個の粒子集団。粒子同士は、距離の逆数に比例する斥力で反発しあう。
N=2 の場合は、球面の北極と南極にそれぞれ粒子が分布する。N=3 の場合は、正三角形状に粒子が分布する。一般の N に対して安定な粒子配置を求める問題は、原子モデルの提案者に因んで「トムソン問題」として知られている。また、数学の18個の未解決問題を集めたスメイルの問題の1つとしても知られている。
【研究者プロフィール】
小野 頌太(おの しょうた)
岐阜大学工学部 電気電子・情報工学科 応用物理コース
<略歴>
2012年 北海道大学大学院工学研究科応用物理学専攻博士後期課程 修了(工学)
2012年 横浜国立大学大学院工学研究院 研究教員、同助教(〜2016年3月)
2015年 米国カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員(3ヶ月)
2016年 岐阜大学工学部電気電子・情報工学科 助教