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人口減少と東京一極集中、地方が抱える課題を解決し多様で豊かな国づくりの実現へ

【東洋大学 SDGs News Letter Vol.18】東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

2023.2.15発行
東洋大学

東洋大学 SDGs News Letter Vol.18
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

人口減少と東京一極集中、
地方が抱える課題を解決し
多様で豊かな国づくりの実現へ

2014年に、地方各地の特色を生かして自律的で持続的な社会づくりを目指す政策「地方創生」が掲げられ、今日まで多岐にわたる取り組みが実施されてきました。国際学部国際地域学科の沼尾波子教授が、その現状や現在進められている取り組み事例についてお話しします。

Summary
・人口減少は地方だけの問題でなく、今後東京圏でも人材不足という深刻な課題を生む
・人口減少に歯止めをかけるべく、地域の特色を生かした方策で成果を上げている事例がある
・都市と農村それぞれの強みを生かし、連携して持続可能な社会経済の構築を目指す創造性な取り組みが必要

日本の豊かさとは、地域に息づく風土・文化の多様性
人口減少と東京一極集中の問題点について教えてください。

 日本列島の地図とヨーロッパの地図を重ねてみると、意外にも国土が広く、北欧のフィンランドからドイツ、フランス、南欧スペインにまで広がります。日本では、それぞれの地域が四季折々の気候・風土をもち、各地で様々な文化が育まれてきました。その「多様性」こそが、この国の「豊かさ」につながっていくと考えます。
 今日、人口減少と東京一極集中により、地方の過疎化が進み、存続が危ぶまれる集落もあります。東京・名古屋・大阪の三大都市圏には全人口の約5割が居住するのに対し、人口1万人未満の農山漁村に住むのは全人口の2%程度。日本の国土に占める農山漁村の面積は約25%ですので、言わば国土の4分の1をたった2%の人々で担っている状況です。人材も財源も不足する中で、国土の保全と地域の暮らしをどのように維持するかが問われています。
 他方で、東京圏の高齢化も深刻です。東京都の試算では、2030年には65歳以上の高齢者が都民の3割を超える見込みであり、医療・介護サービス需要が急激に高まると予想されています。人手不足を補うべく、地方から医療や介護人材を集めれば、さらなる人口の東京一極集中を引き起こすことにもつながります。
 豊かな社会の実現に向けて、この国のそれぞれの地域で人材や資源をどう生かし、どう育てるのか。私たちは考えるべき時に来ていると言えるでしょう。
 1970年代末に、日本では「田園都市国家構想」が出され、都市と農村、文化と産業の調和のとれた再結合を通じた豊かな社会の創造が模索されました。当時の議論はSDGsの理念と親和性のあるものです。一方、今日の「デジタル田園都市国家構想」はデジタル技術の推進に関心が向く傾向にあります。都市と農村の連携や、文化と産業の調和という視点に立った、創造性の高い地域振興を考えることが大切だと思います。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302132901-O1-FBN347IH

官民一体となって取り組む「地域再生」
人口減少や東京一極集中に対して、自治体はどのような対策を講じているのでしょうか。

 例えば自然資源や景観の価値を磨き、その存続に向けた産業振興を図る取り組みがあります。吉野杉の産地で知られる川上村(奈良県)は、地域の自然・風土・文化を保全・継承していくことを「川上宣言」として掲げました。地域おこし協力隊を募集したり、アーティストの移住を積極的に受け入れたりすることで若者を呼び込み、地域の担い手を育てています。東川町(北海道)は、写真の町を掲げ、自然環境の美しさと併せて、機能性を備えた美しい「デザイン」を柱に据えた町づくりを進めています。建築家の隈研吾氏がこの町にサテライトオフィスを構えることを決め、大きな注目も集めています。
 人々の温かい繋がりづくりから人を呼ぶ地域もあります。松山市(愛媛県)の中島という島では、地元関係者を中心としたNPO法人が若者の移住・定住の支援をしており、移住者が地域の困りごとの解決を仕事として生活もできるよう、仕事と暮らしが描ける「場」と「関係」を構築する取り組みを進めています。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302132901-O2-8Y19WY3x

 私は「地域再生大賞※」の選考委員長を務めており、全国各地で地域づくりに取り組む方々とお会いしますが、地域の今を知り、地域にあるものを大切にした各地の地域再生への取り組みには、たびたび圧倒されています。
 都市にも農村にもそれぞれの魅力と特性があり、その両方がなくては人々の暮らしは維持できません。近年、災害対策やエネルギー政策の視点から、都市と農村が連携し、課題解決を図る手法も広がりつつあります。例えば世田谷区(東京都)では、川場村(群馬県)や十日町市(新潟県)等と連携して、地方にあるバイオマス発電施設が生み出す再生可能エネルギーを区内で使用することにより、CO2排出量の削減を図っています。また、大田区(東京都)は、区内を流れる多摩川の最上流に位置する丹波山村(山梨県)と連携しています。大田区からは丹波山村の児童に都心部ならではの学びの場を提供し、丹波山村からは首都圏災害時の支援を行うなど、双方の強みを生かした関係が構築されています。都市部と農山漁村とが互いの強みと弱みを理解し、交流を深めることで、それぞれが持つリソースを最大限に活用することができ、持続可能な社会の構築につながるのではないでしょうか。
 豊かな自然環境とそれを活かす技術、そこで育まれた多様な文化こそが日本の強みであり、かけがえのない魅力です。東京一極集中や限界集落の消滅はやむを得ないという意見もありますが、私は置かれた現状と向き合い、多様性を守るべきと考えます。しかし、農山漁村に安易に経済的支援を行うだけでは持続可能な方法とは言えません。豊かな自然を守りながら、都市が農村の自立をサポートできるよう技術やアイデア、人的資源を提供し、連携することで共存の道を模索する。その一歩一歩が日本の豊かさを守るための礎になるでしょう。

※ 共同通信社と地方新聞46社により、地域活性化に取り組む優れた団体や活動を表彰している。
  2010年度に始まり、2022年度は第13回。(https://chiikisaisei.jp/

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202302132901-O3-3uKgrX0x
沼尾 波子(ぬまお なみこ)

東洋大学国際学部国際地域学科教授/修士(経済学)

専門分野:財政学、地方財政論
研究キーワード:地方財政、地域づくり、対人社会サービス
著書・論文等:交響する都市と農山村:対流型社会が生まれる [農山漁村文化協会]、 地方財政を学ぶ [有斐閣]

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https://www.toyo.ac.jp/sdgs/

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