農地が持つ洪水発生の抑制機能は流域全体に及ぶ
[22/11/17]
提供元:共同通信PRワイヤー
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〜流域治水の実現に貢献〜
1. 概要
気候変動の影響等によって甚大化する水災害に対応するために、河川域にとどまらず、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)を含めて一つの流域と捉え、流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組む「流域治水」という考え方が広がりつつあります。これを実現するための一つの要素として、農林水産省が提示する「農業・農村の有する多面的機能(注1」にも含まれる、農地が持つ防災・減災機能への期待が高まっています。
東京都立大学大学院 都市環境科学研究科の大澤剛士准教授は、東京都と神奈川県を中心とした関東地域における複数の流域および市町村を単位に、洪水被害の発生頻度と土地利用の関係を検討し、特定立地に存在する農地は水田、乾燥畑といった形態に関わらず、洪水の発生抑制に貢献している可能性を示しました。さらに簡単な数値シミュレーションを実施することにより、農地が持つ洪水の発生抑制効果は、流域を単位にすることで、より高くなる可能性を示しました。このことは、同一流域内においては、中山間地等、都市域から遠く離れた場所に立地する農地であっても市街地における水災害の発生抑制に貢献していることを示唆しており、水災害に強い土地利用を考える上で重要な指針になります。
本研究成果は、11月15日付けで、ELSEVIERが発行する英文誌『International Journal of Disaster Risk Reduction』に発表されました。本研究は、環境研究総合推進費2G-2201「適応の効果と限界を考慮した地域別気候変動適応策立案支援システムの開発」の助成を受けて実施されたものです。
2. ポイント
■ 流域治水は、気候変動等に伴って近年増加する水災害に対抗するためのアイディアです。
■ 水が溜まりやすい場所に立地する農地は、水田、乾燥畑といった利用形態に関わらず、洪水発生を抑制する機能を持つことが示唆されました。
■ さらに、農地が持つ洪水抑制機能は流域全体に及び、同一流域内においては、市街地から遠く離れた農地であっても、市街地における水災害の発生を抑制できる可能性が示唆されました。
■ 本研究の結果は、農地が持つ防災・減災機能を発揮させるためには、市町村の壁を越え、流域を単位とした土地利用計画を行うことが必要であることを示唆します。
3. 研究の背景
気候変動の影響もあり、台風や豪雨、さらにはそれに伴う洪水や土砂災害といった大規模な自然災害が世界的に増加しています。これら甚大化する自然災害へ対応するため、河川域にとどまらず、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)を含めて一つの流域と捉え、流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組む「流域治水」という考え方が広がりつつあります。この実現に向けて「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」(流域治水関連法)が2021年11月1日に施行され、具体的な施策も打ち出されつつあります。
「流域治水」は、河川流域におけるあらゆる関係者が協働して行う治水対策であり、河川周辺にとどまるものではありません。これを実現するための一つの要素として、農地が持つ防災・減災機能の活用がしばしば挙げられます。農地はその本来的な役割である食料生産だけでなく、雨水の貯留や浸透、氾濫水を一時的に受け止めること等を通して防災・減災に貢献すると考えられており、研究も蓄積されつつあります。このような生態系を活用した防災・減災(Ecosystem Based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)は、防災・減災機能にとどまらず、人間社会に様々な利益をもたらすことも期待されています。
既往研究において、地表面を流れる水を貯めやすい地形条件下に存在する水田は、水災害の発生を抑制することが明らかになっています(注2。しかし、水田以外の主要農業形態である乾燥畑も同様の機能を持っているかについては、不明確でした。もし乾燥畑も水田と同様に水災害の抑制機能を持っているのであれば、防災機能を期待した農地利用に向けた重要な知見となります。また、既往研究においては市町村を単位に水田が持つ防災機能を評価したため、農地が持つ災害抑制効果はどの程度の空間的範囲まで有効なのかについても不明確でした。一般に土地利用には偏りがあり、都市化が著しい市町村や大面積の農地を持つ市町村等、様々な土地利用状況があります。もし災害抑制効果が市町村単位程度の空間的範囲のみ有効である場合は、防災の観点からは都市化が著しい地域内であっても農地を維持したほうがよいという判断ができ、逆に災害抑制効果が市町村を超えた範囲に及ぶのであれば、流域全体における防災機能を高めるため、ある市町村が農地を維持し、その維持管理費用は流域全体で負担するといった役割分担が可能になるかもしれません。このように、一定面積内に都市と農地を共存させる考え方を「土地共有型 Land sharing」、一部に都市を、一部に農地を集中させるようなゾーニングを行う考え方を「土地節約型 Land sparing」と呼び(図1)、生物多様性と農業生産を両立させるための土地利用戦略として、いずれの形態が有効かについて、しばしば議論されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211179925-O2-29jOPHu0】
図1.土地共有型と土地節約型のイメージ。土地共有型では、狭い範囲内に異なる土地利用を共存させ、機能の両立を目指す。土地節約型では、特定の土地利用を集中させ、役割分担を行うゾーニングを行う。
4. 研究の詳細
そこで本研究は、水田だけでなく、乾燥畑を含めた防災機能の評価、さらにはこの機能を市町村単位および複数の市町村を含む流域単位で定量化し、その性能を比較しました。流域の範囲には様々な考え方がありますが、本研究では国土交通省が整備・公開している流域界・非集水域を利用しました。まず東京都、神奈川県が含まれる流域界・非集水域を抽出し、東京都、神奈川県以外の部分について、埼玉県、静岡県、山梨県それぞれの一部も検討対象に含めました。この結果、64流域における211市町村が対象となりました(図2)。続いて、国土交通省が実施している統計調査「水害統計調査」を利用し、2011年から2019年の間における市町村ごとの水害の発生回数を求めました。統計調査は市町村を単位に行われているため、流域単位の分析においては、対象に含まれる市町村の合計数を検討対象としました。このため、複数の流域にまたがる市町村についてはダブルカウントになっています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211179925-O1-ftF4K52n】
図2.研究対象の流域および市町村。東京都、神奈川県にまたがる64の流域および、流域に含まれる212市町村を対象とした。右図の白枠が市町村、グラデーション色が流域を意味する。
市町村を単位とした2011年から2019年の間における水害の発生回数および、流域を対象とした2011年から2019年の間における水害の発生回数それぞれと、市町村内、流域内における土地利用の関係を統計モデルによって検討したところ、いずれのケースでも、水を貯めやすい地形条件下(注3に農地が存在する市町村、流域では水害発生回数が少ない傾向が示されました。さらにこの水害抑制効果は、農地として水田のみを考慮した場合に比べ、水田と乾燥畑の両方を考慮した場合の方が高くなりました。このことは、水を貯めやすい地形条件下に存在する乾燥畑も、水田と同様に水害の発生抑制に貢献していることを示唆します。
さらに、構築した統計モデルを利用し、水を貯めやすい地形条件下に存在する農地が半分になった場合、1/4になった場合、1/8になった場合の理論的な水害発生回数を予測したところ、市町村を単位とした場合には水害発生の増加はわずかであったことに対し、流域を単位とした場合では、水害発生が著しく増加することが示されました(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211179925-O3-bn5hTZlp】
図3.統計モデルを利用したシミュレーションによって推定した、水を溜めやすい農地を減らした場合の9年間における理論的な水害回数。流域単位の回数は市町村単位の回数に変換してある。
統計モデルに基づく理論値ではありますが、同じ面積の水を溜めやすい農地が失われた場合、流域を単位とした場合のほうが防災機能の損失が大きいことが示されました。これは、同一流域内においては、市街地から遠く離れた場所にある農地、例えば中山間地に立地する農地であっても、市街地における防災に貢献している可能性を示唆します。すなわち、農地に防災・減災効果を期待する場合は、土地節約型のほうがより有効であると考えることができます。
5. 研究の意義と波及効果
「流域治水」は、流域内のあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組むものです。同一流域内に居住する関係者の中には、直接的な被害を受けやすい河川域の近くに居住している方や、河川から離れており、河川氾濫の危険性が低い地域に居住している方も含まれます。しかし、本研究の結果は、水害が発生した地域から遠く離れた場所の農地であっても防災に貢献することを示唆しています。流域を単位として水害を考える場合、受益者と負担者が一致しないことはしばしば議論されますが、どのように負担を配分するべきかという指針は限られています。本研究の成果は、将来の土地利用計画に向けた指針になると同時に、防災対策における負担配分を議論する上での基礎的な知見につながることが期待されます。
【用語解説】
注1)多面的機能:農業地域において農業活動が行われることによって人間社会にもたらされる、食料生産以外の「めぐみ」のこと。災害を減らす機能のほかにも、様々な生物に生息場を提供する機能、農村風景を維持し、我々の心を和ませてくれる機能等が挙げられている。
https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/#01
注2)Osawa T, Nishida T, Oka T (2020) High tolerance land use against flood disasters: How paddy fields as previously natural wetland inhibit the occurrence of floods. Ecological Indicators 144: 106306.(日本語訳:洪水に対して高い体制を持つ土地利用:元湿地の水田は洪水の発生を抑制する)
注3)既往研究により、累積流量(Flow Accumulation)地形パラメータを利用することで地形的に水を溜めやすい場所が推定できることが明らかになっており、本研究でもこの値を使っている。
【論文情報】
掲載誌:International Journal of Disaster Risk Reduction
タイトル:Evaluating the effectiveness of basin management using agricultural land for ecosystem-based disaster risk reduction
著者:Takeshi Osawa
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2022.103445
アブストラクトURL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212420922006641
1. 概要
気候変動の影響等によって甚大化する水災害に対応するために、河川域にとどまらず、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)を含めて一つの流域と捉え、流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組む「流域治水」という考え方が広がりつつあります。これを実現するための一つの要素として、農林水産省が提示する「農業・農村の有する多面的機能(注1」にも含まれる、農地が持つ防災・減災機能への期待が高まっています。
東京都立大学大学院 都市環境科学研究科の大澤剛士准教授は、東京都と神奈川県を中心とした関東地域における複数の流域および市町村を単位に、洪水被害の発生頻度と土地利用の関係を検討し、特定立地に存在する農地は水田、乾燥畑といった形態に関わらず、洪水の発生抑制に貢献している可能性を示しました。さらに簡単な数値シミュレーションを実施することにより、農地が持つ洪水の発生抑制効果は、流域を単位にすることで、より高くなる可能性を示しました。このことは、同一流域内においては、中山間地等、都市域から遠く離れた場所に立地する農地であっても市街地における水災害の発生抑制に貢献していることを示唆しており、水災害に強い土地利用を考える上で重要な指針になります。
本研究成果は、11月15日付けで、ELSEVIERが発行する英文誌『International Journal of Disaster Risk Reduction』に発表されました。本研究は、環境研究総合推進費2G-2201「適応の効果と限界を考慮した地域別気候変動適応策立案支援システムの開発」の助成を受けて実施されたものです。
2. ポイント
■ 流域治水は、気候変動等に伴って近年増加する水災害に対抗するためのアイディアです。
■ 水が溜まりやすい場所に立地する農地は、水田、乾燥畑といった利用形態に関わらず、洪水発生を抑制する機能を持つことが示唆されました。
■ さらに、農地が持つ洪水抑制機能は流域全体に及び、同一流域内においては、市街地から遠く離れた農地であっても、市街地における水災害の発生を抑制できる可能性が示唆されました。
■ 本研究の結果は、農地が持つ防災・減災機能を発揮させるためには、市町村の壁を越え、流域を単位とした土地利用計画を行うことが必要であることを示唆します。
3. 研究の背景
気候変動の影響もあり、台風や豪雨、さらにはそれに伴う洪水や土砂災害といった大規模な自然災害が世界的に増加しています。これら甚大化する自然災害へ対応するため、河川域にとどまらず、集水域(雨水が河川に流入する地域)から氾濫域(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)を含めて一つの流域と捉え、流域に関わるあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組む「流域治水」という考え方が広がりつつあります。この実現に向けて「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」(流域治水関連法)が2021年11月1日に施行され、具体的な施策も打ち出されつつあります。
「流域治水」は、河川流域におけるあらゆる関係者が協働して行う治水対策であり、河川周辺にとどまるものではありません。これを実現するための一つの要素として、農地が持つ防災・減災機能の活用がしばしば挙げられます。農地はその本来的な役割である食料生産だけでなく、雨水の貯留や浸透、氾濫水を一時的に受け止めること等を通して防災・減災に貢献すると考えられており、研究も蓄積されつつあります。このような生態系を活用した防災・減災(Ecosystem Based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)は、防災・減災機能にとどまらず、人間社会に様々な利益をもたらすことも期待されています。
既往研究において、地表面を流れる水を貯めやすい地形条件下に存在する水田は、水災害の発生を抑制することが明らかになっています(注2。しかし、水田以外の主要農業形態である乾燥畑も同様の機能を持っているかについては、不明確でした。もし乾燥畑も水田と同様に水災害の抑制機能を持っているのであれば、防災機能を期待した農地利用に向けた重要な知見となります。また、既往研究においては市町村を単位に水田が持つ防災機能を評価したため、農地が持つ災害抑制効果はどの程度の空間的範囲まで有効なのかについても不明確でした。一般に土地利用には偏りがあり、都市化が著しい市町村や大面積の農地を持つ市町村等、様々な土地利用状況があります。もし災害抑制効果が市町村単位程度の空間的範囲のみ有効である場合は、防災の観点からは都市化が著しい地域内であっても農地を維持したほうがよいという判断ができ、逆に災害抑制効果が市町村を超えた範囲に及ぶのであれば、流域全体における防災機能を高めるため、ある市町村が農地を維持し、その維持管理費用は流域全体で負担するといった役割分担が可能になるかもしれません。このように、一定面積内に都市と農地を共存させる考え方を「土地共有型 Land sharing」、一部に都市を、一部に農地を集中させるようなゾーニングを行う考え方を「土地節約型 Land sparing」と呼び(図1)、生物多様性と農業生産を両立させるための土地利用戦略として、いずれの形態が有効かについて、しばしば議論されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211179925-O2-29jOPHu0】
図1.土地共有型と土地節約型のイメージ。土地共有型では、狭い範囲内に異なる土地利用を共存させ、機能の両立を目指す。土地節約型では、特定の土地利用を集中させ、役割分担を行うゾーニングを行う。
4. 研究の詳細
そこで本研究は、水田だけでなく、乾燥畑を含めた防災機能の評価、さらにはこの機能を市町村単位および複数の市町村を含む流域単位で定量化し、その性能を比較しました。流域の範囲には様々な考え方がありますが、本研究では国土交通省が整備・公開している流域界・非集水域を利用しました。まず東京都、神奈川県が含まれる流域界・非集水域を抽出し、東京都、神奈川県以外の部分について、埼玉県、静岡県、山梨県それぞれの一部も検討対象に含めました。この結果、64流域における211市町村が対象となりました(図2)。続いて、国土交通省が実施している統計調査「水害統計調査」を利用し、2011年から2019年の間における市町村ごとの水害の発生回数を求めました。統計調査は市町村を単位に行われているため、流域単位の分析においては、対象に含まれる市町村の合計数を検討対象としました。このため、複数の流域にまたがる市町村についてはダブルカウントになっています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211179925-O1-ftF4K52n】
図2.研究対象の流域および市町村。東京都、神奈川県にまたがる64の流域および、流域に含まれる212市町村を対象とした。右図の白枠が市町村、グラデーション色が流域を意味する。
市町村を単位とした2011年から2019年の間における水害の発生回数および、流域を対象とした2011年から2019年の間における水害の発生回数それぞれと、市町村内、流域内における土地利用の関係を統計モデルによって検討したところ、いずれのケースでも、水を貯めやすい地形条件下(注3に農地が存在する市町村、流域では水害発生回数が少ない傾向が示されました。さらにこの水害抑制効果は、農地として水田のみを考慮した場合に比べ、水田と乾燥畑の両方を考慮した場合の方が高くなりました。このことは、水を貯めやすい地形条件下に存在する乾燥畑も、水田と同様に水害の発生抑制に貢献していることを示唆します。
さらに、構築した統計モデルを利用し、水を貯めやすい地形条件下に存在する農地が半分になった場合、1/4になった場合、1/8になった場合の理論的な水害発生回数を予測したところ、市町村を単位とした場合には水害発生の増加はわずかであったことに対し、流域を単位とした場合では、水害発生が著しく増加することが示されました(図3)。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202211179925-O3-bn5hTZlp】
図3.統計モデルを利用したシミュレーションによって推定した、水を溜めやすい農地を減らした場合の9年間における理論的な水害回数。流域単位の回数は市町村単位の回数に変換してある。
統計モデルに基づく理論値ではありますが、同じ面積の水を溜めやすい農地が失われた場合、流域を単位とした場合のほうが防災機能の損失が大きいことが示されました。これは、同一流域内においては、市街地から遠く離れた場所にある農地、例えば中山間地に立地する農地であっても、市街地における防災に貢献している可能性を示唆します。すなわち、農地に防災・減災効果を期待する場合は、土地節約型のほうがより有効であると考えることができます。
5. 研究の意義と波及効果
「流域治水」は、流域内のあらゆる関係者が協働して水災害対策に取り組むものです。同一流域内に居住する関係者の中には、直接的な被害を受けやすい河川域の近くに居住している方や、河川から離れており、河川氾濫の危険性が低い地域に居住している方も含まれます。しかし、本研究の結果は、水害が発生した地域から遠く離れた場所の農地であっても防災に貢献することを示唆しています。流域を単位として水害を考える場合、受益者と負担者が一致しないことはしばしば議論されますが、どのように負担を配分するべきかという指針は限られています。本研究の成果は、将来の土地利用計画に向けた指針になると同時に、防災対策における負担配分を議論する上での基礎的な知見につながることが期待されます。
【用語解説】
注1)多面的機能:農業地域において農業活動が行われることによって人間社会にもたらされる、食料生産以外の「めぐみ」のこと。災害を減らす機能のほかにも、様々な生物に生息場を提供する機能、農村風景を維持し、我々の心を和ませてくれる機能等が挙げられている。
https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/#01
注2)Osawa T, Nishida T, Oka T (2020) High tolerance land use against flood disasters: How paddy fields as previously natural wetland inhibit the occurrence of floods. Ecological Indicators 144: 106306.(日本語訳:洪水に対して高い体制を持つ土地利用:元湿地の水田は洪水の発生を抑制する)
注3)既往研究により、累積流量(Flow Accumulation)地形パラメータを利用することで地形的に水を溜めやすい場所が推定できることが明らかになっており、本研究でもこの値を使っている。
【論文情報】
掲載誌:International Journal of Disaster Risk Reduction
タイトル:Evaluating the effectiveness of basin management using agricultural land for ecosystem-based disaster risk reduction
著者:Takeshi Osawa
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ijdrr.2022.103445
アブストラクトURL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212420922006641